研究開発型製薬企業の国際競争力と成長戦略

八木 崇(医薬産業政策研究所 主任研究員)
岩井 高士(医薬産業政策研究所 前主任研究員)

(No.49:2010年03月発行)

日本の製薬産業が国民の健康や日本経済の発展に今後一層貢献していくためには、日本が創薬活動の場として、また企業が海外企業に伍しうる高い国際競争力を有していることが欠くことの出来ない条件になる。

本調査研究では、世界市場における売り上げや市場シェアなどを指標として、日米欧主要製薬企業の国際競争力を比較した。また、プレゼンスを高めている欧州企業の成長戦略を、医薬品の薬効領域および地域別の売上上位集中度および分散の観点から検証するとともに、日本の製薬企業に求められる国際競争力強化に向けた取り組みについて考察を加えた。

世界の医薬品市場が大きな構造的変化をみせるなか、日米欧の主要製薬企業の売り上げをみると、米国企業の規模の優位は変わらないものの、近年、欧州製薬企業の世界市場におけるプレゼンスが高まっており、特徴として製品・薬効レベルおよび地域レベルでの売上分散が相対的に進んでいることが挙げられる。一方、日本の製薬企業は、世界の医薬品市場の構造的変化への対応という面において、欧米企業に比べて必ずしも優位な立場にはない。すなわち、(1)米国市場への収益依存度が相対的に高く、主要なブロックバスターの米国における特許が今後5年間で失効する、(2)新興国市場への進出が相対的に遅れている、(3)ベンチャー企業買収などにより、重要性の高まるバイオ医薬品の導入を進めているものの、欧米企業に比べてこれら医薬品の数及び売上高に占める割合ともに相対的に低い、などの課題に挑戦していく必要がある。

近年、欧米主要製薬企業は、本稿で分析対象とした新薬事業に加え、成長が続くジェネリック医薬品市場や、今後拡大が予想されるバイオシミラー医薬品市場への進出を目的とした企業買収やアライアンスなどで積極的な展開をみせている。医薬品事業の多層化による競争力強化の戦略である。日本の製薬企業が今後も幅広く患者の必要とする医薬品を開発、供給し、国民の健康資本の増進と成長への貢献をしていくためには、国際競争力強化のための戦略的投資や新薬開発のリスクに耐えうる収益基盤を維持強化していくことが必要不可欠である。

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