日本における新医薬品の臨床データパッケージ

安田 邦章(医薬産業政策研究所 主任研究員)
小野 俊介(東京大学大学院薬学系研究科 医薬品評価科学講座 准教授)

(No.38:2008年03月発行)

2000年から2006年に承認された新医薬品の臨床試験成績に係る資料(臨床データパッケージ)について、薬事法上の「承認」という行政決定の根拠とされた臨床試験成績の質・量を定量的に明らかにした。新医薬品の臨床データパッケージは1品目あたり11.0試験992例(新有効成分含有品目)と米国の約4分の1の試験数、症例数で構成されていた。臨床データパッケージを構成する試験数、症例数、試験デザインは、申請区分、審査区分、薬効分類等で大きく異なっており、優先審査指定品目の増加や外国試験の利用が進展するに伴ってその品目間のばらつきは一段と拡大していた。新医薬品の臨床データパッケージは国内試験の症例集積性が低い環境下で構築されていた。一方、外国試験を利用したデータパッケージは増加しており、また厳密な薬効評価が可能となる比較試験が外挿される割合が高くなっていた。日本のデータパッケージは小規模である上に、1品目あたりの国内試験数、症例数は減少している。

承認申請資料として提出される臨床試験の質・量がどのレベルであるべきかという基準・要件は、我が国では必ずしも明示されていない。日本の規制当局と製薬産業は互いに協力し、より多くの状況に適用できる一般的な基準・要件を築き上げていく必要がある。また、個々の承認可否の判断として結果的に採用された基準・要件についても、規制当局と特定企業間に留まることなく、広く関係者にシグナルとして認識できる形で公表することが重要である。さらに、国内試験では効率的な症例収集が困難であり、厳密な薬効評価が可能となる比較試験の実施基盤が十分に整備されているとは言い難い状況にある。国内での臨床試験の実施が企業にとって費用対効果に優れたものにならなければ、将来においても、企業が外国症例の比率の高い臨床データパッケージを構築する動きは必然的に増加していくと思われる。日本人における薬効評価の質向上、国内の創薬・科学技術基盤の発展、国内臨床成績の世界各国での利用といった国際調和を推進するためには、国内試験の実施環境のさらなる向上に向けた諸施策を強化していく必要がある。

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