Points of View 近年の臨床開発におけるAI活用の効果と課題の探索的調査
-被験者リクルートメントと臨床試験文書作成-

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医薬産業政策研究所 主任研究員 枝廣誠
主任研究員 日比野翔
主任研究員 下山田浩平

要約

  • 臨床開発におけるAI活用の効果と課題の探索的調査を行った。2026年4月時点の検証によるAI活用の定量的効果が明記された事例として、被験者リクルートメントと臨床試験文書作成における検証事例が複数収集された。
  • 被験者リクルートメントのAI活用事例において、実際の臨床試験ではプレスクリーニング時間を約70%削減した。課題として、「医療情報記録の品質」と「AIによる選択バイアス」があげられた。
  • 臨床試験文書作成のAI活用事例において、治験総括報告書の作成期間を120日から78日に削減した。課題として、「ハルシネーションと生成内容の信頼性」があげられた。
  • AI活用による治験総括報告書の作成期間短縮により、直接コストとして、約128万~216万ドルの削減が見込まれる。さらに、上市の早期化によって機会損失を回避する効果が約2,560万~4,320万ドルに相当すると試算された。
  • FDA・EMAが先行して臨床開発におけるAI活用についてのガイダンス整備を進めるなか、日本においても具体的な制度設計と実装指針の策定が急務である。また、製薬企業がAIの適切かつ継続的な運用を担保するためには、組織横断的なガバナンス体制やポリシーの整備が重要である。
  • AIは臨床開発力の強化や新薬の迅速な提供を支える重要なインフラとなりえる、競争激化の中で不可欠な投資対象である。産官学が連携し、既存の枠組みを超えて臨床開発へ柔軟にAIを導入することが日本に求められる。

1. はじめに

近年、人工知能(Artificial Intelligence、以下AI)技術の急速な進展に伴い、医薬品開発のさまざまな段階においてAIの活用が進展している1)。新薬開発の対象は、病態メカニズムが十分に解明されていない複雑な疾患や希少疾患へシフトする中、創薬成功率の低下や研究開発費の高騰が大きな課題となっている。このような背景から、創薬プロセスの効率化や意思決定支援を可能とするAI技術への期待が世界的に高まっている2、3)。臨床開発にフォーカスすると、AIは、試験デザイン最適化、適格患者リクルートメント、安全性モニタリング、試験データ解析、承認申請支援など、臨床開発の各プロセスにおける活用可能性が拡大している4)。加えて、Fortune Business Insightsの市場調査によれば、世界の臨床開発におけるAI市場規模は継続的な成長が見込まれており、2026年から2034年にかけて年平均成長率約47%で拡大すると予測されている5)

米国食品医薬品局(Food and Drug Administration、以下FDA)は2023年に“Using Artificial Intelligence & Machine Learning in the Development of Drug & Biological Products”(以下FDAディスカッションペーパー)を発行し6)、2025年に“Considerations for the Use of Artificial Intelligence to Support Regulatory Decision-Making for Drug and Biological Products”(以下FDAドラフトガイダンス)において、AIを用いた医薬品・生物学的製剤開発に関する規制上の考え方やリスクベース評価の枠組みを提示した7)。欧州ではAI規制法(以下EU AI Act)が2024年に発効され8)、各国・地域におけるAI関連の規制整備も着々と進んでいる。日本においては、2025年6月に厚生労働省が「治験・臨床試験の推進に関する今後の方向性について2025年版とりまとめ」(以下「2025年版とりまとめ」)を公表し9)、「AI関連技術を用いた症例分析などへの利活用の促進」、「電子カルテ情報を含む治験・臨床試験に必要なデータの標準化の推進」、および「生成AI等の新たな技術や手法による、医療環境や海外での治験・臨床試験の変化への備え」が明確に盛り込まれた。さらに2025年度には、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development、以下AMED)「医療技術実用化総合促進事業」において、治験・臨床試験におけるAI利活用推進が政策として取り上げられ、全国6施設での試験的運用が開始されている10)

本稿は、こうした動向を踏まえ、臨床開発におけるAI活用に関して期待される効果と対処すべき課題を考察するものである。

2. 調査方法

(1) 情報収集

本稿では、2026年4月時点で公開されている「学術論文、プレスリリース、学会発表等」を対象として探索的に情報収集を行った。収集した情報を精査し、検証による定量的な効果が示されたものを対象とした。

(2) 調査上の限界と情報発信の意義

本稿で示す内容は、網羅的・系統的な文献レビューではなく、公開情報をもとに探索的に収集した事例に基づく整理である。そのため、対象事例の選定や情報量には一定の偏りが含まれる可能性がある。また、医療分野におけるAI関連研究の約80%が、研究完了後3年以内に結果を公表していないという報告がある11)。この先行知見を踏まえると、本稿の事例網羅性や実態把握の正確性には構造的な限界が存在すると推察される。

こうした限界があるものの、現時点の公開情報を整理することは一定の意義がある。研究開発費の高騰などの課題を抱える日本において、革新的な技術を早期に導入し、臨床開発力を高めていくことが必要であり、国内外の事例の効果と課題を具体的な数値とともに可視化することは、製薬企業・規制当局の共通認識の形成と政策検討の参照材料として貢献し得る。

3. 結果

本稿では、検証を伴う定量的な効果が明記されている事例について収集した。そのため、前述の医療分野におけるAI関連研究の結果公表における限界11)が反映される形となり、公表情報から確認できた事例数は限定的となった。収集された検証事例は、被験者リクルートメントと臨床試験文書作成の業務プロセスに分類される事例に集中していた(表1)。以下では、これらの業務プロセスに焦点を当て、収集事例を軸に詳述する。なお、各事例におけるAIモデルの仕様や性能指標、検証方法の詳細に関する情報開示は限定的であり、研究間の比較を行うには至らない点に留意されたい。

(1) 被験者リクルートメント

① 主なAI活用の検証事例と定量的効果

被験者リクルートメントのプレスクリーニングにおいては、電子カルテ、レジストリデータ等を用いた複数国のAI活用検証事例が報告されていた。特に、自然言語処理(Natural Language Processing:以下NLP)および大規模言語モデル(Large Language Model:以下LLM)の発展により、従来は医師や臨床研究コーディネーターが人手で実施していた被験者候補のプレスクリーニングや適格性判定の効率化が可能となりつつある。

表1 臨床開発の各業務プロセスにおけるAI活用の検証事例

中国において、大規模EHR(Electronic Health Record)基盤と連携した中央集約型スクリーニングが実装されていた12)。本事例では、NLPと機械学習(Machine Learning:以下ML)を用いて構造化されていない電子カルテデータから患者背景データを構造化し、必要なデータを抽出した。被験者候補の抽出に手動で150時間要していたが、AIは2時間で選定した(約98.7%削減)。また、専門医2名によるコンセンサスと比較した結果、特異度99.0~99.1%、陰性的中率97.4~98.9%が報告されていた(表2)。これらの結果から、除外判定において特に高い妥当性を示すと結論付けられていた。

表2 AIモデルの特異度と陰性的中率

米国において、LLMを活用して患者と臨床試験の適合性を自動評価するフレームワークが開発され、実際の患者情報をもとに作成された模擬患者データを用いてその有効性が検証された13)。従来は医師や臨床研究コーディネーターが手作業で行っていた「患者が各試験の参加基準を満たすかどうかの確認作業」を、AIが自然言語を学習した上で判定するものであった。本事例では試験照合に要する時間を1症例あたり42.6%削減できることが示された。また、AIによる患者と試験の照合の予測精度は87.3%であり、専門家の予測精度(88.7-90.0%)に近いことが確認された。

日本において、構造化されていない診療記録を対象とした情報構造化支援技術による治験候補患者抽出の実証が行われた14)。本実証では、被験者候補の抽出に要する時間が約3分の1に削減された。

米国においては、心不全治療の実臨床試験(COPILOT-HF試験)でのAI活用事例が報告されていた15)。被験者候補のプレスクリーニングにおいて、構造化されていない診療記録からLLMによって必要な情報を抽出し、臨床試験の適格基準に合致する患者情報が自動抽出されていた。また、人手によるレビュー負荷の削減、ならびにプレスクリーニングに要する時間を削減(AI群15日以内、手動群50日以内)した(図1A)。適格率ではAI群と手動群は同等(20.8%=458例/2205例 vs 21.1%=284例/1347例、P=.86)であるが、同じ時間の制約の中では、AIによって手動より多くの適格患者を抽出できることが示された(458例 vs 284例)。さらに、AI群では被験者候補をより早期に特定し、適格性判定できた結果、35例(1.6%)が実際の臨床試験登録に至り、手動群の19例(0.9%)を有意に上回った(図1B)。本事例では「AIによる完全自動判定」ではなく、「人が確認すべき症例数を減らす」設計が採用されていた。

図1 Cumulative Incidence of Eligibility Determination and Enrollment

② 実装上の主な課題

臨床試験における被験者候補のスクリーニングは、電子カルテやレジストリ等の患者情報を活用して実施される。この工程にAIを効果的に社会実装し、選定プロセスを最適化するためには、「医療情報記録の品質」と「AIによる選択バイアス」において解決すべき課題が存在する。

  1. (a)
    医療情報記録の品質

    米国の事例では、AI活用においては診療記録の「データのばらつき」や「曖昧さ」がAIアルゴリズムに影響する課題であると述べられており13)、AIの性能はデータの量・質に依存する。

    電子カルテはAI活用を前提として記録されておらず、記載の詳細度は医療機関ごとに異なる。自由記述には、略語や表記揺れを含む非構造化データも多い。これらを活用するためには、情報の構造化等の前処理と、その品質確認を要する。一方、診療記録の作成は医療従事者の大きな負担となっており、音声認識技術などを導入して記録を充実させつつ、負担を軽減する効率的な方式への転換も求められている16)

    また、「2025年版とりまとめ」においては「電子カルテ情報を含む治験・臨床試験に必要なデータの標準化」が明確な課題として挙げられており、医療情報の活用に向けた国全体の一体的な仕組みと調和したプロセス構築が望ましい。

  2. (b)
    AIによる選択バイアス

    被験者候補の選定にAIを活用することは、公平性、差別や選択バイアスといった技術面・倫理面の課題も考慮する必要がある17)。例えば、診療記録上の不完全な情報等に起因して選択バイアスが存在すると、AIモデルの精度が低下し、被験者候補の選定に偏りが生じる可能性がある。AIモデルが学習データ内のバイアスを引き継ぐことで、不公平な判断を招くケースが指摘されている。この対策として、サンプルサイズの拡大、他コホートでの検証、追跡期間の延長、異なるデータサブセットの使用などが提案されている。

(2) 臨床試験文書作成

① 主なAI活用の検証事例と定量的効果

日本において、生成AIを活用した臨床試験文書作成の検証事例が報告されていた。治験実施計画書、治験総括報告書(Clinical Study Report、以下CSR)等の作成プロセスでは、多数の関連文書・解析結果・統計情報を統合しながら高い整合性を維持する必要があるため、メディカルライターや開発担当者の業務負荷は大きい。近年の生成AI技術の発展により、臨床・規制文書作成において、要約生成、ドラフト作成、テンプレート準拠の支援、文書間整合性向上等への活用可能性が報告されている18)

本稿で対象とした事例では、AIは治験実施計画書およびCSRのドラフト生成に活用され、いずれの事例においても、文書作成期間短縮や工数削減等の定量的効果が報告されていた。

ロゼッタによるCSR自動ドラフティング事例では、Retrieval-Augmented Generation技術(以下RAG技術:生成AIが学習していない情報を外部データベースとして補完する技術)を活用したCSRドラフト生成が実施されていた。従来、約4週間を要していたCSRドラフト作成期間が約2日へ短縮され、90%以上の工数削減効果が確認されている19)。根拠文書をアップロードすることで章ごとのドラフトを自動生成するとともに、AIが生成した文書が参照した原文箇所をハイライトで表示する引用元表示機能が実装されている。

塩野義製薬、日立製作所による事例では、生成AIを活用した規制関連文書作成支援ソリューションが導入されていた20)。規制関連文書の作成には通常3~5か月を要し、文書作成の中心的役割を担うメディカルライターの実作業は1試験あたり100~280時間に及ぶ。本事例では、CSRの作成時間を約50%、治験実施計画書の作成時間を約20%削減できることが報告されていた。本ソリューションは、日本語と英語が混在する大量の治験関連情報から必要事項を抽出・要約し、治験実施計画書やCSRのドラフトを自動生成する機能を備えている。

中村健一らによる国立がん研究センター中央病院での事例では、RAG技術を活用したCSRドラフト自動作成ツールによりCSR作成期間が営業日換算で120日から78日へ短縮されている21)。また、生成されたCSRの精度評価として、「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン22)」に基づく各章のうち、第1章、第5章~第9章を対象として生成文書の品質を評価した結果、大部分がそのままもしくは最小限の微修正で利用可能であることを確認している。

② 実装上の主な課題

臨床試験文書は、単なる提出文書ではなく新薬の価値を証明する科学的・倫理的証拠であり、信頼性が求められる。しかし、先行研究では「ハルシネーションと生成内容の信頼性」に関する課題があげられていた。臨床テキスト要約を対象とした研究では、1.47%のハルシネーション率が報告されており、そのうち44%は患者診断や管理に影響を及ぼし得る重大なエラーと評価された23)

本稿で収集した事例では、AIによる自動生成で完結させるのではなく、専門家の確認を前提としたHuman-in-the-loopの運用が採用されていた。一例をとりあげると、中村健一らによる国立がん研究センター中央病院での事例21)では、RAG技術とAIが生成した文書のデータソースの参照箇所をハイライトで示す機能によって、ハルシネーションの有無を確認できる仕組みがとられていた。

4. 考察

本稿では、被験者リクルートメントおよび臨床試験文書作成にAIを活用することにより、臨床試験の迅速化に寄与する検証事例が確認された。革新的新薬を患者さんに一日でも早く届け、人々の健康や安全・安心に貢献することは、製薬産業の使命であり、関係府省と一体となって取り組みを進める必要がある24)。以下に、本稿での事例を踏まえて、臨床試験におけるAI活用の推進に向けての考察を示す。

(1) 経済性の視点から見るAI活用の意義

① 一部の業務プロセスにおけるAI活用がもたらす短期的な経済効果

本稿で確認された臨床試験におけるAI活用効果の事例は、被験者リクルートメントと臨床試験文書作成に集中していた。被験者リクルートメントに要する期間や業務負荷は、疾患領域や臨床試験の規模・デザインにより大きく変動する。一方、臨床試験文書作成の期間や業務負荷は変動幅が小さいと考えたため、本節ではCSR作成期間の短縮効果を例として経済的意義を推計する。

本節における経済性評価には、Tufts Center for the Study of Drug Development(以下Tufts CSDD)が2023年後半に実施した、医薬品開発における遅延コストの推計値を用いる25)。臨床試験直接コストについては、2016~2021年の447件のプロトコル予算データの分析に基づき、フェーズⅡ・Ⅲ試験の1日あたり平均直接コストは約4万ドルと推計されていた。また、販売機会の損失については、2000年以降に世界で発売され2022年時点で売上実績がある医薬品および生物学的製剤645品目を対象とした分析に基づき(最初の承認国:米国61%・日本17%、領域:腫瘍28%・中枢神経系27%)、1日あたり約80万ドルと推計された。

複数の調査結果から推計したAI活用によるCSR作成期間の短縮効果は約32~54営業日である。Tufts CSDDの上記推計を用いて算出すると、同期間の臨床試験直接コスト削減として約128万~216万ドルの削減効果が見込まれる。さらに上市の早期化によって機会損失を回避する効果は約2,560万~4,320万ドルと推計される。

なお、本推計は適応疾患、試験デザインや規模等により大きく変動するため、あくまで参考値として解釈する必要がある。また、CSR作成という単一工程のみを対象としており、AI活用が被験者リクルートメントや他の臨床開発業務へ波及することで、経済効果はさらに拡大すると考えられる。

② 臨床開発プロセス全体のデジタル化・自動化による長期的な経済効果

単一工程を越え、臨床開発プロセス全体のデジタル化・自動化がもたらす経済効果を予測する参考情報として、Digital Data Flow(以下DDF)の取り組みを参照する。DDFは、臨床試験の定義情報を電子化・構造化し、上流から下流まで連携する仕組みの確立を目指している。つまり、治験実施計画書のデータや情報を活用し、臨床試験ライフサイクル全体のデジタル化・自動化を推進する取り組みである26)

Nurocor, Inc. によれば、DDF実装による効果の試算として、開発期間全体を8か月短縮し、臨床試験直接コストのみで800万ドルの削減が見込まれると報告されていた27)。前述の推計を適用すれば、開発期間8か月(240日)の短縮に相当する上市の早期化によって機会損失を回避する効果は1億9,200万ドルに上り、CSR作成の単一工程のみの試算と比較して、臨床開発プロセス全体のデジタル化・自動化の効果がいかに大きいかが示される。

以上の経済的分析は、製薬業界共通の課題である研究開発費の高騰の緩和に繋がる。ひいては、収益構造の改善を通じて研究開発投資の継続性を高め、患者の治療アクセスの向上と持続的なイノベーションの創出による「価値の好循環」をもたらすことが期待される。

(2) 製薬企業におけるガバナンス体制・業務フローの整備

実際の臨床試験における被験者リクルートメントにて、AIが非構造化データを構造化・抽出することで、専門家を支援する設計が報告されていた。また、臨床試験文書作成ではAIはドラフト生成に活用され、レビューは専門家が実施する設計となっていた。AIはハルシネーションを起こし得るリスクがあり、Human-in-the-loop設計は単なる運用上の慎重さにとどまらず、臨床試験の信頼性・公平性を担保するための対応策である。

FDAおよびEMAは2026年1月、“Guiding Principles of Good AI Practice in Drug Development “ (以下AI Principles)を公表した28)。AI Principlesでは、「Human-centric by design」が掲げられ、「AI技術は倫理的・人間中心的価値観に沿い、専門家の意思決定を支援する形で設計されるべきである」と明記されている。また、EU AI Actでは、AIを用いた意思決定において、人間が効果的に監督できるよう企業に監督の仕組みを設計・確保することを求めている8)

製薬企業がAIの適切かつ継続的な運用を担保するためには組織横断的なガバナンス体制の整備や、AIの利用目的や責任範囲を明確化したポリシーの整備が重要となる。加えて、臨床試験にAIを活用する上での業務フローを明確化したSOP(Standard Operating Procedures)の策定が期待される。

(3) ガイダンス等発出の意義

2024年にTufts CSDDが実施したグローバル調査によれば、「ほとんどの臨床試験で再現可能なプロセスでAIを活用している」と回答した企業は10.7%にとどまる一方、「臨床試験でAIを活用していない」と回答した企業は36.9%に上った29)。このような状況に対し、FDAドラフトガイダンス(2025年)やAI Principles(2026年)の発出は、業界全体におけるAI活用を後押しする可能性がある。こうしたガイダンス等の明確化は、医薬品開発における新技術導入の障壁である「承認プロセスの不確実性」30)を低減させると考えられる。同時に、AI導入未着手の企業や医療機関に対しても導入を促す契機となり、産業全体の底上げにつながると考えられる。

日本において、「2025年版とりまとめ」では治験・臨床試験の質を向上するとともに効率化を促進し、日本国内の治験・臨床試験の活性化を促していくためにAI利活用推進の方向性が示されている。しかし、2026年4月時点で臨床試験におけるAI活用について示したガイダンス等は発出されていない。FDA・EMAが先行してガイダンス整備を進めるなか、日本においても具体的な制度設計と実装指針の策定が急務であると考えられる。

さらに、ICH M11をはじめとする国際標準の普及は、生成AIおよびDDFによる臨床試験プロセス自動化を支える基盤となり得る。日本がこの潮流へ適切に対応することは、革新的治療法を迅速に患者へ届ける社会基盤整備の観点からも重要な意義を有すると考えられる。

5. おわりに

本稿は、2026年4月時点における公開情報の探索的調査を通じ、臨床試験の被験者リクルートメントと文書作成支援におけるAI活用の定量的効果と課題を整理した探索的研究の第1報である。AI活用の実質的な効果がある事例が確認された一方、これらはいずれも一部の検証事例であり、実装が広く普及しているとの結論を導くものではない。本稿の結果はあくまで「どのような条件下でAI活用が進んでいるか」を示す探索的なエビデンスとして解釈されたい。

しかしながら、こうした事例が示す効果の規模は、AIが単なる業務効率化にとどまらず、臨床開発力の強化と患者への迅速な新薬提供を支えるインフラとなり得ることを示唆している。研究開発費の高騰と国際競争の激化が続く中、AIを投資対象として位置づける重要性は一段と高まっている。今、日本に求められているのは、産官学が連携して、既存の枠組みに捉われず柔軟にAIを臨床開発に活用していくことに他ならない。本稿が、臨床開発におけるAI活用の可能性と課題を浮き彫りにし、今後の政策立案・実務・研究における議論を深化・加速させる一つの契機となれば幸いである。

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