Points of View OECDレポートでみたOECD加盟国のPatient-Reported Outcome Measure(PROM)データの利活用状況
医薬産業政策研究所 首席研究員 椿原慎治
主任研究員 鍋島竜介
主任研究員 神地沙織
要約
- 2025年に公表された経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development, OECD)加盟38か国を対象としたPatient-Reported Outcome Measure(PROM)データの収集・利活用状況の実態調査レポートを、施策の状況、収集技術、収集環境、収集主体、利用目的、利用者、利用環境、権利と法整備の観点で整理した。
- 27か国でPROM施策が進展しており、24か国で政府または自治体による体系的なPROMデータ収集・利活用が広まっていることが報告された。
- PROMデータは電子カルテを中心に紙媒体やモバイルアプリケーションなどで収集され、行政やレジストリといった多様なデータベースと連携されていた。
- PROMデータは主に医療の質改善・保証を目的に、医療従事者が頻繁に利用していた。一方で、政策立案者や患者・市民による活用は相対的に少なかった。
- PROMデータ収集に関連する法整備が自国にあるとした回答者は約4割だった。PROMデータ利活用の推進にあたっては国家・政策的支援やIT基盤の構築、人材の教育と利活用への意識向上が挙げられた。
1. はじめに
経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:以下、OECD)は、人間を中心とした医療システムが機能するためには、実際に医療が提供された患者のアウトカム評価と受療経験から得られた知見と視点を医療の質の改善に取り入れることが重要な施策であるとしており、そのことは疾病に悩む人々の医療ニーズの満足度の向上に寄与し、医療ケアの進歩とその実践の改善、医薬・医療技術の研究開発の推進、そして医療政策の妥当性を高めることができるとしている1)。患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:以下、PRO)は患者の健康状態に関して患者本人から直接報告される情報に基づく尺度であり、「患者の回答について、臨床医や他の誰の解釈も介さず、患者から直接得られる患者の健康状態に関するすべての報告」と定義されている2)。患者報告に使用される尺度やツールはPatient-Reported Outcome Measureと呼称され、PROMと略される。患者自身が報告する健康アウトカムと患者の受療経験は相対的にみてその重要性は同等ではなく、欧州4か国の患者を対象とした近年の研究では、健康状態や年齢に応じて異なる結果ではあったが平均すると約8割の患者が、どのような医療ケアを受けたかよりも、健康状態がどのように変化したかの方が医療チームを選択するうえで重要であると回答した。この患者の選好は医療の質の向上に向けた手段として、PROMによる患者の健康状態の測定と把握を組み入れることの重要性を示唆している3)。
本稿は、OECDが2024年6月に加盟国38か国を対象とした臨床現場のPROM利用と収集状況の調査を実施し、得られた知見を整理した2025年公表のHealth Working Papers「PROMoting quality of care through patient reported outcome measures(PROMs): Systematic collection of PROMs for quality improvement and assurance in 38 countries」1)の概要を伝える。医薬産業政策研究所では、2025年にPROの日常的な収集環境の構築をポジションペーパーの形で提言しており4)、そこではこのOECDレポートから調査結果を部分的に引用したが、本稿では包括的な概要を示した。
このレポートでは各国が国家レベルで実施するPROMデータの体系的収集と「医療の質」の向上と保証への活用状況を評価している。定期的に収集されるPROMデータは表1にあるよう、医療の質向上に向けて幅広く活用できるとしている。すなわち、PROMデータの収集によって提供される医療の品質を測り患者の医療ニーズを把握することにより、医療機関が提供する医療の質や技術の改善に向けたフィードバックへの活用、クリニカルパスや診療ガイドライン等の医療の標準化に必要な情報の提供、PROMデータ利用による医療の質や技術の地域間比較、転帰情報や介入経験が乏しい患者群への予算・医療資源の配分等の医療政策の意思決定材料、医療者の育成機関ではPROMデータの活用による継続的な医学教育と専門能力の開発プログラムの強化等の活用事例が挙げられている。
調査対象は、OECD加盟国35か国(オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、コロンビア、コスタリカ、チェコ、デンマーク、イギリス、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、韓国、スウェーデン、スイス、トルコ、米国、ウェールズ)と調査時点で加盟プロセスにある候補3か国(ブルガリア、クロアチア、ルーマニア)の計38か国であり、調査にはPROMデータの収集、利用、データ統合範囲、PROM施策の文脈情報を網羅する38の質問からなる体系的アンケート「PROMoting quality of careスナップショット調査」が用いられた。なお、調査票の構造と詳細は原著で確認頂きたい。
本稿では当レポートから、(1)各国のPROM施策の状況、(2)PROMデータの収集手段、(3)PROMデータの収集環境、(4)PROMデータの収集主体、(5)PROMデータの収集目的、(6)PROMデータの利用者、(7)PROMデータの利用環境、(8)PROMデータの権利と法整備について概要を紹介する。また巻末にレポート内で特徴が紹介されたPROMプログラムを別表として整理した。なお、当レポートの調査結果が網羅的ではない可能性があるため解釈に留意が必要である。
2. OECDレポートの概要
(1) 各国のPROM施策の状況
各国のPROM施策の進展状況を表2に示す。複数回答の4か国を含め、近年、患者数、地域数等PROMデータの収集規模を拡大していると回答したのは22か国(58%)、新たな疾患領域等、収集範囲を拡大しているとした国は9か国(24%)、両方を拡大しているとした国は4か国(11%)であった。つまり、38か国の約7割、27か国がPROM施策を進展していると回答した。近年パイロット的にPROM収集を開始したと回答した3か国を含めると30か国でPROM施策に進展があったという結果であった。なお、日本は変化していないという回答であった。
38か国中24か国(63%)が、政府または自治体による体系的なPROMデータ収集と活用がなされていると報告しており、政策レベルでPROMデータを収集、利用するプログラム(以下、PROMプログラム)を推進(オーストリア、イギリス、ウェールズ)、政府主導の患者レジストリでPROMプログラムを実装(デンマーク、オランダ、ノルウェー)が挙げられていた。米国では大規模の基幹病院ネットワークにおいてPROMプログラムを実装していた。
調査対象38か国中24か国から多様な疾患や症状の55のPROMプログラムについて報告がなされた。これらプログラムのうち、42プログラム(76%)で医療政策等のマクロレベルでPROMデータが利用されており、11プログラム(20%)はメゾレベル(地域社会や病院等の小集団)で利用されていた。13プログラム(24%)はマクロ、メゾレベルの両方で利用されていた。一つで複数の対象疾患を有するプログラムも多くあり、対象とする疾患または状態は計52、延べ117であった(表3)。なお患者単位のミクロレベルでのPROM利用はこの調査の対象外であった。
(2) PROMデータの収集技術
多くのPROMプログラムでデータ収集にIT/DX技術の活用が進んでいた。重複はあるが55プログラムのPROMデータの収集手段として、電子カルテの診療記録(Electronic Medical Record, 以下、EMR)からのデータ収集が36プログラムと最も多く(65%)、次に用紙記入式が29(53%)、モバイルアプリケーションが20(36%)、オンラインリンクが16(29%)だった。またインタビューによるPROM収集も7プログラムで実施されていた(13%)(表4)。スウェーデンの「National Quality Registers(国家品質登録制度)」等、約3割のプログラムで電子データ式と用紙記入式と両方を採用していた。オーストリア「PRÖMs(PRO-EMs)Pilot Project」、ニュージーランド「PROMs in primary care」等のプログラムではオンラインリンクとモバイルアプリケーションを組み合わせてPROMデータを収集していた。オーストリアの糖尿病患者を対象とした「Therapie Aktiv: Diabetes Disease Management」、オーストラリアのがん患者を対象とした「CIC cancer」、イタリアの人工股/膝関節置換術患者を対象とした「DATAREG」等のプログラムでは電子データのみで収集しており、ドイツのPCI(経皮的冠動脈インターベンション)患者プログラム「Patient survey Percutaneous coronary intervention and coronary angiography」、イギリスの在宅介護等の社会的ケア受療者を対象としたプログラム「Adult Social Care Outcomes Toolkit(ASCOT)」ではPROMデータ収集は用紙記入式のみであった。
(3) PROMデータの収集環境
PROMデータは主にサーベイランス(60%)を通じて収集されており、患者レジストリ(22%)、診療記録(22%)、行政データベース(16%)からも収集されていた。例えば、ウェールズのPROMデータはサーベイランスから、デンマークの「National PRO」プログラムは診療記録から、フィンランド「Spine Register」は脊椎疾患患者レジストリから、カナダ「Provincial Cancer Care Programs」は行政データベースからPROMデータを収集していた。
患者アウトカム評価ツールとして、55プログラムのうち35(64%)で汎用的PROMと症状特異的PROMの両方を使用しており、汎用的PROMのみ、症状特異的PROMのみはそれぞれ10(18%)、7(13%)であった。55プログラムのうち54(98%)はPROMデータの定量分析が実施され、16(29%)は定量分析と定性分析を併せて実施していた。定性分析を合わせて実施することで患者アウトカムについて定量分析では補足できない状況や複雑な要因に対し、より包括的な理解が得られるとしている5)。
診療の場で日常的にPROMデータを収集しているプログラムは約7割を占めていたが、ギリシャの心臓病患者対象プログラム「VIP-survey for People living with heart conditions patients」やフランスの精神疾患入院患者対象プログラム「PROM for inpatients and outpatients of a psychiatric hospital」のようにプログラムの16%では代表集団のサンプルからデータが収集されていた。プログラムの65%は診察または治療介入の前後にデータが収集されており、データ収集の間隔は毎月から(米国「Northwestern Medicine Patient Reported Outcomes」等)、数年毎と様々であった。
(4) PROMデータの収集主体
55のPROMプログラムではPROMデータ収集の責任組織は政府機関と病院で半数以上を占めていた。重複を含めて21プログラムではデータ収集の責任主体が政府機関であった(カナダ「British Columbia Office of Patient-Centred Measurement」等)。17プログラムでは病院が収集の責任主体であり(スロベニア「PROMs in Knee and Hip Arthroplasty Registry」等)、12プログラムでは大学(ポルトガル「PROMS Breast Cancer」等)、6プログラムではレジストリ(オーストラリア「AOANJRR PROM」等)が収集の責任主体であった。他の収集主体として、非政府組織が4、民間組織が2であった(表5)。PROMデータ収集のネットワークやパートナーシップはプログラムの約3割に存在しており、例えばオーストリアの「PRÖMs Project」はブリストル大学「Primary Care Outcomes Questionnaire(PCOQ)」とネットワークを構築し、カナダの「Alberta PROMs Initiatives」と「Alberta PROMs and EQ-5D Research and Support Unit(APERSU)」はパートナーシップを構築していた。
(5) PROMデータの利用目的
65%のプログラムで、収集されたPROMデータは多様なデータベースとリンクしていると回答された。リンクするデータベースは、行政データベースが42%(カナダ「McGill University PROMIS Canada PROMs Programme」等)、レジストリデータベース24%(イタリア「PaRIS-IOR」等)、診療記録24%(ドイツ「Dresden Hip and Knee Arthroplasty Registry」等)であった。
PROMデータの利用目的として、有効回答の50プログラムのうち48(96%)が「医療の質の改善」、次いで医療の質改善を目的とした「医療の質保証」が27(54%)、「質保証」と「説明責任」の両方が23(46%)と回答された。例としてニュージーランド「PROMs in primary care」では品質保証機能に、米国「UR Patient Reported Outcomes」では品質保証と品質改善の機能に、スイス「OpenPROMs」では品質保証機能に加え説明責任にPROMデータを統合していた。他の目的としてはノルウェー「PROMs in joint replacement;hip fracture;cruciate ligament injuries;Paediatric and young adult hip disease」では研究用にデータを利用し、ドイツ「Patient survey Percutaneous coronary intervention~」では、提供される医療の質を相対比較するためにPROMデータをベンチマークとして利用していた。
品質保証機能の内訳割合を以下に示すと、医療施設への「審査とフィードバック」55%、「公共レポート」53%、「クリニカルパス」47%、「臨床ガイドライン」28%、医療技術等の「導入規制」28%、医療施設の「監督」19%、基準適合の「認証」15%、「説明責任報告」11%、「医療の質に連動した報酬」11%、「認定」(認証機関に対する適合性評価)9%であった。オランダ「the PROMs programme integrated in EHR」はPROMデータを審査とフィードバック、公共レポート、クリニカルパスに利用しており、スロベニア「Oxford Knee Score and Oxford Hip Score」は臨床ガイドラインと技術導入等の規制に、ギリシャ「VIP-survey~」は医療施設の監督に利用していた。他に、ドイツ「Dresden Hip and Knee~」は認定制度に、ポルトガル「PROMS Breast Cancer」は説明責任報告、カナダ「Quebec PROMs programs connected to McGill University」等は認定制度にPROMデータを利用していた。約9割のプログラムでPROMデータ利用の品質保証機能は病院において運用されていた。
(6) PROMデータの利用者
有効回答が得られた51プログラムではPROMデータの主利用者として、38(75%)が医療従事者、27(53%)が医療従事者組織、24(47%)が政策立案者、21(41%)が医療機関やレジストリの管理者と回答があった(重複あり)。ノルウェー「National quality registers」では政策立案者と医療従事者が、アイルランド「Irish National Orthopaedic Register」では政策立案者、管理者、医療従事者、他の関連する専門家が利用可能とされた。
患者がPROMデータを利用できるプログラムは約3割であり、19が患者に、12が患者団体にPROMデータの利用を可能としていた(重複あり)。イギリス「Adult Social Care Outcomes Toolkit」は、患者、患者団体、規制当局がPROMデータを利用できるとされた。保険利用者と保険支払者による利用可能は9プログラム(18%)あり、米国「UR Patient Reported Outcomes」、スイス「OpenPROMs」が該当した。医療産業の利用可能は6プログラム(12%)であり、オランダ「integrated in EHR」が例として挙げられた。一般市民の利用はイギリス「National PROMs」のみだった。
調査結果では、医療従事者はPROM収集とその利用において頻繁に関与している反面、患者と一般市民の関与は少ないことが判明した。患者が関与している場合でも実情として医療従事者ほど積極的ではなかった。53のプログラムから、意思決定に繋がるPROMデータ収集と利用に関して、医療者が患者を「パートナー」と評価する回答は17(32%)だったが、患者が医療者を「パートナー」と評価したものは36(68%)と非対称の結果であった。本レポートではPROMデータの収集と利用に対して患者と医療従事者が積極的に関与することで、結果の信頼性、受容性、関連性を高めることができ、患者と医療従事者が互いに協力することで意思決定のためのパートナー、共同開発者になることができると述べられていた。
(7) PROMデータの利用環境
有効回答51プログラムのうち23(45%)で、PROMデータはelectronic health records(以下、EHR)に統合されていた(デンマーク「National PRO」、カナダ「Quebec PROMs programme~」等)。特定の専門家向けにデータを部分的にEHRに統合するプログラムもあった(カナダ「British Columbia Office~」)。有効回答52プログラムのうち36(69%)は、患者はPROM入力と利用のために携帯電話、タブレット、コンピューターからオンラインプラットフォームにアクセスできると回答した(デンマーク「National PRO」、ルクセンブルク「Initiative PaRIS」等)。イギリス「Mental Health Service data set and the NHS Talking Therapies Data Set」ではオンラインアクセスを医療提供者に限定していた。
約6割のPROMプログラムが中央管理するデータリポジトリにデータを統合していた(オーストリア「PRÖMs project」、「Therapie Aktiv~」、フィンランド「Spine Register」、「Rheumatology Register」、ニュージーランド「PROMs in primary care」等)。またノルウェー「PROMs in joint replacement~」やカナダ「Manitoba PROMs Initiatives」等、プログラムの約半数がレジストリの一部として機能していた。
52のプログラムのうち、約3割で患者は自身のPROMデータにアクセスすることができた。ただし詳細データにはアクセス制限のあるプログラムもあった。デンマーク「National PRO」、ルクセンブルクの「Initiative PaRIS」、ノルウェー「PROMs in joint replacement~」は患者が自身のアウトカム報告にアクセスでき、オーストラリア「AOANJRR PROM」では患者は自分の報告と全国平均と比較することができるとされた。
有効回答47プログラムのうち43プログラム、約9割で医療従事者はPROMデータにアクセス可能とあり、約6割で医療従事者は患者個々のリアルタイムのPROMデータ、もしくはデータの要約にアクセス可能であった。また約4割でリアルタイムの集計データに医療従事者がアクセスできた。ウェールズのPROMプログラムやスイス「OpenPROMs」プログラム等では、医療従事者は患者個人のPROMデータを集計結果と比較することができ、ノルウェー「National Quality Registers」では医療従事者はリアルタイムデータの閲覧が可能であった。
(8) PROMデータの権利と法整備
プログラムによってPROMデータの所有権と管理権の範囲は異なっていた。有効回答49プログラムでは、PROMデータの所有権と管理権に関して31のプログラム(63%)で患者はオプトイン(事前同意)する必要があり、21(43%)ではオプトアウト(事後拒否)できた。例として、イタリア「PaRIS-IOR」、ドイツ「Oxford Hip and Oxford Knee Score in the German Arthroplasty Registry」では患者はオプトインする必要があり、デンマーク「National PRO」、フィンランド「Spine register」では患者はオプトアウトが可能であった。4プログラムは患者にデータのアクセスと修正権を認めていた(ルクセンブルク「Initiative PaRIS」、アイルランド「PROM-ECC ICPOP」等)。
プログラムの58%で、個人または集団レベルでの解釈を可能とするPROMスコアまたはPROMスコアの変化に関する定義を整備していた。例えば米国「Northwestern Medicine~」はPROMであるPROMISスコアの解釈についてガイドラインを提供しており、ドイツ「Oxford Hip and Oxford Knee Score~」等ではスコア解釈のためにMinimal Clinically Important Difference(MCID:臨床的に重要な最小差異)の定義を利用していた。
回答の約4割で、自国でPROMデータの収集、利用、公表を促進するための法律が存在していた。例えばルクセンブルクでは国家レベルでのPROM収集と公表の基盤法として、「National Health Observatory(国立健康観測所)」の設立法があり、ニュージーランドでは、PROMデータの利用は健康増進と医療アクセスの公平性実現を目的としたデータ収集、管理、報告を強化する「the Pae Ora(健康の未来)」法の一環として実施されている。スロベニアでは2022年の医療データベース法改正によりPROMが「the National Arthroplasty Registry of Slovenia(国立関節形成術レジストリ)」の一部として組み込まれた。
3. まとめと考察
(1) PROM利活用の推進に向けて
本稿ではOECDレポート「Systematic collection of PROMs for quality improvement and assurance in 38 countries」の概要を記し、注目すべき各PROMプログラムの特徴を整理した。本レポートでは、PROMデータの体系的な収集と利用を推進するためにはシステムレベルにおいて複数の手段が必要であると述べている。当調査の回答者からPROMデータの収集と利用の普及のための促進因子が複数報告されており、強化すべき因子として挙げられたものは「政策的コミットメント」、「国家的アプローチ」、「研修と教育」、「ITインフラと技術開発」、「保健システムへの統合」、「PROM収集と利用の重要性に関する意識向上の必要性」だったとしている。また「PROM標準化の強化」、「患者参加の促進」、「PROMデータの日常的な利用」、「リソースの配分」、「医療従事者と専門家へのインセンティブ」も促進要因として報告されていた。
国際連携も国家レベルでのPROMデータ利用推進に重要な手段となりうるとあり、有効回答のあったプログラムの約6割で体系的PROM収集は国際協調活動の一環であると回答された。主な国際連携はOECD「Patient-Reported Indicator Surveys(PaRIS)」、「ICHOM(International Consortium for Health Outcomes Measurement:国際医療成果測定協会)」、「European Health Interview Survey(EHIS)」であった。
国民の健康増進に向けた「政策的コミットメント」を背景にすることもPROM利活用促進に重要であるとあった。有効回答のあったプログラムの約7割はPROM収集を国家もしくは自治体行政プログラムの一部としていた。ルクセンブルクのPROMデータ収集はパーキンソン病患者のケア向上を目的とした国際連携ネットワーク「ParkinsonNet」の一環であり、カナダではオンタリオ州、ブリティッシュコロンビア州の医療の質評価プログラムの一部としてPROM収集が行われていた。
「研修と教育」、「PROM収集と利用の重要性に関する意識向上」に関しては、有効回答47プログラムのうち21(45%)で医療従事者向けのPROM関連研修を実施していたが、患者・市民向けのPROM啓発活動を実施していたプログラムは23%であり、ここにも非対称の課題が示された。デンマークではPROMの開発と利用に関する研修資料を提供しPROM関連の会議やウェビナーを開催しており、オーストラリアでは政府支援でPROM研修が行われていた。
(2) PROM利活用の阻害要因
阻害要因として最も多く報告された課題は、「データ収集と分析のための人員不足」、「PROMシステム取得と導入のコスト」といったリソース面の課題であった。技術面の課題は、既存の医療情報システムとの互換性、特定の患者グループに対する技術へのアクセス制限であった。人的課題として、専門家が限られている、知識と教育の不足からくる患者への関与に限界がある、PROM収集の時間的制約、報告することに対する患者の意欲、関心の欠如等が挙げられていた。患者の言語および識字能力の障壁、報告に対する患者の時間的拘束、プライバシーに関する患者および専門家の懸念は多くなかった。
OECD加盟国の医療水準はこの数年で大きな進歩を遂げてきたが、OECDが目指す真に人間中心の医療システムの実現には、その価値と質を測定するPROMデータを体系的に収集し政策に実装する制度が必要であるとしている。しかし当調査で回答された各プログラムでは体系的なPROMデータは収集されているものの政策立案者によるPROMデータの利活用は十分ではないことが判明した。
難病に苦しむ数多くの患者さんのアンメットニーズを満たすため医薬品をはじめとする医療技術は今後も指数的なスピードで発展することが推測される。本レポートでは、患者と医療者の関係においてPROMを介した意思決定の役割をco-developers with decision making roleと表現されていた。この表現が臨床における意思決定に留まらず、医療知識の共創、医療価値の共創に繋がるPatient and Public Involvement(PPI:患者・市民参画)の視座で、治験参画や医療技術開発等の概念まで包含されるようになることが今後の医療の進歩にとって重要な課題となると推察する。PROMは患者の主観的経験を測定、可視化を可能とし、臨床的アウトカムの定義そのものに影響を与える点で、臨床における意思決定、医療知識、医療価値の三層を接続する中核的役割を担うことが期待される。この枠組みは、医療の不確実性の増大、アウトカムの質的転換、医療技術の複雑化といった現代医療の構造変化に対応するものと考える。
4. おわりに
進歩の歩みを止めない医療技術に対して、これからの政策としての医療技術評価制度には、イノベーションがもたらす多様な価値、医学/薬学専門家が評価する臨床的価値、そして受療する患者とその家族が体験する価値を複合的に高い精度をもって評価できるシステムの構築が極めて重要と考える。そのためには臨床試験、リアルワールドでPROMデータを収集し相対的な医療技術評価に利用する環境を整備することが必要となる。日本はPROMデータをマクロレベルで活用しているOECD加盟国と連携しPROMデータの利活用に向けた基盤構築を進めることを期待したい。
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