目で見る製薬産業 アンメット・メディカル・ニーズに対する医薬品の開発状況
医薬産業政策研究所 主任研究員 内海拓郎
首席研究員 椿原慎治
要約
- 明治薬科大学 社会薬学研究室が公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団から引き継ぎ2024年に実施した通算第7回目となる医療ニーズ調査1)の結果を参考とし、日本国内における新医薬品の開発状況について分析した。
- 2025年11月時点で、60疾患を対象として内外資製薬企業20社が開発している新医薬品は368品目だった。治療満足度および薬剤貢献度ともに高い第1象限に含まれる疾患の開発状況は302品目(82.1%)と前回よりも集中度が増しており、今後更に向上することが予想される。
- 治療満足度および薬剤貢献度がともに低い第3象限に含まれる疾患は10疾患となった。全身性強皮症、多発性硬化症の2疾患が薬剤貢献度の上昇により第2象限に移行した一方で、今回の調査より追加されたアミロイドーシスと発達障害がそれぞれ含まれていた。
- モダリティ別に見ると、従来の抗体製剤に加え、多重特異性抗体、抗体薬物複合体が台頭し、核酸医薬、タンパク・ペプチド医薬の開発品も増加しており、更なるモダリティの多様化が進んでいた。
- 悪性腫瘍薬では、肺がん、乳がん、悪性リンパ腫、前立腺がんの4疾患でNME開発数が多かった。悪性腫瘍薬全体の3分の1を占めていた肺がんはフェーズ3に開発品が集中しており、今後の承認取得や治療選択肢の拡大が期待される。今回の分析では非悪性腫瘍薬においてもモダリティの多様化が進んでいることが確認された。
- 第3象限から第2象限に改善した全身性強皮症、多発性硬化症では、前回調査後に上市した薬剤が診療ガイドラインで標準治療に位置付けられており、アンメット・メディカル・ニーズの充足に貢献していると考えられた。
- 第3象限10疾患における医薬品の承認状況は米国と差はなかったが、開発品では開発数ならびにモダリティの多様化に大きな差が生じていた。米国では製薬企業に加えてスタートアップによる開発が盛んにおこなわれていた。
- 第3象限疾患におけるスタートアップによる開発状況が日米で顕著に差があり、当該疾患における今後のドラッグラグ・ロスの拡大が懸念される。アンメット・メディカル・ニーズの充足には、日本のスタートアップの育成に加えて、製薬企業による創薬、有望なアセット導入への支援も重要な課題であると考えられた。
1.はじめに
医薬産業政策研究所では、明治薬科大学社会薬学研究室による医療ニーズ調査(第6回までは公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団が実施)をもとに、新薬の承認および開発パイプラインに関するデータを集計し、アンメット・メディカル・ニーズに対する製薬企業の取組み状況を継続的に分析してきた2、3、4)。
前回実施された2019年度医療ニーズ調査に基づいた開発パイプラインの分析結果では、病因特異性の高い新規分子の発見と、これら分子に対する標的精度の高い化合物開発、そして革新的機序を有する新規モダリティ開発がアンメット・メディカル・ニーズ充足のための重要な因子であることが明らかとなった。モダリティ革新を背景に医薬品開発が急伸し、調査対象となる60疾患の多くが第1象限に移行したことにより、治療満足度および薬剤貢献度が向上し、医療ニーズの充足度が拡大してきていることを報告している。一方で、最後に開発品について分析した政策研ニュースNo.705)(以下、前回の分析)では、第1象限疾患に開発が集中する中で、アンメット・メディカル・ニーズの象徴ともいえる第3象限疾患への開発の遅れが課題として浮き彫りになった。
本稿では、2024年度医療ニーズ調査結果に基づいて、新医薬品の開発状況を整理するとともに、アンメット・メディカル・ニーズ充足の鍵となる創薬技術革新のメルクマールであるモダリティの最新トレンドと政策課題である第3象限疾患における医薬品開発に焦点を当てて分析した。
2.分析方法
2024年度医療ニーズ調査は、主に病院勤務の総合内科専門医を対象として、2024年12月12日~2025年1月31日の間にアンケート調査が実施された。本調査では、「重篤な疾患」、「QOLを著しく損なう疾患」、「患者数の多い疾患」、「社会的に影響の多い疾患」等として選択された60疾患を対象としている。また、「治療満足度」は、各疾患について「十分に満足している」および「ある程度満足している」と回答した医師の割合を合算した指標であり、「薬剤貢献度」についても同様に、「十分に貢献している」および「ある程度貢献している」と回答した割合を合算して算出されている。したがって、これらの指標が高い値を示している場合であっても、当該疾患に対する治療や治療薬について、十分な満足や貢献が確立されているわけではない点に留意が必要である。
本稿における分析対象は前回までの開発品分析と同様、内外資製薬企業20社の国内開発品目(フェーズ1~申請中)とした。主とした情報ソースは、2025年11月末時点の各企業ホームページで開示している国内開発パイプライン情報6)とした。参考情報として、Japan Registry of Clinical Trials「臨床研究等提出・公開システム」サイト、「明日の新薬(テクノミック制作)」サイト、独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページの「治験情報の公開」サイトを用いた。第3象限疾患の開発状況では、各企業ホームページから集計した結果について2020年8月から2025年11月までの経時変化を比較した。また、「明日の新薬」による国内および米国の承認品・開発品の分析を行い、Citeline社の「Pharmaprojects®」サイトを用いて企業の設立年、売上、本社所在地に関して調査し、スタートアップの定義付けを行った。
3.結果
(1)2024年度医療ニーズ調査における治療満足度・薬剤貢献度別にみた開発品の動向
図1は、2024年度医療ニーズ調査で、選択された60疾患に対する治療満足度(横軸)、薬剤貢献度(縦軸)に沿って疾患をプロットし、数値と円の大きさで2025年11月末時点での開発品目数を示した。
60疾患に関連する開発品目数を象限別にみると、治療満足度および薬剤貢献度がともに50%以上である「第1象限」に含まれる疾患の開発品目が、40疾患、302品目(82.1%)と前回よりも更に医療ニーズの充足度が向上しており、その中でも悪性腫瘍性疾患が302品目中186品目(61.6%)と半数以上を占めていた。治療満足度および薬剤貢献度がともに50%以下である「第3象限」に含まれる疾患では、全身性強皮症、多発性硬化症の2疾患で薬剤貢献度が上昇し第2象限へ移行した一方で、今回の調査より新規追加したアミロイドーシスと発達障害の2疾患がそれぞれ第3象限に入り、10疾患となった。その中でも膵がんは前回調査より2品目、アルツハイマー病は4品目の承認があったが薬剤貢献度はそれほど上がっていなかった。またサルコペニア、線維筋痛症、血管性認知症の開発は依然として進んでいないことが明らかとなった。
(2)開発品におけるモダリティのトレンド
本節では、60疾患における内外資製薬企業20社の国内開発品をモダリティ別に分析した。2023年6月末に実施した前回の分析では、開発品の成分数は207品目で、そのうち新規化合物である(New Molecular Entity(以下、NME)は154品目だった。今回の2025年11月末の分析では、開発品の成分数は224品目、NMEは164品目であり開発品数は上昇していた。またモダリティごとに分類すると、図2に示している通り、低分子化合物は引き続き一定の存在感を示している一方で、開発の中心となりつつある抗体製剤はさらに多様化が進み、従来の抗体製剤に加え、多重特異性抗体、抗体薬物複合体が台頭してきていた。また前回の分析で悪性腫瘍薬において開発が進んでいた核酸医薬、タンパク・ペプチド医薬の開発品も増加しており、更なるモダリティの多様化が進んでいた。
図3のグラフは悪性腫瘍薬と非悪性腫瘍薬のNME開発数をステージ別にみたモダリティの変化を示している。悪性腫瘍薬では、前回の分析での考察通り、従来の抗体製剤に加え多重特異性抗体や抗体薬物複合体といった新技術の抗体製剤が台頭してきていた。また、フェーズ1~3のいずれにおいても、モダリティ構成が共通しており、ステージ間で大きな違いはみられなかった。非悪性腫瘍薬においても悪性腫瘍薬と同様のトレンドが確認された。フェーズ1、2ではモダリティの判別ができず不明の割合が高いが、多重特異性抗体、核酸医薬、タンパク・ペプチド製剤などの開発品が増加しており、今後も更なるモダリティの多様化が進んでくるものと思われる。
図4では、NME開発数の上位疾患別にみたモダリティの傾向を示している。悪性腫瘍薬では、肺がん、乳がん、悪性リンパ腫、前立腺がんの順でNME開発数が多く、悪性腫瘍薬60品目のうち肺がんだけで21品目の開発が進んでおり、3分の1を占めていた。肺がんではフェーズ3まで進んでいる開発品が多かったが、フェーズ1、2の品目数は他のがん種と同等であった。また、前立腺がんでは、放射線リガンド治療薬などの新たなモダリティが確認されており、さらなる多様化が進んでいた。悪性腫瘍以外の領域でも開発品が多い疾患ではモダリティの多様化が進んでいた。CKDは、ループス腎炎やIgA腎症などの疾患を含んだ定義としているため留意が必要だが、幅広いモダリティの開発品がフェーズ3に多く存在していた。またアルツハイマー病、非アルコール性脂肪肝炎(以下、NASH)においても開発品数は引き続き上位に位置していた。
(3)第3象限疾患の開発状況
1.第3象限疾患における開発品の分析
本節では、政策課題である治療満足度および薬剤貢献度がともに50%以下である第3象限疾患について詳細な分析を行った。図5は内外資製薬企業20社の国内開発品について、2020年8月から2025年11月までの経時変化を示している。多発性硬化症、全身性強皮症は、今回の医療ニーズ調査で薬剤貢献度が上昇し第2象限に移行した。両疾患ともに2020年以降開発品が継続的に増加しており、今後の更なる充足が期待される。一方で、前回の医療ニーズ調査から引き続き第3象限となっていたのは8疾患だった。その中でもアルツハイマー病、膵がんにおいては他疾患と比較して継続して開発品が多い傾向がみられた。また、筋萎縮性側索硬化症も継続して一定の開発品が認められた。特発性肺線維症では近年開発品が増加しており、今後の承認動向を注目したい。サルコペニア、線維筋痛症、血管性認知症は継続して開発が進んでいないことが明らかとなった。
また今回の医療ニーズ調査より対象疾患に追加となったアミロイドーシスと発達障害には経時的なデータはないが、2025年11月末時点での開発品数は、アミロイドーシス1品目、発達障害2品目であった。
2.薬剤貢献度が上昇した2疾患の分析
薬剤貢献度が上昇し第2象限に移行した多発性硬化症、全身性強皮症の2疾患について分析した。
多発性硬化症は、中枢神経系における免疫介在性の炎症性脱髄疾患であり、再発寛解型(RRMS)、一次進行型(PPMS)、二次進行型(SPMS)などの病型に分類される。根本的治療法は確立されていないが、疾患修飾薬を中心に開発が進んでいる。2019年に実施された前回の医療ニーズ調査後、SPMSにシポニモド フマル酸、RRMSとSPMSにオファツムマブが新たに承認を取得している。多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン20237)では、シポニモド フマル酸はSPMSに1Aで強く推奨されている。またオファツムマブは高活動性(再発頻度、MRI活動性、Kurtzke総合障害度スケール、脳萎縮などを評価)のRRMS早期治療に2Cで弱く推奨、SPMSに1Bで強く推奨、再発・MRI活動性を有するSPMSに2Dで弱く推奨されている。※診療ガイドラインでは推奨の強さを「1:強い(実施するまたは実施しないことを推奨する)」、「2:弱い(実施するまたは実施しないことを提案する)」、エビデンスの確実性を「A:強い」、「B:中」「C:弱」「D:非常に弱い」と規定している。
全身性強皮症は、皮膚や内臓の硬化を特徴とする疾患であり、レイノー症状、皮膚硬化、その他の皮膚症状、肺線維症、強皮症腎クリーゼ、逆流性食道炎など様々な病態を呈し、それぞれの病態に即して薬剤選択が行われている。2019年に実施された前回の医療ニーズ調査後、リツキシマブとミコフェノール酸モフェチル(MMF)の2剤が新たに承認を取得している。全身性強皮症診療ガイドライン8)では、皮膚硬化に対しリツキシマブが1Aで強く推奨、MMFが2Bで弱く推奨されており、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患には両剤ともに1Aで強く推奨されている。
多発性硬化症、全身性強皮症の2疾患ともに、診療ガイドライン上でも標準治療として位置づけられる薬剤の上市が、薬剤貢献度の上昇に影響した可能性が示唆された。
3.第3象限疾患における日米の承認品、開発品の比較
前回の分析以降、第3象限疾患ではアルツハイマー病で3剤、筋萎縮性側索硬化症で1剤、アミロイドーシスで1剤が国内で承認された。第3象限疾患における詳細な開発状況を探るべく、2025年3月時点での「明日の新薬」の検索結果を活用し、内外資製薬企業20社以外の企業を含めて、承認、開発動向を米国と比較した。対象は全ての第3象限疾患としたが、糖尿病性神経障害は、神経障害性疼痛の適応の中に糖尿病性神経障害性疼痛が内包されるため分離不能と判断し、除外した。また比較対象国を広げることで、日本の承認薬が他国の開発薬に含まれるケースなどの影響を考慮し、米国のみとの比較とした。またスタートアップの定義は、確認できた直近の年間売上が50億ドル未満かつ創業後30年以内の企業とし、製薬企業との共同開発品はスタートアップ由来として換算した。また2026年3月までに合併が確認できた企業は合併先企業として換算した。
表1に示す通り、第3象限疾患における日米の承認状況には大きな差はなかったが、開発品数では顕著な差がでていた。米国の開発品の半数以上がスタートアップ起源であったことに対して、日本ではスタートアップの開発品は極僅かであり、両国の開発品数の差に大きく影響していた。スタートアップによる日本での医薬品開発の推進施策には依然として課題が残ることが示唆された。また、第3象限疾患における申請中も含めた日米のフェーズ3以降の開発品では、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症の2疾患を除くと、開発品全体に比べてフェーズ3以降の開発品にはまだ大きな差は出ていなかった。日本の開発品においては、日本企業による国内のみの開発品やドラッグラグによる米国承認品の開発品などの影響も含んでいることには留意が必要である。
ここで、第3象限の中でも開発品数が多かったアルツハイマー病、膵がん、筋萎縮性側索硬化症、特発性肺線維症の4疾患に絞ってモダリティ別に開発状況を分析した。
図6ではアルツハイマー病におけるモダリティ別の承認、開発状況の比較を示している。日米ともに初めての抗体製剤であるアミロイドβを標的としたレカネマブ、ドナネマブが承認され、治療選択肢が拡大している。米国で承認されているが日本では未承認のアルツハイマー病治療薬は、既存薬のプロドラッグと合剤のみで革新性はなく、実質的なドラッグラグ・ロスは存在していなかった。開発品は、前述した製薬企業20社に限定した分析と比較して国内外ともにモダリティの多様化が進んでいた。日本では、低分子化合物、抗体、多重特異性抗体、核酸医薬、ペプチド、ワクチンの開発が進んでいたが、米国ではそれに加えて、細胞治療、遺伝子治療、タンパク製剤の開発が試みられており、各々の開発数にも大きな差があった。
図7では膵がんにおけるモダリティ別の承認、開発状況の比較を示す。特筆すべきは、膵がんに対する初の多重特異性抗体であり、日本で現在開発されているZenocutuzumabが米国では承認となっている点である。現在、両国で承認されている膵がん治療薬は主に低分子化合物だが、開発品のモダリティは多様化が進んでおり、特に米国が顕著であった。日本では、低分子化合物、抗体、多重特異性抗体、抗体薬物複合体、核酸医薬の開発が進んでいるが、米国ではそれに加えて、CAR/TCR導入細胞、タンパク、ペプチド、腫瘍溶解性ウイルス、ワクチン、細胞治療など幅広いモダリティの開発が進んでおり、日米の開発状況でモダリティの多様性に大きな差が出ていた。
図8では筋萎縮性側索硬化症におけるモダリティ別の承認、開発状況の比較を示す。本疾患に対する承認品は低分子化合物が中心であり、日米で大きな差はなかった。米国承認品で日本が未承認のものはなく、逆に日本では医師主導治験の結果を受け、企業が申請し昨年承認を受けたメコバラミンが治療薬のラインアップに追加された。これは国内の産官学連携の成功事例である。開発品では、日米ともにモダリティの多様化が進んでいるが、開発数では米国が大きくリードしていた。現在、日米欧の同時申請に備えるべく日本医療研究開発機構(以下、AMED)の研究班により、治験の国際連携や最先端の評価手法に対応するための「筋萎縮性側索硬化症 治療薬臨床評価ガイドライン」が欧米と同様に整備されつつある。
図9では特発性肺線維症におけるモダリティ別の承認、開発状況の比較を示す。承認品は日米ともに低分子化合物のみで、承認数には大きな差はなかった。前述の疾患と同じく、開発品は日米ともにモダリティの多様化が進んでいるが、開発数では米国が大きく上回っている。日本のみで進んでいる開発品も確認されており、これらは日本のスタートアップによるタンパク医薬と医師主導治験による細胞治療であった。
4.まとめ・考察
(1)2024年度医療ニーズ調査における治療満足度・薬剤貢献度別にみた開発品の動向
60疾患に関連する開発品は、治療満足度および薬剤貢献度がともに高い第1象限に40疾患、302品目(82.1%)と集中しており、医療ニーズの充足度は今後更に向上することが予想される。また第3象限から第2象限に移行した全身性強皮症、多発性硬化症では、継続して開発品が増えてきていることから、次の調査機会では更なる治療満足度、薬剤貢献度の向上が期待される。一方で、今回の医療ニーズ調査より追加となったアミロイドーシスと発達障害を含め10疾患が治療満足度および薬剤貢献度がともに低い第3象限に含まれており、対象疾患における開発品の推移やモダリティの変遷を引き続き注視していく必要がある。またNASHでは前回調査時点で複数の開発品が確認できていたが、未だ承認品がなく第3象限の狭間の位置に移行している。海外では甲状腺ホルモン受容体β選択的アゴニストやGLP-1受容体作動薬が待望の新薬として承認されており、今後の国内での承認動向も注視していきたい。
(2)開発品におけるモダリティのトレンド
国内開発品におけるモダリティのトレンドは、悪性腫瘍薬、非悪性腫瘍薬ともに多様化が進んでおり、今後もこのトレンドが継続すると考えられる。悪性腫瘍薬では、肺がん、乳がん、悪性リンパ腫、前立腺がんの4疾患でNME開発数が多く、放射線リガンド治療剤など、新たなモダリティも確認されている。特に悪性腫瘍薬全体の3分の1を占めていた肺がんでは開発品がフェーズ3に集中しており、近い将来、新たな承認薬による医療ニーズの更なる充足度の向上が進んでくると考えられた。非悪性腫瘍薬では、CKDで幅広いモダリティの開発品がフェーズ3に多く存在しており、今後の承認動向に注目したい。またアルツハイマー病、NASHでは、開発難易度が高くこれまで承認に至った開発品は他疾患と比較して少ないが、開発品数は依然上位に位置し、モダリティの多様化も進んでいるため、標準治療となる承認品の上市による薬剤貢献度の向上に期待したい。
(3)第3象限疾患の開発状況
第3象限10疾患の中でも、アルツハイマー病、膵がんでは前回調査から複数の承認があったが、薬剤貢献度はそれほど上がっていなかった。アルツハイマー病では病因の一つとされるアミロイドβを標的とする薬剤が承認となったが、2023年12月以降の発売であったことから今回の調査では十分に反映できなかったと考えられた。アルツハイマー病の根本治療は始まったばかりであり、世界的な社会課題である認知症の医療ニーズ調査は今後も継続されるべきものと思われる。特発性肺線維症は、近年急速に開発品が増加している。本分析結果には反映できていないが、米国で2025年10月に承認された待望の新規作用機序となるホスホジエステラーゼ4B阻害剤であるネランドミラストが日本ではこれまで申請中の段階にあったが、この5月に承認を取得した9)。今後の診療ガイドラインにおける位置けにも注目したい。前回の分析で課題としていたサルコペニア、線維筋痛症、血管性認知症の開発は依然として進んでいないことが明らかとなった。僅かではあるが海外ではスタートアップ企業による開発が確認できていることから、内外資製薬企業20社に拘らず、開発状況を注視していく必要があると考えられた。また今回の医療ニーズ調査より追加になったアミロイドーシスと発達障害の2025年11月末時点での開発品数は、アミロイドーシス1品目、発達障害2品目であったが、今後の開発動向についてフォローアップしていきたい。
第3象限から第2象限に移行した全身性強皮症、多発性硬化症では、前回の医療ニーズ調査後に上市した薬剤が診療ガイドラインで標準治療に位置付けられており、アンメット・メディカル・ニーズの充足に貢献していると考えられた。特に全身性強皮症では、学会要望による未承認薬検討会議からの公知承認やAMED資金による医師主導治験結果を用いた承認など、アンメット・メディカル・ニーズの充足に向けた公的支援の成功例といえる。今後、更なる充足に向けて、産官学連携による開発推進に期待したい。
第3象限10疾患における医薬品の承認・開発状況について米国と比較した。承認状況は米国と差はなかったが、開発品では開発数ならびにモダリティの多様化に大きな差が生じていた。日本における開発の主役は製薬企業が担っていたが、米国では製薬企業に加えてスタートアップによる開発が盛んにおこなわれていることが影響していた。特にサルコペニアや線維筋痛症など開発品が少ない疾患ほど、スタートアップによる開発に依存していた。またフェーズ3以降のステージまで開発が進んでいる品目を比較したところ、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症では既に差が生じており、今後、有望なアセットの導入や海外のスタートアップの誘致が必要になると考えられた。この2疾患以外では大きな差はなかったが、その背景には、製薬企業が担っている開発品には日米に大きな差異は見られなかったこと、スタートアップの開発品の多くがフェーズ1、2のステージにあったことが挙げられる。今後想定されるドラッグラグ・ロスの抑制には、持続的な国内創薬エコシステムの構築が必要であり、スタートアップの育成に加えて、製薬企業による創薬、有望なアセット導入への支援が重要であると考えられた。本年よりAMEDと日本製薬工業協会の協力のもと立ち上がったAMED IND ENGINE(AND-E)10)による産官学連携を通して、スタートアップならびに製薬企業による革新的新薬創出の後押しに繋がっていくことを期待する。
5.おわりに
医療ニーズ調査の対象とした60疾患では3分の2となる40疾患でアンメット・メディカル・ニーズの充足が進んでいるが、まだ多くの疾患で課題が山積している。今回の分析で、産官学連携による開発の推進、国内のスタートアップの育成、日本の製薬企業による創薬や有望なアセット導入への支援も重要であると考えられた。将来的なドラッグラグ・ロスを抑制し、必要な医療を迅速に社会に届けるため、国内における創薬エコシステムの構築が急がれる。
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1)廣瀬 誠ほか「60疾患の医療ニーズ調査(2024年度調査の結果について)」医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス57(1):70-84(2026)
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2)医薬産業政策研究所「アンメット・メディカル・ニーズに対する医薬品の開発・承認状況」政策研ニュースNo.31(2010 年10月)、No.34(2011年11月)、No.38(2013年3月)、No.52(2017年11月)、No.59(2020年3月)、No.66(2022年11月)
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3)医薬産業政策研究所「アンメット・メディカル・ニーズに対する医薬品の開発状況」政策研ニュース No.41(2014年3月)、No.45(2015年7月)、No.61(2020年11月)
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4)医薬産業政策研究所「アンメット・メディカル・ニーズに対する医薬品の承認状況」政策研ニュース No.69(2023年7月)、No.77(2026年3月)
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5)医薬産業政策研究所「アンメット・メディカル・ニーズに対する医薬品の開発状況」政策研ニュース No.70(2023年11月)
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6)対象企業はアステラス製薬、アストラゼネカ、エーザイ、大塚HD、小野薬品工業、グラクソ・スミスクライン、協和キリン、サノフィ、塩野義製薬、住友ファーマ、第一三共、武田薬品工業、田辺三菱製薬、中外製薬、日本イーライリリー、日本ベーリンガー・インゲルハイム、ノバルティスファーマ、バイエル薬品、ファイザー、MSD
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