Points of View 製薬企業が医療情報の利活用時に求める要素

印刷用PDF

医薬産業政策研究所 主任研究員 渡邉奈都子
医薬産業政策研究所 主任研究員 岡田 法大

要約

  • 医療情報の利活用は現代医療の基盤であり、製薬企業でも研究開発から市販後の評価まで広く利用され、医療情報の品質が情報構築の段階から保証されていることが重要である。
  • 製薬企業が医療情報を利活用する際に求める要素を、医療情報の形成過程に沿って整理し、考慮すべき要素として、患者情報の追跡性、多様な情報の連結、対象患者の代表性、情報の標準化、個人情報の保護、情報へのアクセス性向上の6つを挙げた。
  • 日本の主要な医療情報データベースはそれぞれに強みを持ちながらも、考慮すべき6つの要素全てを満たす統一的なデータベースは存在せず、情報の連結による補完が求められる。医療情報の価値を最大化するためには、多様なステークホルダーが協力し、情報構築の段階からデータベース連結を意識した法制度や情報連携基盤の整備に向けた議論を推進することが重要である。

1. はじめに

医療情報1)の利活用は現代医療の基盤を成す重要なテーマであり、患者の医療サービス向上に不可欠である。製薬企業においては、医薬品の研究開発やマーケティング、市販後の有効性・安全性評価等、全てのバリューチェーンを通して様々な場面で医療情報が利活用されるが、必要とされる情報の種類や形式は目的に応じてそれぞれ異なる。特に、効果的な医薬品開発や革新的な医薬品創出のために、医療情報の品質が情報構築の段階から保証されていることが重要であり、包括的な医療情報の利活用基盤整備が求められる。

昨今の医療情報利活用へ向けた取り組みに目を向けると、「健康・医療・介護情報利活用検討会」の下で2023年11月から開催されている「医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」2)では、医療等情報の二次利用をさらに促進するための法制度や情報連携基盤の整備が主な議題となっている。また、連携の整備方法など技術的な問題を取り扱う医療等情報の二次利用に関する技術作業班もワーキンググループの下で2024年2月から開催されるなど、まさに今、医療情報の利活用とその基盤を構築するための重要な時期である。しかしながら、当該ワーキンググループの構成員には製薬企業関係者が含まれておらず、医療情報基盤の整備へ向けた製薬企業の要望や課題が見落とされる可能性が懸念される。

本稿では、製薬企業が医療情報を利活用する際に求める要素を、医療情報の形成過程に沿って整理し、それが日本の主要な医療情報データベースではどの程度充足されているかを確認する。この要素の整理を通じて、医療情報に関する環境整備が急がれる現在において、製薬企業の視点から見た医療情報利活用の理想と現実のギャップを明らかにし、多様なステークホルダー間での共通理解を深めることを目的とする。

2. 製薬企業が医療情報の利活用時に求める要素

製薬企業が医療情報を利活用する際に当該情報が持つべき特性は、規制当局のガイドラインや論文発表において、これまでに種々言及されている。FDAがガイダンス3)で参照したIMDRFの文書4)では『網羅性、完全性、正確性、整合性、信頼性』、EMAのフレームワーク5)では『信頼性、広範性、整合性、適時性、該当性』、直近では「JMIR Medical Informatics」に2024年に公開された学術論文6)に、『完全性、一貫性、正確性、適時性、安定性、文脈化、代表性、信頼性、一意性』といった項目名称により表現されている。

このように、多岐にわたる特性が提示されている中で、これらをどのようにして有機的に結びつけ、医療情報の価値を高める要素として整理するかが課題となるが、今回は、医療情報が形成されていく過程に沿って、上記に挙げた数ある特性を下記のイメージ図(図1)に照らし、相互に親和性や類似性を持つ者同士でグルーピングすることで、6つの考慮すべき要素に大別した(図1・表1)。

表1 製薬企業が医療情報の利活用時に求める要素
図1 情報の流れと製薬企業が医療情報の利活用時に求める要素

以下では、このグルーピングした6つの考慮すべき要素について説明する。

① 「患者情報の追跡性」

特定の患者の医療情報を時間軸に沿って継続的に収集、更新し、一貫性をもって管理すること。この要素は、患者の治療経過や健康状態の変化を正確に追うことを可能にする。しかし、特定の医療機関等の一つの組織において、個人の健康状態を追跡し続けることは困難であり、追跡し続ける仕組みを作ることはコストが必要である。また、情報の入手には患者や医療機関の協力が不可欠であり、情報の生成から収集までの段階に多くの課題が存在する。

② 「多様な情報の連結」

患者一個人の治療経過や健康状態をより詳細に把握し分析できるよう、異なる種類の医療情報を統合すること。個人の健康状態に関連する情報は、患者の診療記録や検査結果、処方履歴、検診情報、予防接種情報や死亡情報等、多岐にわたり、これらの情報を連結することで網羅的かつ充実した患者一人ひとりの情報の全体像を形成することができる。しかし、情報の管理者が散在していることや連結のための識別子が無いことなどが問題とされており、患者自身が保有する情報と医療機関が保有する情報をデータベース管理者が効率的に連結する仕組みを作ることが求められる。

③ 「対象患者の代表性」

収集された医療情報が、特定の疾患や治療に対する患者集団の代表性を保つこと。この要素により、得られた情報の外部妥当性が高まり、バイアスが最小化され、一般化可能な結論を導くことが可能になる。収集された医療情報が様々な場面で利用可能となるためには、多様性を持つ患者集団からの情報を入手することが望ましい。しかし、追跡性と同様に仕組みを作るためのコストが莫大となることや、患者や医療機関の賛同を得る必要があることなどが問題で、医療機関とデータベース管理者のフローが円滑に行われるような仕組み作りが求められる。

④ 「情報の標準化」

異なるデータソースから収集される医療情報を一貫した形式に整理し、情報の統一性を高めること。この要素は、先に述べた医療情報の追跡性や多様性、母集団としての充実性を高め、情報の正確性、信頼性、および妥当性を確保し、様々な医療環境や研究での情報の比較と分析を可能にする。しかし、各データソースが異なる形式やコード体系を使用している場合、標準化プロセスは複雑で、統一するためには多くの調整とコストが必要となるため、情報の生成段階からデータベース化の段階に至るまで、関連するステークホルダー間での協力と合意が必要である。

⑤ 「個人情報の保護」

医療情報の利活用において、患者のプライバシーが保護されていること。この要素により、患者の個人情報が匿名化または仮名化され、個人を特定できないように加工された情報を利活用することで、製薬企業の活動の信頼性と社会的信用を高める。匿名加工処理により日付の変更や年齢の丸めなどが実施され、また、ゲノムデータや一部の画像データのように個人識別符号であるため匿名加工の過程で削除されるものも存在する。これらの処理は、データの解析精度に影響を与える可能性があるため、精度を維持し医療情報の価値を下げずに、個人識別が不可能な状態を維持する工夫が必要である。

⑥ 「情報へのアクセス性向上」

医療情報を必要とする利活用者に対して、迅速かつ容易にアクセス可能である状態を保つこと。この要素により、情報がリアルタイムで提供され、利用者は最新のデータに基づいた意思決定が可能となる。しかし、情報の即時性や適時性を確保するためには、技術的なインフラの整備や更新頻度を高めるためのコストが必要となる。また、情報へのアクセス方法や申請手続き、アクセス環境、利用料金などの観点も考慮し、利用者が容易に情報を利用できるような仕組みを構築することが求められる。

3. 考慮すべき要素と製薬企業での重要性

製薬企業のバリューチェーンは一般的に、創薬研究、臨床開発から、マーケティング・販売、市販後調査(PMS)、再審査・再評価等の流れで概ね表現され、バリューチェーン全体にわたり医療情報は大いに活用される。では、上記で述べた6つの考慮すべき要素は、製薬企業のバリューチェーンのどのような局面において必要とされるのか。それを裏付ける具体的な活用場面に触れていきながら、その重要性を再確認したい。

① 「患者情報の追跡性」

医薬品の研究開発や、安全性監視(ファーマコビジランス)では、医薬品が投与された患者の有効性や安全性の追跡が求められる。これらの調査では必然的に、投与前の患者の既往歴、投与日、投与後のエンドポイントの捕捉と、時間の流れに伴った情報が必要となる。これらの患者の経時的なプロセスはPatient Journeyと呼ばれ、アンメットメディカルニーズの把握や、自然治療の予後の推定などへの期待も高まっており、製薬企業の全てのバリューチェーンで重要な要素となる。

② 「多様な情報の連結」

本邦における個人の医療情報は集約が進んでおらず、現在利用可能となっている情報は患者個人を表現する情報としては断片的な情報となっている。例えば、死亡情報を管理する自治体の情報は、医療機関が管理する既往歴や治療内容の情報を有しておらず、死亡に与える影響を評価するモデルを構築するためのパラメータが不足する。この事例のように、創薬研究における医用画像のAI開発や、マーケティングにおける市場予測など、製薬企業では機械学習のモデルがほぼ全てのバリューチェーンで利用されており、パラメータの種類の充実はこれらの予測精度の向上や交絡因子の調整等で重要な要素となる。

③ 「対象患者の代表性」

医療情報を用いて意思決定を行うためには、利用した医療情報に含まれる患者集団から得られた結果が、研究において想定する患者集団に外挿できるかが重要となる。製薬企業が利用できるように医療情報を整備している医療機関は、現時点では大規模な医療機関が多く、病態も重篤な患者の割合が多くなる傾向にある。そのような情報を用いて医薬品の治療実態の調査を行うと、全体の使用傾向を正しく推定できない可能性がある。悉皆性が高い情報が利用可能となることにより、多様な条件で精密なセグメンテーションを行った際にも十分な患者数を確保することが可能となる。

④ 「情報の標準化」

医療情報を用いて意思決定を行うためには、医療情報から推定される結果の精度の高さが必要となる。対象患者の代表性を高めるためには、複数の医療機関の情報を合わせた解析が必要となるが、その際に異なる条件で情報が取得されることや、使用されている医療用語の定義が異なることにより、正しい推定結果を得ることが困難となる場合がある。特に、薬事に関する意思決定は患者の医薬品へのアクセスや安全対策に関わるため、質の高い情報を用いて意思決定を行うことが重要となる。

⑤ 「個人情報の保護」

患者の個人情報保護のために行われる匿名加工の処理は、特定の個人を識別することができないように情報の加工が行われる。匿名加工で用いられる日付情報の加工、年齢や臨床検査の結果の数値の丸めは、推定される結果の精度の低下に繋がる。情報の標準化と同様に、推定精度の低下は患者の医薬品へのアクセスや安全対策に関わるため、特定の個人を識別する情報を除く実データに加工を加えない仮名加工情報の利用は解析結果の精度向上に寄与する。

⑥ 「情報へのアクセス性向上」

前述した情報の連結や対象患者の代表性の向上を行い、情報の量を確保するためには、製薬企業がデータを管理する複数の組織と連携を進めていく必要が生じるが、製薬企業の単体のプロジェクトでは時間や費用の制約があり、情報連携のハブとなることは難しい。情報が必要となった際に、迅速にアクセスできる環境が構築されると、早期の意思決定、患者への情報提供に繋がる。製薬企業から医療情報へのアクセス性が全体的に向上することにより、単体のプロジェクトでは経済合理性がなく、利用が出来なかったバリューチェーン全体での利用が可能となることが期待される。

4. 主要な医療情報データベースの現状

それでは、日本の主要な医療情報データベースでの整備状況はどうか。ここでは、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)、MID-NET、次世代医療基盤法の認定事業者から提供されるデータベース、民間事業者のデータベースの、4つのデータベースを取り上げる。以下のマトリクス(表2)はデータベースごとに、先に述べた考慮すべき6つの要素をどの程度充足しているかという観点から整理したものである。

表2 日本の主要な医療情報データベースと考慮すべき要素

① NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)

NDBの最大の強みは、対象患者の悉皆性である。日本の国民皆保険制度の下、保険種別(被用者健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度)を超えて、全数に近い割合で情報が収集されている。また、情報が標準化されているため、異なる地域や医療機関からの情報を統合して利用する際にも一貫性が保たれている。2022年度からは一意に個人を追跡可能なID5と呼ばれる識別子の付与が開始され、長期的な患者情報の追跡も可能である8)。また、「多様な情報の連結」という観点では、現状はレセプトと特定健診等情報に限られるが、介護DB やDPCDB 等、公的データベースとの連結や次世代医療基盤法との連結に向けた取り組みが進んでおり、死亡情報も2024年度に収載開始予定である9)

一方で、製薬企業の情報へのアクセス性には課題がある。情報の取得や利用には厳格な規制や手続きが存在し、迅速に必要な情報にアクセスすることが難しく、また、情報の提供形式やアクセスの手続きが複雑であり、利用者にとってのハードルとなることがある。

NDB提供体制の見直しはすでに検討されており、例えば申請から提供までの処理期間を現状の平均390日から原則7日に短縮する審査方法の見直しや、医療・介護データ等解析基盤(HIC)を通じてリモートアクセスする仕組みを構築中であるが、NDBの迅速提供は情報量が限定されるなど条件付きである。また、他のデータベースとの連結を視野に入れると、データベース毎に申請や審査の方法が異なり、それぞれにおいて諸手続きを踏むと、利用開始までには時間がかかることが想定されるため、申請や審査の方法を統一化することが求められる。

② MID-NET

MID-NETの情報の種類は、電子カルテ、レセプト、DPCデータと多様で、特に臨床検査結果を利用できることが特徴であり、それぞれ連結利用できる。他の医療情報データベースとは、2023年10月より国立病院機構が運営するNCDAと連携が開始され、一部データが利用可能となった10)。また、MRDAという独自の仕組みを導入し、定期的な標準化が実施された信頼性の高い情報を提供している点も特徴の一つである。

一方で、いくつかの課題も存在する。まず、NDBとの連結に関しては、連結に必要なハッシュ生成情報がPMDA側のシステムで収集できる仕組みになっていないため、MID-NETの協力医療機関側のシステムの大規模な改修が必要である11)。また、「対象患者の代表性」に関しては、現行の7大学病院及び3医療機関グループからなる協力医療機関10拠点に徳洲会グループ10病院が追加されるが、大学病院や急性期病院が中心となっているため慢性期の患者を対象とすることには限界があり、全国規模での一般化可能な結論を導き出すことが難しい。さらに、協力医療機関が限られるため、他の医療機関の追跡性(来院前や転院後等)にも課題がある。MID-NETは前述の通り、信頼性の高い情報を提供しているが、患者規模を拡大していくには更なるコストやリソースが必要となり、利用料増額などへ波及する可能性もある。情報のアクセス性についても、MID-NETの利活用者に対しては、利用目的や利用環境について事前に審査を受け、限られた場所でしか閲覧や解析を行うことができない。

このような課題を解決するためには、二次利用を考慮した、情報の生成段階での標準化が求められる。医療DXによる電子カルテ情報の統一12)が一助となるだろう。また、MID-NET改善策の3本柱のひとつには、利便性の向上が掲げられ、利活用に関するガイドラインの改定も検討されているが、今後も製薬企業等利活用者の声を反映した「情報へのアクセス性向上」が期待される。

③ 次世代医療基盤法の認定事業者から提供されるデータベース

次世代医療基盤法の認定事業者から提供されるデータベースは、多様な情報(カルテ情報・画像情報・健診情報等)を名寄せして連結可能であることが特徴である。また、NDBや介護DB、DPCDB等の公的データベースの連結解析も可能となった。さらに、仮名加工医療情報の作成・提供が可能である点が、他のデータベースにはない大きな特徴である。

しかし、いくつかの課題も存在する。まず、他のデータベースとの連結においては、他のデータベースでの個人情報保護の方法にも依存するため、NDB等と連結する場合は匿名加工医療情報に限られる13)。また、「対象患者の代表性」については、医療情報を提供する協力医療情報取扱事業者は、2024年4月時点では120件、35都道府県に分布しており14)急性期病院が中心のため、代表性が高いとは言えず、次世代医療基盤法に基づく取り組みへの参画が努力義務として課されている現状では、負担が想定される医療機関や自治体の数を飛躍的に増やしていくことは難しいのではないだろうか。MID-NET同様、他の医療機関の追跡性にも課題があり、情報のアクセス性については、仮名加工医療情報の利用は、個人情報保護の観点により国による認定の取得が必要であり、認定基準の審査の下、安全管理措置義務等が課せられる。「個人情報の保護」では、医療機関等の医療情報取扱事業者が本人又はその遺族に対して、認定事業者に医療情報を提供することを書面等で通知をし、本人が拒否しなければ医療情報を提供できるという、丁寧なオプトアウトと呼ばれる制度が採用されていることは他のデータベースと違う点である。この制度が情報提供者である国民の権利保護に繋がるかという観点では多様な意見がある。情報の提供を拒否するケースが増えると、サンプルサイズが減少したり、情報に偏りが生じたりと対象患者の代表性に影響を与える可能性があり、また、オプトアウトに対応することで医療機関や自治体の管理負荷にも繋がりかねない。

改正次世代医療基盤法が施行されても依然として残る上記の課題に対しては、今後議論が深まり、新たな方策や制度の改善が進むことが期待される。特に、個人情報の保護と情報の有用性のバランスをとるための新しい技術や方法論の導入や、医療機関や自治体の参画を促進するための支援策やインセンティブの提供、医療DX推進による電子カルテ情報の標準化、仮名加工医療情報の利用に関する認定基準の見直しや運用の柔軟性の確保も重要であり、これらの取り組みを通じて、医療情報の利活用がより一層促進されることが求められる。

④ 民間のデータベース事業者

日本における民間のデータベース事業者には、株式会社JMDCやメディカル・データ・ビジョン株式会社等が挙げられる。標準化処理され、情報の即時性が高く、Webツールが提供されたり事業者に解析を依頼できたりと利便性も高いことから、広く製薬企業に使われている。

一方で、保険者由来の場合は保険組合の転入前、転入後は追えず、医療機関由来の場合は当該医療機関の来院前や転院後を追えない。また、データベース事業者が契約している保険組合や医療機関に限定されるため「対象患者の代表性」には課題があり、「多様な情報の連結」という観点では、公的なデータベースとの連結について議論にはあがっても、具体的な対応は検討されていない現状である。

現状の主要な医療情報データベースを見ると、どれも、長けている要素は多くある一方、考慮すべき要素を全て一貫して実現したデータ環境が存在するとは言い難い状況である。全ての要素が満たされた統一的なデータベースを作ることが理想的ではあるが、現状簡単にはできないため、個々のデータベースが持つ強みを補完し合い連結することで、医療情報の価値を高めることが期待される。異なる種類の情報を統合することでより包括的で詳細な患者情報を得ることができ、例えば、レセプトやDPC データに含まれる過去の処方情報と、電子カルテ情報の退院後や転院後の長期的な臨床情報を連結することで、因果関係の解析が可能となる。実際に、電子カルテ、DPC データ、レセプトが治療実態把握及び病気の進展に関する因果探索に活用された事例13)もあり、今後の活用事例の拡がりに注視したい。レセプトはNDBという非常に悉皆性の高いデータベースが存在するが、電子カルテについては、MID-NETや次世代医療基盤法の認定事業者から提供されるデータベースは小規模なスケールから始め協力医療機関を募っている段階である。NDBと連結し差分を求めることで、不足している患者層を特定し、その患者層を補足できる医療機関を優先的に募ることも一手であり、また、今後新たな方策や制度の改善が進み、さらに全国展開し、代表性を高めていくことを期待したい。これまで述べてきた6つの考慮すべき要素を実現するためにも、医療情報の構築時の段階から、データベース連結を意識した法制度や情報連携基盤の整備を望む。

5. おわりに

本稿では、製薬企業が医療情報を利活用する際に求める要素を検討し、日本の主要な医療情報データベースの現状について整理した。医療情報は、製薬企業において創薬から市販後の安全性監視まで、バリューチェーン全体を通して重要な役割を果たしており、必要な要件が満たされない場合、情報の有用性や信頼性に関する問題が生じ、製薬企業の価値創出における大きなボトルネックとなる可能性がある。しかし、現在の医療情報データベースは散在しており、様々な要素において十分ではない状況が明らかになり、より一層の改善が必要と言える。

現在進行中の全国医療情報プラットフォームは、2024年度の診療報酬改定でも医療DXの推進に関する評価が新設される15)など、大きな期待が寄せられているが、製薬企業の視点を十分に発信し、そのニーズも満たすプラットフォームの構築が望まれる。医療情報の利活用をより一層促進するために、多様なステークホルダーが協力し合い議論を進めることで、製薬企業が医薬品開発や治療方法の改善に向けた有用な情報を迅速かつ正確に取得できる環境を構築し、患者の医療サービス向上と国民の健康増進に寄与することを期待したい。

このページをシェア

TOP