Points of View がん領域における研究の試料・情報の入手経路

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医薬産業政策研究所 主任研究員 岡田法大

要約

  • 製薬企業は、ヒト由来の試料・情報を利用した研究を数多く行っているが、これらの試料・情報は、製薬企業が主体的に取得を行うことが困難であるため、生体試料の分譲や医療・生体情報の管理を行う外部の機関や、医療機関との密な連携が重要となっている。
  • 今回の調査では悪性腫瘍の領域に注目して、製薬企業が研究に利用している試料・情報の入手経路の分布について学術論文を基に調査した。
  • ヒト由来の試料・情報を利用した研究において、最も多く利用されていた入手経路は、前向きの臨床試験やコホート研究であり、研究全体の約37%を占めていた。さらに、研究利用のために試料や情報を収集し、広く提供する組織(生体試料サプライヤー、データベースプロバイダ)を経由した利用が続いた。
  • ヒト由来の情報の入手先の中で、製薬企業からの利用頻度が高く、情報入手の可否が外部の医療情報提供環境の整備状況に大きく依存する「データベースプロバイダ経由の入手」と「データポータル・プラットフォームの利用」に注目すると、国内においても提供環境の整備に向けた活動が確認された。

1. はじめに

製薬企業では、基礎的な研究に留まらず、臨床試験や市販後の調査研究を含む医薬品評価の全ての段階で、ヒト由来の試料・情報を利用した研究を行い、医薬品の有効性や安全性に関する科学的根拠を導き出している。ヒト由来の試料は、主に血液、体液、組織、細胞、排泄物及びこれらから抽出したDNA等を指し、情報は、研究対象者の診断及び治療を通じて得られた傷病名、投薬内容、検査又は測定の結果等、人の健康に関する情報と遺伝情報を指す1)

これらの試料・情報は、製薬企業が医薬品に関する研究を行う上で不可欠なものである一方で、製薬企業が主体的に取得を行うことが困難であるため、生体試料の分譲や医療・生体情報の管理を行う外部の機関や、医療機関の協力が必要となる。製薬企業が質の高い科学的根拠を導き出すためには、研究の目的に合致する試料・情報の入手が必須となるため、これらの機関と連携を密に行っていくことが求められている。

本稿では、製薬企業が関与する研究の試料・情報の供給源を概観するために、近年最も多くの新薬の開発が行われており、試料・情報を提供するための環境整備が他の領域に先行して進められている悪性腫瘍の領域に注目して調査を行った。後半では、製薬企業からの利用頻度が高く、情報入手の可否が外部の医療情報提供基盤の整備情報に大きく依存する医療・生体情報の利用環境に注目して、本邦と海外における提供環境の整備状況についても触れる。

2. 調査方法

製薬企業における研究に用いられたヒト由来の研究試料・情報の入手経路について、公開されている学術論文を基に実態を調査した。悪性腫瘍領域に関連する論文の特定にはWeb of Scienceクラリベイトのトピック検索を利用した(検索語2):“Cancer” OR “Tumor” OR “Oncology” OR “Carcinoma” OR “Sarcoma” OR “Myeloma” OR “Leukemia” OR “Lymphoma”)。上記の検索に該当する論文を2023年に最も多く公表していた悪性腫瘍領域の研究に注力している製薬企業5社(米国拠点3社、英国拠点1社、スイス拠点1社)を特定し、該当する製薬企業の従業員が著者として含まれる2023年に公表された原著論文を今回の調査対象として収集した。研究に利用された試料・情報の入手経路については、各論文の研究方法に関する項の記載から特定した。今回の調査では、研究で利用された試料・情報の全体像と分布を把握するために、株化されたヒト細胞や選好を調査するアンケートに伴う属性情報など容易に入手可能な試料・情報も含めて幅広く含めて分類を行った。本稿で示す調査は、対象の企業の国籍や開発パイプラインの状況が結果に影響を与える可能性があり、製薬企業全体の利用実態を定量的に示すものではない。

3. 結果

3-1. 研究に利用される試料・情報

検索の条件に合致した論文は1,351報であった。それらの論文から内容の確認が困難であった7報を除いた1,344報を今回の調査対象とした。企業単位の論文数は約280~350報(調査対象の企業間の共著を含む)の範囲であった。

今回の調査対象の論文で利用されたヒト由来の試料・情報を入手経路という観点で大別すると図1に示すように分類することができる。入手方法は、必要な試料・情報を研究の目的に沿って前向きに収集する方法と、既に収集されている試料・情報から、研究の目的に合致するものを選択して利用する方法に大きく分類できる。

オンデマンドで前向きに収集した試料・情報を利用する研究は、研究の目的に応じて研究の実施計画を作成し、必要な試料・情報を、必要な量だけ取得できることが利点であり、企業が主導する新薬の臨床試験や患者へのアンケート調査、オンデマンド型バイオバンクへの試料提供依頼等が該当する。

既に収集されている試料・情報を利用する研究は、研究を目的とした収集か否かは問わず、研究立案時点で既に利用可能な試料・情報を用いることで、試料・情報取得の時間や労力を削減できることが利点であり、サプライヤーから購入した細胞や検体を利用して行う研究や、医療機関の電子カルテの情報を利用する研究等が該当する。

今回の調査対象となっている論文が利用した試料・情報の入手経路の分布を表1に示す。複数の分類の試料・情報を利用して行われた研究は、利用された全ての分類でカウントした。医薬品の臨床試験では、有効性評価や有害事象の記録等の医療情報と、血液等の生体試料を同一の試験内で取得する場合が多く、また、生体試料を利用した研究では、論文の記載から、試料取得のための前向きな臨床研究と残余試料を利用した研究の判別が不可能な論文が多数存在したため、表1では、図1に示した分類を一部変更している。(オンデマンドで取得された試料・情報(試料の取得のみを目的とした研究を除く)を前向きに実施された研究としてまとめ、医療機関で取得された試料(前向き・後ろ向きを問わず)の利用が主目的である研究を医療機関における生体試料の取得としてまとめた。)

図1 研究に利用されるヒト由来の試料・情報の入手先

悪性腫瘍の領域で論文化された、製薬企業が関与するヒト由来の試料・情報を利用した研究において、最も多く利用されていた入手経路は、前向きの臨床試験やコホート研究であり、研究全体の約37%を占めていた。研究目的に沿って入手された試料・情報から得られた研究結果の質の高さと、臨床試験の透明性を高めるための活動として、研究結果の学術誌への投稿が推奨されていることがこの結果に関連していると考えられる。

続いて、生体試料を利用した研究では、生体試料の分譲を行うサプライヤーからの試料の入手が多かったが、容易に入手可能な株化細胞の利用が大半であり、細胞を除く試料に限定すると、医療機関で採取された試料を直接利用した研究がより多く確認された。医療情報を利用した研究では、医療情報を管理するプロバイダから情報を入手して実施された研究が最も多いという結果であった。

利用用途を概観するために、試料・情報の入手元の分類別に、Web of Scienceにおいて学術雑誌に対して割り当てられているカテゴリを集計した。カテゴリは各雑誌に一つ以上割り当てられており、複数の割り当てがある雑誌も存在する3)。表1の分類を基に、特徴的な傾向を示す試料・情報の入手経路のカテゴリを表2に示す。前向きの臨床試験・コホート研究を含む分類や、データベースプロバイダから入手された情報を利用した研究は、相対的に臨床研究関連の雑誌(Journal of Clinical Oncology やFuture Oncology 等)に掲載されることが多く、医療機関で取得された試料やデータプラットフォームから入手した情報を利用した研究は、相対的に基礎研究関連の雑誌(Cancer Cell やCancer Discovery 等)に多く掲載されていることが確認できる。これらの特徴も踏まえて、以降の項でそれぞれの試料・情報に関して特徴を示す。

表1 研究に利用された試料・情報の入手先の分類
表2 各試料・情報を利用した研究結果の投稿分野

3-2. 各入手経路の特徴

試料・情報の入手経路の各分類の中で、今回の調査対象の研究において、高頻度で利用されていた試料・情報の内容と特徴を示す。

前向き臨床試験・コホート研究・横断研究

医薬品の介入を伴う臨床試験の結果を報告する論文が大半であった。その他には、医薬品の製造販売後の調査結果の報告や、安全性監視を目的としたコホート研究、治療の選好性等のアンケートを利用した研究などが存在した。

製薬企業が主導する臨床試験やコホート研究は、研究に参加する全ての被験者から、取得した情報の利用に関する同意を取得するため、情報のアクセス性や研究で必要となる情報の充足度は高い。一方で、情報の取得には、人的リソースや時間を要することが多く、長期の追跡や大量の患者情報を収集する必要がある場合には、相応の負担が必要となる。

生体試料のサプライヤー経由の入手

生体試料の中でも細胞とその他の組織では研究倫理の観点で入手難易度が大きく異なるため、それぞれ分けて整理を行う。細胞を利用した研究では、分譲された株化細胞を利用した研究が大半であった。中でも、米国の非営利団体であるATCC(American Type Culture Collection)が試料の提供元となっている研究が大部分を占める。その他にも日本のJCRB細胞バンクや米国の民間のサプライヤーから入手した研究も存在した。

細胞以外の試料を利用した研究では、組織切片スライドを利用した研究が多く、米国の民間のサプライヤー(Avaden Biosciences, Inc.やProteo-Genex, Inc.等)から入手した研究が大半を占めた。

細胞の入手はサプライヤーから購入することで利用可能であり、試料へのアクセス性は高く、入手時の障害は少ない。本邦における、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針においても、「既に学術的な価値が定まり、研究用として広く利用され、かつ、一般に入手可能な試料・情報」は指針の対象外とされており、倫理的な観点でも利用への障害は少ない。

その他の生体試料では、試料の取得時に全ての患者から、取得した試料を研究に利用することに関する同意が取得されることが一般的であり、倫理審査で承認を得ることができれば、試料へのアクセス性は比較的高い。

医療機関における研究用生体試料の取得

医療機関における治療期間に採取された腫瘍の生検や血液を利用する研究が多く、医療機関との共同研究や医療機関に併設されるクリニカルバイオバンクやバイオリポジトリ等からの試料の入手が大部分を占める。医療機関に保管された手術や検査時の残余試料を利用した研究と、研究の目的に応じて前向きに採取を行った研究の双方が存在した。

これらの生体試料も、試料の取得時に全ての患者から、取得した試料を研究に利用することに関する同意が取得されることが一般的であるが、営利組織である製薬企業での利用が不可能な場合が存在する。前向きに採取を行う場合は、試料採取を目的とした臨床研究となるため、介入を伴う臨床試験と同様に、試料の取得にかかる人的リソースや金銭的な負担が大きくなり、全ての試料を入手するまでに時間を要する場合がある。

臨床試験時取得試料の二次利用

臨床試験実施時に採取された残余試料からDNAやRNAを採取し、臨床試験で取得された患者の情報と、配列情報や遺伝子発現との関連性を探索する研究が大半であった。

これらの生体試料も、試料の取得時に全ての被験者から、取得した試料を研究に利用することに関する同意が取得されることが一般的であるが、二次利用を行う同意を取得しているか否かが試料へのアクセス性に影響する。

データベースプロバイダ経由の入手

民間企業が提供するレセプトや電子カルテに由来するデータベースを利用した研究と、公的機関が提供するがん登録を利用した研究が大半であった。民間企業が提供する医療情報の利用では、悪性腫瘍の領域に限定した疾患特異的な情報源(Flatiron、US Oncology Network)だけでなく、疾患横断的な情報源(Optum、Medical Data Vision)から抽出された情報の利用も多く確認された。公的な患者登録の情報では、米国のがん統計を提供するSEER(The Surveillance, Epidemiology, and End Results)が最も多く利用されており、米国、英国、スウェーデン、デンマークのがん登録も一部の研究で利用されていた。

これらの情報は、プロバイダへの利用料の支払いやアクセスを申請することで利用可能であり、利用要件を満たせば情報へのアクセス性は高い。これらの情報は、各国の規制に基づき個人を特定可能な情報を削除することにより、個人情報が保護されているものが多く、大量の患者の情報を研究に利用することが容易となることが利点である。一方、個人情報を保護する過程で、日付情報や遺伝情報等の研究に必要な情報も削除され情報の充足度が低下する場合がある。

医療機関において保管されている情報の利用

治療期間に取得された、医療機関において保管されている電子カルテの情報を利用した研究が大半であった。製薬企業の助成により実施された共同研究と、医療機関の著者が筆頭著者になり製薬企業からの著者が共著者として参加している研究が多く存在した。病理検査の結果やMRI等の画像情報を利用した研究も一部存在した。

医療機関では、入院や通院期間に医療機関において行われた処置や医学的所見を網羅的に記録しており、研究で必要となる情報の大部分の項目を入手できる可能性が高い。一方で、これらの個人情報を研究に利用するためには、相応の倫理審査や研究体制を含めた情報管理に関する検討が必要となり、情報の取得にかかる負担は大きい。

臨床試験時取得情報の二次利用

有効性や安全性の評価や、母集団薬物動態解析のために複数の臨床試験の結果を統合して解析した研究が多く存在した。その他にも、費用対効果評価におけるシミュレーションのパラメータ推定での利用や、外部対照群との有効性の比較のために利用した研究も存在した。

臨床試験時取得試料の二次利用と同様に、情報の取得時に全ての被験者から、取得した情報を研究に利用することに関する同意が取得されることが一般的であるが、本来の臨床試験の目的以外の二次利用も可能となる同意を取得しているか否かが情報へのアクセス性に影響する。

データポータル・プラットフォームの利用

トランスクリプトームの発現量や配列情報を利用した研究が大部分を占め、TCGA(The Cancer Genome Atlas Program)やGEO(Gene Expression Omnibus)を利用して情報を入手した研究が大半であった。TCGAではDNAの配列や病理標本の画像情報も提供されており、研究数は多くないものの、それらの情報を利用した研究も一部存在した。

これらのポータルで提供される情報も、情報の取得時に全ての被験者から、取得した情報を研究に利用することに関する同意が取得されることが一般的である。ポータルやプラットフォームを構築し、研究者への情報提供を積極的に行っており、情報へのアクセス性は高く、直ぐにダウンロードが可能な情報も存在する。TCGAでは即時利用可能な情報と、利用の承認が必要な情報が研究倫理の観点で分けられており、配列情報を利用する際には一定の利用審査が求められる。

3-3. 医療・生体情報の共有基盤

医薬産業政策研究所では、医療・生体情報の利用促進に向けた調査を継続的に行っている。今回は、ヒト由来の情報の入手先の中でも、製薬企業からの利用頻度が高く、情報入手の可否が製薬企業外部からの医療情報提供環境の整備状況に大きく依存する「データベースプロバイダ経由の入手」と「データポータル・プラットフォームの利用」に焦点を当て、日本における整備の状況を深掘りした。今回の調査においては、データベースプロバイダは、利用者の申請と契約に基づきデータの管理・提供を行う組織、データポータル・プラットフォームは、大半の情報がウェブ経由で広くアクセス可能となるように整備された環境と定義した4、5、6)

3-3-1. データベースプロバイダ経由の入手

今回の調査において、データベースプロバイダ経由の入手の分類で利用頻度の高かった情報を表3に示す。利用頻度の上位3つの情報の特徴について触れる。まず、上位のFlatiron Health、SEERの情報は共に米国の悪性腫瘍の領域に特化した情報となっている。前者は、疾患特異的なEMRに由来する情報であり、民間企業から提供がなされている。後者は、国立のがん研究所が管理しているがん登録の情報となっている。Optumは、保険請求の情報とEMR等に由来する情報が民間企業から提供されており、全領域の情報から悪性腫瘍の領域の情報が抽出して利用されている。悪性腫瘍の領域では、前号のニュースNo.71で触れたように、多様な疾患や用途で利用できる汎用的な情報と構造化が容易でない疾患特異的な情報の二つが同程度利用されている状況であり7)、EMRの研究利用も既に実現され始めていることが分かる。

表3 データベースプロバイダの内訳

本邦においても、悪性腫瘍における疾患特異的な情報の二次利用に向けた動きは始まっており、前述した米国のFlatironも日本に子会社を設立し、国立がん研究センターのSCRUM-Japanプロジェクトと連携を行い本邦におけるデータベースの構築を目指すことが2022年に公表されている8)。その他にも、AMEDの事業の成果を基に電子カルテ入力支援システムを開発した新医療リアルワールドデータ研究機構株式会社は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムにも採択されており、医療情報の構造化の研究には公的な支援も行われている9、10)。公的ながん登録情報の民間事業者からの利用可否についても厚生労働省の厚生科学審議会において議論が進められている状況であり11)、全国医療情報プラットフォームの二次利用基盤においても利用可能となる構想が公表されている12)

3-3-2. データポータル・プラットフォームの利用

今回の調査において、データポータル・プラットフォーム経由で入手した研究の分類で利用頻度の高かった情報は、TCGAを利用した研究が56%(80報中45報)、GEOに登録された情報を利用した研究が26%(80報中21報)と大半を占め、続いてTARGET(Therapeutically Applicable Research to Generate Effective Treatments)とUK Biobankがそれぞれ5報で続いた。これらは、いずれも米国または英国の機関に管理されている情報源であるが、世界中からの利用が可能となっており、特にTCGAの情報は米国以外の多くの国からも利用がなされている。TCGAに関する記載がある原著論文を、Web of Scienceクラリベイトで、製薬会社の関与に限らず全論文で確認をすると、中国の著者が関与する割合が米国を上回っており、韓国、日本、台湾等の東アジアの国からの利用も多く見られることが分かる(図2)。このような情報のオープンアクセスが進むことは、健康分野における研究の発展の観点では、望ましい動きである一方で、遺伝子の変異情報等は人種によって異なることも報告されており、海外の大規模な情報源のみに依存することへのリスクも厚生労働省の部会で示されている13)

図2 TCGA に関連する記載がある論文の著者国

本邦においても、遺伝子パネル検査から得られたゲノム情報および診療情報は国立がん研究センターのがんゲノム情報管理センター(C-CAT)が管理しており、ポータルを経由した利活用が始まっている14)。その他にも、厚生労働省の下で全ゲノム解析等実行計画が進められている。がんと難病を対象に、マルチ・オミックスの情報と共に遺伝情報のデータを搭載した情報基盤の構築が行われており、悪性腫瘍の領域で先行して、研究開発に利用できる遺伝情報の情報基盤構築が進んでいる状況である15)

4. まとめ

本稿では、製薬企業が関与するがん研究の試料・情報の供給源の利用頻度の分布を確認し、特に研究への利用の可否が、企業外部の提供体制の整備状況に大きく依存する医療情報と遺伝情報の現状に関してまとめた。

製薬企業において、研究の目的に沿った試料・情報の取得方法を検討する際に、最も研究目的に合致した試料・情報を入手するためには、全ての研究で試料・情報の取得を含めた研究計画を立案し、前向きに取得することが理想である。しかしながら、全ての研究で前向きに情報を入手することは、取得にかかる膨大な費用や時間、大量の試料・情報や希少疾患に関する試料・情報が必要な場合の実施可能性などの様々な観点において困難な場合が多い。このような状況を解決するためにも、研究に必要となった時点で、目的を果すために必要な試料・情報が利用可能となるような環境の構築は、非競争な領域として複数の利用者が協力していくことがイノベーションの促進に繋がると考える。

特に、後半で取り上げた、データベースプロバイダにおける情報の整備や情報量・種類の拡大、データポータル・プラットフォーム等による情報提供環境の整備は、製薬企業の研究活動に大きく関わっており、提供者と利用者が協力し、方向性の検討や情報の整備を行っていくことが望まれる。これらの基盤で取り扱われる医療・生体情報は、国民の健康維持や日本人に向けた医薬品の開発、評価を進めるために非常に重要な役割を果たすため、国が主導する医療DX推進等の施策の中においても、研究に利用するための情報整備を促進していく必要があると考える。現在、厚生労働省やAMEDの事業等において、特に悪性腫瘍の領域でこれらの整備が進められている。このような動きが他の疾患領域にも波及していくように、迅速に環境整備の検討や利用に向けた制度設計を進めていくことが求められる。

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