Points of View 本邦におけるヘルスリテラシーの現状、政策や向上への取り組み

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医薬産業政策研究所 主任研究員 吉田晃子

要約

  • 国民にとって納得性の高い薬価や薬価制度のあるべき姿に向けて、課題の一つには、薬の価格や制度、価値への意識や理解促進、医療費節約に関する意識、行動の向上の必要性が示唆されているが、これらの意識や行動は、ヘルスリテラシーの一要素であることが示唆された。
  • 本邦におけるヘルスリテラシーは欧州と比較して低いことが示唆されていた。そうした現状を踏まえた、わが国の政策や産官学民の取り組みは、国民自身の健康増進を推進する観点で、健康教育そのものと、正しい情報の入手や認知、理解向上を支援するもの、そして、健康に不安が生じた際等に判断や意思決定ができる能力育成を目指したものであり、向上に向けて促進されていた。
  • 製薬産業としては、医薬品等の創出を通じた疾患やその治療、重症化予防といった健康課題への知識、革新的な医薬品が国民、患者さんやその家族にもたらす価値情報等の提供を通して、価値を中心とした医薬品への意識や理解を高め、ヘルスリテラシー向上に貢献できるのではないか。

1. はじめに

著者は、国民にとって納得性の高い薬価や薬価制度のあるべき姿に向けて、課題の一つには、国民の意識や理解があると考えている。なお、国民の意識や理解、行動の観点からは、表1に示すとおり、「医薬品の価格や制度等の基礎的な情報への興味関心と認知向上」、「医薬品の多様な価値の理解促進」、「医療費を節約する意識・行動の向上」、「医療費の節約を意図した薬剤使用に関する行動の向上」といった課題認識を持っている1)。これらの課題はヘルスリテラシーに包含される可能性が高いため、本稿では、本邦におけるヘルスリテラシーの現状、政策や向上への取り組み事例等について文献等により概観し、考察する。

表1 国民の意識や理解、行動の観点から見た現状・課題認識

2. ヘルスリテラシーについて

2.1. ヘルスリテラシーとは

ヘルスリテラシーとは、英語の「health(健康)」と「literacy(読み書き能力)」を組み合わせた造語である。表2には、文献やWEBサイトにて、ヘルスリテラシーについて説明する一例を記載する。1990年代からNutbeamや、続くSorensenなど多くの研究者や団体等においてヘルスリテラシーの定義がなされ、議論は続いているとみられる。国内でも、少しずつ異なる、様々な表現がなされている。最も短く示された「健康情報を活用する能力のこと」2)に凝縮されるかのように、示したほぼ全ての説明には、「健康」、「情報」、「活用」、「能力」の4語と同義の言葉が含まれていた。本稿では、多くある定義を整理してまとめたものとされる「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの」3)を参考にすることとする。

表2 ヘルスリテラシーとは

2.2. 論文数

次に、ヘルスリテラシーに関連する論文数やその推移を把握するため、Web of Science(クラリベイト社)を用いて、トピックを“health literacy”と設定した上で、原著論文に限定した直近10年間の論文検索を行った。ヒットした原著論文数は7,959報で、年次推移及び国・地域別の伸び率は図1の通りである。10年間合計の国・地域別の主な内訳としては、米国が3,274報と圧倒的に多く、次いでオーストラリアが1,056報、3番目に中国が525報と続き、日本は197報と8番目に多かった。近年、特に直近5年間のヘルスリテラシーをトピックスとした論文が急激に増えている。わが国の論文数は、世界には立ち遅れているが、伸び率は高く、研究が進んでいる途上であると言えよう。なお、Web of Science分野別では、世界、日本のどちらにおいても、Public Environmental OccupationalHealth、すなわち、公衆環境や産業衛生の分野で最も多かった。

図1 ヘルスリテラシー関連論文数の年次推移と国・地域別伸び率

2.3. ヘルスリテラシーが低い/高い場合の事例

次に、ヘルスリテラシーを理解するために、ヘルスリテラシーが低い、もしくは高いとどのような行動をするのか、各種文献等に記載される情報を基に、事例を整理した。(表3)

低い場合、予防サービス(インフルエンザ予防接種など)を利用しない4)、病気、治療、薬などの知識が少ない4)、ラベルやメッセージが読みとれない4)、医学的な問題の最初の兆候に気づきにくい(悪化させやすい)4)、長期間または慢性的な病気を管理しにくい4)、慢性の病気のために入院しやすい4)、保健医療専門職に自分の心配を伝えにくい4)、救急サービスを利用しやすい4)、職場でけがをしやすい4)、死亡率が高い4)、医療費が高くなる5)といったことが挙げられていた。

高い場合は、低い場合の裏返しの側面の記載が多い。健診やワクチンを利用して、病気の予防と早期治療を行える6)、病気や薬の正しい情報を調べて、治療のメリットとデメリットを理解できる6)、薬を間違わずにきちんと服用できる6)、病気の自覚症状を見逃さずに、必要に応じて医療機関を受診6)、健康的な生活を続けて、慢性の病気を悪化させずに済む6)、健康的な行動習慣を確立している7)、健康に対する自己評価が高い8)、医師や看護師に上手に相談でき、必要な診察などの支援を受けることができる6)、仕事のストレスの対処において、積極的に問題解決をしたり、他者からのサポートを求める7)、仕事のパフォーマンスが高い9)といったことが挙げられていた。

健診やワクチンを利用して病気の予防と早期治療を行えることや、病気や薬の正しい情報を調べて、治療のメリットとデメリットを理解できる、薬を間違わずにきちんと服用できることは、医薬品が持つ効果効能を最大限享受することにより、国民の健康や健康寿命の延伸に貢献する重要な点である。また、年々増加傾向である救急需要に対する救急車の適正利用、死亡率や医療費の増大といった点は、その影響が個人にとどまらず、わが国の社会課題にもつながる点である。

表3に示すヘルスリテラシーが高い状態から推察すると、ヘルスリテラシー向上には、「医薬品の価格や制度等の基礎的な情報への興味関心と認知向上」、「医薬品の多様な価値の理解促進」、「医療費を節約する意識・行動の向上」、「医療費の節約を意図した薬剤使用に関する行動の向上」が含まれることが示唆された。

表3 ヘルスリテラシーが低い/高い場合の事例

2.4. 評価尺度とわが国の現状

ヘルスリテラシーを測定するツールにはどのようなものがあるのか。アメリカ国立医学図書館とボストン大学医学部が、オンラインデータベースとして一般公開している、Health Literacy ToolShed10)を見ると、2023年9月現在、275の評価尺度の掲載がなされていた。Health Literacy ToolShedに記載される情報を基に、分類別にいくつかの事例を、一覧に整理している。(表4)分類で示したように、簡便に測れるものから、幅広く測れるもの、疾患・状態別に測れるもの、それらが各国で利用できるように翻訳されたものと目的別に、様々な測定ツールがあった。また、薬の服用に関する評価尺度の掲載も見られ、開発がなされていることがわかった。

ここでは、包括的な尺度の一つであり、また日本語版も活用され、外国との比較調査もなされる、ヨーロッパヘルスリテラシー調査質問紙(EuropeanHealth Literacy Survey Questionnaire、HLS-EU-Q47)について、説明11)する。HLS-EU-Q47は、より詳細に領域および能力を評価することが可能な包括的尺度であるとされる。健康情報の「入手」「理解」「評価」「活用」という4つの能力を「ヘルスケア(病気や症状があるとき、医療の利用場面など)」「疾病予防(予防接種や検診受診、疾病予防行動など)」「ヘルスプロモーション(生活環境を評価したり健康のための活動に参加するなど)」の3領域で測定するもので、12の次元にわたって測定するものである。質問項目は47となっている。例えば、「処方された薬の服用方法について、医師や薬剤師の指示を理解する」のに対して、「とても簡単」「やや簡単」「やや難しい」「とても難しい」という選択肢で回答する。個人の能力だけでなくて、それを実行することが困難な状況や環境、その中でそれをどれだけ強く求められるかを反映するものということである。

わが国のヘルスリテラシーの現状はどうか。中山らによると、残念ながら欧州と比較して低いのが現状であるとされる。同時進行で行う直接比較試験ではないこと、また、アンケートに回答する際の国民性の違い等に注意は必要だが、ヘルスリテラシーを判定するすべての項目で、日本人はヨーロッパ人より「難しい」と回答しており、日本のヘルスリテラシーが低いことが示唆された。日本人は、特に判断や意思決定の項目で困難度が高かったとされる。

また、その背景には、家庭医などによるプライマリケアや健康教育を受ける機会、未就学児からの健康教育と問題解決・意思決定能力の育成、国立医学図書館などが提供するわかりやすく信頼できる健康情報資源・サイト、健康科学・医学系論文へのアクセスの難しさなどがあると考えられるとされている12)

こうした点を踏まえると、わが国には、健康教育そのものと、正しい情報の入手や認知、理解向上ができる環境づくり、そして、判断や意思決定ができる能力育成といった課題があるのではないかと、著者は推測する。

表4 評価尺度の例

2.5. わが国の政策

わが国の政策ではヘルスリテラシーがどのように示され、進められてきているのか。

厚生労働省では、2000年より、一次予防の観点から健康増進を図るための国民運動「健康日本21(二十一世紀における国民健康づくり運動)」13)を開始した。これは、国民全体のさまざまな健康課題に対して目標数値を定め、生活習慣の改善などに計画的に取り組むことで、国民の健康寿命の延伸を図るものである。また、今から8年前の2015年には、厚生労働省は、「保健医療2035提言書」14)を公表した。これは日本の保健医療を取り巻く環境の課題を解決し、すべての人が安心して活躍しつづけられるような保健医療システムを実現するために、20年後の2035年を見据えて作ったビジョンである。そこでは、2035年に目指す姿の一つとして、「健康に対する知識や意識が向上、患者一人ひとりが自らの医療の選択に主体的に参加・協働している」ことが掲げられている。具体的には、「これまで、医療サービスの利用者は、健康医療に関わる基礎知識の不足や受け身的な関わり方により、医療への過剰な期待や反応を持つ傾向があった。こうした点を是正するため、学校教育、医療従事者、行政、NPO及び保険者からの働きかけなどによってヘルスリテラシーを身につけるための支援をする。」という記載がある。また、「生涯を通じた健康なライフスタイルの実現」に向けて、「子どもから高齢者に至る生涯を通じた予防・健康づくりを、社会を挙げて支える必要がある。このため、保育・幼児教育から職場やコミュニティ等のあらゆる場で、世代を超えた健康に関する教育の機会を提供し、ヘルスリテラシーを身につけるための取組みを促進する。」という記載がある。そして、経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)15)にも、「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」の項では、「ヘルスリテラシーの向上に取り組む」旨が記載される。

わが国の政策では、2000年頃より、国民のヘルスリテラシーを高めることを意識した政策が掲げられ、その文言は、「保健医療2035提言書」や「骨太の方針2022」に記載されるようになった。国民自身の健康を増進する、あるいは健康寿命を延伸する観点で、ヘルスリテラシーを身につける重要性を示していた。

こうした政策により、例えば、教育では、2022年4月から高等学校の「保健」の教科書に、40年ぶりに「精神疾患」の項目が入り、新たな精神保健(メンタルヘルスリテラシー)教育が始まる16)等、ヘルスリテラシーを取り巻く教育改革もなされている。国を挙げて、健康教育そのものと、正しい情報の入手や認知、理解向上ができる環境づくり、そして、判断や意思決定ができる能力育成につながる取り組みが進められているだろう。

2.6. 向上への取り組み事例

最後に、わが国のヘルスリテラシー向上に向けた取り組みにはどのようなものがあるか、見ていく。取り組みの対象者別にみると、一般市民を対象としたのもの、一般の中でも企業の従業員を対象としたもの、患者を対象としたものの3つに分けられることができる。その中には、どのような取り組みがあるかを表5にまとめ、いくつかの事例を示したい。なお、経済産業省と東証により2015年から開始された「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」の認定17)条件には、従業員のヘルスリテラシー向上に関する取り組みも含まれており、企業としてどのように従業員のヘルスリテラシーを底上げしていくかは課題の一つとなっている。よって、多くの企業で従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することにより、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待され、様々な取り組みがなされているところである。

一般対象のものでは、書籍のほか、聖路加国際大学学術情報センターの「ヘルスリテラシー講座」18)では、誰でもいつでもアクセス可能なYou-Tubeチャンネルでのeラーニング教材が提供されており、ヘルスリテラシーの基本を身に着け、高めることができる。また、東京都医師会のWEBサイトには、「ヘルスリテラシー検定」19)が掲載され、スマートフォンやパソコンからサイトにアクセスし15問の設問に答えるだけで、自身のヘルスリテラシーの高さを知ることができる。また、「教えて!ヘルスリテラシー」20)には、ヘルスリテラシーの解説に加え、シニアが気を付けるフレイルや医師が運動を勧める理由、子供の予防接種や検診の大切さについて、医師が、平易な言葉で説明する動画が掲載される。一般市民が、健康や疾病予防について気軽に学び、正しい情報の入手や認知、理解向上が進む、また、健康に不安が生じた際の判断や意思決定ができる能力を身に着ける機会を得ている。

一般の中でも企業の従業員を対象としたものには、主に、出前授業やe- ラーニング教材、チャット相談、ポータルサイトでの健康情報の発信といったものがあった。大塚製薬の「女性の健康推進プロジェクト」21)では、女性自身のヘルスリテラシー向上と男性の理解促進への貢献を目的としたセミナーを提供する出前授業を行っている。SOMPOヘルスサポートの「ヘルスケアe-learning」22)では、体内時計に合わせた医学・栄養学の学習を提供するほか、「TRULY」23)では、男女のホルモンによる心身の変化や不調についての専門知識から、一般的なケア方法、法律まで動画やテキストでわかりやすく解説しているLINEで学べるヘルスケアリテラシー向上のeラーニング、医師・専門家が従業員の健康相談にチャットで直接相談に乗る「LINEチャット相談」を行っている。協会けんぽ24)では、心身の健康状態について正しく認識し、健康の維持・増進に向けて自ら取り組んでいけるよう、特に生活習慣の改善を中心に、手軽に実行できるハウツー情報をWEBサイトに掲載する等、健康情報の発信を行っている。従業員が、仕事の合間に健康や予防について学び、正しい情報の入手や認知、理解向上が進む、また、身体や心身の健康に不安が生じた際の判断や意思決定ができる能力を身に着ける機会を得ている。

患者対象のものでは、製薬会社や製薬産業が団体として取り組むもの、病院が取り組むもの等があった。例えば、中外製薬の提供するSmile-One25)では、血友病の患者さんと家族の方へ笑顔を届けるための疾患啓発および情報サイトが運営され、患者さんや家族に寄り添う動画や漫画で学べる疾患情報などが提供されている。製薬産業(団体)のEFPIA Japanでは、患者さんやその家族等が医療・健康情報を賢く選択するために、ヘルスリテラシーを高めるきっかけとなるような専門家インタビュー(例:ワクチンの意義)などのコンテンツを提供26)している。また、EFPIA Japanの会員企業が提供する一般向け医療・健康情報サイト集を掲載、案内することで、多岐にわたる予防や疾患情報が提供されている。病院では、小児期から成人期への成人移行支援、すなわち、患者さんが成人期に向けて自身のヘルスリテラシーを身につけてゆくことを支援する取り組みを行っている事例27)もある。その一例として、千葉県こども病院では、成人移行支援プログラムを基に、発達に見合った病気や治療の理解ができるように、患者さんとの話を大切にして、患者さんが分かることや、自己管理できることが増えるように支援する取り組みを行っている。具体的には、成人移行アセスメントシートを用いたアンケートを実施し、病気や薬についての理解を確認して、その後の支援に活かしたり、治療の経過や生活上の注意点を自分で記録して、健康管理に役立てられる「マイ・パスポート」を作成する等している。疾患別では、がん患者が主治医から提案された治療内容を理解し、病気や治療などに関する知識を深めることをサポートするアプリ28)もあった。患者さんや家族が、疾患や年代に応じて、疾患や予防、重症化予防について学び、正しい情報の入手や認知、理解向上が進む、また、判断や意思決定ができる能力を身に着ける機会を得ている。

わが国のヘルスリテラシーを向上させる取り組みには、一般市民を対象としたのもの、一般の中でも企業の従業員を対象としたもの、患者を対象としたものがあった。それらは、健康教育そのものと、正しい情報の入手や認知、理解向上を支援するもの、そして、健康に不安が生じた際等に適切な判断や意思決定ができる能力育成を目指したものであり、国の政策で目指す方向性と合致する取り組みであった。それぞれ対象者の視点で、平易な言葉を使った丁寧な説明、興味関心を高めるような仕掛け、忙しい人にも短時間で理解が進むようなアイディア、また患者さんには、その疾患や年代に合わせた工夫もなされていた。

表5 わが国のヘルスリテラシー向上に向けた取り組み事例等

3. まとめ・考察

本稿では、本邦におけるヘルスリテラシーの現状、政策や向上への取り組み事例等について文献等により概観してきた。

ヘルスリテラシーとは、1990年代から多くの研究者や団体等において定義がなされ、議論は続いているとみられ、国内でも、少しずつ異なる様々な表現がなされていた。著者が調べた中では、最も短く示されていた「健康情報を活用する能力のこと」に凝縮されるかのように、多くの定義には、「健康」、「情報」、「活用」、「能力」の4語と同義の言葉が含まれており、端的には4語に集約される意味を示すものであろう。

ヘルスリテラシーを理解するために、ヘルスリテラシーが低い、もしくは高いとどのような行動をするのか、各種文献等に記載される情報を基に、事例を整理した。事例の一例として取り上げた、健診やワクチンを利用して病気の予防と早期治療を行えることや、病気や薬の正しい情報を調べて、治療のメリットとデメリットを理解できる、薬を間違わずにきちんと服用できることは、医薬品が持つ効果効能を最大限享受することにより、国民の健康や健康寿命の延伸に貢献しうる重要な点である。また、ヘルスリテラシーが高い状態から推察すると、ヘルスリテラシー向上には、「医薬品の価格や制度等の基礎的な情報への興味関心と認知向上」、「医薬品の多様な価値の理解促進」、「医療費を節約する意識・行動の向上」、「医療費の節約を意図した薬剤使用に関する行動の向上」が含まれることが示唆された。わが国のヘルスリテラシーは、現時点では、他国と比べて低いことが論じられており、反対に高いと示される文献は見当たらなかった。そうした現状に、わが国の政策では、国民自身の健康増進を推進する観点で、国民のヘルスリテラシーを高めることを重視した政策が掲げられていた。実際に、わが国の取り組み事例を見ると、健康教育そのものと、正しい情報の入手や認知、理解向上を支援するもの、そして、健康に不安が生じた際等に判断や意思決定ができる能力育成を目指したものであり、国の政策で目指す方向性と合致する取り組みが行われていた。わが国でもヘルスリテラシーとQOL等の健康関連アウトカムの関連性も示されつつある29)が、こうした取り組みの成果は、ヘルスリテラシーの向上につながることを期待したい。

4. おわりに

おわりに、ヘルスリテラシーの領域に包含されるものと考えられる「医薬品の価格や制度等の基礎的な情報への興味関心と認知向上」、「医薬品の多様な価値の理解促進」、「医療費を節約する意識・行動の向上」、「医療費の節約を意図した薬剤使用に関する行動の向上」といった著者の課題認識について、私見を述べる。

ヘルスリテラシーの現状、政策や向上への取り組み事例等を参考に、医薬品の価格や制度、価値に関しても、基礎となる教育そのものと、薬価を含む医療費等に関し正しい情報の入手や認知、理解向上を支援する活動、環境づくり、そして、医療や医薬品に関する正しい判断や意思決定ができる能力育成を、行う必要がある。また、その対象は患者さんにとどまらず、広く国民であるべきである。

政策研で実施した「医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査」では、医薬品の価格や制度、価値についてより深く知ることにより、自身の意識や興味・関心が高まることや、医療に直面した際の行動も変化する期待があること等、様々な変化への期待が示唆されている30)。製薬産業としては、医薬品等の創出を通じた疾患やその治療、重症化予防といった健康課題への知識、革新的な医薬品が国民、患者さんやその家族にもたらす価値情報等の提供を通して、価値を中心とした医薬品への意識や理解を高め、わが国のヘルスリテラシー向上に一層貢献することができるのではないか。

一方で、国民の意識や理解の向上には、主役である国民の参画が必須となるが、患者(市民)の参画については、一般に、十分な認知がなされておらず、問題意識も高いとは言えない31)実態もあることから、患者さんだけでなく、広く国民を巻き込んでいく新たなアイディアが求められる。コロナ渦を経て、国民の健康意識が高まる等、健康や薬、医療への考え方が変わった31)今だからこそ、国民を巻き込みながら、わが国のヘルスリテラシーがより一層高まることを期待したい。

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