Points of View 製薬産業の立場から見た介護に関するトピックス

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医薬産業政策研究所 統括研究員 伊藤 稔

1. はじめに

「医療と介護の一体的な改革」「切れ目のない医療・介護提供体制」等を耳にする機会が増えた。製薬産業の立場からはともすると医療に目が向きがちであるが、超高齢者社会では「治す医療」のみでは限界があり、人生の最終段階の医療・介護のあり方を含め、「治し・支える医療」が求められるとの主張も既になされている。1)革新新的新薬の創出を第一義とする製薬産業においても「介護」を考慮する必要が、今後益々増していくと思われる。医薬品の費用対効果評価においても公的介護費を含めた分析が近年認められるようになった。

2024年度は、6年に一度の診療報酬・介護報酬の同時改定が予定されている一方、第8次医療計画、第9期介護保険事業(支援)計画が同時スタートする重要な年度である。(図1)2)現在は2024年度に向けての議論が活発になされつつある。こうした状況を踏まえ、現時点で押さえることが望ましい「介護」のトピックスにつき整理することを目的に調査研究を進めた。

図1 医療・介護に関連するスケジュール

2. 医療と介護の一体的な改革

全国的には、65歳以上人口は2040年を超えるまで、75歳以上人口は2050年を超えるまで増加が継続するとされている。また、高齢化が一層進展する中で、医療・介護の複合ニーズを有する患者・利用者が増加し、医療・介護の連携の必要性が高まっていくと考えられている。3)図24)は、高齢期における医療・介護をイメージしたものであるが、医療・介護が切れ目なく繰り返される様子が示され、両者が表裏一体の関係にあり、その連携が重要であることを示唆する内容となっている。

図2 医療・介護のイメージ

切れ目のない医療・介護提供体制を構築するためには、医療計画と介護保険計画を別個に作成するとその連携が難しくなる。よって制度上、両計画の上位概念・上位指針である「地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針」(以下、総合確保方針)が設けられている。総合確保方針と医療計画・介護保険事業(支援)計画の関係を図34)に示す。

図3 総合確保方針と他計画の関係性の整理

2023年3月17日に新たな総合確保方針5)が告示され、第8次医療計画、第9期介護保険事業(支援)計画に向けての方向性が明示された。以前の方針と比較した際の新方針の意義・基本的方向性を図42)に示す。

図4 総合確保方針の意義・基本的方向性

新たな総合確保方針を見た場合、最も特徴的な点の一つは「その後の生産年齢人口の減少を見据え」との記述が「意義」に明記された事にあると思われる。従来から「少子高齢化」との言葉は散見されたが、今後は社会保障を語る上でのキーワードとして『高齢化』『少子化・人口減少』を区分して捉えることが望ましいと思われる。総合確保方針に先立つ2022年12月に取り纏められた全世代型社会保障構築会議 報告書6)においても、「目指すべき社会の将来方向」として3点があげられているが、その筆頭として「少子化・人口減少の流れを変える」旨が示されている。少子化・人口減少の進行が、経済活動における生産・消費の縮小、社会保障機能の低下をもたらし、多くの地域社会を消滅の危機に導くなど経済社会を「縮小スパイラル」に突入させる等の危機意識に富む記述がみられる。新たな総合確保方針の基本的方向性(2)として「サービス提供人材の確保と働き方改革」が示されているが、生産年齢人口が急減する中、医療・介護提供体制に必要な医療・介護人材を確保することの重要性が謳われており、人口減少の影響はもはや軽視できない状況になりつつあることを窺わせる。

新たな総合確保方針を見た場合、特徴的な二点目は「地域」との言葉が頻出することにある。基本的方向性(1)では「地域完結型の医療・介護提供体制の構築」が、(5)では「地域共生社会づくり」との記述が示されており、『地域』がもう一つのキーワードと捉えることができる。『地域』の意味する所には、人口構成の変化や医療・介護需要の動向が地域ごとに異なり、地域の実情に応じた医療・介護提供体制の確保を図っていくことが重要であるとの視点と、地域の住民同士が支え合うことが重要であるとの二つの視点があると思われる。全世代型社会保障構築会議 報告書の「目指すべき社会の将来方向」でも「地域の支え合いを強める」旨が三点目として示されており、それぞれの地域で医療・介護・福祉等の包括的ケア提供体制の整備が求められることや、住民同士が助け合う互助の機能強化が必要となってくることが示されている。

総合確保方針の基本的方向性の別添として「ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿」が示されている。その実現すべき3つの柱の一つは、医療・介護提供主体の連携により、必要な時に「治し、支える」医療や個別ニーズに寄り添う柔軟・多様な介護が地域完結で受けられることとされている。心身の状態が悪化した場合でも、住み慣れた地域で生活を継続できることをゴールとみた場合、それを『高齢化』による医療・介護サービスの需要増・ニーズの複合化、『少子化・人口減少』による担い手減少との状況下で成し遂げなければならない。しかもその状況は『地域』ごとにまだら模様で進行していく。これに対応するためには、自助・互助(地域の支え合い)・共助(保険制度による相互扶助)・公助(税による公負担)バランスの再考が望ましいとされている。1)従来は、共助(介護保険)に重点が置かれる傾向が強かったが、今後は自助・互助の重みもより増していくとされている。具体的には切れ目のない在宅医療・介護連携の取り組みがより重要性を増していくと考えられる。欧米諸国においても、介護政策を在宅介護によりシフトさせようとしているとの指摘もある。7)以上のトレンドを俯瞰したイメージを図5に示す。

図5 医療・介護のトレンド俯瞰

製薬産業は、このようなトレンドを考慮しながら事業を考えていく必要がある。創薬においては、介護への効果・貢献もより一層視野にいれた医薬品開発が重要になってくると思われる。具体的疾患としては、介護が必要となった主な原因疾患である認知症・フレイル・循環器病・糖尿病8)等に加え、日常生活の制限に関連する腰痛症・関節症・眼の病気等9)も望まれ、在宅医療での使用に適した剤型開発も歓迎されるようになると想定できる。更に、医療・介護の担い手減少を前提にすると、投与間隔が長く、投与の手間が簡便で担い手の負担を減らすことが可能な医薬品も歓迎されると思われる。中野らは医薬品の多様な価値として、介護負担の軽減(主に家族介護者)、医療負荷の軽減(人的・物的負荷)を含めた検討を行っている。10)こうした価値がより一層重視されてもおかしくない状況が近づきつつあることを意識して、創薬を考えていくことも意義深いと思われる。

3. 医薬品の価値における「介護」評価の可能性

前章で介護への効果・貢献も視野に入れた医薬品開発の重要性について言及したが、現制度においても「介護」を評価する動きが見られる。2022年1月に了承された「中央社会保険医療協議会における費用対効果評価の分析ガイドライン第3版11)」(以下、分析ガイドライン第3版)において、公的介護費へ与える影響が、評価対象技術にとって重要である場合には、「公的医療・介護の立場」の分析を行ってよく、「公的医療・介護の立場」からの分析の場合、実際のデータがあれば家族等の介護者や看護者に与えるQOL値への影響について考慮にいれてもよい旨が追記されたことが、三浦によって指摘されている。12)実際の分析ガイドライン第3版の介護費関連記載の抜粋を図6に示す。

図6 費用対効果評価の分析ガイドライン第3版 介護費関連記載の抜粋

分析ガイドライン第3版の11.2で示されているように、公的介護費を費用に含める場合、要介護度・要支援度別に費用を集計する旨が推奨されている。就いては、要介護度・要支援度について改めて確認し、評価の可能性について考察したい。

要介護認定は、市町村の認定調査員による認定調査(基本調査)がスタートである。この調査結果及び主治医意見書に基づき一次判定を行い、その後介護認定審査会で二次判定がなされ、市町村が認定を行うとされている。13)(図7)

図7 要介護(要支援)認定のプロセス

要介護認定は、一次判定・二次判定とも原則として「要介護認定等基準時間」により判断される。要介護認定等基準時間は、認定調査の結果(被認定者の能力・介助の方法・障害や現象の有無)から、統計データに基づき推計された介護に要する時間(介護の手間)を「分」という単位で示したものである。注意すべき点は、要介護認定等基準時間は実際のケアに要した時間を示すものではなく、介護の手間がどの程度掛かるかを相対的に示したものだということである。要介護度(要介護状態等区分)は表1の如く区分される14)

表1 要介護状態区分等と要介護認定等基準時間の関係

要介護認定等基準時間は、日常生活における8つの生活場面ごとの行為「直接生活介助(食事・排泄・移動・清潔保持に細分される)」、「間接生活介助」、「BPSD関連行為」、「機能訓練関連行為」、「医療関連行為」の時間(介護の手間)の合計となっており、各行為区分ごとの時間は8つの樹形モデルに基づき算出される。15)

樹形モデルは、カスケードを辿ることでその行為区分の時間が得られるようになっている。カスケードは認定調査結果と中間評価項目得点(認定調査結果より算出される)によって、その分岐の判断がなされる。8つの樹形モデルの合計時間が被認定者の要介護認定等基準時間となり、これによって要介護度(要介護状態等区分)が決定される。つまり、認定調査結果から操作的に推計される要介護認定等基準時間を経て要介護度が決定されている。実務の場ではコンピュータにより一次判定がなされている。

以下、表2に8つの行為区分(樹形モデル名)と時間の表示範囲を示し、図8に「食事」の樹形モデルを例示し、図9に樹形モデルによる要介護認定のイメージを示す。14)

表2 行為区分(樹形モデル名)と時間の表示範囲

図8 樹形モデルの例(食事)

図9 樹形モデルによる要介護認定のイメージ

要介護度・要支援度別に費用を集計するためには、医薬品による要介護度・要支援度への影響を捉えることが可能であることがポイントと思われる。要介護認定の在り方を詳細に見た場合、要介護度・要支援度は要介護認定等基準時間にて区分され、要介護認定等基準時間は、医薬品の症状への効果により影響される認定調査結果から操作的に推計できる。つまり、医薬品の症状への効果による認定調査項目への影響を、介護認定等基準時間という数値に置き換えることで推計し、要介護度・要支援度の変化を捉えることには可能性があると思われた。よって医薬品の価値における「介護」評価の可能性は少なからずあると考えられた。

一方で、認定調査の基本項目は74項目と多いこと、認定の有効期間(見直し期間)が区分変更申請で原則6か月、更新申請で原則12か月17)と長いこと等の制限があることには注意が必要である。

4. 介護をしている人の負担について

介護に関するトピックスの3点目として、介護をしている人(以下、介護実施者。主に家族介護者が該当すると考えられる)の推定人口・介護に費やす時間・その負担の程度等を総務省統計局が実施している「社会生活基本調査」をもとに検討する。社会生活基本調査は、統計法に基づく基幹統計『社会生活基本統計』を作成するための統計調査であり、生活時間の配分や余暇時間における主な活動の状況等、国民の社会生活の実態を明らかにするための基礎資料を得ることが目的とされている。調査は、昭和51年以来5年ごとに行われており、令和3年調査は10回目に当たる。調査対象は、指定する調査区(全国で約7,600調査区)内にある世帯から無作為に選定した約9万1千世帯の10歳以上の世帯員約19万人であり、十分に規模の大きい調査である。なお、社会福祉施設に入所している人は調査対象から除外されている。18)

今般の調査においては、データアクセスの関係より、平成13年から令和3年までの5回の社会生活基本調査を対象とし、生活時間に関する結果(生活時間編 全国)を集計した。19)

介護をしている人(以下、介護実施者)・介護をしていない人(以下、介護非実施者)の推定人口並びに介護実施者の介護・看護実施時間(介護・看護を実施した人のみの一人1日当たりの平均行動時間)を図10に示す。

図10 介護実施有無別の推定人口・介護実施者の介護・看護実施時間

介護実施者の推定人口は、2001年以降増加傾向にあり、2016年には698.7万人と最高値に達した。2001年から15年間で約5割増大したことになる。2021年は653.4万人であり、微減(2016年から約6.5%減)との状況であった。一方、介護実施者が介護・看護に費やした時間は、2001年に155分と最高値を示したが、以降減少傾向を示し、2011年に最低値の139分となった。10年間で約1割減少したことになる。2011年以降の10年間は2時間半弱程度でほぼ横這い傾向であった。2021年は143分であった。

引き続き、介護実施者の状況が、就業の有無によりどのような影響を受けるかを詳細に見ることを目的として、有業者(収入を目的とした仕事を続けている人、自家営業の手伝いは無給であっても継続して仕事をしていれば含まれる)と無業者(有業者以外の者)を区分した推定人口並びに介護・看護実施時間を調査した。結果を図11に示す。

図11 介護実施者の就業有無別推定人口、介護・看護実施時間

有業の介護実施者の推定人口は、2001年以降増加傾向にあり、2016年には396.8万人と最高値に達した。2001年から15年間で約4割増大した。2021年は386.8万人であり、やや微減(2016年から約2.5%減)との状況であった。一方、無業の介護実施者の推定人口も2001年以降増加傾向を示し、2011年には305.3万人と最高値に達した。2001年から10年間で約6割増大した。2016年は横這い傾向だったが、2021年は265.1万人とやや減少傾向(2011年から約13.1%減)を示した。有業者と無業者の比率は1:0.68~0.78程度であった。

有業の介護実施者が介護・看護に費やした時間は、2001年に128分と最高値であったが、以降減少傾向を示し、2011年に最低値の105分となった。2016年・2021年はともに120分と再び増加し、この20年間ではほぼ2時間程度の横這い傾向と見ることができた。一方、無業の介護実施者では、2001年に176分と最高値であったが、以降ほぼ減少傾向を示し、2021年に最低値の161分となった。有業者と無業者を比較した場合、無業者の方が1.34~1.54倍程度介護・看護に費やす時間が長い傾向が見られた。

引き続き、介護実施者と介護非実施者での時間の費やし方(特に時間を費やす割合の大きい仕事・余暇等に費やす時間)の違いを詳細に見ることを目的に、介護実施有無別の仕事(収入を伴う仕事)、3次活動20)(余暇、スポーツ、交際等)の行動者平均時間を調査した。結果を図12に示す。

図12 介護実施有無別の仕事、3次活動の平均行動時間

仕事に費やす時間は、介護実施者では2001年の430分から微増傾向を示したが、2011年以降はほぼ440分台で推移した。2021年は441分であった。一方、介護未実施者では2006年以降ほぼ横這いの傾向を示し、480分台前半で推移した。2021年は481分であった。3次活動20)に費やす時間は、介護実施者では2001年の366分から微増傾向で推移し、2016年に最高値387分を示した。2021年はやや減少し377分であった。一方、介護未実施者では2001年以降からほぼ横這い傾向を示し、400分前後で推移した。2021年は397分であった。介護実施者と介護未実施者を比較した場合、20年間を通じて仕事に費やす時間は40分程度短く、3次活動に費やす時間は30~20分程度短かかった。

以上の結果より、有業の介護実施者は約390万人存在しており、有業の介護未実施者に比べ仕事に費やす時間が約40分短かいことを確認できた。よって介護負担を減ずることで有業の介護実施者の生産活動が増大する可能性が示唆された。介護未実施者の仕事に費やす時間(約480分)で換算すると、約32.5万人分の生産活動を創出できることとなり、軽視できない規模の負担となっていると思われた。

一方、無業の介護実施者の中には、介護のために無業となった介護離職者も含まれていることが想定され、この負担の程度を検討することも重要だと思われた。検討に際しては総務省統計局が実施している「就業構造基本調査」を用いた。就業構造基本調査は、国民の就業及び不就業の状態を調査し、全国及び地域別の就業構造に関する基礎資料を得ることを目的としている。調査は昭和57年以降は5年ごとに行われている。21)令和4年度調査が最新調査ではあるが、結果の公表がまだのため(2023年5月現在)、平成29年(2017年)調査22)以前の結果を用いた。介護・看護のために過去1年間に前職を離職した無業者の推移(2007年~2017年)を図13に示す。

図13 介護・看護のために過去1年間に前職を離職した無業者の推移

介護・看護のために過去1年間に前職を離職した無業者(介護離職者)は、2007年の約11.6万人から減少傾向にあり、2017年は約7.5万人となっていた。2007年~2012年は約3.2万人減少したが、2012年~2017年の減少幅は約0.9万人に留まり、減少が緩徐となる傾向が見て取れた。近々に公表予定の2022年調査結果を注視すべきと思われた。

介護の負担は、有業の介護実施者と介護離職者を合わせると、約40万人の生産活動に相当すると思われ、決して軽視できない負担が社会的に発生していることが伺われた。

5. まとめ

介護に関して3つのトピックスを取り上げた。まず、医療と介護の一体的な改革においては、「高齢化」、「少子・人口減少」、「地域」との3つのキーワードから、医療・介護の連携の重要性が今後益々増大していくことが考えられる旨を言及した。

「高齢化」は、介護対象者の人口が増えるといった単純な事象だけでなく、医療・介護ニーズの複合化が進行することも意味している旨が想定された。「少子・人口減少」が社会保障機能の低下をもたらし、担い手確保が困難になる中で医療・介護提供体制を保持・増強していかなくてはならない。しかも人口構成や医療・介護需要動向は「地域」ごとに異なる形で進行する。こうした状況に対応するために、今後は自助・互助(「地域」の支え合い)の重みが増し、在宅医療・介護の重要性が増大すると思われた。製薬産業の貢献として、介護が必要となる主な原因疾患である認知症・フレイル・循環器病・糖尿病等は勿論、日常生活の制限に関連する腰痛症・関節症・眼の病気等も視野にいれた医薬品開発や、担い手の負担を減少可能な医薬品、在宅での使用に適した剤型開発も歓迎されると思われた。

次いで、医薬品の価値における「介護」評価の可能性を、分析ガイドライン第3版に基づき検討した。現行の要介護認定に着目し、認定調査結果から樹形モデルに基づき操作的・定量的に推計される要介護認定等基準時間により、要介護度(要介護状態等区分)が決定される旨を確認した。医薬品の症状への効果による認定調査結果への影響を、介護認定等基準時間という数値に置き換えることで推計し、要介護度・要支援度の変化を捉えることには可能性があると思われた。より具体的な方法には更なる検討が必要とは思われるが、医薬品の価値における「介護」評価の可能性は少なからずあると考えられた。

最後に、介護実施者の負担について、「社会生活基本調査」「就業構造基本調査」に基づいて検討した。結果として、2021年の状況では介護実施者全体の推計人口は650万人超に昇り、うち有業の介護実施者は約390万人も存在することが確認できた。また、有業の介護実施者は、有業の介護未実施者に比し仕事に費やす時間が約40分短く、これは約32.5万人の生産活動に換算されると考えられた。一方、無業の介護実施者の中には、介護・看護のために前職を離職した介護離職者が約7.5万人(2017年)含まれているとされ、合計約40万人分の生産活動に影響が生じている可能性もあると試算された。分析ガイドライン第3版11)においては、家族等の生産性損失について「看護や介護のために本人以外の生産性が失われることが明らかな場合は、本人の生産性損失と同じ条件・取り扱いのもとで費用として含めてもよい」旨の記載があり、介護実施者の生産性損失に対する医薬品の価値が、今後十分に評価されるようになることにも期待したい。

製薬産業は、健康寿命延伸への貢献を目的の一つとしている。「健康」は傷病の有無のみで判断することは不適切であり、身体的要素に加え、精神的要素・社会的要素も含めた包括的な概念であることや健康寿命の補完的指標として介護保険データの活用が最も妥当と考えられている旨を、政策研ニュースNo.658)で筆者は紹介した。つまり、健康寿命は対象者を支える社会や社会保障の在り方、換言すれば医療・介護提供体制の在り方の影響を受ける。また健康寿命を測定する補完的指標としても介護は重要であると考えられている。製薬産業は、医療について考える機会は多いと思われるが、介護についての機会はさほどでもないことが危惧される。医療と介護は、今後益々その距離を縮めて行くことは明らかである。製薬産業も介護を視野に入れた創薬や事業展開が望まれるのではないだろうか。

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