Points of View 医薬品の価格や制度、価値について知ることへの国民の期待、望ましいと考える手段、機会や時期 -医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査結果報告 その③-

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医薬産業政策研究所 主任研究員 吉田晃子

1. はじめに

著者は、医薬品の価格や制度(受診時医療、医薬品に係る薬価や医療保険制度等)、価値に関する意識や興味関心の実態を様々な属性ごとに把握する目的で、Webアンケート調査「医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査」(以降、本調査と記載)を実施した。

本調査の結果報告その1として、国民の医薬品の価格や制度への意識や興味関心、意識や興味関心の高い層の特徴等について、続いて、その2として、国民が重視する医薬品の価値について、政策研ニュースNo.671)及びNo682)(以降、「前稿」と記載)で、述べている。

本稿では、本調査の結果報告その3として、医薬品の価格や制度、価値について、知ることへの国民の期待、望ましいと考える手段、機会や時期について述べる。なお、本稿でも、前稿に引き続き、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団の特徴に着目し、分析、報告する。

2. 調査・分析方法

調査方法

Webアンケート調査は、以下の方法で実施した。なお、回答者がインターネットを使用できる人に限定される等、調査の特性として限界があることを事前に提示しておく。

  1. 調査地域:全国47都道府県
  2. 対象:20歳以上の男女
  3. 回答者数:2,118人
  4. 抽出方法:インターネット調査用パネルより層別無作為抽出
  5. 調査方法:インターネット調査
  6. 調査期間:2022年6月20日~22日
  7. 調査機関:株式会社インテージヘルスケア
  • 調査サンプル(地域、年齢、性別)は、全国の人口構成比にできる限り合わせて、回収した。

分析方法

クロス集計並びに、線形確率モデルによる多重回帰分析を用いている。

3. 回答者の属性

回答者の属性に関わる主な情報を末尾に付表する。

4. 調査・分析結果

医薬品の価格や制度、価値について、知ることへの期待

まず、医薬品の価格や制度、価値について、知ることへの期待の程度やその内容を把握するため、「深く知る機会があったとしたら、自身にどのような変化が生じると思うか」を尋ね、回答(複数回答)を得た。その結果を、回答割合が高い順に並べて示す。(図1)なお、前稿で定義した2つの「医療的な価値以外の価値」を重視する集団別の結果も併記する。集団は、複数回答時に、「医療的な価値以外の価値」を一度でも選択回答した人(1,032人、48.7%、ただし「生産性」と「社会復帰・復職」と「介護負担の軽減」全てを選択回答した人は除く)を集団1、複数回答時に、「生産性」と「社会復帰・復職」と「介護負担の軽減」全てを選択回答した人(236人、11.1%)を集団2とした。また、知ることへの期待項目を被説明変数とし、選択回答した場合に1をとり、そうでない場合に0、集団1および集団2を説明変数とした線形確率モデルによる多重回帰分析を行い、統計学的に有意であった特徴を表1に記載している。

図1 価格や制度、価値について知ることへの期待

表1 価格や制度、価値について知ることへの期待:「医療的な価値以外の価値」を重視する集団別

その結果、「薬について理解や納得感が高まる」が53.2%と最も高く、「適正な使用ができる」が49.1%、「薬に興味・関心が高くなる」が41.3%、「薬の価値やありがたみを感じるようになる」が37.5%、「医師や薬剤師に相談しやすくなる」が33.5%、「薬について身近に感じるようになる」が29.4%、「明細書3)を見たいと思う」が21.2%、「製薬会社へのイメージが変わる」が14.8%と続いた。なお、「変化は生じない」という回答は12.2%であった。

これらの結果より、医薬品の価格や制度、価値について知ることによる様々な変化への期待が示された。また、期待する内容としては、「理解や納得感が高まる」、「興味・関心が高くなる」「価値やありがたみを感じるようになる」といった項目で回答が多かったことから、自身の意識や興味・関心が高まることが示された。また、医薬品の「適正な使用ができる」や「医師や薬剤師に相談しやすくなる」、「明細書を見たいと思う」といった回答も上位に多かったことから、医療に直面した際の行動も変化する期待があることが示された。

「医療的な価値以外の価値」を重視する集団では、集団2つに共通して、知ることへの期待の回答割合の高い順番は、全体と同様であった。いずれもその割合は全体より高く、また、その傾向は集団1より集団2で大きかった。「変化は生じない」とする回答は、集団1および集団2では、全体より割合が低かった。

また、多重回帰分析の結果より、集団1は、期待する各項目への選択確率が高かった。集団2も期待する各項目への選択確率が高かった。期待する項目への係数の比較(項目毎)をすると、集団1よりも集団2で高かったことから、集団2が影響していることが推測される。

これらの結果より、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団では、集団2つに共通して、より期待する確率が高く、集団2は集団1に比べて、いずれの項目でも、より期待する確率が高いことが示された。集団2が肯定的な回答をする方向への偏りがある可能性も否定はできないものの、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団、特に集団2では、医薬品の価格や制度、価値について知ることで自身の意識や興味・関心の高まり、医療に直面した際の行動変化にも、期待ができる可能性がある。

価格や制度、価値について、知ることへの望ましいと考える手段

次に、医薬品の価格や制度、価値について、知ることへの望ましいと考える手段を把握するため、「どのような手段が望ましいと思うか」を尋ね、回答(複数回答)を得た。その結果を、回答割合が高い順に並べて示す。(図2)なお、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団別の結果も併記する。また、知ることへの望ましいと考える手段項目を被説明変数とし、選択回答した場合に1をとり、そうでない場合に0、集団1および集団2を説明変数とした線形確率モデルによる多重回帰分析を行い、統計学的に有意であった特徴を表2に記載している。

図2 価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える手段

表2 価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える手段:「医療的な価値以外の価値」を重視する集団別

その結果、「テレビ」が64.1%と最も高く、「医師や看護師、薬剤師等医療従事者から聞く」が44.2%、「新聞」が39.0%、「学校教育など、何らかの場面で習う」が37.0%、「ウェブサイト・アプリ」が30.7%と続いた。その他0.9%には、「地域の広報」、「ラジオ」の他、「わからない」という回答もあった。

これらの結果より、「テレビ」や「新聞」が上位に多いことは、マスメディアが国民生活に浸透している4)わが国では、医薬品の価格や制度、価値に限らず、情報入手のための手段とし信頼が高いと言える。「医師や看護師、薬剤師等医療従事者から聞く」や「学校教育など、何らかの場面で習う」といった回答も上位に多かったことから、人を介した受動的な手段への要望も高いことが示された。

続いて、医薬品の価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える手段について、あらかじめ区分した属性別(表3)の特徴を分析した。それぞれの手段を被説明変数とし、回答を選択した場合に1をとり、そうでない場合に0、属性区分を説明変数とした線形確率モデルによる多重回帰分析により、統計学的に有意であった属性の特徴を、表4に示す。望ましいと考える手段が高い割合を示した順に、上から記載している。

表3 属性の分類

表4 価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える手段:属性ごとの特徴

主な結果として、医薬品の価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える手段として、「テレビ」が望ましいとするのは、「無職者」、「介護の必要な家族無」、「自覚健康度高」と回答した属性で、選択確率が高かった。続いて、「医師や看護師、薬剤師等医療従事者から聞く」ことが望ましいとするのは、「女性」、「介護の必要な家族有」、「受診・疾患有」、「医療費負担額大」、と回答した属性で、選択確率が高かった。また、「新聞」が望ましいとするのは、「高年代」、「無職者」、「最終学歴高」、「受診・疾患有」、「医療費負担額大」、「医療費負担感小」、「自覚健康度高」と回答した属性で、選択確率が高かった。「無職者」は、属性区分間でも係数が大きく、影響の大きい属性区分であることが推定された。また、「受診・疾患有」、「自覚健康度高」も次いで係数が大きく、影響のある属性区分であることが推定された。「学校教育など、何らかの場面で習う」ことが望ましいとするのは、「女性」、「最終学歴高」、「世帯年収低」、「医療費負担感小」、「自覚健康度高」と回答した属性で、選択確率が高かった。「ウェブサイト・アプリ」、「SNSやブログ等のコミュニティサイト」、「YouTubeなどの動画サイト」といった電子媒体が望ましいとするのは、共通して「有職者」と回答した属性で、選択確率が高かった。

「医療的な価値以外の価値」を重視する集団では、集団2つに共通して、望ましい手段の多い順番は、全体と概ね同様の傾向であった。集団2では、いずれの手段も全体より大きく増加していた。手段の中では、集団1では「学校教育等何らかの場面で習う」(62.7%、3番目)、集団2では「ウェブサイト・アプリ」(50.4%、4番目)が、全体に比べて、上位に挙がっていた。

多重回帰分析の結果より、集団1は、知ることへの望ましいと考える各手段への選択確率が高かった。集団2も知ることへの望ましいと考える各手段への選択確率が高かった。知ることへの望ましいと考える各手段項目への係数の比較(項目毎)をすると、集団1よりも集団2で高かったことから、集団2が影響していることが推測される。

これらの結果より、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団では、「学校教育など、何らかの場面で習う」や「ウェブサイト・アプリ」がより多く望まれていたことから、集団2への情報提供の際には、「ウェブサイト・アプリ」も有効である可能性が考えられた。

価格や制度、価値について、知ることへの望ましいと考える機会や時期

次に、医薬品の価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える機会や時期を把握するため、「どのような機会、時期が望ましいと思うか」を尋ね、回答(複数回答、上位1つ)を得た。結果を、回答割合が高い順に並べて示す。(図3)なお、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団別の結果(上位1つ)も、併記する。また、知ることへの望ましいと考える機会や時期項目を被説明変数とし、選択回答した場合に1をとり、そうでない場合に0、属性区分を説明変数とした線形確率モデルによる多重回帰分析を行い、統計学的に有意であった特徴を表5に記載している。

図3 価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える機会や時期

表5 価格や制度、価値について知ることへの最も望ましいと考える機会や時期:属性ごとの特徴

その結果、複数回答では、「学校教育(義務教育)」が48.4%と最も高く、「学校教育(高等学校)」が42.8%、「社会人教育」が38.6%、「医療機関や薬局での勉強会」が33.3%、「製薬企業による発信等」が32.8%と続いた。一方で、最も望ましいと考える機会や時期(上位1つ回答)では、「学校教育(義務教育)」が28.1%、「学校教育(高等学校)」が14.7%、後の順位に変動があり、「製薬企業による発信等」が14.0%と続き、「医療機関や薬局での勉強会」が12.6%、「社会人教育」が11.0%となっていた。その他1.2%には、「政治」、「健康診断時」の他、「わからない」という回答もあった。

続いて、前項と同様に、医薬品の価格や制度、価値について知ることへの最も望ましいと考える機会や時期について、あらかじめ区分した属性別の特徴を分析した。それぞれの機会や時期を被説明変数とし、回答を選択した場合に1をとり、そうでない場合に0、集団1および集団2を説明変数とした線形確率モデルによる多重回帰分析により、統計学的に有意であった属性の特徴を、表6に示す。望ましいと考える機会や時期が高い割合を示した順に、上から記載している。

表6 価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える機会や時期:「医療的な価値以外の価値」を重視する集団別

主な結果として、医薬品の価格や制度、価値について知ることへの機会や時期について、「学校教育(義務教育)」が最も望ましいとするのは、「低年代」、「受診・疾患無」、と回答した属性で、選択確率が高かった。続いて、「義務教育(高等学校)」が最も望ましいとするのは、「最終学歴高」、「医療費負担額小」、と回答した属性で、選択確率が高かった。「製薬企業による発信等」が最も望ましいとするのは、「女性」、「自覚健康度低」と回答した属性で、選択確率が高かった。また、「医療機関や薬局での勉強会」が最も望ましいとするのは、「医療費負担額大」と回答した属性で、「高齢者向け教育」が最も望ましいとするのは、「介護の必要な家族無」、「受診・疾患有」と回答した属性で、「保険者(自分の所属する保険組合など)ごとの学習機会」は「受診・疾患無」と回答した属性で、選択確率が高かった。

「医療的な価値以外の価値」を重視する集団において、最も望ましいと考える機会や時期(上位1つ回答)では、集団1は、知ることへの望ましいと考える機会や時期の選択割合、多い順の特徴の傾向、共に全体と類似していた。集団2では「学校教育(義務教育)」が34.3%、次いで「製薬企業による発信等」が全体と比べ17.4%と高い割合を示し「学校教育(高等学校)」が12.3%と続いた。

多重回帰分析の結果より、複数回答では、集団1、集団2共に、知ることへの望ましいと考える各機会や時期への選択確率が高かった。知ることへの望ましいと考える各機会や時期項目への係数の比較(項目毎)をすると、集団1よりも集団2で高かったことから、集団2が影響していることが推測される。最も望ましいと考える機会や時期(上位1つ回答)では、有意差のつかなかったものが多いが、集団2「学校教育(義務教育)」の選択確率が高かった。

これらの結果より、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団2では「製薬企業からの発信等」が全体より多く選択回答され、望まれていたと言える。集団2は、日頃から、「製薬企業からの発信等」に注目し、信頼や期待を寄せている可能性がある。

価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える機会や時期の理由

次に、医薬品の価格や制度、価値について、知ることへの望ましいと考える機会や時期の理由を把握するため、「前設問での回答(最も望ましいと思う機会、時期)が望ましいと考えるのはどうしてか」を尋ね、回答(複数回答)を得た。結果は、最も望ましいと考える機会や時期の回答割合が高かった順に上位4つまでを図4-1、4-2に示す。なお、本文中には、提示した機会や時期(9つ)すべての理由の概要を記載する。

図4-1 価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える機会や時期の理由

図4-2 価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える機会や時期の理由

最も高い割合を示した「学校教育(義務教育)」については、「義務教育は、無償で誰しもが受けられるから」が77.0%と最も高く、「学ぶ時間が確保しやすいから」が48.7%、「誰でも参加しやすいから」が22.7%、「価格や制度、価値を学ぶには適切な年齢と考えるから」が21.8%と続いた。次いで高い割合を示した「学校教育(高等学校)」については、「学ぶ時間が確保しやすいから」が59.2%と最も高く、「価格や制度、価値を学ぶには適切な年齢と考えるから」が56.9%、「一人で医療機関を受診したり薬を受け取る頃の年齢だから」が27.7%と続いた。「製薬企業による発信等」については、「薬について最も詳しいから」が51.0%と最も高く、「知りたいと思う人がいつでも正しい情報を入手できそうだから」が44.9%と続いた。「医療機関や薬局での勉強会」については、「かかりつけ医やかかりつけ薬局で教えてほしいと思うから」が42.9%と最も高く、「医療を受診したり薬を受けとる機会が増えるから」が37.2%、「薬について最も詳しいから」が33.1%、「知りたいと思う人がいつでも正しい情報を入手できそうだから」が32.3%と続いた。続く、「社会人教育」については、「医療費(保険料や自己負担額)を自分で払い始める頃だから」が54.5%と最も高く、「価格や制度、価値を学ぶには適切な年齢と考えるから」が49.8%、「医療を受診したり薬を受けとる機会が増えるから」が30.5%、「知りたいと思う人がいつでも正しい情報を入手できそうだから」が26.2%、「一人で医療機関を受診したり、薬を受け取る頃の年齢だから」が24.9%と続いた。「高齢者向け教育」については、「医療を受診したり薬を受けとる機会が増えるから」が62.9%、「市民講座(全世代対象)」については、「誰でも参加しやすいから」が63.0%、「学校教育(専門学校・大学以上)」については、「価格や制度、価値を学ぶには適切な年齢と考えるから」が47.6%、「保険者(自分の所属する保険組合など)ごとの学習機会」については、「保険者(健康保険組合など)の学習機会であれば参加しやすいから」が50.0%と最も高かった。

これらの結果より、価格や制度、価値について知ることへの望ましいと考える機会や時期の理由では、教育機会の面では、「義務教育」は無償で誰しもが受けられる平等な点が支持され、「義務教育、高等学校教育」は、学ぶ時間の確保のしやすさ、一人での受診等の機会が増えることと合わせて、学ぶには適切な年齢と考えられていた。「社会人教育」は、医療費を自分で払い始める頃として、学ぶには適切な年齢であると考えられていた。平等な義務教育に加え、受診や医療費の支払いといった医療への関りを実感する年代での教育機会が望まれ、学ぶには適切な年代と捉える年ごろには、幅があることが明らかになった。また、薬について最も詳しいとして「製薬企業による発信等」が支持されていた。受診機会がある人には、受診機会を利用し、かかりつけ医やかかりつけ薬局で教えてほしいとする声もあることがわかった。

5. まとめ

本調査結果より、明らかとなった医薬品の価格や制度、価値について、知ることへの期待、望ましいと考える手段、機会や時期について、前稿と同様に、医薬品による治療等の波及効果として実現する「医療的な価値以外の価値」を重視する集団の特徴を中心に分析し、その結果を述べてきた。

まず、医薬品の価格や制度、価値について、国民には知りたいとの期待があると言える。また、期待する内容からは、自身の意識や興味・関心が高まることに加え、医薬品の適正使用や、医師や薬剤師への相談といった、医療に直面した際の行動も変化する期待があることがわかった。また、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団、特に集団2では、期待する確率が高いことから、大きな変化が期待できる可能性がある。

価格や制度、価値について知る手段としては、情報入手のための手段として一般的に信頼が高い「テレビ」や「新聞」、加えて、「医師や看護師、薬剤師等医療従事者から聞く」や「学校教育など、何らかの場面で習う」といった人を介した受動的な手段も、多くの人に望ましい手段であると考えられていた。知る手段として、「新聞」が望ましいと考えるのは、「無職者」、「受診・疾患有」、「自覚健康度高」との関連が大きく、また、「ウェブサイト・アプリ」、「SNSやブログ等のコミュニティサイト」、「YouTubeなどの動画サイト」といった電子媒体が望ましいとするのは「有職者」といったように、属性による違いも明らかになった。「医療的な価値以外の価値」を重視する集団では、「学校教育など、何らかの場面で習う」や「ウェブサイト・アプリ」が、より多く望まれていたことから、集団2への情報提供の際には、「ウェブサイト・アプリ」も有効である可能性が考えられた。

価格や制度、価値について知る機会や時期としては、「学校教育(義務教育)」、「学校教育(高等学校)」が多くの人に望ましい機会や時期であると考えられ、「学校教育(義務教育)」は「低年代」、「受診・疾患無」という属性に、「学校教育(高等学校)」は「最終学歴高」、「医療費負担額小」という属性に多く選ばれていた。また、「製薬企業からの発信等」については、最も望ましい機会や時期回答時、3番目に多く選ばれたことから期待が高いことが示唆され、「女性」、「自覚健康度低」という属性に多く選ばれていた。「医療的な価値以外の価値」を重視する集団2でも、「製薬企業からの発信等」への期待が高く、日頃から、「製薬企業からの発信等」に注目し、信頼や期待を寄せている可能性がある。義務教育や高等学校での教育は、医療への関り(受診や疾患)が少ない人に、製薬企業からの発信は健康に何らかの不安を抱える人に支持、期待を寄せられている可能性がある。

価格や制度、価値について知る機会や時期の選択理由としては、「義務教育」は無償で誰しもが受けられる平等な点が支持され、「義務教育、高等学校教育」は、学ぶ時間の確保のしやすさ、一人での受診等の機会が増えることと合わせて、学ぶには適切な年齢と考えられていた。また、「薬について最も詳しい」として「製薬企業による発信等」が選ばれ、受診機会がある人には、受診機会を利用し、かかりつけ医やかかりつけ薬局で教えてほしいとする声もあることがわかった。

医薬品の価格や制度、価値について、知りたいとの期待に応えていく検討に当たっては、国民をひとくくりにせず、属性ごとの要望の違いやその背景にある理由も考慮しながら、適切な手段、機会や時期を見極めて設定していく必要がある。

6. おわりに

くすりと製薬産業に関する生活者意識調査5)においても、入手したい情報に「薬価の仕組み(薬の価格について)」や「医療制度に関すること」が一定程度挙げられていたように、国民には、医薬品の価格や制度、価値について、知りたいとの期待がある。そして、より深く知ることで、自身の意識や興味関心の高まりだけでなく、公的医療や保険財政等の社会課題にも影響しうる行動の変化も期待ができるとなれば、知る機会を設けない手はないだろう。「これからのヘルスリテラシー」6)によると、納得がいく意思決定は情報に基づく意思決定である、とされる。また、個人の行動を変えるには環境そのものを変える必要がある、ともある。単に「薬価」がいくらかを知らせればよいわけではなく、医薬品の価格や制度(受診時医療、医薬品に係る薬価や医療保険制度等)、価値全般について、国民が正しい情報を得ながら、わかるようにする道筋をつくることが、国民にとって納得性の高いものとなるまず一歩なのではないだろうか。

ただし、医薬品の価格や制度、価値に関する国民の認識は十分ではない7)こと、また例えば薬価制度ひとつを例にとっても複雑でわかりにくい現状を踏まえ、知ることが出来る機会を、単回でなく複層、かつ、ニーズある複数の手段で設ける等、真に伝わるステップの検討と、平易に伝える工夫も肝要である。また、製薬産業には、寄せられた期待が大きい8)実態も踏まえ、正しい情報を伝えることにより一層、貢献していかなければならない。

今回の分析でも、「医療的な価値以外の価値」(「適切な患者への投与」、「生産性」、「社会復帰・復職」、「介護負担の軽減」、「医療従事者の負担軽減」)を重視する集団の特徴がいくつか見出された。価格や制度、価値について知りたいとの期待が大きく、自身の意識や興味・関心、医療に直面した際の行動も大きな変化が期待できる可能性のある集団である。手段として「ウェブサイト・アプリ」等の個々の生活スタイルに合わせて気軽にアクセスできるツール、機会や時期として「製薬企業からの発信等」にも期待を寄せていることがわかった。まずは、製薬産業として、こうした「医療的な価値以外の価値」を重視する集団に、テレビや新聞だけでなく「ウェブサイト・アプリ」の活用も視野に、より理解を深められる情報提供をする、また、国民の皆様に広く「医療的な価値以外の価値」が何なのか知ってもらえるよう情報提供をする、こうしたところから始められたらよいのではないだろうか。

付表 回答者の属性

  • 1)
    医薬産業政策研究所、「医薬品の価格や制度への国民の意識・興味関心-医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査結果報告 その①-」、政策研ニュースNo.67(2022年11月)
  • 2)
    医薬産業政策研究所、「国民が重視する医薬品の価値-医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査結果報告 その②-」、政策研ニュースNo.68(2023年3月)
  • 3)
    明細書とは、「医療機関を受診し処方された薬を薬局で受け取る際に支払い額が書かれている明細書」のこと。
  • 4)
    電通総研、第7回「世界価値観調査」レポート
  • 5)
  • 6)
    中山和弘、これからのヘルスリテラシー、講談社、2022年12月
  • 7)
    1)にて、筆者は、薬価が公定価格であること等の認識については十分とは言えないことを記載。
  • 8)
    厚生労働省「医薬品産業ビジョン2021」には、公的な性格を有する医薬品産業について理解を深められるよう、官民を挙げて、医薬品産業の情報発信に取り組む必要がある旨の記載がある。

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