Points of View 国民が重視する医薬品の価値 -医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査結果報告 その②-

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医薬産業政策研究所 主任研究員 吉田晃子

1. はじめに

著者は、医薬品の価格や制度(受診時医療、医薬品に係る薬価や医療保険制度等)、価値に関する意識や興味関心の実態を様々な属性ごとに把握する目的で、Webアンケート調査「医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査」(以降、「本調査」と記載)を実施した。

政策研ニュースNo.671)では、本調査の結果報告その1として、国民の医薬品の価格や制度への意識や興味関心、意識や興味関心の高い層の特徴等について、報告した。

本稿では、本調査結果報告その2として、調査結果より明らかとなった医薬品の価値の認識から、国民が重視する医薬品の価値について述べたい。

医薬品の価値の要素については、政策研ニュースNo.62、63等2)、中野らの報告で用いられた要素(ISPORのTask force レポート等3)を踏まえ、中野らが検討・抽出)や、日本製薬工業協会会長会見資料(2019年6月26日)4)を参考にし、著者が検討・抽出、設定した。(図1)

図1 医薬品の価値イメージ

効果の高さである「有効性」、安全性が高く、副作用が少ないといった「安全性」、治療のすべがなかったものが新たに治療できる「革新性」、例えば、手術でなくても治療ができるといった「治療方法の改善」、服用回数の少なさや、飲みやすさ等の「利便性」、これまでより安いことやこれまでと同程度の医療費負担額等のような「経済性」、これら6つの価値要素は、医薬品の服用などの使用が、自身に直接影響しやすく、直接感じられやすい価値であり、「医療的な価値」として定義する。一方で、その薬の効果の発揮しやすい人を特定し投与(治療)できる「適切な患者への投与」や、仕事や家事・学業、介護や世話等、自身の役目を継続できる、もしくは自身の役目の質・効率を高められる「生産性」、これまでできなかった、学校に行ける、家事や仕事等ができるといったような「社会復帰・復職」、介護・ケアをしてくれる家族等の負担を軽減できる「介護負担の軽減」、医師や看護師、薬剤師等の負担を軽減できる「医療従事者の負担軽減」、これら5つの価値要素は、医薬品の服用などの使用が、自身やその周囲に波及的に影響をもたらし、その価値が社会にも影響しうる価値であり、これらを医薬品による治療等の波及効果として実現する「医療的な価値以外の価値」と定義する。

なお、「医療的な価値」と「医療的な価値以外の価値」は「ミクロ視点の価値」と定義する。

また、経済・社会を支える人を増やす、あるいは医療資源消費の効率化に繋がる「社会保障制度持続性への寄与」や、人々の命がある期間を延長できる「国民の寿命の延伸」、人々が健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を延長できる「国民の健康寿命の延伸」、医学や薬学という学問が進み、ひろがっていく「医学・薬学の発展」といった価値は、医薬品の服用などの使用(自身以外のものを含む)が、自身やその周囲を越えて社会全体に影響を及ぼす、医薬品の社会的な目標への貢献としての社会的価値を示すものであり、「マクロ視点の価値」と定義する。

調査結果については、自身やその周囲に関わるミクロ視点と、社会に関わるマクロ視点に、また、前者(ミクロ視点)には、主に医療的視点に基づく「医療的価値」と医薬品による治療等の波及効果として実現する「医療的な価値以外の価値」があることから、これらを分けて述べていくことにする。

一般的には、「有効性」や「安全性」等の「医療的な価値」が、「生産性」、「社会復帰・復職」、「介護負担の軽減」等の「医療的な価値以外の価値」より重視されることは、想像に難くない。実際に調査結果でも、そうした結果が得られている。しかし、「あなたが、薬に対して期待する価値の項目を3つ選んでください」と、回答数を3つまでに限定した場合でも、「医療的な価値以外の価値」を重視する者も一定数存在した。特に本稿では、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団は、医薬品の価値を幅広く捉え、医薬品の価格や制度、価値に関して課題意識が高いことが想定されるとし、これらを重視する集団の特定ができれば、医薬品の価格や制度、価値に関する諸課題に対する検討においても、鍵となりうるのではないかと考えた。そこで、本調査では「医療的な価値以外の価値」を重視する集団がどのような特徴を持つのかを中心に分析、報告する。また、健康な方に寄りがちなアンケート回答者に、疾患を患ったと想起いただくことで、疾患想起の有無、想起した疾患により重視する医薬品の価値に違いがあるのか、また、実際の疾患の受診者と当該受診のない者による違い等、属性ごとの特徴を分析したので、合わせて報告する。

2. 調査・分析方法

調査方法

Webアンケート調査は、以下の方法で実施した。なお、回答者がインターネットを使用できる人に限定される等、調査の特性として限界があることを事前に提示しておく。

  1. 調査地域:全国47都道府県
  2. 対象:20歳以上の男女
  3. 回答者数:2,118人
  4. 抽出方法:インターネット調査用パネルより層別無作為抽出
  5. 調査方法:インターネット調査
  6. 調査期間:2022年6月20日~22日
  7. 調査機関:株式会社インテージヘルスケア
  • 調査サンプル(地域、年齢、性別)は、全国の人口構成比にできる限り合わせて、回収した。

分析方法

クロス集計並びに、線形確率モデルによる多重回帰分析を用いている。

3. 回答者の属性

回答者の属性に関わる主な情報を末尾に付表する。

4. 調査・分析結果

4.1. 重視する医薬品の価値(ミクロ視点)

まず、回答者自身やその周囲に関わるミクロ視点で、どの価値を重視するかを把握するため、「あなたが、薬に対して期待する項目」を尋ねた。重視する傾向に違いがあるかをみるため、12の選択肢から、複数あるいは上位3つを選択した回答(複数回答、上位3つ回答)を得た。(表1)回答割合が高い順に並べて示す。(図2)

表1 重視する医薬品の価値(ミクロ視点):質問および回答選択肢(価値の要素)について

図2 重視する医薬品の価値(ミクロ視点)

複数回答、および上位3つ回答時のいずれの場合も、重視する価値として回答割合が高い順に、「安全性」、「有効性」、「経済性」、「治療方法の改善」、「革新性」と続いていた。

複数回答時は、「安全性」が70.0%、「有効性」が61.0%、「経済性」が49.2%、「治療方法の改善」が48.9%、「革新性」が40.1%であった。「革新性」に続き、「利便性」が39.6%、「適切な患者への投与」が39.4%とほぼ変わらない割合を示し、「社会復帰・復職」が27.8%、「介護負担の軽減」が26.6%、医療従事者の負担軽減が24.7%、「生産性」が19.6%、「期待する項目はない」が8.6%だった。

上位3つ回答時では、「安全性」が50.4%、「有効性」が40.0%、「経済性」が27.0%、「治療方法の改善」が25.2%、「革新性」が24.0%であった。「革新性」に続く「適切な患者への投与」が13.6%、「利便性」が12.4%と、その割合は10%以上低くなっていた。また「期待する項目はない」が8.6%、「社会復帰・復職」が7.1%、「介護負担の軽減」が5.9%、「医療従事者の負担軽減」が5.1%、「生産性」が3.8%であった。

この結果を、主に医療的視点に基づく「医療的な価値」と医薬品による治療等の波及効果として実現する「医療的な価値以外の価値」に分けて見ると、複数回答、および上位3つ回答のいずれの場合も、「安全性」や「有効性」等の「医療的な価値」は「医療的な価値以外の価値」より回答割合が高く、上位3つ回答時では、「医療的な価値以外の価値」は「医療的な価値」より回答割合が低くなる傾向があった。このことから、回答者には重視される価値として「医療的な価値」がより多く選択回答される傾向が見られた。一方で、「医療的な価値以外の価値」に注目すると、複数回答時では2割~4割程度(19.6%~39.4%)、上位3つ回答時でも、1割程度(3.8%~13.6%)が選択回答していたと言え、「医療的な価値以外の価値」が一定程度選択回答されていたことは、興味深い点である。そこで、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団を2つに分類し、以降でその集団について分析することにした。

「医療的な価値以外の価値」を重視する集団の特徴分析:価値ごとに見た、属性区分ごとの特徴

続いて、重視する医薬品の価値について、あらかじめ区分した属性区分別(表2)の特徴を分析した。それぞれの価値要素を被説明変数とし、選択回答した場合に1をとり、そうでない場合に0、属性区分を説明変数とした、線形確率モデルによる多重回帰分析により統計学的に有意であった属性の特徴の結果(上位3つ回答)を表3に示す。

表2 属性の分類

表3 「医療的な価値以外の価値」を重視する集団の特徴分析:価値ごとに見た、属性区分ごとの特徴

主な特徴としては、「生産性」、「適切な投与患者への投与」を重視していたのは、「受診・疾患有」と回答した属性で、選択確率が高かった。「社会復帰・復職」を重視していたのは、「高年代」、「有職者」と回答した属性で、選択確率が高かった。「介護負担の軽減」を重視していたのは、「最終学歴低」、「介護の必要な家族有」と回答した属性で、選択確率が高かった。重視する価値には、いくつかの属性において違いが認められた。また、その内容からは、医療機関に受診中の人が、「生産性」や「適切な投与患者への投与」をより多く選択回答、もしくは「有職者」が「社会復帰・復職」、「介護の必要な家族有」の人が「介護負担の軽減」をより多く選択回答したように、自身の置かれた状況により、重視する価値に違いがあらわれ、自身の置かれた状況に関係性の深い価値が重視されるのではないかと思われた。

「医療的な価値以外の価値」を重視する集団の特徴分析:集団としての主な特徴

次に、「医療的な価値以外の価値」要素を選択回答した2つの集団について、属性の特徴を分析した。集団は、複数回答時に、「医療的な価値以外の価値」を一度でも選択回答した人(1,032人、48.7%、ただし「生産性」と「社会復帰・復職」と「介護負担の軽減」全てを選択回答した人は除く)を集団1、複数回答時に、「生産性」と「社会復帰・復職」と「介護負担の軽減」全てを選択回答した人(236人、11.1%)を集団2とした。集団1は、「医療的な価値以外の価値」を認知し、少しでも重視する傾向がある集団、集団2は、医薬品の服用などの使用が、特に、自身やその周囲に波及的影響をもたらしやすい価値を重視する傾向がある集団と想定した。

属性ごとの特徴をクロス集計し、グラフに示している。(図3)また、表4には、「医療的な価値以外の価値」集団を被説明変数とし、それぞれ集団を選択回答した場合に1をとり、そうでない場合に0、属性区分を説明変数とした、線形確率モデルによる多重回帰分析を行った。

図3 「医療的な価値以外の価値」を重視する集団の特徴分析:集団としての主な特徴

表4 「医療的な価値以外の価値」を重視する集団の特徴分析:集団としての主な特徴

まず、統計学的に有意であった属性の特徴の結果を示す。集団1では「女性」、「世帯年収低」、「受診・疾患有」、「自覚健康度高」と回答した属性で、集団2では「女性」、「有職者」、「最終学歴高」、「医療費負担感大」、「自覚健康度低」と回答した属性で、選択確率が高かった。統計的有意差があった属性区分間で係数に差はあまりなかったものの、集団1では「世帯年収低」や「受診・疾患有」、集団2では「女性」が高い確率を示したことから、これらの属性ごとの特徴が影響していることが推測される。

「年代」を低年代/高年代に分けて見た場合、統計的な有意差はなかったが、10代ごとの違いをグラフで見ると、集団1は、「20代~50代」と回答した層で、全体より割合が低く、「60代以上」と回答した層で、全体より割合が高かった。また、集団2は「30~50代」、特に「40代」と回答した層で、全体より割合が高かった。

その他:疾患想起の有無、想起疾患による違い

重視する価値やその優先度は、疾患の有無などの健康状態によっても異なってくることが想定される。そこで、次に、回答者自身やその周囲に関わるミクロ視点の価値について、疾患想起しない場合と想起した場合、また、想起疾患の種類によって、重視する医薬品の価値に違いがあるのかを把握するため、回答者に、QOLや精神面への影響等が異なると推測される3疾患(高血圧、関節リウマチ、がん)を患ったと想起(表5)5)してもらった。その上で、「薬に対して期待する項目」を尋ね、2通りの回答(複数回答、上位3つ回答)を得た。その結果を、複数回答、上位3つ回答に分けて、回答割合が高い順に、並べて示す。

表5 3疾患(高血圧、関節リウマチ、がん)の状態に関する説明文

まず、複数回答の結果を示す。(図4)自身について回答を得た「疾患想起無」や「高血圧」想起時では、最も回答割合が高いのは「安全性」、次いで「有効性」であったのに対し、「関節リウマチ」や「がん」想起時では、「有効性」次いで「安全性」と、上位の結果が逆転していた。また、「関節リウマチ」や「がん」想起時では、「疾患想起無」に比べ、「社会復帰・復職」や「介護負担の軽減」、「生産性」といった「医療的な価値以外の価値」が高い割合を示したのに対し、「高血圧」ではこれらは「疾患想起無」より低い割合であった。

図4 重視する医薬品の価値(ミクロ視点):疾患の想起の有無、想起疾患による違い(複数回答)

続いて、上位3つ回答の結果を示す。(図5)「疾患想起無」に比べ、いずれの疾患想起時も高い割合を示したものに「利便性」、「社会復帰・復職」、「介護負担の軽減」、いずれの疾患想起時も低い割合を示したものに「安全性」があった。また、「高血圧」想起時では、「治療方法の改善」(18.8%)や「革新性」(17.0%)が低い割合を示したのに対し、「有効性」(49.2%)や「経済性」(30.8%)が高い割合を示した。「関節リウマチ」想起時では、「安全性」(46.6%)、「有効性」(49.2%)、「経済性」(23.8%)、「治療方法の改善」(19.8%)、「革新性」(22.9%)、「適切な投与患者への投与」(12.0%)が低い割合を示したのに対し、「利便性」(19.4%)や「社会復帰・復職」(11.9%)、「医療従事者への負担軽減」(10.2%)、「介護負担の軽減」(9.3%)が高い割合を示した。

図5 重視する医薬品の価値(ミクロ視点):疾患想起の有無、想起疾患による違い(上位3つ回答)

「がん」想起時では、「安全性」(45.9%)が低い割合を示したのに対し、「革新性」(31.7%)や「経済性」(31.2%)、「利便性」(14.2%)、「介護負担の軽減」(9.3%)、「社会復帰・復職」(7.9%)が高い割合を示した。

これらの結果より、特に、「関節リウマチ」や「がん」想起時では、「社会復帰」、「介護負担の軽減」といった「医療的な価値以外の価値」の回答割合が高まっていたことより、健康な方に寄りがちなアンケート回答者であっても、QOLや精神面への影響等がある疾患を患ったと想起すると重視する医薬品の価値に違いが生じる、つまり価値観に変化があることが示された。

その他:主要な疾患の受診者と当該受診のない者による違い

続いて、実際に疾患があり現在受診している者と、当該疾患の受診のない者では、重視する価値(ミクロ視点)に違いがあるのかを分析した。ただし、本調査は、患者調査を主目的としていないため、受診・疾患有の回答者が限られていることから、結果の解釈には留意が必要である。

本調査における現在「受診・疾患有」の回答者は1,173人(55.4%)であり、そのうちの上位15疾患について、分析した。上位15疾患以外の何らかの疾患での受診者は、「その他の疾患」として示す。

それぞれの価値要素を被説明変数とし、価値要素を選択回答した場合に1をとり、そうでない場合に0、受診疾患を説明変数とした線形確率モデルによる多重回帰分析を行った。統計学的に有意であった特徴を表内に記載している。(表6)

表6 重視する医薬品の価値(ミクロ視点):主要な疾患の受診者と当該受診のない者による違い

結果の主な特徴としては、「有効性」を重視していたのは「緑内障」、「安全性」を重視していたのは「脂質異常症」、「緑内障」、「湿疹・蕁麻疹」、「革新性」を重視していたのは「がん」、「その他の疾患」、「治療方法の改善」を重視していたのは「腰痛症」、「がん」、「その他の疾患」、「利便性」を重視していたのは、「糖尿病」、「経済性」を重視していたのは「糖尿病」で受診・疾患有と回答した属性で選択確率が高く、重視する傾向が示唆された。

「生産性」を重視していたのは「うつ病・うつ状態」、「その他の疾患」、「社会復帰・復職」を重視していたのは「うつ病・うつ状態」で受診・疾患有と回答した属性で、選択確率が高く、重視する傾向が示唆された。

これらの結果より、実際に疾患があり、現在受診している者と、当該受診のない者では重視する価値(ミクロ視点)に違いがあることが示唆された。また、その内容から、疾患を患った患者にしかわからない疾患特有の状況が、重視する価値やその優先度を変える可能性がある。

4.2. 重視する医薬品の価値(マクロ視点)

続いては、医薬品の服用などの使用(自身以外のものを含む)が、自身やその周囲を越えて社会全体に影響を及ぼす、医薬品の社会的な目標への貢献としての社会的価値の傾向をみる。

具体的には、「社会保障制度持続性への寄与」、「国民の寿命の延伸」、「国民の健康寿命の延伸」、「医学・薬学の発展」の4つの価値の要素について、説明を付した上で、「薬があることで実現できることとして、どの程度重要だと思うか」を尋ね、6段階(非常に重要、重要、まあ重要、あまり重要ではない、重要ではない、全く重要ではない)と、わからない、の選択肢を設け、回答を得た。その結果を図6に示す。

図6 重視する医薬品の価値(マクロ視点)

結果を、重視する3回答(「非常に重要」もしくは「重要」もしくは「まあ重要」)で見ると、割合が高い順に「医学・薬学の発展」は88.8%、「社会保障制度持続性への寄与」は84.8%、「国民の健康寿命の延伸」は84.3%と、8割以上の回答者が、「国民の寿命の延伸」は70.0%と7割の回答者が、重視していた。(データ省略)しかし、重視する2回答(「非常に重要」もしくは「重要」)で見ると、割合が高い順に、「医学・薬学の発展」は52.9%、「国民の健康寿命の延伸」は47.9%、「社会保障制度持続性への寄与」は43.5%、「国民の寿命の延伸」は29.4%であり、3割~5割程度の回答者が重視しているという結果に留まっていた。(図6)また、「わからない」回答者が、一定程度(約6~8%)あった。

価値ごとに見た、属性区分ごとの特徴分析

次に、マクロ視点のそれぞれの価値要素について、属性の特徴を分析する。それぞれの価値要素を被説明変数とし、「非常に重要」もしくは「重要」を選択回答した場合に1をとり、そうでない場合に0、属性区分を説明変数とした線形確率モデルによる多重回帰分析により統計学的に有意であった属性の特徴を表7に示す。

表7 重視する医薬品の価値(マクロ視点):価値ごとに見た、属性区分ごとの特徴

マクロ視点で見た医薬品の価値として、「社会保障制度の持続性」を重視するのは「無職者」、「介護が必要な家族有」、「最終学歴高」、「世帯年収低」、「医療負担額大」、「受診・疾患有」、「自覚健康度高」と回答した属性で、選択確率が高かった。中でも属性間で、係数の大きかった「医療負担額大」や「自覚健康度高」が影響していることが推測される。同様に、「国民の寿命の延伸」を重視するのは「低年代」、「最終学歴高」、「医療費負担感大」、「受診・疾患有」、「自覚健康度高」と回答した属性で、選択確率が高かった。中でも属性間で、係数の大きかった「受診・疾患有」や「自覚健康度高」が影響していることが推測される。また、「国民の健康寿命の延伸」を重視するのは、「女性」、「低年代」、「介護が必要な家族有」、「最終学歴高」、「医療費負担額大」、「受診・疾患有」、「自覚健康度高」と回答した属性で、選択確率が高かった。中でも属性間で、係数の大きかった「最終学歴高」や「低年代」、「自覚健康度高」が影響していることが推測される。最後に、「医学・薬学の発展」を重視するのは「世帯年収低」、「医療費負担額大」、「受診・疾患有」、「自覚健康度高」と回答した属性で、選択確率が高かった。中でも属性間で、係数の大きかった「自覚健康度高」や「医療負担額大」が影響していることが推測される。マクロ視点で見た医薬品の価値4つすべてに共通する特徴として、「受診・疾患有」、「自覚健康度高」が挙げられた。

これらの結果より、「社会保障制度持続性への寄与」、「国民の寿命の延伸」、「国民の健康寿命の延伸」、「医学・薬学の発展」のマクロ視点の4つの価値の要素について、属性(区分)ごとに重視する価値に違いがあることが示された。また、その内容からは、重視する人の特徴には、「医療負担額大」や「受診・疾患有」といった、自身の置かれた状況(特に受診)と関係性がある場合、加えて、「最終学歴高」や「低年代」、「自覚健康度高」といった必ずしも自身の置かれた状況によらない場合もあるのではないかと推測される。

「医療的な価値以外の価値」を重視する集団の特徴分析

本項でも、「医療的な価値以外の価値」要素を選択回答した集団では、マクロ視点の価値をどの程度重視しているのかを分析した。

集団は、前述したとおりであり、集団の属性ごとの特徴を「非常に重要」もしくは「重要」と選択回答した場合とそれ以外に分け、クロス集計し、グラフに示している。(図7)

図7 重視する医薬品の価値(マクロ視点):「医療的な価値以外の価値」を重視する集団の特徴分析

それぞれの価値要素を被説明変数とし、価値要素を「非常に重要、もしくは重要」と回答した場合に1をとり、そうでない場合に0、集団1および集団2を説明変数とした、線形確率モデルによる多重回帰分析を行い、統計学的に有意であった特徴を、表8に記載している。

表8 重視する医薬品の価値(マクロ視点):「医療的な価値以外の価値」を重視する集団別

集団1および集団2では、いずれのマクロ視点でみた医薬品の価値においても、選択確率が高いことが示された(図7)。集団1および集団2は、いずれもマクロ視点の価値においても有意に重視していた。また、集団2では、集団1よりもいずれも係数が高く、集団2が影響していることが推測される。

これらの結果より、集団2が肯定的な回答をする方向への偏りがある可能性も否定できないものの、「医療的な価値以外の価値」を重視する集団では、社会に関わるマクロ視点の4つの価値(「社会保障制度持続性への寄与」、「国民の寿命の延伸」、「国民の健康寿命の延伸」、「医学・薬学の発展」)いずれも「非常に重要、もしくは重要」と回答した割合が高く、その傾向は集団1より集団2で大きく示されていた。

5. まとめ

本調査結果より、明らかとなった医薬品の価値の認識について、回答者自身やその周囲に関わるミクロ視点と、社会に関わるマクロ視点に、ミクロ視点は、主に医療的視点に基づく「医療的価値」と医薬品による治療等の波及効果として実現する「医療的な価値以外の価値」に分け、その結果を述べてきた。

まず、重視する医薬品の価値の全体の傾向として、ミクロ視点では、医薬品による治療等の波及効果として実現する「医療的な価値以外の価値」より、主に医療的視点に基づく「医療的な価値」が多く選択回答されたことから、「医療的な価値」を重視する人が多いことがわかった。

この結果は、おそらく、医薬品の服用などの使用が、自身やその周囲に波及的に影響をもたらし、その価値が社会にも影響しうる価値よりも、医薬品の服用などの使用が、自身に直接影響しやすく、直接感じられやすい価値であるため、重視されやすいのだろうと推測する。また、「医療的な価値以外の価値」を実感するような疾患に直面していない国民が多いことも、「医療的な価値」が選択される頻度が高いことのひとつの要因だと考えられる。

一方で、上位3つ回答時でも、「適切な患者への投与」や「社会復帰・復職」、「介護負担の軽減」、「医療従事者の負担軽減」、「生産性」といった「医療的な価値以外の価値」を選択回答した割合が、一定程度存在したことから、「医療的な価値以外の価値」を重視する人もいるということがわかった。「医療的な価値以外の価値」を重視する人は、医療機関に受診中の人が、「生産性」や「適切な投与患者への投与」を、「高年代」、「有職者」が「社会復帰・復職」を、「最終学歴低」、「介護の必要な家族有」の人が「介護負担の軽減」を、より多く選択回答していた。この結果より、自身の置かれた状況により、重視する価値に違いがあらわれ、自身の置かれた状況に関係性の深い価値として、「医療的な価値以外の価値」が重視される場合が多いのではないか、と考える。「医療的な価値以外の価値」は、自身の置かれた状況に関係性の深い状況とならなければ、意識されず、重視されにくい可能性もあるが、一方で「最終学歴」のように、自身の置かれた状況によらない選択要因もあるかもしれない。

次に、「医療的な価値以外の価値」を認知し、少しでも重視する傾向がある集団1と、特に、自身やその周囲に波及的影響をもたらしやすいと想定される価値(「生産性」、「社会復帰・復職」、「介護負担の軽減」)を重視する傾向がある集団2に分け、集団としての特徴をみた。

「医療的な価値以外の価値」を重視する集団としては、「男性」より「女性」で多いこと、「医療的な価値以外の価値」を認知し、少しでも重視する傾向がある集団1は、「60代以上」、「世帯年収低」、「受診・疾患有」で多いこと、自身やその周囲に波及的影響をもたらしやすいと想定される価値(「生産性」、「社会復帰・復職」、「介護負担の軽減」)を重視する傾向がある集団2は、「30~50代」、特に「40代」で多いという違いや特徴が明らかになった。集団1と2の年代的な違いからは、「30~50代」では、特に「生産性」、「社会復帰・復職」、「介護負担の軽減」と、自身の置かれた状況に関係性の深い事情、例えば、子育てや家事、仕事、介護を中心に担うもしくは、こうした点に課題を抱えるといった背景があるのかもしれない。

QOLや精神面への影響等が異なる3疾患を挙げ、疾患を患ったと想起した場合には、想起しない場合と、また、想起した疾患により、重視する価値の傾向に違いがあった。また、実際に疾患を抱え現在受診している者では、当該受診のない者と、また、抱える疾患により、重視する価値(ミクロ視点)に違いがあることが示唆された。これらより、重視する医薬品の価値そのものが一定でなく、疾患によって変わりうること、その疾患を患った患者にしかわからない疾患特有の状況が、重視する価値やその優先度を変える可能性があると推測される。

重視する医薬品の価値の全体の傾向として、マクロ視点では、「社会保障制度持続性への寄与」、「国民の寿命の延伸」、「国民の健康寿命の延伸」、「医学・薬学の発展」、について、重視する2回答(「非常に重要」もしくは「重要」)で結果をみると、割合が高い順に、「医学・薬学の発展」、「国民の健康寿命の延伸」、「社会保障制度持続性への寄与」、「国民の寿命の延伸」であり、3割~5割程度の回答者が重視しているという結果に留まっていた。これら4つの価値は、医薬品の服用などの使用には、自身以外のものを含み、自身やその周囲を越えて社会全体に影響を及ぼす点で、ミクロ視点と異なっている。そのため、直接感じにくく、重視されにくいのかもしれない。しかし、自身やその周囲よりも広範囲で影響をもたらす、社会的影響の大きい価値である。

マクロ視点の医薬品の価値を重視する人は、「社会保障制度の持続性」や「医学・薬学の発展」では「医療負担額大」や「自覚健康度高」、「国民の寿命の延伸」では「受診・疾患有」や「自覚健康度高」、「国民の健康寿命の延伸」では、「最終学歴高」、「低年代」、「自覚健康度高」といった回答が有意に多く、特徴として示された。この結果より、マクロ視点の価値であっても、重視する人の特徴には、「医療負担額大」や「受診・疾患有」といった、自身の置かれた状況(特に受診)と関係性がある場合、加えて、「最終学歴高」や「低年代」、「自覚健康度高」といった必ずしも自身の置かれた状況によらない場合もあるのではないかと推測される。マクロ視点の価値は、受診や罹患の経験から学ぶあるいは発見する側面がある一方で、自身の置かれた状況によらず、客観的で長期的な視点で回答がしやすかったのかもしれない。

また、「医療的な価値以外の価値」を重視する2つの集団では、2つの集団に共通し、マクロ視点の4つの価値いずれも、「非常に重要、もしくは重要」と回答した割合が高く、その程度は集団1より集団2で高く示された。「医療的な価値以外の価値」を重視する集団では、マクロ視点の4つの価値もより認識し、重視している傾向が明らかになった。「医療的な価値以外の価値」を重視する2つの集団、とくに集団2では、医薬品の服用などの使用によらず、医薬品の社会的な目標への貢献としての社会的価値を示す「マクロ視点の価値」も重視している可能性があることから、ヘルスリテラシー6)が高い可能性もあるだろう。「医療的な価値以外の価値」を重視する集団と、前号で述べた医薬品の価格や制度への「意識や興味関心が高い集団」がどのような関係にあるのか、引き続き分析を進めていく必要がある。

6. おわりに

国民には、医薬品について、医療的視点に基づく「医療的価値」に留まらず、医薬品による治療等の波及効果として実現する「医療的な価値以外の価値」についても認識、重視している人がいることがわかった。そして、その人たちは、社会に関わるマクロ視点でも医薬品の価値をより認識していた。社会に関わるマクロ視点で見た医薬品の価値(「社会保障制度持続性への寄与」、「国民の寿命の延伸」、「国民の健康寿命の延伸」、「医学・薬学の発展」)は人生100年時代において、医薬品の生み出す価値やその価格、そして価格を決める制度等について考える上で、非常に重要な要素の一つとなる。しかしながら、国民に十分に認識されている状況ではない。このことより、医薬品による治療等の波及効果として実現する「医療的な価値以外の価値」も、決して見逃してはならない価値であり、本調査で提示した価値に留まらず、「医療的な価値以外の価値」を国民が知ることは、わが国にとって、有益であると考える。

医薬品の価値は多様であり、また、その価値の要素とイノベーションは双方向に影響しあい、共に変化していく。また、価値の享受者である国民や患者は、自身や周囲の置かれた状況等(疾患の有無、疾患の種類、受診や家事、仕事、介護、理解等)により重視する価値に変化があり、患者になって初めて気が付くその疾患ならではの重みや価値観があることも忘れてはならない。国民や患者の参画(PPI:Patient and Public Involvement)の重要性が一段と高まる中、国民や患者の声が「医療的な価値以外の価値」等の、多様な価値の要素に気づきをもたらし、その評価が新たなイノベーションを生み、より良き医薬品の価値が国民にとどき続ける好循環となることを心から願う。

付表 回答者の属性

  • 1)
    医薬産業政策研究所、政策研ニュースNo.67「医薬品の価格や制度への国民の意識・興味関心-医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査結果報告 その①-」(2022年11月)
  • 2)
    医薬産業政策研究所、政策研ニュースNo.62「一般生活者が考える薬の価値と受診等のあり方」(2021年3月)、No.63「続:一般生活者が考える薬の価値と受診等のあり方」(2021年7月)、「医薬品の多様な価値 -国民視点および医療環境変化を踏まえた考察-」、リサーチペーパー・シリーズNo.79(2022年3月)、「医薬品の社会的価値の多面的評価」、リサーチペーパー・シリーズNo.76(2021年3月)
  • 3)
    Lakdawalla DN、Defining Elements of Value in Health Care-A Health Economics Approach: An ISPOR Special Task Force Report[3]、Value Health. 2018 Feb;21(2):131-139.
  • 4)
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    3疾患の選定および疾患想起の手法は、中野らが2020年11月に実施したWebアンケート調査と同じ
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    「日本ヘルスリテラシー学会」によると、一般に健康に関連する情報を探し出し、理解して、意思決定に活用し、適切な健康行動につなげる能力のこととされる

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