Points of View 医薬品の価格や制度への国民の意識・興味関心 -医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査結果報告 その①-

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医薬産業政策研究所 主任研究員 吉田晃子

1. はじめに

国民は、医薬品の価値の享受者であり、また、皆保険制度で成り立つわが国の医療保険制度上、制度を支える者でもある。『国民皆保険の持続性』と『イノベーションの推進』の両立を図る上では、医薬品の価格や制度、価値の検討に「国民の視点」は欠かせない。

これまでにも、生活者や患者への医療や医薬品に関する意識調査はいくつか実施1-5)されているが、医薬品の価格や制度(受診時医療、医薬品に係る薬価や医療保険制度等)、価値について、特徴ある属性ごとの分析には至っていないとの認識である。

そこで、国民の医薬品の価格や制度、価値に関する意識や興味関心の実態を様々な属性ごとに把握する目的で、Webアンケート調査を実施した。

本稿では、この調査結果より明らかとなった、国民の医薬品の価格や制度への意識や興味関心、意識や興味関心の高い層の特徴等について示す。

2. 調査方法

Webアンケート調査は、以下の方法で実施した。なお、回答者がインターネットを使用できる人に限定される等、調査の特性として限界があることを事前に提示しておく。

①調査地域
全国47都道府県
②対象
20歳以上の男女
③回答者数
2,118人
④抽出方法
インターネット調査用パネルより
無作為抽出
⑤調査方法
インターネット調査
⑥調査期間
2022年6月20日~22日
⑦調査機関
株式会社インテージヘルスケア
  • 調査サンプル(地域、年齢、性別)は、全国の人口構成比にできる限り合わせて、回収した。

3. 回答者の属性

回答者の属性に関わる主な情報を末尾に付表する。

4. 調査結果(設問ごとの回答結果)

本項では、図表1に示した結果概要について、設問ごとに記載する。

図表1 調査結果の概要

『処方された薬を薬局で受け取る際の費用』:「薬代以外の費用も含まれる」が約7割

まず、医薬品の価格に対する意識を紐解くため、調剤薬局での支払い時を例に、その費用内訳にどのような意識を持っているかを尋ねた。その結果、医療機関を受診し処方された薬を薬局で受け取る際に支払う金額について、「薬代以外の費用も含まれる」が70.6%と最も高く、次いで「薬代のみ」が15.0%、「わからない」が14.4%だった。約7割の回答者が、支払う金額が薬代だけではないと回答し、費用内訳への意識が高いことが示唆された。

『支払い明細書の確認有無』:「毎回確認する」「ときどき確認する」が約8割

本設問でも、調剤薬局での支払い時を例に、支払い明細書の確認状況について尋ねた。支払い明細書は、技術料、薬剤料等の区分や、薬剤名が単価・数量とともに記載されるもので、保険薬局での発行が完全義務化6)されている。調査の結果、医療機関を受診し処方された薬を薬局で受け取る際、支払い額の明細書を「毎回確認する」が44.0%と最も高く、「ときどき確認する」34.4%と合わせて回答者の約8割(78.4%)が費用内訳への意識が高いことがわかった。

また、費用内訳への意識が高い集団と低い集団で、薬剤費用への意識を比べると、費用内訳への意識が高い集団の方が支払い明細書を確認している割合が高く、薬剤費用への意識が高いことがわかった。(図2)

図2 処方された薬を薬局で受け取る際の費用と支払明細書の確認

約8割の回答者が、支払い明細書を確認する理由(複数回答)

続いて、約8割の回答者が支払い明細書を確認する理由を尋ねている。回答割合の高い順に、「何にいくらかかっているのか内訳を知るため」が59.2%、「薬の種類(名前や先発品、後発品の違い)や量を把握するため」が44.4%、「前回(もしくはこれまで)との支払額の違いを確認するため」が32.6%、「興味はないが何となく目を通している」が13.8%、「確認するように言われたため」が1.8%であった。

約2割の回答者が、支払い明細書を確認しない理由(複数回答)

次に、約2割の回答者(「確認していない(確認したことはある)」もしくは「確認したことがない」と回答した21.7%)が支払い明細書を確認しない理由を尋ねている。回答割合の高い順に、「見ても理解ができないと思った(書かれる内容がわからなかった)」が34.9%、「見たところで自身に影響がなく、見ても仕方がないと感じる」が28.1%、「いつも同じ価格であるため、確認する必要性を感じない」が20.5%、「薬の名前や量は薬手帳で確認しているから、それ以外の情報は必要ない」が15.5%、「記載している内容の説明がないので、見たいとは思わない」が12.5%、「文字が小さく見えにくいから」は5.0%であった。

支払い明細書を確認する機会が増えるきっかけ:「自身の処方に変化があったとき」が5割強(複数回答)

次に、全回答者に対し、「どのようなことがあれば、あなたは、今よりも支払い明細書を確認する機会が増えると思うか」を尋ねると、「あなたの処方(薬を受け取る機会や種類、量、支払額)に変化があったとき」が53.4%と最も高く、次いで「支払い明細書の中身や見方に付いて説明があった、もしくは理解ができるようになったとき」が33.5%、「支払い明細書の記載方法(今よりわかりやすい、大きい等)に変化があったとき」が32.8%、「今より増えることはない」16.4%となっていた。

『医療費が医療保険料と税金でまかなわれていることの意識』:「よく知っている」「まあ知っている」が7割強

次に、医薬品の価格に対する意識を医療保険制度の観点から紐解くため、調剤薬局窓口での支払い以外の費用への意識を尋ねた。その結果、医療機関で処方された薬を薬局で受け取る際に、あなたが支払う額(自己負担)以外の費用が、「医療保険料(健康保険制度、国民健康保険制度など)と税金でまかなわれている」ことについて、「まあ知っている」が50.3%と最も高く、次いで「よく知っている」23.9%と合わせて7割強(74.2%)が医療保険制度の意識があることがわかった。

『窓口自己負担以外の費用への関心』:「とても知りたい」「まあ知りたい」が約8割

前設問の内容(医療機関を受診した際や、医療機関で処方された薬を薬局で受け取る際に、あなたが支払う額(自己負担)以外の費用が、どのようにまかなわれているか)について、今よりも知りたいかを尋ねると、「まあ知りたいと思う」が64.7%と最も高く、「とても知りたいと思う」12.7%と、合わせて約8割(77.4%)が窓口での自己負担以外の費用に関心があることがわかった。

また、医療保険制度の意識が高い集団では、自己負担以外の費用の関心の割合が高く(84.8%)、意識が高いと関心も高いことが示唆された。(図3)

図3 医療費が医療保険料と税金でまかなわれていることの意識と窓口自己負担以外の費用への関心

『医療保険料がどの程度か』:「よく知っている」「まあ知っている」が5割強

本設問では、あなた自身が医療保険料をどの程度納めているか(自分や家族の給与に対し、どの程度(割合、金額)の医療保険料を支払っているか)について尋ねた。「まあ知っている」が43.3%と最も高く、「よく知っている」11.3%と合わせて5割強(54.6%)が、医療保険料の自己負担額に意識があることがわかった。

『新薬アクセスの仕組みへの認識』:「知らなかった」が約7割

次に、医薬品の価格や制度に対する意識を紐解くため、薬価制度についてどのような認識がなされているかを尋ねた。日本では、承認されたほぼ全ての新薬が、早期に保険で使えるようになることについて、「知らなかったが、よい仕組みだと思う」が61.9%と最も高く、次いで「知っていたが、よい仕組みだと思う」が24.9%、「知らなかったが、仕組みとして必要性を感じない」が7.7%、「知っていたが、仕組みとして必要性を感じない」5.5%となっていた。回答者の約7割(69.6%)が、新薬アクセスの仕組みを認識していないことがわかった。

『薬価が公定価格であることの認識』:「知らなかった」が約6割

本設問では、日本では薬価は、「公定価格であり、個々の企業ではなく国が決める」ということについて尋ねており、その結果、「知らなかった」が60.5%、「知っていた」が39.5%となっていた。回答者の約6割が、薬価が公定価格であることを認識していないことがわかった。製薬協で実施した調査結果7)(「知らない」が68.2%)とも大きく異なってはいない。

約4割の回答者が『薬価が公定価格であること』を知っていた理由(複数回答)

前設問で、『薬価が公定価格であること』を知っていた約4割の回答者にその理由を尋ねると、「テレビや書籍などで目にした」が48.2%、「どこで知ったかは覚えていない」が16.0%、「他の人から聞いたことがあった」が15.1%、「学校などで学ぶ機会があった」が14.4%、「自分で調べた」が13.2%であった。(図4)なお、自由回答欄には、医療機関や調剤薬局における事務等の職務経験を通じて知った旨の回答が多くあった。

図4 薬価が公定価格であることの認知きっかけ

『薬価の決め方への興味関心』:「興味関心が、とてもある」「まあある」が約7割

新薬の薬価の決め方、新薬の価値の反映の仕方、薬価の改定の仕方、後発品の薬価の決め方を設問として、薬価の決め方への興味関心を尋ねた。4つの設問では、約7割が興味関心を示していることがわかった。設問の順に結果を示す。

『新薬の薬価の決め方への興味関心』

「興味関心が、まあある」が57.8%と最も高く、「興味関心が、とてもある」10%と合わせて約7割(67.8%)が、「新薬の薬価の決め方」に興味関心があることがわかった。

『新薬の価値の反映の仕方への興味関心』

「興味関心が、まあある」が58.7%と最も高く、「興味関心が、とてもある」10.9%と合わせて約7割(69.6%)が、新薬の価値の反映の仕方に興味関心があることがわかった。

また、薬価が、「公定価格であり、個々の企業ではなく国が決める」ということについて「知っていた」集団の方が、薬価の決め方に興味関心があるという結果も見られた。図5には「新薬の価値の反映の仕方」を例に示すが、「新薬の薬価の決め方」、「薬価の改定の仕方」、「後発品の薬価の決め方」においても同様の傾向を示した。

図5 薬価の決め方の認知と興味関心

『薬価の改定の仕方への興味関心』

「興味関心が、まあある」が55.7%と最も高く、「興味関心が、とてもある」10%と合わせて回答者の約7割(65.7%)が、「薬価の改定の仕方」に興味関心があることがわかった。

『後発品の薬価の決め方への興味関心』

「興味関心が、まあある」が57.2%と最も高く、「興味関心が、とてもある」15.8%と合わせて、回答者の7割強(73.0%)が、「後発品の薬価の決め方」に興味関心があることがわかった。

7割強の回答者が、薬価の決め方を今より知りたいと思う理由(複数回答)

次に、薬価の決め方について、今より知りたいか尋ねた設問で、知りたい(「とても知りたいと思う」、「まあ知りたいと思う」合わせて74.2%)とした7割強の回答者に、その理由を尋ねている。回答割合の多い順に、「国民負担(自己負担額等)の軽減がなされているか知りたいから」が41.6%、「薬の価値がどう評価されるのか、単純に興味があるから」が37.6%、「皆保険で賄われる薬の価格だから、国民皆保険の持続性の観点で、国民の一人として自分事でなければならないと思うから」が37.4%、「どのように決まるのかを知れば、より自分の意志を持って医療を受けることができると思うから」が36.3%、「国民の命や健康に貢献する新薬(先発品)の創出が促される仕組みとなっているか知りたいから」が31.1%、「薬を飲む機会が増えた/これから薬を飲む機会が増えると思うから、知っておきたい」が29.5%、「コロナの流行で、より医療や薬の重要性を意識するようになったため」が22.0%であった。

3割弱の回答者が、薬価の決め方を今より知りたいと思わない理由(複数回答)

続いて、薬価の決め方について、今より知りたいか尋ねた設問で知りたくない(「あまり知りたいと思わない」、「まったく知りたいと思わない」合わせて25.8%)とした3割強の回答者にその理由を尋ねている。回答割合の多い順に、「決められ方を知っても、自分の意見を反映できるわけではないと思うから」が40.6%、「薬について、そもそもあまり知らないから」が24.5%、薬は医師が処方するため、決め方を知っても、自分にメリットがなさそうだから」が24.3%、「今のように、国が決めてくれればよいと思うから」が21.2%、「薬価がどのように決められるかよりも、まずは薬の一般的な知識や正しい情報を得たいから」が18.3%、「薬そのものに関心が高くないから」が15.4%、「薬を処方されたり、服用する機会が少ないから」が13.7%であった。

5. 意識や興味関心の高い層の属性の特徴

前項にて、医薬品の価格や制度への意識や興味関心について概観した。本項では、意識や興味関心の高い層の属性の特徴を分析する。表2に示す回答をした場合、医薬品の価格もしくは制度に意識や興味関心が高い集団と分類した。

また、これらの意識や興味関心が高い集団がそれぞれの属性(表3)について区分毎の割合を求め、属性全体より3%高い場合に、意識が高い集団ではその属性区分で特徴がある、とした。ただし、全体での割合より3%高くない場合でも高い場合かつ、意識や興味関心が低い層の割合が全体より3%以上低い場合にその属性で特徴がある、とした。その結果を表4に示している。

表2 意識や興味関心の高い回答の分類
表3 属性の分類
表4 意識や興味関心の高い層の属性の特徴

費用内訳や薬剤費用への意識が高いのは、「医療負担額大」、「医療費負担感大」、「自覚健康度高」と回答した層で、全体より割合が高かった。医療保険制度や、自己負担以外の費用に関心がある、また医療保険料の自己負担額に意識があるのは、「高年代」、「医療費負担額大」「自覚健康度高」と回答した層で、全体より割合が高かった。また、薬価の決め方への興味関心を示しているのは、「高年代」、「無職者」、「介護の必要な家族有」、「受診・疾患有」、「医療負担額大」、「医療費負担感大」、「自覚健康高」と回答した層で、全体より割合が高かった。新薬アクセスの仕組み、薬価が公定価格であることの認識が高いのは、「高年代」、「受診・疾患有」、「医療費負担額大」と回答した層で、全体より割合が高かった。また、多くの設問で「最終学歴高」と回答した層で、全体より割合が高かった。

以上、価格や制度への意識が高い層の属性の特徴として、「高年代」、「無職者」、「最終学歴高」、「介護の必要な家族有」、「受診・疾患有」、「医療費負担額大」、「医療費負担感大」、「自覚健康度高」である属性区分が共通に挙げられた。

意識や興味関心が高い層に関する属性別の分析については、(意識や興味関心が高いと回答した場合に1をとり、そうでない場合に0をとる)線形確率モデルによる多重回帰分析により、結果の頑健性を確認した(表5)。統計学的に有意であった属性の特徴を表5に示すが、表4と概ね整合的な結果が得られたことが確認された。整合的な結果が得られた部分に橙色を付している。表4で属性の特徴として多く挙げられた「高年代」は、表5では統計的な有意差がないものが多かった。この点については、「年代」と意識や興味関心の間において、「受診・疾患有」、「医療費負担額大」、「医療費負担感大」といった要素が交絡因子となっており、多重回帰分析によってこれらの交絡因子を考慮することで「年代」の影響が減少したものと考えられる。なお、回帰分析の分散拡大要因(VarianceInflation Factor:VIF)は10を大きく下回っており、多重共線性の懸念は低いことを確認した。

「自覚健康度」については、受診の有無にかかわらず、自身の考えで回答いただいた健康状態である。共通する属性の特徴として挙げられた「自覚健康度高」の属性区分が他の属性ではどのような区分で多いかを探った。全体(2,018例)を母集団として、属性間のクロス集計を行い、全体の割合より3%高い属性区分を抽出し、属性区分ごとに特徴の傾向を推察した。また、先ほどと同様に、線形確率モデルによる多重回帰分析により、結果の頑健性を確認した。その結果、統計学的に有意であった属性の特徴も表6に合わせて示している。全体の割合より3%高い属性区分で示された「受診・疾患無」、「医療費負担額小」という特徴(図6)に加え、「最終学歴高」、「世帯年収高」、「医療費負担感小」という特徴が示された結果である。

そして、最後に、自覚健康度が高く、かつ意識や興味関心が高い属性区分の特徴分析を行った。線形確率モデルによる多重回帰分析により、統計学的に有意であった属性の特徴を表7に示している。費用内訳や薬剤費用への意識が高いのは、「女性」、「医療費負担額小」と回答した層で、全体より割合が高かった。医療保険制度や、自己負担以外の費用に関心がある、また医療保険料の自己負担額に意識がある、薬価の決め方への興味関心があるのは、「最終学歴高」の層で、全体より割合が高かった。

以上、自覚健康度が高く、かつ意識や興味関心が高い属性区分の特徴としては、「女性」「最終学歴高」である傾向が示された。

表5 意識や興味関心の高い層の属性の特徴(多重回帰分析)
表6 自覚健康度が高い属性区分の特徴
図6 自覚健康度が高い属性区分の特徴
表7 自覚健康度が高く、意識や興味関心が高い属性区分の特徴(多重回帰分析)

6. まとめ

「医薬品の価格や制度、価値に関する意識調査」の結果より、医薬品の価格や制度への意識や興味関心、意識や興味関心の高い層の属性の特徴等をみてきた。薬価が公定価格であること等の認識については十分とは言えないものの、意識や興味関心の程度は概ね7割と、高いと言えるだろう。

意識や興味関心の高い層の属性の特徴としては、「高年代」、「無職者」、「最終学歴高」、「介護の必要な家族有」「現在の受診・疾患有」「医療費負担額大」「医療費負担感大」「自覚健康度高」が挙げられた。しかし、属性の特徴として多く挙げられた「高年代」は、統計的な有意差は確認されないものが多かった。年代は、「受診・疾患有」、「医療費負担額大」、「医療費負担感大」といった他の要素が交絡因子になっている可能性がある。よって、医薬品の価格や制度への意識や興味関心が高い集団を説明づける要素としては、「高年代」というより、「受診・疾患有」、「医療費負担額大」、「医療費負担感大」、「無職者」、「介護の必要な家族有」、「最終学歴高」、「介護の必要な家族有」、「自覚健康度高」が高く、これらの要素が重要であることが推察された。「最終学歴高」では、教育期間が長く、知識欲が高い可能性もあるが、どのようなセグメントであるかは更なる検討の余地がある。

自覚健康度の高い層の属性の特徴としては、意識や興味関心の高い層の属性の特徴と共通する「最終学歴高」のほか、「世帯年収高」、「受診・疾患無」、「医療費負担額小」、「医療費負担感小」が挙げられた。自覚健康度の高い集団は、意識や興味関心の高い集団として挙げられた一方、この集団は「受診・疾患無」、「医療費負担額小」と医療への直接的なかかわりが少ない特徴を示した。そして、「医療費負担感」は低く「世帯年収」が高いセグメントがあることも推察される。また、自覚健康度の高い集団は、意識や興味関心の高い集団とは完全に一致するものではないことが示唆された(図7)

自覚健康度が高く、かつ意識や興味関心が高い属性区分の特徴分析より、意識や興味関心が高く、かつ、自覚健康度が高いセグメントは、「女性」「最終学歴高」である傾向が示された。意識や興味関心が高く、かつ、自覚健康度が高いセグメントはヘルスリテラシーが高い可能性が推察され、今後さらなるセグメントの同定や特徴分析が必要である。

支払い明細書を確認する理由からは、多くは、費用の内訳や薬の種類(名前や先発品、後発品の違い)、量の把握のために確認しており、費用内訳等に興味関心を示していることがわかった。一方で、記載内容の理解ができないことが支払い明細書を確認しない理由になっている場合があり、説明や中身の理解ができるようになれば支払い明細書を確認するきっかけとなり、意識が高まる可能性が示された。自らの意志で確認したいと思っていない(興味はないが何となく目を通している、確認するように言われた)人も含め、説明やそれを基にした理解が促進されることの重要性が浮き彫りとなった。また、自身の処方(薬を受け取る機会や種類、量、支払額)に変化があったときが、より支払い明細書を確認するきっかけとなる最大割合であったことから、現在は医療への関りの少ない、主には低年代でも、医療への関りの増加が意識や興味関心を高める可能性も示された。意識や興味関心が高まる起点の一つには、自身の「理解」が深まることや、「医療への関り」の増加があることが明らかになったと言えよう。

そして、図2、図3、図5で示されたように、費用内訳への意識が高い方が薬剤費用への意識が高く、医療保険制度の意識が高い方が自己負担以外の費用に関心があり、薬価が公定価格であることについて知っている方が、薬価の決め方に興味関心があった。すなわち、価格や制度への意識や興味関心が高い人がさらに知りたい等の興味関心が高かったことから、価格や制度の知識や認識などを増やすことにより、意識が高まる可能性を期待するものであった。

図7 意識や興味関心が高い集団と自覚健康度の高い集団

7. おわりに

ヘルスリテラシーとは、一般に健康に関連する情報を探し出し、理解して、意思決定に活用し、適切な健康行動につなげる能力のこととされる8)。ヘルスリテラシーの高い人は、適切な健康行動をとりやすく、その結果、疾病にかかりにくく、かかっても重症化しにくいことが知られている。また、ヘルスリテラシーを向上させることによる効果については、健康の維持・疾病の予防につながることも期待される。医薬品の価格や制度(受診時医療、医薬品に係る薬価や医療保険制度等)、価値に関する議論を進める上では、ヘルスリテラシーを高めることが重要であるかもしれない。

謝辞

本稿の作成にあたり、適切な助言と丁寧な指導をして下さった長岡所長に深く感謝する。調査および分析にあたり、西村客員研究員や、飯田統括研究員、伊藤統括研究員、岡田主任研究員、三浦主任研究員には細部に渡る助言をいただいた。ここに感謝の意を表する。

加えて、調査にご協力頂いた株式会社インテージヘルスケアの戸根氏に感謝する。

付表 回答者の属性
  • 1)
    日本医師会総合政策研究機構、「日本の医療に関する意識調査2022年臨時中間調査」日医総研ワーキングペーパー No.466(2022年5月24日)
  • 2)
    医薬産業政策研究所、「医薬品の多様な価値 -国民視点および医療環境変化を踏まえた考察-」リサーチペーパー・シリーズNo.79(2022年3月)、「医薬品の社会的価値の多面的評価」、リサーチペーパー・シリーズNo.76(2021年3月)
  • 3)
    厚生労働省、「2019年社会保障に関する意識調査」(2021年11月)
  • 4)
    日本医療政策機構、「2019年 日本の医療に関する世論調査」(2019年9月17日)
  • 5)
    健康保険組合連会「医療・医療保険制度に関する国民意識調査」(2017年10月)
  • 6)
    厚生労働省保険局長、平成30年3月5日付 保発0305第2号「医療費の内容の分かる領収証及び個別の診療報酬の算定項目の分かる明細書の交付について」に記載のとおり、病院及び保険薬局は、2018年4月から支払い明細書の発行が完全義務化されている。
  • 7)
    日本製薬工業協会、「第15回くすりと製薬産業に関する生活者意識調査」(2021年11月)
  • 8)

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