Points of View ライフサイエンスコミュニケーション

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医薬産業政策研究所 主任研究員 髙砂祐二

はじめに

製薬産業は、革新的医薬品の創出はもとより、新薬の研究開発活動を通じて多様なステークホルダーと連携するなかで、様々な最先端の科学技術の発展・普及に貢献し続けている。とりわけ、生命現象を解明するために発展してきたライフサイエンス(生命科学)は、人間の生存に密接に関わる技術分野であり、幅広い産業に応用されている。当然ながら、今日の製薬産業も最先端のライフサイエンス技術を活用して医薬品を創製し、患者に届けている。

昨今の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)パンデミックのもと、その治療薬やワクチンの必要性を国民が感じ、それに呼応する形で多くの製薬企業が研究開発に邁進してきている。また同時に、製薬産業が手掛けるライフサイエンスに対する国民の関心が高まりつつある。製薬産業はこれまでに、ライフサイエンスに基づいた最も確からしい様々な情報を、ウェブサイト等を通じて社会に向けて数多く発信してきているが、例えば難解な専門用語が多数羅列された資料等を、国民に正しく理解いただけているだろうか。また、多種多様な媒体から様々なライフサイエンスに関連する知見が発信されるなか、国民はより確からしい情報を選別することに苦労する場面も多くあるだろう。特段、目下のCOVID-19パンデミックでは、国民がより信頼できる科学的な情報を見極め、可能な限り正確に理解することに課題があると考えられる。

このような課題を解決するため、製薬産業には何ができるだろうか。その一つの手段が国民と製薬産業とのライフサイエンスコミュニケーションだと考える。製薬産業が手掛けるライフサイエンスをより正確に、かつ分かりやすく伝え、国民にそれを身近に感じていただき、ライフサイエンスに関連する多種多様な科学的知見の中から、国民自らがより確からしい情報を選別する。そして医療従事者のサポートのもとで、薬物選択等を含む治療方針を自らが中心となって決められる将来を実現することが重要と考える。そこで本稿では、このような未来像を実現するための一助となるであろう、製薬産業が実施するライフサイエンスコミュニケーションについてまとめるとともに、その取り組みの意義について考察する。

ライフサイエンスコミュニケーションとは

「サイエンスコミュニケーション」とは、「科学の面白さや科学技術をめぐる課題を人々に伝え、ともに考え、意識を高めることを目指した活動」であり、科学コミュニケーション、科学技術コミュニケーションと呼ばれることもある。単に科学者が研究成果を紹介するだけでなく、その課題や、研究が社会に及ぼす影響を多様なステークホルダー間でともに考え、理解を深めることが重要である1)

サイエンスコミュニケーションは、政府が1996年から5年ごとに策定している「科学技術基本計画」(2021年に策定された第6期から「科学技術・イノベーション基本計画」に名称変更)2)に常時明記されてきている。文部科学省 科学技術・学術審議会 総合政策特別委員会(第32回)の資料3)によると、図1のように、サイエンスコミュニケーションに関しては、科学技術に関する国民の理解増進(第1期:1996年~)、科学技術と社会との間の双方向のコミュニケーション(第2期:2001年~)、研究者等と国民の対話(第3期:2006年~)、国民の政策過程への参画(第4期:2011年~)、様々なステークホルダーによる対話・協働による共創(第5期:2016年~)へとその関係の深化が提唱されてきたとある。加えて、第6期では、「多層的な」サイエンスコミュニケーションを強化するとあり、国をあげてサイエンスコミュニケーションに取り組まれていることが分かる。しかしながら、産業界に所属する研究者や技術者によるサイエンスコミュニケーションの取り組み事例も見られるものの、現在に至るまでは、主としてアカデミアの研究者による取り組みが中心となってきている。

図1 科学技術基本計画におけるサイエンスコミュニケーションの変遷

具体的には、科学館や研究機関での展示等を通じた一般公開イベント、科学者と一般の人々がカフェ等で飲み物を飲みながら科学について語り合うサイエンスカフェといった場が設置される。加えて、科学者が一般の方々に対して科学の面白さを直接伝える理科教育や講義、実験、あるいは様々なメディアを通じた取り組みもサイエンスコミュニケーションと捉えることができる。

本稿では、国民と製薬産業との間で実施されるサイエンスコミュニケーションを取り上げる。なお、製薬産業としてはライフサイエンス領域に特化した研究開発を実施することが多いため、それを「ライフサイエンスコミュニケーション」と定義する。

国民がイメージする製薬産業

日本製薬工業協会(製薬協)は、「くすりと製薬産業に関する生活者意識調査」4)を定期的に実施している。2021年7月に実施された本調査によると、国民の製薬産業に対するイメージは、「社会的必要性の高い産業」、「技術力が高い産業」、「研究開発に熱心な産業」等で肯定層の割合が8~9割程度と高い。一方で、「情報を積極的に提供している産業」、「消費者の声を聞こうとしている産業」といったイメージでは、肯定層の割合がいずれも5割台であり、国民と製薬産業間の双方向のコミュニケーションには改善の余地があると推察される。(表1)

どのような情報を製薬産業から国民に伝えられるだろうか。「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)に基づく医薬品の広告規制5)により、医療用医薬品については、顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること、特定の商品名が明らかにされていること、一般人が認知できる状態であることといった要件6)に該当する広告が制限されており、製薬企業は国民に対して自社製品に関連する情報を伝達することが困難である。そのような状況下、高い技術力を有し、熱心に研究開発を実施していると評価されている製薬産業は、どのように研究開発を行い、どのような技術に強みを持つのか、国民により一層理解いただく必要がある。それらにライフサイエンスが如何に活用されているのかを国民に伝え、疑問に対してお応えできるような、双方向型の連携を可能とするライフサイエンスコミュニケーションの取り組みが、国民と製薬産業が連携するうえで有効な手段の一つであると筆者は考える。

表1 国民が持つ製薬産業のイメージ

製薬企業のウェブサイトを活用した情報発信

製薬企業がライフサイエンスに関する情報を発信するツールとして、各社のウェブサイトがある。そこで、国内製薬企業21社7)のウェブサイトについて、ライフサイエンスに関する情報発信の現況を確認するため、疾患、創薬・製剤技術、科学教材の3カテゴリーの情報が、21社のウェブサイトで発信されているかを調査した。図2にその結果を示す。各種疾患に関連する情報を発信している企業は16社(76.2%)で最も多かった。モダリティをはじめとする創薬技術や製剤技術に関連する情報発信は、10社(47.6%)で確認された。他方、体の仕組みや、医薬品と体の関係を紹介するといった科学教材コンテンツを発信している企業は、5社(23.8%)であった。主として患者やその家族向けに疾患情報を充実させている企業が多い一方で、疾患を持たない若年層を含む国民も求めるであろう、製薬企業の技術もしくは科学教材コンテンツを発信する企業は、前者と比較して少ない傾向が見て取れた。

また、網羅性の観点から明確な数値とは言えないが、研究所や工場の施設見学は5社、小中高校生向け出張授業は4社、同じく小中高校生向け科学実験は4社で実施されていることが各社のウェブサイト上に掲載されていた。以上のことから、国内製薬企業は、ライフサイエンスに関連する情報をウェブサイト上で単に発信するだけではなく、出張授業や科学実験といった国民と製薬企業が双方向の連携が可能なライフサイエンスコミュニケーションが実践されている事例を確認することができた。

図2 ウェブサイトで各種ライフサイエンス情報を発信している国内製薬企業数

製薬産業が取り組む双方向型ライフサイエンスコミュニケーションの事例

上項のようなウェブサイトを活用する手法は、そのほとんどが製薬産業から国民への単一方向の情報発信であり、双方向の連携を意図する狭義のライフサイエンスコミュニケーションには含まれない。では、実際にどのようなライフサイエンスコミュニケーションの取り組みが製薬産業によって実施されているのか。双方向型の連携として代表的な、一般公開イベントおよび出張授業の事例を紹介する。

1. 一般公開イベント

日本免疫学会は、サイエンスコミュニケーションの一環として、展示・体験型イベント「免疫ふしぎ未来」を年に1度開催している8)。今年度、本イベントはCOVID-19の影響から日本科学未来館でのオンサイトイベントとともに、オンラインでもアカデミア研究者と一般の方々が直接議論できるトークコーナー等が催され、免疫学の基礎から、がんやアレルギー、さらには新型コロナウイルスの治療へ応用した免疫学の最前線まで、免疫学に関連するあらゆる情報を発信し、若年層から成人に至る国民に免疫学の面白さを共有している。

注目すべき点は、本イベントに製薬企業としてMSD株式会社(以下、MSD社)が参画し、「がんと免疫」に関するパネルを展示したり、体をウイルスから守る抗体の仕組みについて楽しく学べる企画を開催したりと、MSD社自らがイベントを出展していることである。

「免疫ふしぎ未来」には、日本免疫学会に所属し、最先端の免疫学を研究するアカデミアの専門家の先生方、加えて、科学技術の専門知識とコミュニケーションスキルを活用し、科学と社会を結び付ける役割を担う日本科学未来館のサイエンスコミュニケーター等がともに参画している。製薬企業として、それらの専門家が国民とどのように議論し連携を深めているか、それらのノウハウを直接学ぶことができる。加えて、専門家からのサポートを受けながら、自ら実践し、国民と直に接することで、アカデミアの手掛ける免疫学を医薬品として社会実装する取り組みに、製薬産業が貢献している背景を伝えられる良い機会であることは言うまでもない。

また、海外に目を転じると、例えば米国マサチューセッツ州ケンブリッジでは、ケンブリッジ・サイエンス・フェスティバルが年に1度開催されており9)、多様な出展を通じて、若年層から成人に至る全ての一般国民向けに、最先端の科学、技術、工学、芸術、数学(STEAM)を紹介している。本イベントでは、当地に拠点を置く多くの製薬企業がスポンサーとして参画しつつ、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)等のアカデミアとともに、製薬企業各社が独自のブースを設置して、国民がライフサイエンスに接する機会を提供している。このように、ライフサイエンスクラスターを中心に開催するサイエンスコミュニケーションの大規模な取り組みは日本でほとんど例が無く、クラスター形成が推進されつつある国内でも、国民を巻き込んだコミュニティの醸成が待ち望まれる。

2. 出張授業

住友ファーマ株式会社(以下、住友ファーマ社)は、研究職のみならず様々な職種の社員が講師となり、生命倫理をテーマにした出張授業を、中学校や高校にて2012年より継続して実施している10)。「科学技術と人の幸せ」と題した本プログラムでは、ゲノム解析や遺伝等の基礎知識のレクチャーに留まらず、「国民全員を対象に全ゲノム解析実施が義務化されたら、解析結果を受け取るか、受け取らないか」といった質問を受講者に投げかけ、その問いに対して自ら考え、他の受講者の意見を聞き、全ゲノム解析のメリットとデメリットを理解したうえで、自分の意見を再考する。すなわち、知識の習得だけではなく、生命倫理の一例を通じて物事には多様な考え方があることを理解し、自分の意見を導き出す道徳的実践力の育成を目的としている。言うまでもなく、受講者の意見には講師役である住友ファーマ社の社員よりコメントを返し、双方向型のコミュニケーションを確立している。ライフサイエンスの進歩をレクチャーすることに加えて、進化したライフサイエンスを社会実装する際に発生し得る、倫理的・法的・社会的課題(ELSI;Ethical, Legal and Social Issues)にまで踏み込んだプログラムは、生命の重みに対する感受性が確立する途上の若年層にとって難しい内容ではあるが、生命関連産業である製薬企業だからこそ取り組める要素の一つではないだろうか。

なお、本プログラムの実施に当たっては、遺伝診療の専門家の監修のもと、授業で利用する資料、動画等を作成していたり、授業を遂行するうえでは学校教職員と協働していたりと、製薬企業単独では実現不可能な取り組みであり、多様なステークホルダーと連携しつつ、ライフサイエンスコミュニケーションの場が形成されていることを付け加えたい。

製薬産業が対応可能な出張授業の教科としては、理科(生物)、社会(公共)、総合的な学習(探究)の時間等が挙げられる。2018年3月に告示され、2022年4月より実施されている高校の新たな学習指導要領11)では、これまでの「総合的な学習の時間」が、「総合的な探究の時間」に改定され、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら「見方・考え方」を組み合わせて統合させ、働かせながら、自ら問いを見いだし探究する力を育成するようになった。「総合的な探究の時間を効果的に実践するため、地域、アカデミア研究者、企業等、様々な教育資源を活用することが重要である」12)ともされており、小中学校も含めて、教育現場と企業との連携が今後ますます活発になることが想定される。日本経済団体連合会(経団連)の情報13)によると、製薬以外の産業も、理科教育を通じた多種多様なサイエンスコミュニケーションの取り組みを実施していることが窺える。未来の製薬産業を支える次世代育成の観点からも、質・量ともに他産業と比較して見劣りしない取り組みが必要ではないだろうか。国民の金融リテラシーを向上すべく、改訂学習指導要領にて金融教育が充実されたように14)、将来的には、初等中等教育課程から製薬産業の手掛けるライフサイエンスを、より深く知ることができる環境の整備に期待したい。

ライフサイエンスコミュニケーションの意義

本項では、ライフサイエンスコミュニケーションの取り組みを実施する意義を考えてみたい。

製薬産業が創製する医療用医薬品は、特定の疾患を有する方々に対して処方されるものであり、特段疾患を持たない国民とはほぼ接点が無い。そのため、第一に、健康な国民に対してライフサイエンスコミュニケーションを通じてアプローチできることには、一定の意義があると考えられる。広告規制の観点から特定の医薬品に関する情報を発信できないが、医薬品を取り巻く最先端のライフサイエンスを少しでも理解いただくことで、国民のライフサイエンスリテラシー15)の向上が期待できる。そうすることで、健康な国民が将来疾病を患った際、最も確からしい科学と疑わしい非科学を区別し、かつ医療従事者の支援を受けながら、治療方針を自らが中心となって決められる将来像が描ける。その実現に向けて、生命関連企業群である製薬産業によるライフサイエンスコミュニケーションが、国民へのサポートの一つになると考えられる。

第二に、製薬産業側にも創薬と社会との関係を再認識することができる点を意義として掲げたい。製薬産業としては、最先端のライフサイエンスを患者の価値へ変えるべく、患者とその家族のために研究開発を日々継続している。しかしながら、場合によってはライフサイエンスの進化が社会に混乱を与える可能性もあるだろう。先述した住友ファーマ社の出張授業の題材にあるような、ゲノム医療による生命倫理の課題等は適当な事例と言える。製薬産業が実施する創薬が社会的にどのような影響をもたらすのか、あるいは、国民が製薬産業の手掛けるライフサイエンスをどのように捉えているのか把握するため、すなわち、製薬産業が社会リテラシー16)を向上させるためにも、ライフサイエンスコミュニケーションは必要な手段であると考えられる(図3)。なお、アカデミア研究者は、公的資金を研究費として利用する意義を国民に分かりやすく説明する責任がある16)。企業にも同様の責任があろうことを付け加えたい。

図3 製薬産業が取り組むライフサイエンスコミュニケーションのイメージ

おわりに

本稿では、製薬産業が取り組む国民とのライフサイエンスコミュニケーションについてまとめた。

国内製薬企業のウェブサイトを調査したところ、ライフサイエンスに関連する各種情報が発信されている現状を把握し、その中で、科学教材コンテンツを発信する企業が少ないことが明らかとなった。その要因の一つとしては、医薬品に共通する基礎知識の習得を見据えた類似コンテンツが、各社ウェブサイトで重複して発信される懸念点が考えられる。例えば、各製薬企業が注力する創薬技術等に特化したコンテンツを各社ウェブサイトに、医薬品に共通するものは製薬協の既存コンテンツ17)を周知する等の工夫が必要ではないだろうか。

また、製薬産業が取り組む双方向型ライフサイエンスコミュニケーションの具体的事例を紹介し、その意義について考察した。COVID-19により、パンデミック前に実施できていた双方向のライフサイエンスコミュニケーションを止む無く中断しているケースもあるだろう。オンラインを活用した双方向の連携等を取り入れ、Withコロナ、Afterコロナに即した取り組みが増加していくことを願いたい。

これまでに、主として理科教育に付随するかたちで、小中高校生と製薬産業とのライフサイエンスコミュニケーションを取り上げてきたが、他の世代に対しても、このような取り組みが重要なコミュニケーションツールであることは言うまでも無い。例えば、薬学部を含む大学生には、近年の進展が著しい製薬産業が取り組む遺伝子治療等の新規モダリティを紹介したり、社会人向けには、多様な医薬品が各疾患でどのように活用されているか理解を深めたりといったように、世代別に何を題材としてライフサイエンスコミュニケーションを推進するのか検討する必要もある。

ライフサイエンスの進化、深化、複雑化に伴い、国民と製薬産業との意思疎通が今後ますます難易度を増していくものと想定される。ライフサイエンスコミュニケーションの取り組みは、短期的な投資効果や創薬との相乗効果、あるいは1イベント当たり参加できる人数が少ない等の非効率性の面から、企業にとっては社会貢献活動の枠組みを超えられないといった課題もある。しかしながら、その意義を再度認識した上で、その時点で最も確からしいライフサイエンス、およびそれを活用した製薬産業の研究開発について、国民に分かりやすく伝え、かつ連携できるライフサイエンスコミュニケーションをより一層推進してはどうか。そうすることで、医薬品がどのような仕組みで疾患に効果を示すのか、多様な技術を用いた医薬品がどのように創製されているのかを、国民一人ひとりが認識できる。そして、将来疾病を患った際、医薬品の臨床試験情報等を自ら解釈し、薬物選択を含む治療方針を自主的に選別できるような医療に、製薬産業がライフサイエンスコミュニケーションを通じて少しでも貢献することができればと願う。

補足 製薬以外の産業によるサイエンスコミュニケーションの事例

コラム: サイエンスコミュニケーションとリスクコミュニケーション

サイエンスコミュニケーションは、科学のメリットを伝えるだけではなく、デメリットも伝えたうえで相互に意思疎通を図る。そのような意味合いから、多様なステークホルダー間で社会を取り巻くリスクに関して、相互に理解を図るリスクコミュニケーションは、サイエンスコミュニケーションに含有される位置づけと考えられる。

2018年の田村の報告18)では、患者と製薬企業のリスクコミュニケーションの観点から、医薬品の広告規制の在り方に関して考察している。そのなかで、薬機法上、「国民は医薬品の適正使用のために、医薬品に関する知識と理解を深めることが、責務とされた」ことにより、「適切な情報に適切なかたちで患者さんがアクセスできる」仕組みを再考するよう提案している。

2020年、厚生労働省医薬・生活衛生局は事務連絡19)を発出し、「医薬関係者以外の一般人を対象とする医療用医薬品の広告は法令及び通知により禁止されているが、適正使用に資するための情報提供は広告とは区別されており、特に患者(患者の家族を含む。)から問合せを受けて医薬品製造販売業者が患者に対して必要な情報提供を行うことは、原則、広告には該当せず可能である」との医療用医薬品に係る情報提供の基本的考え方を示した。すなわち、患者からの要求に対して、製薬企業が科学的根拠に基づいて回答することが可能となった。

この事例のように、患者を含む国民と製薬企業がリスクコミュニケーションをより一層深められるよう、規制の解釈等の整備が今後も推進されることに期待したい。

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