Points of View フレイルの最新動向について

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医薬産業政策研究所 統括研究員 伊藤 稔

1. はじめに

次世代ヘルスケアの重要目標の一つは「健康寿命の延伸」にある。その実現のためには、ヘルスケアの重心が、病気の治癒を中心とする「診断・治療」から、病気になる前の「未病・予防」や、病気に罹患しても可能な限り制限を受けずに生活していく「共生」に拡大することが望まれる。「健康寿命の延伸」との観点より「未病・予防」を考慮した場合、その主役の一人は高齢者である。

筆者は、政策研ニュース前号(No65)1)において介護系データを元に高齢者の健康状況を経年的・年齢階級別に把握し、健康を損なう主な原因疾患を検討した。その結果、75歳以上の後期高齢者において介護が必要となった主な原因の構成比(2019年)は、認知症が最多の22.2%を占めた。しかしながら、高齢による衰弱(16.5%)、骨折・転倒(15.6%)がそれに次ぎ、合計では認知症を上回る割合を占めた。つまり、高齢者の健康寿命の延伸のためには、これら2原因への対策(予防)が重要であると考えられた。そこで本号においては、これら2原因と深く関係する概念であるフレイルについて、その最新動向を把握することを目的に研究を進めた。

2. フレイルとは

図1 フレイルの過程

フレイルとはFrailtyを意味する。従来は「虚弱」が日本語訳として使われたが、不可逆に老い衰えた状態との印象を与え、Frailtyの多面性を表現できないとの学術的背景より、日本老年医学会は「フレイル」を訳語として使用する合意を得て、2014年5月に「フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント2)」を発出した。同ステートメントにおいて、フレイルは「高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転機に陥りやすい状態」と示されている。また、「健常な状態から要介護状態に陥る中間的な段階」と考えられている。(図1)

ここで注目すべき点は、フレイルには然るべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されていることである。フレイルに陥った高齢者を早期に発見し適切に介入することにより、生活機能の維持・向上を図ることが期待できる。

図2 フレイルの多面性

また、フレイルは多面性を持った概念であり、日常生活(歩行、食事等)を営むために必要な身体能力が衰える身体的フレイル、外出減少や独居などにより社会との繋がりが希薄になる社会的フレイル、認知機能低下や抑うつなどの精神心理的フレイルといった3つの表出の仕方がある。4)(図2)

身体的フレイルに関連する概念として、「ロコモ」並びに「サルコペニア」がある。「ロコモ」とはロコモティブシンドロームの略であり、運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態である。「サルコペニア」は、加齢に伴い骨格筋量が低下し、身体機能が低下した状態である。また、身体的フレイルを誘導するリスク因子として口腔機能に着目した「オーラルフレイル」との概念も提唱されている。65歳以上の高齢者でオーラルフレイルが認められた人は、身体的フレイル発症リスクが2.41倍となるとの調査結果も示されている。5)

図3 2020年改定 日本版CHS基準(J-CHS基準)

本邦におけるフレイルの診断は、CHS基準(Cardiovascular Health Study基準)を修正した日本版CHS基準(J-CHS基準)6)が代表的な診断法として位置づけられている。①体重減少、②筋力低下、③疲労感、④歩行速度、⑤身体活動の5項目のうち3項目以上が該当する場合をフレイルと分類し、1~2項目が該当する場合をプレフレイル(フレイルの予備状態)、該当なしを健常と分類する。(図3)

3. フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言

フレイルに関連した大きな動きとして、2022年4月1日に日本医学会連合は、57の日本医学会連合加盟団体並びに23の非加盟団体とともに「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言4)」を発表した。表1に宣言の主文を示す。

宣言は4つの項目から構成されている。第1項目においてはフレイル・ロコモの概念説明が成され、フレイル・ロコモの人はそうでない人と比較して要介護に至る危険度が約4倍ある旨が注意喚起されている。第2項目においては、予防と早期対応の重要性、適切な対策により危険度が低下し健常な状態に戻れる旨、ライフコースに応じた対策等の必要性が言及されている。第3項目は国民の健康長寿達成への決意表明であり、医学会宣言を共同で発出した個々の参加学会・団体の取り組みビジョン/目標と活動計画が別表にて示されている。第4項目では、国民に向けた活動目標として「80GO(ハチマルゴー)」運動の展開を謳っている。80GOとは、80歳で歩いて(若しくは、自ら車いす操作して)外出しているという目標であり、目標歩行速度の目安が10秒で11m(秒速1.1m、時速4km)と例示されている。

表1 フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言

フレイルは、まだ一般的に認知が進んでいるとは言い難い状況である。東京都健康長寿医療センター研究所の実施した調査7)(東京都大田区在住の65-84歳の男女約1万人が解析対象、2018年7月に調査実施)においては、フレイルの認知度は20.1%(男性15.5%、女性24.3%)に留まり、フレイル対策が必要な者では認知度が低いという実態が示されている。

2020年4月から新たに施行された厚生労働省の「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」に関連して、後期高齢者向けの新質問票が作成され、いわゆる「フレイル健診」が開始された8)。フレイル健診の開始並びにフレイル・ロコモ克服のための医学会宣言を契機に、フレイルの認知が十分に向上することに期待したい。

4. フレイルの予防・介入(非薬物関連)

フレイルの予防・介入戦略においては、「運動」「栄養」「社会環境(人とのつながり)」等の非薬物的介入がメインとなる。新型コロナウイルス感染症による影響も含めて縦覧してみたい。

4-1運動からみた予防・介入

運動が高齢者の身体機能向上に有用であることは、65歳以上の高齢者を対象とした運動プログラムのシステマティックレビュー9)において示されている。運動プログラムの実施は、筋力向上、運動機能向上、うつ症状改善、ADL改善、転倒予防等に効果が認められた。また、レジスタンス運動(筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動)や、2種類以上の運動種を含むマルチコンポーネント運動(有酸素運動、レジスタンス運動、バランス運動等を組み合わせた運動)でこれらの効果が得られやすい傾向が示されている。また、運動の総実施時間が長いほうがより効果的であったとされている。つまり、65歳以上の高齢者に対する運動機能向上、転倒予防等を目的とした運動プログラム実施は概ね有用であり、レジスタンス運動を中心に複数の運動プログラムを組み合わせ、比較的長期に渡って実施することが重要であることが示されている。

このように有用とされた運動であるが、新型コロナウイルス感染禍における自粛生活等による生活不活発を基盤とするフレイルの状態悪化が心配される状況となってきている。約4割の高齢者に外出頻度の顕著な低下が見られたとする調査や1週間当たりの身体活動時間が約3割減少したとの調査が散見され、サルコペニアを中心としたフレイルが進行している現象が多面的に認められたとの報告もなされている。昨今は感染状況も落ち着きを見せつつあり、感染予防に配慮しながら外出機会を増やし、身体活動量を改善させることが重要である。10)11)

4-2栄養からみた予防・介入

国立長寿医療研究センターの「介護予防ガイド実践・エビデンス編」12)によると、我が国における地域で生活している高齢者では、加齢に伴い総エネルギー量やたんぱく質、脂質といった栄養素の摂取量が減少するとされており、低栄養またはそのリスクがある者が約4割いるという報告がなされている。低栄養状態の高齢者は、その多くがフレイルやサルコペニアを合併している。このような高齢者に対して適切な栄養介入を行うことで、体重の増加や身体機能(骨格筋量、筋力、歩行能力、ADL)の改善、QOL向上などが可能であることが示されている。特に高齢者のたんぱく質摂取については、少なくとも毎食25~30g程度(1日75g以上)を摂取しなければ、骨格筋で有効なたんぱく質合成が1日を通して維持されない可能性が示唆されている。12)また、サルコペニア高齢者に対しては、運動と栄養の複合介入が、単独介入よりサルコペニア改善に有効であると考えられている。13)

栄養に対する新型コロナウイルス感染禍の影響については、もともと過栄養の高齢者はさらに体重が増加し、低栄養状態の高齢者はさらに栄養状態が悪化するという相反する二極化が顕著となり、その傾向は特に独居の高齢者で多いという結果が示された。一方で、介護施設入所高齢者では、体重減少を認めたものが67%に及び、特に23%は5%を超す減少を認めたとの調査結果も示されている。定期的な栄養評価の重要性が示唆されており、意図しない体重減少が認められたら早期に栄養介入を進めることが重要である。14)

4-3社会環境からみた予防・介入

社会的孤立、閉じこもり等が社会的フレイルの一つの現象である。社会的フレイルの定義に関するコンセンサスはまだない状況であるが、社会的フレイルが高齢者の将来の健康へ負の影響をもたらすとの認識は概ね一致している。社会的フレイルは、身体的フレイルや精神心理的フレイルよりも先行して生じ、社会的フレイルが身体的フレイルを引き起こすとされている。しかし、身体的フレイルに比し、社会的フレイルは高齢者自身が気付き難いとの特性がある。15)

仕事、近所づきあい、地域行事への参加、環境美化活動への参加、趣味や娯楽の活動、老人クラブ、ボランティア活動など、社会との交流が増すほど健康感や生活満足度が高くなり、精神面のうつ的傾向は少なくなると報告されている。従って、地域社会との交流を維持する方策を講じ、閉じこもり予防・支援にもつなげるようにすることが望ましいとされている。16)

新型コロナウイルス感染禍による外出頻度低下は前述の通りであるが、感染予防のみならず、生活不活発の予防、人との繋がり低下の予防も意識されるべきである。近年では、オンライン技術を活用し対面型とオンライン型を融合したハイブリッド型フレイル予防システム構築の動きがみられるようになってきている。身体は離れていても心が近づくことができる地域社会の実現に期待したい。10)

5. フレイルの予防・介入(薬物関連)

フレイルと薬物の関係をみた場合、ポリファーマシーの問題と慢性疾患管理の問題が重要である。

5-1ポリファーマシーとフレイル

図4 年齢階級・薬剤種類数階級別の件数の構成割合(院外処方)

高齢者は、複数の疾患に罹患していることも稀ではなく、多数の薬剤を服用することを余儀なくされるケースも十分にあり得る。厚生労働省の令和2(2020)年社会医療診療行為別統計の概況17)によると、院外処方において5種類上の薬剤が処方された件数の割合は、65~74歳では27.2%、75歳以上では40.7%であった。(図4)

何種類からがポリファーマシーに該当するか厳密な定義はないが、5種類以上と考えられることが多いとされている。地域住民を対象にした横断的研究ではフレイルと診断した高齢者で有意に薬剤数が多く、フレイル高齢者を対象とした横断的研究でもフレイルを有すると有意にポリファーマシー(5剤以上)の頻度が高くなることが示されており、ポリファーマシーはフレイルのリスクである可能性が高いと考えられている。15)

ポリファーマシーは多種の薬剤を服用している状態と捉えがちであるが、厚生労働省が2018年5月に発出した「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)18)」においては、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連し薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態であると定義されている。

図5 ポリファーマシーと薬物有害事象の頻度

高齢入院患者で薬剤数と薬物有害事象の頻度の関係を解析した報告では、6種類以上で薬物有害事象のリスクが特に増加することが示されている。(図5)19)フレイルの高齢者では、薬物有害事象を引き起こすことにより病状が悪化し、フレイルが悪化する可能性がある。薬物有害事象を考慮した場合は、薬剤数が少ないことが望ましいが、高齢者は複数の疾患を有しており必要な薬剤も多い。ポリファーマシー対策のためには、個々の患者毎に薬剤の必要性について慎重に見直しを行うことが必要である。特に薬物有害事象を引き起こしやすい、あるいは重篤な薬物有害事象が起こる可能性があるハイリスクな薬剤を中止・変更していくことが重要である。15)日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン201519)」においては、特に薬物有害事象のリスクの高い75歳以上の高齢者、75歳未満でもフレイルあるいは要介護状態の高齢者を対象に、薬物有害事象の回避を主目的とした「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」が示されている。

図6 ポリファーマシーと転倒の発生頻度

一方で、フレイルは転倒を引き起こすリスク因子でもある。65歳以上の外来通院患者の縦断的観察研究では、5種類以上で転倒の発生頻度が有意に増加することが示された。(図6)19)

ポリファーマシーにより易転倒性が上昇する理由を一元的に説明することは困難であるが、薬剤の中には、鎮静作用や降圧作用、抗コリン作用など、脳の働きを阻害しうる薬が高確度で含まれるからではないかと指摘されている。転倒しやすい高齢者がいる場合には、ポリファーマシーを解消できないか薬剤の見直しを行い、薬剤の減量や中止を検討する必要性がある。15)

5-2慢性疾患管理とフレイル

図7 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標

糖尿病や高血圧等の慢性疾患では、厳密な疾患管理に伴う有害事象が悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、フレイルの高齢者に対しては特別な配慮が考慮される。高齢者糖尿病では重症低血糖をきたしやすいとの問題がある。重症低血糖は、認知機能を障害し、心筋梗塞や脳卒中等の心血管イベントのリスクとなり得る。このような状況を背景に日本糖尿病学会と日本老年医学会は、高齢者糖尿病の治療向上を目的とした合同委員会を設置し、2016年5月に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を作成した。(図7)

作成に当たっての基本的考え方は以下の通りである。①血糖コントロール目標は、患者の年齢、認知機能、身体機能(基本的ADL・手段的ADL)等を考慮して個別設定する、②重症低血糖が危惧される場合は目標下限値を設定し、より安全な治療を行う、③高齢者では目標値を下回る設定や上回る設定を柔軟に行うことが可能。つまり、患者の日常生活活動度(ADL)や認知症の程度に合わせて目標値を緩める工夫がなされ、フレイルの高齢者に対しては特別な配慮が示されている。20)

高齢者高血圧については、過降圧により転倒リスクが増大する可能性を指摘する声がある。「高血圧治療ガイドライン2014」21)においては、虚弱(フレイル)高齢者に関する記載が追記された。高齢者における虚弱の状態を表す指標として歩行に着目し、6メートル歩行を完遂できない程度の虚弱(フレイル)高齢者の降圧薬開始基準については個別に判断することをコンセンサスとして推奨し、個別判断に際しては目標血圧値もあわせて決定するとした。最新版のガイドラインにおいても、フレイル高齢者に対しては薬物治療開始基準や降圧目標は個別に判断するとされている。

6. フレイル等の治療薬開発動向

現時点でフレイルの治療薬として承認された薬剤はまだないため、フレイル等のグローバルな治療薬開発動向を調査した。調査は「明日の新薬(㈱テクノミック)」のグローバル検索機能を用いて実施した。分野は医薬品並びに再生医療とし、ステージはActive(前臨床から申請中まで)とした。なお、適応症は「フレイル」「サルコペニア」「ロコモティブシンドローム」としたが、「サルコペニア」は「筋肉減少症」として検索した。結果を表2に示す。結果として「フレイル」は1件、「筋肉減少症」は2件がヒットし、「ロコモティブシンドローム」はActiveな検索結果は0であった。(2022年5月16日現在)本邦において、フレイル等が75歳以上高齢者の健康を損なう主な原因に占める状況を勘案すると、残念な開発動向と言わざるを得ない現状であった。ヒットした3件に関する公開情報について更に調査を進めたところ、米Longeveron社の治験製品に関しては、2022年1月に国立長寿医療研究センターより、加齢に伴うフレイル患者を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験(医師主導治験)に関する支援契約を締結した旨の発表があった。22)同製品は、ヒト(同種)由来間葉系幹細胞からなる再生医療等製品であり、Longeveron社が米国で実施したフレイル高齢者対象の第Ⅱ b相臨床試験では、運動能力の低いフレイル高齢者において、投与後270日目の歩行距離が統計学的に有意に改善されたという結果が得られた旨が言及されている。フレイルを対象とした数少ない治療薬であり、今後の動向に期待したい。

表2 フレイル等の治療薬開発動向

その他の公開情報に基づく治療薬開発動向としては、日本医療研究開発機構(AMED)の平成30年度「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE):第3回公募」において、帝人株式会社の「フレイルの予防薬・治療薬の研究開発」が採択された旨が公表されている。23)2019年5月14日には帝人株式会社のプレスリリースとしてAMEDと委託研究開発契約を締結、産官学連携の研究開発を本格的に開始し、世界初となるフレイルの予防薬・治療薬の開発に取り組む旨が公表されている。24)研究期間は2018年度から2027年度となるが、こちらの動向についても注目したい。

7. フレイルに関連した行政の動向

図8 保険事業と介護予防の現状と課題

フレイルに関連した行政動向における近年のトピックスは、「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」(以下、一体的実施)と思われる。本邦の医療保険制度においては、75歳に到達すると国民健康保険制度等から後期高齢者医療制度に異動する。この結果、保健事業の実施主体についても市町村等から後期高齢者医療広域連合に移ることとなり、74歳までの国民健康保険制度の保健事業と75歳以降の後期高齢者医療制度の保健事業が、適切に継続されないとの課題が指摘されていた。また、広域連合は、多くの場合健康診査のみの実施となっている状況も指摘されていた。高齢者は複数の慢性疾患に加え、認知機能や社会的な繋がりが低下するフレイル状態になりやすい等、疾病予防と生活機能維持の両面にわたるニーズを有している。しかしながら、高齢者保健事業は広域連合が主体となって実施し、介護予防の取組は市町村が主体となって実施していたため、健康状況や生活機能の課題を一体的に対応できていないという課題もあった。25)(図8)

このような課題につき、市町村は、市民に身近な立場からきめ細やかな住民サービスを提供することができ、介護保険や国民健康保険の保険者であるため保健事業や介護予防についてノウハウを有していることから、高齢者の心身の特性に応じた保健事業を進めるため、個々の事業については図9に示すように市町村が実施できるように法整備がなされ、一体的実施の取組が令和2年4月から開始された。令和4年2月現在、全体の約5割に当たる793市町村が実施計画を申請済みであり、令和6年度までに全ての市町村で一体的実施を展開することを目指し、取組が進行している。27)

一体的実施について、特にフレイルに着目したイメージは次の通りとなる。まず、地域で事業コーディネートを担う医療専門職が、前述した「フレイル健診(フレイル状態のチェック)」を含む医療・介護データを分析し地域の健康課題を把握する。これまで保健事業で行っていた疾病予防・重症化予防と併せて介護予防を一体的に行い、フレイル予防にも着眼した高齢者支援を行う。社会参加を含むフレイル対策を視野に入れた取組を実践し、高齢者の健康づくり参加を目指す。また、フレイル状態の高齢者を適切な医療・介護サービスに接続する。25)

図9 高齢者の保険事業と介護予防の一体的実施(市町村における実施のイメージ)

一体的実施については、各市町村の現状に応じた取組事例が多数紹介されており28)、各市町村の創意工夫が窺い知れる。適切な医療・介護サービスが提供されることで、フレイル予防並びに疾病予防・重症化予防が促進され、健康寿命の延伸に寄与することに期待したい。

8. まとめ

高齢者の健康寿命延伸を考慮した場合、フレイルへの対応が重要であることは論を俟たない。フレイルの予防・介入は、運動・栄養等の非薬物的対応がメインであるが、新型コロナウイルス感染禍の影響を受けており、今後の動向を注視することが望まれる。一方で、「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言」や「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」は、フレイル対応への福音であり、今後の展開に期待したい。

フレイルに対する製薬産業の貢献を考慮した場合、ポリファーマシー対策を含む薬物適正使用の一層の推進が望まれる。また治療薬開発も期待されるが、前述の通り開発状況は十分とは言い難い。新型コロナウイルス感染症においては、ドラッグ・リポジショニングが一定の成果を示し、データ利活用の試みもなされた。現状、医療・介護データ解析は、地域の健康課題把握等にのみ使用されているが、フレイル治療に重きを置いたドラッグ・リポジショニングへの活用を提案したい。また、ポリファーマシー対策を含む薬物適正使用にも、医療・介護データ解析が寄与する可能性がある。フレイル対策におけるデータ利活用の推進は一考の価値があると思われる。

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