目で見る製薬産業 世界売上高上位医薬品の創出企業の国籍 -2019年の動向-

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医薬産業政策研究所 主任研究員 澁口朋之

はじめに

医薬産業政策研究所では、医薬品世界売上高上位100品目について、各品目の基本特許1)を調査し、出願時の医薬品創出企業を継続的に調査・報告している2)。今回、2019年の世界売上高上位100品目の企業国籍の動向を調査した。

2019年売上高上位100品目3)の概要

IQVIA World Review Analyst 2020による2019年の医薬品市場は1兆2,624億ドルで、昨年から3.3%増加した。医薬品売上高上位100品目(以下、上位品目)の売上高における市場占有率は約32%であった。2019年の上位品目の売上高合計は4,013億ドルであり、昨年から6.4%増加した。

上位品目の薬効分類(ATC code Level 1)をみると、2018年同様に抗悪性腫瘍薬・免疫調節薬が26品目で最も多かった(図1左)。続いて消化器官用剤及び代謝性医薬品、中枢神経系薬、一般的全身用抗感染薬がそれぞれ19品目、15品目、15品目であった。薬効分類別の売上高においても抗悪性腫瘍薬・免疫調節薬が1,429億ドルと最も多く(図1右)、昨年から品目数は2品目減ったものの売上高は増加した。なお、本薬効は上位品目売上高の約36%を占めていた。以降、品目数とほぼ同じ順であるが、血液及び体液用剤が呼吸器官用剤に比べ品目数は少ないものの売上高が高い結果であった。

図1 上位品目の薬効分類(左:品目数、右:売上高、2018年との比較)

有効成分の技術分類(化学合成医薬品4)とバイオ医薬品5))では、化学合成医薬品が55品目、バイオ医薬品が45品目となっており、2018年の調査(それぞれ59品目、41品目)よりもバイオ医薬品は4品目増加した。上位品目において2018年から10品目の入れ替えがあったが、そのうち化学合成医薬品の品目の入れ替えは5品目増9品目減、バイオ医薬品の品目の入れ替えは5品目増1品目減であり、年々バイオ医薬品の増加が続いている。また、バイオ医薬品の売上高は2,097億ドルを占め、上位品目売上高の52%であり、品目数では化学合成医薬品の方が多いものの売上高ではバイオ医薬品がこれまでの調査で初めて半分以上を占める結果となった(図2)。上位10品目の中では7品目がバイオ医薬品であることも寄与していると思われる。

図2 上位品目の技術分類

特許から見た医薬品創出企業の国籍別医薬品数

上位品目について、各医薬品における基本特許を調査し、出願時の企業国籍別医薬品数を円グラフで示した(図3)。なお、医薬品の権利が帰属する創出企業の国籍は上記特許に記載されている出願人/譲受人の企業の国籍としているが、多国籍展開している企業の場合は親会社の国籍としている2)。そのため、出願時に親会社が存在する場合は出願人の企業の国籍と必ずしも一致するとは限らない。これは鍵となる物質・用途・技術などの要素を発明する過程において人材や資金といったリソースなど親会社の寄与があると考えたためである。

2018年の調査と比較すると、アメリカが昨年より1品目増えて49品目で最も国籍別医薬品数が多かった。2番手は昨年と変わらなかった10品目でスイスであり、日本は1品目減って9品目となり3番手となった。4番手のドイツは1品目増加で8品目、同一番手としてイギリスは1品目減で8品目であった。6番手はデンマークで昨年より1品目増え、7品目であった。以降、順位の変動はほとんどなかったが、ルクセンブルクの1品目が今回の上位品目から外れた。2018年から10品目の入れ替えがあったが、アメリカが4品目増3品目減、スイスが2品目増2品目減、日本が1品目減、ドイツが1品目増、イギリスが2品目増3品目減、デンマークが1品目増、ルクセンブルクが1品目減であった。アメリカ、スイス、イギリスにおいて入れ替えが進んだ。

図3 医薬品創出企業の国籍別医薬品数

医薬品創出企業の国籍別医薬品数年次推移

2003年以降の調査結果2)、6と比較し、今回の調査でもこれまでの傾向に大きな変化は無く、アメリカが最大の医薬品創出国であった。近年は日本とスイスが2番手を競っているという傾向が続いている。また、デンマークが徐々に品目数を伸ばしつつある。2019年の上位品目の創出国は12か国であった(図4)。

図4 医薬品創出企業の国籍別医薬品数年次推移

技術分類毎の国籍別医薬品数

先述の通り2019年の有効成分の技術分類では、化学合成医薬品が55品目、バイオ医薬品が45品目となっている。その国籍別医薬品数を図5、6に示す。

図5 医薬品創出企業の国籍別医薬品数

図6 医薬品創出企業の国籍別医薬品数

日本9品目中7品目が化学合成医薬品であり、バイオ医薬品は2018年同様2品目であった。一方、スイスは10品目中バイオ医薬品が9品目、化学合成医薬品が1品目と、2018年よりもバイオ医薬品が増えている。デンマークは今年上位品目に新たに加わった1品目含め、7品目すべてがバイオ医薬品であった。昨年すべて化学合成医薬品であったイギリスは8品目中バイオ医薬品が新たに2品目加わった。アメリカについては49品目中19品目がバイオ医薬品であった。

上位品目の世界売上高に占める国籍別割合

上位品目の世界売上高合計に占める国籍別医薬品の割合を図7に示す。上位品目の売上高においてアメリカが49品目で51%を占めている。日本は9品目で売上高の7%を占めているが、ドイツは8品目で日本よりも多い15%の売上高を占めている。ドイツは売上高上位10位内に3品目入っており、それらの寄与が大きい。

図7 上位品目の世界売上高に占める国籍別割合

主販売企業の国籍別医薬品数

主販売企業国籍別の品目数を図8に示した。ここで言う主販売企業国籍とは、IQVIA社のデータにおいて1製品を複数の企業が販売している場合、製品の販売額が最も多い企業の国籍とした。創出企業国籍と同様にアメリカ(45品目)が特に多かった。2018年から1品目増えたスイス(12品目)が2番手となり、3番手は1品目減ったイギリス(11品目)となった。日本は2018年から1品目増えて7品目で4番手であった。その他の国々についてみると、ドイツ、デンマーク、フランス、ベルギー、アイルランド、イスラエル、オーストラリア、カナダと昨年と変わらなかった。

2019年では日本は9品目あり、日本国籍の主販売企業が販売する医薬品数は7品目であった。このうち4品目は自社創製品、残り3品目はアメリカ起源であり、それらは製品の導入や企業買収による獲得であった。一方、日本の残りの5品目はアメリカ企業(1品目)や欧州企業(4品目)が主販売企業となっている。これまでの調査2)と同様に日本起源医薬品の半数以上が、海外での販売を海外企業に依存していることがわかる。

図8 主販売企業の国籍別医薬品数

出願人(企業)国籍から見た国籍別医薬品数

前節で述べた通り、創出企業の国籍において、多国籍展開している企業の場合は親会社の国籍としている。一方、実際に鍵となる要素を見出した企業の国籍を調べることは実際の「創薬の場」がいずれの国にあるかを知る上で一助になると考えられる。上位品目を出願人の企業国籍で集計した結果を図9に示す。本集計においてもアメリカが最も多く54品目であった。2番手は日本で9品目、3番手はドイツの8品目となった。以降多少の品目数の増減はあるものの図3と国籍や品目数の傾向は同じであった。国籍数は全部で14か国と図3に比べ2か国増えているが、北米・欧州・日本が創出地域であり、従来の調査結果と同じく日本が医薬品を創出できる限られた国・地域の中でプレゼンスを発揮していると思われる結果であった。本調査結果のポイントの1つとしてスイスが3品目と大きく数を減らしている点が挙げられ、スイス外にある傘下の企業が鍵となる要素の発明を行っていることがわかる。親会社所在国での創出ではないが、上位品目を創出する企業を早期に傘下にする目利き力、もしくは育成力があるとも考えられる。創薬戦略の違いが垣間見られた結果と思われた。

図9 出願人国籍から見た国籍別医薬品数
  • 1)
    本調査における基本特許とは、物質特許や用途特許等、各品目の鍵となっている特許を示す。
  • 2)
    医薬産業政策研究所「国・企業国籍からみた医薬品の創出と権利帰属」政策研ニュースNo.42(2014年07月)、以降、政策研ニュースNo.47(2016年3月)、No.50(2017年3月)、No.52(2017年11月)、No.55(2018年11月)にて報告。
  • 3)
    IQVIA World Review Analyst 2020掲載リストのうち、後発品・バイオシミラー・診断薬を除いた上位100品目を対象とした。
  • 4)
    化学合成医薬品は段階的な化学合成によって製造される医薬品(低分子、核酸、ペプチド等)を指す。
  • 5)
    バイオ医薬品は日本における承認情報において抗体等一般名に遺伝子組換え(Genetical Recombination)とある品目、また、血液製剤やワクチンなど添付文書に特定生物由来製品、生物由来製品と記載されている品目とした。日本で承認されていない品目はFDAの承認情報や各社HP等で個別に調査した。
    PMDA HP:https://www.pmda.go.jp/about-pmda/outline/0001.html, Accessed on Sep. 15th, 2020
    FDA HP:https://www.fda.gov, Accessed on Sep. 15th, 2020
  • 6)
    医薬産業政策研究所「製薬産業を取り巻く現状と課題 第1部」産業レポートNo.5(2014年2月)

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