目で見る製薬産業 近年の国際共同治験の参加国の分析 -臨床試験登録システムClinicalTrials.govを基に-

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医薬産業政策研究所 主任研究員 粟村眞一朗

政策研ニュースNo.57では、世界の売上高上位300製品の日米欧の上市状況をもとにドラッグ・ラグが近年改善されつつあること1)を報告した。その中で、日本(PMDA)の審査期間が米国(FDA)と同様の水準まで短縮したことの他、日本で国際共同治験が実施されるようになったことを要因としてあげている。2007年に厚生労働省から「国際共同治験に関する基本的考え方」が発出されて以降、日本で実施される国際共同治験数は増加を続けており、2018年度には治験計画届764件中、国際共同治験に係るものは389件(50.9%)と過半数を占めるにいたっている2)

国際共同治験については、過去に政策研ニュースNo.48(2016年7月)で、製薬企業へのアンケート調査をもとにした日本の国際共同治験の実施状況と症例数分析を実施している3)が、他国の実施状況との比較は行っていない。また、政策研ニュースNo.41(2014年3月)では、臨床試験登録システムClinicalTrials.govに登録された試験を対象に日本と世界各国との比較を行っている4)が、国際共同治験の治験計画届数が急速に増加した2012年以降のデータ更新は行っていない。

図1 国際共同治験に係る治験計画届件数の推移

そこで、今回、2012年度以降に日本及び世界各国が国際共同治験へどのように参画しているかを分析する目的で、各国における国際共同治験の実施試験数を調査した。

調査には、政策研ニュースNo.41と同様に、米国国立衛生研究所(NIH)等によって運営されている臨床試験登録システム(ClinicalTrials.gov)を用い、同システム内で登録されたInterventional Studies(Clinical Trials)のうち、PhaseがPhase2またはPhase3で、Fund TypeがIndustryと登録されている試験を対象とした(2019年9月5日時点)。なお、本稿では実施国が2ヶ所以上登録されている試験を国際共同治験、実施国が1ヶ所の試験を単一国試験と定義した。

ClinicalTrials.gov登録試験数の年次推移

ClinicalTrials.govに登録された試験(Phase:Phase2またはPhase3試験、Fund Type Industry)について、それぞれの試験の試験開始年ごとの試験数の推移(2000年~2018年)を図2に示す。

国際共同治験、単一国試験ともに、2000年~2006年(試験開始年)にかけ登録試験数が急増し、その後2018年まで、国際共同治験が800~900試験、単一国試験が1400~1600試験といずれも大きな変動はなく、横ばいで推移していた。

2000年のヘルシンキ宣言の改訂(臨床研究結果の公表義務化)、2004年の国際医学雑誌編集者会議(ICMJE)声明5)(被験者のエントリー開始前に公的な臨床試験公表データベースに未登録の研究は、Lancet等ICMJEに加盟している医学雑誌への掲載を認めない)に加え、1997年、2007年のFDA改正法6)により、FDAへ治験許可申請(IND)を提出して実施する試験はClinicalTrials.govへ事前登録することが義務化されたことにより、米国をはじめとして世界中より試験の登録が増加したと考えられる。一方、試験登録が定着した2006年以降は全体の試験数自体は変わっていないことから、Phase2またはPhase3試験の試験数自体は、2006年以降変わっていないと考えられる。

図2 ClinicalTrial.gov 登録試験数の年次推移

国別の国際共同治験/単一国試験の実施数

国別に国際共同治験/単一国試験の実施試験数(2000年~2018年の累積試験数)を算出し、国際共同治験、単一国試験、試験総数別に上位30カ国を表1に示した。

国際共同治験の実施試験数は、米国、ドイツ、カナダ、イギリス、フランス、スペイン、イタリアの順に多かった。上位10か国のうち、米国・カナダの北米2か国を除き、欧州の国(主要5か国の他、ポーランド、ロシア、チェコ、ハンガリー等の東欧諸国も上位)が占めていたのに対し、アジアでは韓国の15位が最上位で、台湾が21位、日本は1396試験で28位であった。また、中国は867試験で40位であり、上位30位に入っていなかった。

一方、単一国試験は、米国が13,153試験と、圧倒的に登録試験数が多く、2位の日本の10倍程度であった。米国の他では、日本、ドイツ、中国、カナダ、韓国の順に多く、アジアの各国はClinicalTrials.gov登録の単一国試験の試験数が比較的多かった。

表1 国際共同治験/単一国試験の実施試験数の上位30カ国

試験総数(国際共同治験+単一国試験)で見ると、国際共同治験、単一国試験ともに多かった米国に次いで、国際共同治験の試験数が多かった欧州各国(ドイツ、イギリス、フランス、スペイン、イタリア)やカナダが上位であり、日本は16位、中国は23位であった。

米国は、ClinicalTrial.govが自国の臨床試験登録システムであることを差し置いても、単一国試験だけでなく、国際共同治験も数多く実施されていた。それに対し、欧州各国は、ClinicalTrial.govに登録されている試験は、単一国試験より国際共同治験の方が圧倒的に多かった。単一国試験が米国(FDA)への申請を前提とした試験でなく、米国の臨床試験登録システムであるClinicalTrial.govにわざわざ登録していない可能性はあるものの、欧州は各国間の距離が近く、かつ同じ経済区域(欧州連合)にあることや、EMAによる中央審査方式が採用されていることなどから、2か国以上の欧州の各国で試験を実施、いわゆる"欧州共同試験"が多く実施されている可能性が考えられた。それに加え、国際共同治験が世界で多く実施されるようになった2000年代前半より、米国の大手CRO(開発受託機関)を中心となり、ポーランド、チェコといった東欧諸国での試験実施(症例獲得)を強力に推し進めたことも要因の1つと考えられる7)。なお、日本も、韓国、台湾、シンガポールなどアジア各国と共同したアジア共同試験を実施することが多い8)が、その数自体は欧州と比較して少ないものと考えられた。

主要国の国際共同治験の試験数年次推移

主要国別(米国、日本、中国、ドイツ、フランス、イギリス)の国際共同治験の試験数の年次推移を図3に、国際共同治験全体に占める割合を図4に示した。

図3 主要国の国際共同治験試験数の年次推移(試験開始年:2000~2018年)

図4 主要国の国際共同治験に参加する割合

米国は、前述の通り、ClinicalTrial.govへの登録数の増加に合わせて、2000年~2006年に急激に増加し、2006年は549試験、それ以降は少しずつ上昇、2018年は684試験であった。これは、ClinicalTrial.govへの登録されているすべての国際共同治験のうちの77.5%を占めている。ドイツ、フランスについては、2006年以降は増加傾向がなくなりドイツが年平均400試験(全体の45%程度)、フランスが320試験(全体の35~40%)で推移している。しかし、ドイツもフランスも、米国と共同の国際共同治験に参加している試験数は年々増加してきており、一方で欧州の国のみで実施する国際共同治験の試験数は減少傾向である(Data not shown.)。イギリスは、2006~2011年は300試験程度(全体の30%程度)で推移していたが、2012年以降は350試験程度(全体の40~45%)に微増して推移している。一方、日本は、2006年は19試験であったが、それ以降増加を続け、2018年には年間174試験(全体の19.7%)が約10倍まで増加していた。中国は2006年の57試験から、2018年は83試験(全体の9.4%)と増加していたが、日本ほど国際共同治験への参加が増えていなかった。しかし、中国では「審査承認制度改革深化と医薬品医療機器イノベーション推奨に関する意見」(庁字[2017]42号)として、臨床試験審査手順の最適化(IND提出後の一定期間に中国当局から否認されなければIND承認とみなす)、優先審査、海外データの受け入れ等を含む薬事規制改革に関する意見が、2017年10月に中国中央弁公庁及び国務院弁公庁共同で出されるなど、急速に新薬開発促進の動きが活発化しており、国際共同治験についても今後中国の参加が増えてくる可能性があると考える。

日本で実施される国際共同治験の実施企業の国籍の分析

つづいて、調査で抽出した日本で実施される国際共同治験1396試験(試験開始年2000年~2018年)を対象に、これらの試験がどの国籍の企業が実施しているかに関して、ClinicalTrial.govに登録されている"Sponsor/Collaborators"の情報をもとに調査した(図5)。その結果、日本企業が海外企業との共同試験も含め、国際共同治験のSponsor/Collaboratorsとなった試験の割合は全体のわずか13.8%であった。また、年次推移でみた場合も、日本で実施される国際共同治験の試験数は増えているものの、その中で日本企業が関与している試験の割合は10~20%と大きな変化はなく、主にグローバルメガファーマを中心に海外企業が実施する国際共同治験への日本の参加が増えてきていることが、日本の国際共同治験実施数増加の主な要因であった。

図5 日本で実施される国際共同治験のSponsor/Collaboratorsの企業国籍

まとめ

過去の報告等で、近年、日本で実施される国際共同治験は増加してきていることは報告してきたが、今回、ClinicalTrial.govに登録された臨床試験をもとに新たに調査した結果、2014年以降も引き続き日本で実施される国際共同治験の試験数は増加していること、他の主要国と比較しても増加傾向は顕著で、現在では世界で実施される国際共同治験の約20%に参加するまでになったことを明らかにした。

日本で実施される国際共同治験が増えることに伴い、革新的な医薬品が日米欧で同時に申請を行われるケースも増えており、ドラッグ・ラグ解消にとっては望ましい傾向である。一方で、これらの国際共同治験は欧米のグローバルメガファーマを中心に実施されているのが現状であり、今後日本の企業がグローバルで革新的医薬品を創出し、成長していくためには、積極的に国際共同治験を進めていくことが重要であろう。

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