目で見る製薬産業 医薬品市場における日本の存在感 日本企業の海外売上シェアの分析

印刷用PDF

医薬産業政策研究所 主任研究員 橋本絵里子

世界における日本市場の位置づけ

近年の高齢化の進展や高額医薬品の登場などを機に、日本の医薬品市場は薬価制度の抜本改革等によって、その成長率が低く抑えられてきている。IQVIAのWorld Review Analystによると、世界の中で日本市場は単一国として2012年以前はアメリカに次ぐ2番目に大きな市場であったが、2013年に中国に抜かれ、現在は3位となっている。また、2010年以降の日本市場の世界に占めるシェアを見ると2011年に11.6%であったが、それ以降低下を続け、2018年には6.9%となっている。(図1)

図1 世界における各国市場のシェア推移

日米欧企業の海外売上比率の変化

このような状況の中で日本に本社を置く製薬企業(日本企業)の中にはその存続と発展をより確かなものとするために海外での売上比率を上げる努力をしている企業もある。

例えば、日本企業大手8社1)についてみてみると、海外売上比率は2010年と2018年で比べると7社が上昇していた。(図2)

また、売上高合計(国内+海外)で見ると、2018年度は2010年度に比べて8社中6社が増加していたが、国内売上高が増加したのはわずか2社で、残りの6社は国内売上高を減少させており、国内売上高の減少を海外売上高の増加でカバーしている企業が多いと言える。

図2 日本企業大手8社の海外売上比率の推移

米国企業大手8社および欧州企業大手8社2)の海外売上比率(欧州企業については欧州外売り上げ比率)についても見てみると、図3の通りであり、米国企業は、米国外売上高がおよそ20%~60%と企業によりさまざまであったのに対し、欧州企業の欧州外売上高は、およそ60%~80%と総じて高かった。また、日米欧企業それぞれ大手8社の海外売上比率の単純平均を確認してみたところ、日本企業や欧州企業は海外売上比率を高めていたのに対し、米国企業は低下傾向を示していた。

図3 米国企業大手8社および欧州企業大手8社の海外売上比率の推移

日本企業の世界での売上シェア

日本企業大手8社の海外売上比率は2010年以降上昇傾向にあることが分かったが、では、世界における日本企業のシェアはどのようになっているのだろうか。IQVIA World Review Analystにて、世界における売上高がTop100に入る企業を対象に企業国籍別の世界市場におけるシェアを調査した。(図4)

2010年~2018年の世界市場全体に対する日本企業のシェアは2011年に9.1%(694.66億ドル)であったが、その後減少が続き、2018年には5.4%(580.83億ドル)となっている。その理由として、Top100に入る日本企業の減少が挙げられる(2010年20社→2018年12社)。主な理由としては世界市場の成長と比較し、日本企業の成長率が相対的に低かったこと、中国市場の拡大等により中国企業のTop100社へのランクインが増加(2010年0社→2018年7社)したこと等が考えられる。なお、米国企業もTop100に入る企業数が30社から23社に減少していたが、その売り上げは増えていた(2010年2,590.03億ドル→2018年3,686.85億ドル)。合併、企業国籍を変えたケース等で企業数は減少したが、複数の米国発のバイオ医薬品企業が大きく売り上げを伸ばしたことより米国企業全体の売上高は増加したと考えられる。なお、Top100にランクインする企業が増加した国としては前述の中国の他、インド(2010年4社→2018年9社)が挙げられる。

図4 世界市場に占める世界売上Top100企業の国籍別シェアの年次推移

企業国籍ごとの国別(地域別)売上シェア

2018年に世界におけるシェアが高かった企業国籍はアメリカ、スイス、イギリス、日本、ドイツの順であった。図5に企業国籍別の主要国での売り上げシェアを示す。3)

米国企業および欧州企業は自国でのシェアが他国に比べて高めではあるものの、他国でもシェアを獲得していたのに対し、日本企業は日本国内でのシェアが突出しており、上位の他国企業に比べて国内依存度が高いことが分かった。なお、IQVIA World Review Analystを元とした図4、5の分析にはロイヤリティ収入による海外売上は含まれていないが、各社有価証券報告書、アニュアルレポートを元とした図2、3には含まれている。日本企業の中にはグローバルに販売網を持つ欧米企業にライセンス提供を行いロイヤリティとして利益を得ているケースもある。個社でみればこの点で成功している企業もあるが、全体でみると、グローバル企業へのライセンス提供元としての日本の位置づけは存在感が薄れてきている。4)

図5 企業国籍ごとの国別(地域別)シェア

まとめ

世界における日本市場と日本企業の位置づけについて確認した。日本市場の位置づけが世界の中で低くなるにしたがって、日本大手企業は海外売上比率を年々上げつつあるが、世界売上上位に入る企業であってもまだまだ国内依存が強い状況に変わりはないことが分かった。

持続可能な社会保障のために医療費増加を抑制する政策が日本では今後も進められ、日本市場はその影響を受け続けるであろうことを考えると、日本の製薬企業が今後も持続的に成長する、いや生き残っていくためには、海外での売上高を伸ばし、世界での存在感を高めていく必要がある。そのためには世界で求められる新薬の開発、M&Aによる企業規模・パイプラインの拡大、ライセンスイン/アウトによるパイプラインの確保、ロイヤリティ収益の確保など多角的な打ち手を効果的に行っていくことが求められる。

  • 1)
    アステラス製薬、エーザイ、大塚ホールディングス、塩野義製薬、第一三共、大日本住友製薬、武田薬品工業、田辺三菱製薬の8社。
  • 2)
    アメリカ企業はAbbVie、Amgen、Bristol-Myers Squibb、Eli Lilly、Gilead Sciences、Johnson & Johnson、Merck、Pfizerの8社、欧州企業はAstraZeneca、Bayer、Boehringer Ingelheim、GlaxoSmithKline、Novartis、Novo Nordisk、Roche、Sanofiの8社。
  • 3)
    IQVIA World Review Analyst 2010、2014、2018のMarket Share by Corporate Nationality参照。各国売上Top70企業によるデータ。
  • 4)
    「医薬品産業におけるライセンスインの状況-日本企業とグローバル企業の比較-」政策研ニュースNo.56(2019年3月)

このページをシェア

TOP