医療健康分野のビッグデータ活用研究会報告書 vol.4
森田 正実(医薬産業政策研究所 統括研究員)
杉浦 一輝(医薬産業政策研究所 主任研究員)
佐々木 隆之(医薬産業政策研究所 主任研究員)
(2019年05月発行)
当研究会では、医療健康分野のビッグデータ活用における重要な課題について提言を行うべく調査研究を進めてきた。2018年度は特に「PHRの活用」をメインテーマとし、「個人を軸としたデータ流通プラットフォーム」と「活用データの広がり」という2つの大きなトレンドを踏まえた基盤整備の動向ならびに製薬産業における活用への期待と課題について調査研究を行った。
PHR(Personal Health Record)は、個人の多種多様なデータが個人の意思で管理され、生涯にわたる医療健康情報、いわゆるライフコースヘルスデータをカバーするようになっていくと考えられる。その背景として、世界的にデータポータビリティの議論が進んでおり、個人が軸となり様々なデータを統合して流通を行うプラットフォームが各分野で登場している。多様なデータを統合して収集しやすい、個人にアクセスしやすいといった特徴を有するこれらのプラットフォームは、製薬産業としても研究・開発から上市後まで様々な活用が期待できる。
製薬産業でも、活用し得るデータの対象が、医療機関だけでなく医療機関以外にあるデータへも広がっている。例えば、研究領域ではゲノム・臨床データに加えて健診データやバイタルデータを統合解析することで個別化医療や予防・先制医療に繋げようとする試み、臨床開発領域ではウェアラブルデバイス等のデータを評価指標として活用する取り組み、上市後では早期診断支援や有害事象の早期検知等のソリューションの提供などが挙げられる。データの活用では“Fit for Purpose”の視点を意識し、プラットフォームの種類やデータの対象などの特徴を踏まえ、目的に応じて使い分けることが重要である。その上で、個別化医療、予防・先制医療、患者中心の医療、「モノ」から「コト」への転換といった医療のパラダイムシフトの進展を見据えると、製薬産業においてもPHRの活用は欠かせない要素となる。このPHR活用を推進する上で重要な取り組みとして、5つの提案を行った。