くすりの情報Q&A Q50.iPS細胞は、新薬の開発にどのように活用されていますか。

回答

2006年に誕生したiPS細胞は、病気の原因の解明、新しいくすりの開発、細胞移植治療などの再生医療に活用できると期待されています。

解説

iPS細胞とは、「人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)」を略したもので、人間の皮膚などの細胞に、4つの遺伝子を入れて数週間培養(ばいよう)することによってつくられます。この細胞は「さまざまな組織や臓器の細胞に分化する能力」と「ほぼ無限に増殖する能力」の2つの能力を持っていることから多能性幹細胞と呼ばれます。2006年に京都大学・山中伸弥教授によってつくられ、山中教授は2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞されました。

再生医療への応用だけでなく、iPS細胞を新しいくすりをつくることに役立てようとする試みもおこなわれています。

新薬の開発は、作用や副作用を動物で確認した後、臨床試験をおこなうことで、ヒトに対する作用と副作用を確認します。しかしヒトと動物では、似ているようで違うところがたくさんあり、動物実験では成功しても、ヒトでの治験段階で開発が中止になることもあります。iPS細胞からつくり出された心筋細胞などの臓器細胞を用いれば、ヒトでの臨床試験の前に、ヒトにおける副作用をある程度予測することが可能になり、より安全により効率的に医薬品を開発できるようになります。

また、アルツハイマー病やパーキンソン病、ALS(筋委縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう))、筋ジストロフィーといった難病の治療薬開発にiPS細胞を役立てることができるのではないか、と期待されています。

治療が難しい患者さんの体の細胞から、iPS細胞をつくり、分化させることで、病気特有の細胞をつくり出すことができます。その病気特有の細胞の状態や機能がどのように変化するかを研究することで、今までわからなかった病気の原因が解明できたり、治療薬を開発できたりする可能性があるからです。

日本製薬工業協会は、2013年5月に、日本発のiPS細胞をいち早く実用化へ結びつけることによって、日本の創薬技術・基盤の強化を図っていくことを目的に「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム」を立ち上げました。これには、製薬企業や受託研究機関をはじめ、国立医薬品食品衛生研究所、医薬基盤研究所、京都大学iPS細胞研究所など数多くの企業や機関が参画しています。

しかし、iPS細胞の研究は始まったばかりです。実用化には科学的・医学的・倫理的な面など、多くの課題を克服する必要があります。

図表・コラム

50|iPS細胞の樹立

iPS細胞の樹立

出典:京都大学「iPS細胞研究所」ホームページより引用。

「iPS細胞研究所」ホームページ

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