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第1回小学生からのくすり教育

くすりマガジン
― 第1回 ―

小学生からのくすり教育
知識を増やすのではなく、くすりとの付き合い方を会得する教育

東京薬科大学薬学部  臨床薬理学教室教授  岡 希太郎
実習教育助教授  加藤 哲太

小中学生からのくすり教育の目的は、くすり知識を増やすことではなく、「自分のからだの変調に注意を払い、おかしな時はすぐに親や薬剤師に相談する」という習慣づけを行うことにあります。ご家庭で、ご両親が中途半端なくすり知識で判断することなく、子どもたちの訴えをよく聞き、かかりつけの医師や薬剤師をうまく活用することが大切です。

◆ くすり教育は「小学3年生」から

 私たちの本来の仕事は、薬科大学で薬剤師をめざす学生たちを指導・教育することです。その一方で、東京近郊の小中学校にお邪魔して、子どもたちへ「くすりに関する授業」を行う機会を増やすボランティア的な活動を進めています。最近では、全国各地の自治体や薬剤師さんたちの中にも、積極的に小中学生への「くすり教育」を行っている方が増えてきています。
 現在では、「小学3年生」の生徒さんを対象に授業を行うことも多くなりました。「えっ、小学3年生にくすりのことを教えるの?」と驚かれるかもしれませんが、いろいろ試行錯誤を重ねた結果、大人の世界への好奇心が芽生える一方、ちゃんとした判断力が育ってくる「小学3年生」なら十分に授業内容が理解できることが分かったのです。

◆ 「三つ子の魂百まで」――くすりの副作用を知り、相談する習慣づけ

 私たち大人でも理解が難しいくすりの話なのに、と思われるかもしれませんが、授業内容としては、「くすりの飲み方」と「副作用」の二つの点に絞ったものにしています。前者は主に3年生、後者は主に5〜6年生で話しています。
 「くすりの飲み方」とは、服用回数や飲むタイミングなど「ちゃんとルールを守ってくすりを飲もう」ということです。そうしないと、せっかくの薬が良く効かないし、病気も治らないという当たり前のことを理解させます。
 また、「副作用」の関係では、お酒の強い人と弱い人がいるように、副作用には個人差があるということと、「くすりを飲んで何かおかしいな」と思ったら黙って我慢するのでなく、すぐにそのことを話すようにすることを教えています。
 つまり、小学生へのくすり教育の最大の目的は、「くすりの副作用に気づかせ、周りの大人にすぐ話すこと」を習慣づけることにあるのです。気持ち悪いと感じたら、それがくすりのせいでないのかもしれませんが、「我慢しないで相談する」意識を植え付けるわけです。小さいうちから、副作用への対処法をインプットしておけば、将来、「自分のことは自分で守る」ことにつながりますし、病気や苦痛から早期に救われることもあるはずです。

◆ 家庭でできること――子どもの症状を記録し、薬剤師に相談する

 もちろん、このようなくすり教育は、学校での授業だけで完結するものではありません。とりわけ、子どもたちの副作用については、家庭でのご両親の適切な対応に負う部分が大きいからです。
 ぜひともご両親にやっていただきたいのは、「子どもの話をきちんと聞いてあげる」ことです。「ちょっと変なんだよ」という子どもの訴えを、「くすり飲んだんだからそのうち直るわよ」「大したことないんじゃないの」などと軽く考えることは禁物です。症状を良く聞いてあげて、「どこがどんな症状か、いつからか、その順番(最初に頭が痛くなって、吐き気がしてきた等)」をできれば忘れないように記録しておくことが大切です。そして、それを持って医師や薬剤師に相談に行くのが理想でしょう。その記録が治療の決め手になる場合も多いですし、くすりの副作用なのに再度同じくすりを処方されるリスクも防げるのです。
 その意味で、ご両親が、子どもと医師・薬剤師とのつなぎ目の役目をしっかり果たすことが求められているとも言えます。かかりつけの医師はすでにいらっしゃるかもしれませんが、医薬分業の時代ですから、ご自宅の周辺で「かかりつけの薬剤師」を見つけることも大切でしょう。

◆ 薬剤師の役割――「学校薬剤師」制度を知っていますか?

 小中学生へのくすり教育を普及させていく際に、中心となるのが「薬剤師」であることは言うまでもありません。最近では、調剤薬局もたくさんできてきましたから、以前よりは薬剤師に接する機会も増えているはずです。
実は、ほとんど知られていないのですが、「学校保健法」という法律に基づいて、全国の大学以外の学校には「学校薬剤師」が配置されています。学校医は身体検査などでお馴染みでしょうが、普段は街の薬局に努めている学校薬剤師も、プールの水質管理など学校の衛生管理の仕事をしているのです。私たちと同じように、小中学校でのくすり教育に熱心な学校薬剤師の方もいらっしゃいますが、まだまだ一般には知られていない制度です。
 地域の学校で学び、生活している子どもたちやご両親にとって最も身近な薬剤師ですから、もっと「私たちに見える存在」になってもらい、学校へもどんどん出掛けていって、くすりや健康の話をしていただければ、くすりや医療への理解も深まることと思います。
 また、ご両親の中にも、薬剤師の資格をお持ちの主婦の方もいらっしゃるはずです。そのような人材を発掘して、ご自分の子どもが通う学校で、くすりの話をしていただくことも十分可能だと思います。

◆ くすりの知識教育ではなく、くすりとの付き合い方を学ぶこと

 最近では、くすりそのものを紹介した書籍やインターネットが簡単に手にはいるようになりました。医師が処方したくすりの種類や副作用の可能性などへの関心が高くなることは大歓迎ですが、そのような生半可な情報で素人判断をしてしまうことが一番危険なことです。
 数万種類にも及ぶくすりの情報を正しく理解することは、専門家でない限り不可能です。専門家である医師や薬剤師に「相談する=うまく活用する」のが重要なことです。そして、専門家の判断材料は、くすりを飲んだ本人が提供するほかありません。
 すなわち、くすり教育の目的は、「くすりの知識を増やす」ことではないのです。私たちの実践している授業に対しても、「小中学生に分かるわけがない」と首をかしげる専門家がいらっしゃいますが、「あなたは、今度から一人でくすりを飲むようにしなさい」と教えるわけではありません。くすりを飲んだときは、自分のからだの変調によく注意を払って、何か変だと感じた場合は、すぐにご両親や薬剤師に相談するようにする――この一点から、これからの長い人生におけるくすりとの正しい付き合い方が始まるのだと思うのです。

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