■チトクロームP450の遺伝子多型による薬物療法のテーラーメイド化について、今後の展望をお聞かせください。
チトクロームP450の遺伝子多型をみて、薬剤の投与量を加減したり、薬剤の種類を選んでいくという考え方は、非常にわかりやすく、魅力的だと思うのですね。しかし、実際にはそう簡単には行かないのではないか。私は実はそう考えています。
なぜなら、P450の酵素活性の個人差の原因となる遺伝子多型について、そのすべてがわかっているわけではないということがあるからです。CYP2D6やCYP2C19のように、それぞれ白人、日本人で95%の予測ができるものもありますが、医薬品の2/3近くを代謝すると考えられているCYP3Aでは、ほとんど予測ができないのが現状です。酵素活性の個人差をもたらす遺伝子変異がどんなものなのか、わかっていない。これでは、遺伝子多型を調べても、薬物療法を個別化することなどできません。
もちろん、遺伝子を全欠損する人なら、必ず影響が出ますから、投与量を減らすなどすればよいでしょう。しかし、日本人のCYP2D6、あるいはCYP2A6などでは、遺伝子型のばらつきが非常に大きく、薬物療法をそれに応じてどう調整すればよいのか、一律に決めることができません。なぜこれほど多くの多型があるのか、わかっていないのが現状なのです。
もしかすると、それほど単純な変異ではないのかもしれません。酵素の発現に必要なさまざまな調節因子の量や質の変化によって、薬物の代謝異常が現れてくる可能性もあります。単純に、DNAの塩基配列の差だけではわからない。そのため、いろいろな可能性をいま検討しているところです。
その一方で、P450も含めてですが、新しい遺伝子多型が次々にみつかってきています。製薬協のファルマスニップコンソーシアムでも、約1,000名の健常人を対象に、薬物動態に関連する遺伝子多型を検討しています。しかし、その多型がどういう意味をもつのか、まだ評価できていないのが現状です。評価には、現在までに達成されたゲノムの全塩基配列決定をはるかに上回る時間と手間がかかるはずです。 健常人からみつかる遺伝子多型では、病気の患者からみつかる多型より、評価が難しいという面もあるでしょう。それをどう評価し、どう臨床にもっていくかは並大抵のことではありません。遺伝子解析にはもちろん意味があります。しかし、新しい言葉だけが先行しているのでは意味がなく、これからの地道な努力が鍵を握ると思います。
ゲノムの全塩基配列が決定され、解析できる準備は整った。その情報をどう使っていくか、ファーマコゲノミクス、そしてゲノム科学の将来はいま、そこにかかっているといえるでしょう
ありがとうございました。 |