新薬アクセスと市場ダイナミズム 市場要因による国内新薬開発への影響

岩井 高士(医薬産業政策研究所 主任研究員)

(No.43:2008年12月発行)

本研究では、国内医薬品市場の基本的特性である薬価の恒常的下落および新薬の製品寿命の長さと、これらに起因していると思われる欧米との市場構造の相違が、新薬アクセス改善の鍵を握る研究開発型製薬企業の国内新薬開発に係る意思決定・活動に与える影響を分析した。

第一に、日米欧各市場における新薬の売上成長曲線を推定したところ、新薬アクセスに優れた欧米市場は日本市場と比べ、(1)上市後の成長ピークが高い、(2)ピーク到達までの所要期間が短い、(3)特許失効後の成長が急激に低下する、というダイナミックな市場構造であることが示された。第二に、日本を含むOECD加盟11か国を対象に、市場特性・構造に関する要因が国内新薬開発に与える影響を実証分析した結果、国内市場模の拡大および医薬品価格の上昇は、国内開発品目数を有意に増加させることが分かった。第三に、将来、後発品使用促進策のみが一方的に進行した場合、国内市場全体の規模は、トレンドで市場が推移した場合に比べて、2020年度で0.4兆~1.5兆円程度抑制されると測された。前述の実証分析結果を踏まえると、後発品拡大による国内市場の成長抑制は国内の開発品目数を減少させる恐れがあることが推察された。

以上から、新薬アクセスを改善するためには、製薬企業による研究開発投資・回収サイクルの早期化を促すダイナミックな市場構造への転換が必要と考えられる。また、ダイナミックな市場構造は、国内市場における健全な企業間競争の促進を通じ、製薬産業の競争力基盤の強化をもたらす可能性がある。日本経済の構造転換が求められる中、知識集約型産業としての製薬産業が高い国際競争力を備えることは、知識創造・高付加価値経済へのパラダイム・シフトをより加速させることに繋がると思われる。今後、国内医薬品市場のあり方を検討するにあたっては、患者・医療政策の視点に留まらず、産業・経済政策の視点も含めた総合的な議論が望まれる。

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