医薬品評価委員会 2008-14 治験におけるファーマコゲノミクスの実施

関連分類:治験審査委員会

初回公開年月:2009年01月
改訂公開年月:2021年03月

質問

当社は業務提携実施医療機関を持つSMOです。実施医療機関のサポート業務として治験審査委員会の事務局業務を行っていますが、ここ2年ほど前から承認申請には用いないような遺伝子解析のための採血を付与した治験実施計画書の審査をすることがしばしばあります。治験実施計画書の審査ですから治験審査委員会での審査は当然なのですが、その中に申請には用いない、どのような遺伝子を解析するのかわからない遺伝子解析のための採血が付与されていて、治験審査委員会としてもかなりの時間的ロスを生じる場合があります。

治験実施計画書に定められた検体採取はそれらを分析した結果を申請に用いることを前提に審査しているのですが、申請に用いない、いつ解析するかも場合によっては解析しないかもしれない検体の採取を治験実施計画書に記載して治験審査委員会に提出されるのはおかしいのではないでしょうか。

GCPは承認申請・再審査・再評価のために実施される臨床試験に適用される省令ですので、それらに用いない検体採取を治験実施計画書に規定することはおかしいのではないかと考えるのですが。

なお、治験依頼者の方は治験届け時点において、当局からは何のお咎めもないと言われますが、「実はいつ解析するかもわからないのですが、遺伝子解析用の血液サンプルの採取についてもこの治験実施計画書には入れているのですが」とは言っていないのではないでしょうか。

外資系の会社の治験実施計画書に多くみられるようで、世界で統一された方法であるようなことを当該治験依頼者はおっしゃいます。治験の位置づけが日本と海外では異なるのかも(ICH-GCPにおいては治験について日本のような規定はない)。

製薬協見解

GCPは承認申請・再審査・再評価のために実施される臨床試験に適用される省令ですが、それら申請に用いないデータを取るための検体採取であるとの理由で治験実施計画書に規定しないことは適切でないと考えます。治験実施計画書は、当該治験で行われる手順、行為を網羅・記載したものですので、申請目的に限らず、別の目的のために行われる被験者への侵襲、すなわち採血についても記載されるべきと考えます。

新薬の開発において、薬に対する応答の個人差と遺伝子多型との関連についてのファーマコゲノミクスに関する研究が、有効性の向上、重篤な副作用の回避等の臨床上の有用な知見が得られると期待され、全世界で積極的に取り組まれるようになってきました。このゲノム・遺伝子解析を伴う臨床試験では、被験者の福利に対する配慮が不可欠です。さらには、患者個人のみならず血縁者も含めた遺伝情報にまで踏み込む可能性もありますので、倫理的及び科学的な試験計画に基づき慎重に実施する必要があります。

このゲノム・遺伝子解析を行う治験としてはさまざまケースがあります。例えば、「治験実施計画策定段階において、検討のための目的遺伝子や実施時期がすでに特定されている治験」、「当該薬物の応答(有効性あるいは安全性)に関連するゲノムバイオマーカーを検討する可能性があるが、治験実施計画策定段階には目的遺伝子が特定されていなかったり、実施時期が決定していない治験」など。

このような目的を有している治験に対し、ファーマコゲノミクス検討を含めた総合的な治験を実施することの妥当性について、治験審査委員会において科学的・倫理的・法的・社会的観点から審査を行うことは、適切な対応と考えられます。ご参考までに、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の見直しの内容に係る意見募集の結果について(平成16年12月、文部科学省、厚生労働省、経済産業省)」では、「ご指摘の治験委員会の在り方等については、現在の薬事法(…略…)による規定の趣旨を踏まえ、治験における被験者の保護(倫理性)及びデータの質の確保(科学性)のため、施設における治験に関するあらゆる事項が適正に審議調査される組織・運営・体制とする必要があると考えます。」という見解が示されています。

既にご存知とは思いますが、日本製薬工業協会医薬品評価委員会では「医薬品開発において ゲノム資料を採取する臨床試験実施に際して考慮すべき事項」をホームページで公開していますので、ご参考になさってください。

なお、令和2年8月31日に発出されました治験届に関する厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知(薬生薬審発0831第10号)では、ゲノム検査等を含む治験に該当の有無を届け出ることとなっています。また、平成17年3月18日に発出されました「医薬品の臨床試験におけるファーマコゲノミクスの利用指針の作成に係る行政機関への情報の提供等について(薬食審査発第0318001号)」に添付されている当局への情報提出用リストの例には、治験においてバンキングを実施しているか否かを示すことになっていることも申し添えておきます。

見解改訂理由

令和2年8月31日発出の「治験の依頼をしようとする者による薬物に係る治験の計画の届出等に関する取扱いについて」(薬生薬審発0831第10号)改訂、及び参考となるホームページのタイトルを変更しました。

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