くすりの情報Q&A Q43.くすりで、患者さんの経済的負担は軽減できることがあるのでしょうか。

回答

くすりは、病気の予防や治療、さらには治療期間の短縮、再発リスクの減少などに役立ちます。そのため、病気に伴う患者さんの経済的負担や、国民医療費の軽減にも大きな役割を果たしています。

解説

くすりによって病気を予防することや、仮に病気になったとしても再発や悪化を防ぐことは、患者さん自身の肉体的・精神的負担を軽減することにつながります。

しかし、それだけでなく、医療費負担を軽減するという面からも非常に大きな意味があります。その典型ともいえる例は、プロトンポンプ阻害(そがい)薬(PPI)と抗菌薬によるピロリ菌の除菌療法です。

消化性潰瘍(かいよう)の治療はH2ブロッカーとPPIによって大きな成果を上げるようになりました(Q42参照)。ところがその後、胃の中にヘリコバクター・ピロリ(通称ピロリ菌)が残っていると、治癒(ちゆ)したはずの消化性潰瘍が再発するリスクがあることが確認されたのです。ピロリ菌は、日本人の場合40歳代で30%、50歳代では45%の人がもっているといわれます(2011年現在)。この菌がいる限り、消化性潰瘍は完治したとはいえないのです。

そこでピロリ菌を除去するための研究が進められ、現在ではPPIと抗菌薬を組み合わせる除菌療法がおこなわれるようになりました。この方法によって、消化性潰瘍の再発のリスクを大幅に減らすことができるようになったのです。

同時に、医療にかかるコストからみると、PPIと抗菌薬によるピロリ菌の除菌療法をおこなった場合と、従来の消化性潰瘍の治療薬を使用した場合とを比較すると、初回治療から治癒後5年間の医療費(再発治療費を含む)を半分以下に抑(おさ)えることができます。新薬の開発と新しい治療法の確立によって、医療費の負担を大幅に軽減することにも貢献しています。

また、臓器移植に欠かせないといってよい免疫(めんえき)抑制薬も、臓器移植という治療技術を進化させるとともに、入院期間を短縮させ、医療費の負担を軽減させています。

たとえば、1980年代に登場した免疫抑制薬シクロスポリンは、移植成功率を飛躍的に高めただけでなく、手術後の管理を容易にするとともに、入院期間の短縮も可能にしました。腎(じん)移植(死体腎移植)患者の平均入院日数は、シクロスポリンを使わないと37.0日であるのに対して、シクロスポリンを使うと26.4日に短縮されます。シクロスポリンを使うことによって、入院期間を短くすることができ、その結果医療費が削減されています。

くすりは、有効性や安全性に加えて、経済的な側面からも、その価値が認められるといえるでしょう。

図表・コラム

43|消化性潰瘍治療薬

医療費の比較(胃潰瘍・十二指腸瘍)

医療費の比較(胃潰瘍・十二指腸瘍)
  • 医療費は、潰瘍の初回治療から治癒後5年間の直接医療費。従来療法では、「ファモチジン」を投与、除菌療法では、「ランソプラゾール」「アモキシシリン」「クラリスロマイシン」を投与。

出典:Ikeda S. et al.: Evaluation of the cost-eff ectiveness pylori eradication triple therapy vs. conventional therapy for ulcers in Japan Alment Pharmacol Ther 15: 1777-85, 2001より引用 第6章

MINIコラム ピロリ菌の除菌療法

ピロリ菌の除菌療法では、PPIと2種類の抗菌薬を組み合わせ、1週間程度続けてのむ方法が一般的です。消化性潰瘍(胃潰瘍や十二指腸潰瘍)の治療の場合は、公的保険が適用されます。除菌療法によって、消化性潰瘍の再発リスクが大幅に低減します。

またピロリ菌は、消化性潰瘍の原因となるだけでなく、胃がんの原因にもなっています。慢性胃炎によって前がん状態になった患者さんたちを対象とした厚生労働省研究班による調査では、ピロリ菌の除菌療法をおこなえば、何もしない場合と比較して、前がん状態が改善されやすいことが判明しています。

たとえば、前がん状態の1つである胃の下部にみられる萎縮性胃炎の場合、除菌療法をおこなった場合の改善率は62%、しなかった場合は15%という調査結果が報告されています。

このことから、ピロリ菌の除菌療法には、胃がんへの進行を抑制する効果も期待されています。

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