オリンピックや万国博覧会のようなイベントが開催されるとき、「経済効果」という言葉をよく耳にします。大きなイベントとなると、開催会場への入場料や場内での飲食費といった直接的な経済効果だけでなく、会場及び周辺施設の建設や関連グッズの販売をはじめ、地元の土産物店や飲食店に至るまで、周辺にも少なからぬ経済面でのプラスの影響をもたらすからです。
くすりにも、ちょっとニュアンスは違いますが、やはり経済効果といえるものがあり、最近は「医療経済」の分野として注目されています。
たとえば、消化性潰瘍の治療薬として開発されたH 2 拮抗薬シメチジンは、くすりとしての功績も素晴らしいのですが(Q86参照)、同時にこのくすりのおかげで、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の手術が激減しました。アメリカでは、胃潰瘍の手術が従来の5分の1にまで減ったといわれ、日本でも外科の病気が内科の病気になったといわれるほど大きな変化が起こりました。その分、手術にかかる費用が大幅に軽減され、また手術に要するさまざまな医療資源の節約にもつながるという、大きな経済効果をもたらしたのです。
さらにH 2 拮抗薬は医療用医薬品として実績を重ね、安全性にも高い評価を得ることができたので、その後市販薬(処方せんなしで薬局で買えるくすり)として承認されました。市販薬となったことで、病院にかからなくとも、だれもがこのくすりを利用することができるようになり、医療費の軽減化に役立っています。とくに、公的な保険制度の整備されていないアメリカなどの国々では、患者の経済的負担が大きく減ったといわれています。
このようにくすりには、その効き目によって私たちの病気を治すばかりでなく、従来の治療方法を改善し、公私にわたり経済的負担を軽くするという効果があります。それがくすりの社会的価値として重視されるようになり、これからの研究開発における一つの目標ともなっています。
たとえば現在、腎臓病の治療のために人工透析を行っている患者は、全国で15万人以上もいます。人工透析は、患者にとっての肉体的負担はもちろん、必要とされる設備などもふくめた経済的な負担も大きなものがあります。腎臓の機能を助け、透析を必要としないくすりが開発されれば、患者の負担をはじめとした医療経済全体への影響は計り知れません。同じように、痴呆症の特効薬がもし開発されれば、患者自身を助け、介護をする人の負担を軽くするだけでなく、介護に要する莫大な費用を軽減することができます。
さらに、高齢社会の到来や低成長経済社会における医療保険財政の改善などもふくめて、くすりの研究開発が、将来にわたって医療のトータルコストの軽減化に寄与することが期待されています。

H 2 拮抗薬は、薬局でだれもが買えるようになりましたが、もともとは医療用医薬品であり、効き目も強いことから、使用するときは注意が大切です。
胃酸の分泌を長時間にわたりピタリとおさえるため、服用時間をきちんと守ること。また、病院でほかのくすりをもらっているときには、併用すると効き目がさらに強くなるものがあるため、医師や薬剤師に相談する必要があります。
いずれにしても、使用前にまず注意書をしっかり読むことが第一です。胃酸の分泌を止めるため、胃がんによる痛みも抑え、発見が遅れる可能性が指摘されていますし、くすりをやめたあとの再発も課題となっています。症状が繰り返すときは、やはり病院で診てもらうべきでしょう。 |
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図90
人工透析患者数の推移
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