能力開発

医薬品アクセスの向上には、現地での能力開発に関する実務指導及び教育訓練も重要です。

発展途上国においては、公的医療保険制度や医療インフラの未整備、医薬品の製造・品質管理に関わる人材不足、偽造医薬品の横行、貧困など、さまざまな要因により医薬品へのアクセスが阻害されています。
医薬品へのアクセスを向上するために、製薬協及び会員企業がなし得ることとして、現地での能力開発に関する実務指導及び教育訓練を重要な課題と捉えています。

1.実務指導

製薬協及び会員企業は、発展途上国における医薬品アクセス改善のため、ステークホルダーとの連携の下、医薬品の製造や品質管理に関する現地の方々への技術指導などを行っています。

2.教育訓練

発展途上国では、医療資源の不足、医療インフラの未整備、医療従事者の能力不足等により、適切な医療が患者さんに届かない場合があります。我々は、発展途上国における保健医療の向上のため、現地政府との協働のもと、予防、診断、治療に関する医療従事者の能力向上に取り組んでいます。

3.医療アクセス向上のための取り組み

発展途上国では、社会インフラ/医療インフラが未整備なことなどの理由から、医療へのアクセスが不十分な地域が存在します。また、衛生・疾患に対する知識を得る機会に恵まれないために、保健医療への認知が十分でない地域・人々が存在します。
我々は、現地の人々の衛生・医療への認知、医療アクセスの向上に取り組み、世界の保健医療の水準向上に貢献します。

会員企業の取り組み事例

女性と子どもの健康のためのエイズ・結核・マラリア対策の強化 エイズ・結核・マラリア対策は、この十数年で大きく進歩してきましたが、薬剤耐性の拡大や資金不足などにより、その進展が思わしくありません。「タケダ・イニシアティブ」は、グローバルファンドとの通算15年間のパートナーシップです。2010年に開始した「タケダ・イニシアティブ1」では、タンザニアでの蚊帳の配布によるマラリア予防の強化、ケニアでの結核治療へのアクセス改善、ナイジェリアでのエイズのケアと認知拡大に取り組みました。2020年からは「タケダ・イニシアティブ2」として、アフリカ数か国で、産前・産後健診に質の高いエイズ・結核・マラリア対策を統合することで母と子の健康改善を支援し、ユニバーサル・ヘルスカバレッジの達成を目指します。
世界の子どもの生存率や健康の改善を目指し、エビデンスの基盤を強化 世界では、5歳以下の子どもたちが毎年約500万人以上死亡しており、約半数は生後1ヶ月未満の新生児、次に多いのが肺炎や下痢などの小児期感染症によるものです。これらの多くは予防可能であるにもかかわらず、現実とのギャップは大きな課題と言えます。Takeda Chair in Global Child Healthは、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)において初となる企業の全面的支援による寄付講座の教授職であり、ワクチン、新生児ケア、栄養失調、感染症の診断・治療などを含む革新的な研究を通して、新進気鋭の研究者を子どもの生存と健康に精通するリーダーとして育成します。さらに研究、公共政策、及び医療供給の間に存在する隔たりを埋めることで、世界中の子どもたちの健康に恩恵をもたらすことを目指します。
すべての人々が医療にアクセスできる世界の実現を目指し、24のプログラムを通じて、85か国での保健医療アクセス改善に貢献 武田薬品は、グローバルヘルスの課題解決において確かな実績を持つ、トップレベルの国際機関やNGOと積極的に協働しています。顕在化する諸問題の多くは応急処置的な対策で解決できるものではなく、また持続可能な効果が得られるまでには時間を要します。そこで、私たちは安定した長期支援策の一環として、2016年からグローバルCSRプログラムをスタートしました。
本プログラムでは、途上国・新興国における疾病予防、地域ヘルスワーカーの育成、サプライチェーンの強化、質の高い医療へのアクセス改善に向けた活動を支援しています。最大の特徴は、毎年、世界約50,000人の全従業員による投票で新たに支援する活動を決定することです。
発展途上国からのフェロー受け入れと研修提供 エーザイはWHO-TDR(熱帯病医学特別研究訓練プログラム)を通じ、自社海外拠点などに発展途上国よりフェロー(研修生)を受け入れ、臨床開発における能力開発の研修を提供しています。
エーザイでは、Eisai Inc.(米国拠点 ニュージャージー州)にて、2010年にナイジェリア連邦共和国から、2011年にコロンビア共和国からの研修生を受け入れ、臨床開発や臨床試験のマネジメントスキル取得のための研修を実施しました。帰国後はそれぞれ母国での感染症の診断と治療や治療薬の開発において指導的な役割を果たしています。さらに、2015年には、東京本社にリンパ系フィラリア症蔓延国であるインドネシア共和国から医学生のインターンシップを受け入れ、リンパ系フィラリア症制圧活動に関連する研修を実施し、人材育成を通じた制圧支援をしています。
認知症の診断技術の向上/疾患啓発の提供 エーザイはインドで2005年に教育・啓発プログラムを開始し、認知症に関する意識の向上を図っています。認知症への意識向上を目的とした教育資料の開発と配布、神経科医や精神科医による講演会の企画、ボランティア医師による移動スクリーニングキャンプ開催の支援、メモリークリニック(「物忘れ外来」)開設や医療スタッフの教育訓練の支援などを行っています。今日まで、エーザイは4,421ヶ所でスクリーニングキャンプを実施し、61,883人以上の方々のスクリーニングを行いました。さらに、エーザイは2010年のインド政府への「認知症国家戦略 2010(National Dementia Strategy 2010)」提出の支援も行ってきました。エーザイの取り組みにより、メモリークリニックの数はインド全土で69となりました。
 エーザイのこのような取り組みはインド以外でも展開されています。例えばフィリピンにおいては、フィリピン認知症学会との協力のもと、全土でメモリークリニック開設支援、神経科医や精神科医、老人病専門医の教育訓練を実施するなど、さまざまな活動を実施しています。
マイセトーマの新薬開発および疾病啓発の提供 マイセトーマは皮膚から感染し、放置すると手足などに巨大な腫瘤を生じる顧みられない熱帯病です。感染経路や罹患者数などの基本的情報が不足し、治療法も限られていることから最も顧みられない熱帯病のひとつといわれています。エーザイは、マイセトーマ治療薬の創出をめざし、蔓延国のひとつであるスーダンで、Mycetoma Research Centre、Drugs for Neglected Diseases initiative(DNDi)および、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)と協力し、自社創製の抗真菌剤ホスラブコナゾール(E1224)の世界初のマイセトーマの二重盲検試験を実施し、今後の承認申請のプロセスについてスーダンの規制当局と協議を行っています。並行して、新規治療薬を効率的に多くの患者様にお届けするためのアクセスプランの策定に向けて、スーダン国内外のステークホルダーズと対話を行っています。
また、エーザイは、国際NGOである特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR Japan)とパートナーシップを締結し、2019年よりスーダンでのマイセトーマ対策事業を支援しています。活動開始以来、190人以上の患者様への治療や手術の実施、2,800人以上の住民に対する疾患啓発活動を行い、現地協力団体への能力強化などの包括的かつ持続可能なアプローチを進めています。本事業は、厚生労働省の2022年度「医療技術等国際展開推進事業」に採択され、長崎大学熱帯医学研究所の協力を得て、スーダンでマイセトーマ対策に携わる協力団体や医療関係者へのオンライン研修を2 回実施し、NTDsの制圧に向けた活発な議論が行われました。
MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)の製造に関する技術協力 第一三共の子会社である第一三共バイオテック(旧 北里第一三共ワクチン)は、ベトナムで初となる麻疹と風疹の混合ワクチンのベトナム国内製造への技術支援を行い、ベトナムの子供たちへの接種が開始されました。
マラリア制圧に向けた取り組みへの資金提供 住友ファーマは、アフリカおよびアジアの数ヵ国において、マラリア制圧に向けた取り組みを支援しています。
NPO、現地政府、地域社会と連携し、インド、ザンビア、タンザニア、インドネシアにおける蚊帳や簡易検査キットの配布や教育支援活動、日本国内におけるマラリア啓発イベント開催への協力を行っています。
医療へのアクセス向上に向けた取り組みへの資金提供 住友ファーマは、低中所得国における医療アクセス向上に向けた取り組みを支援しています。NPO、現地政府、地域社会と連携し、バングラデシュでは看護師育成プロジェクトを、またハイチでは医師育成プロジェクトとともに結核検診プロジェクトへの協力を行っています。
医療へのアクセス向上に向けた取り組みへの資金提供 アステラスは、保健医療へのアクセス向上のための重要なアプローチとして、ヘルスケアの障害を取り除き、保健医療システムを強化するための外部パートナーの活動を協働・支援しています。
■マレーシア;アステラスは2022年からマレーシア国立がん協会と一般社団法人アジアがんフォーラムと連携し、多民族国家のマレーシアで複数のスクリーニング可能ながんの予防と早期発見の為のBEAUTY & Healthプログラムを行っています。複数の癌の教育資材やがんのリスク管理ポータルの開発、地域の理髪店や美容院を拠点とした啓発活動を含む包括的な取り組みを行っています。
■ペルー;アステラスは2022年からCity Cancer Challenge Foundationと連携し、 がんが公衆衛生上の課題として深刻化しているアレキパ市で保健医療システムの強化と向上に取り組んでいます。多分野横断的な連携を推進し、デジタルヘルス・エコシステムの導入やがん専門家の能力育成などを行っています
■メキシコ;アステラスは、2023年からAMPATH(Academic Model Providing Access to Healthcare)メキシコと連携し、コミュニティに根差した、3つのがん(乳がん、子宮頸がん、前立腺がん)を対象とした健康に対する知識・理解を深めるプログラム、早期診断のための検査の推進を支援しています。
■ドミニカ共和国; アステラスは、2023年からMAP Internationalを通じて、前立腺に対する理解の向上と検診キャンペーンを支援しています。交通量が多い地域での教育キャンペーンの実施や、地方で移動式の検診設備等を利用し、前立腺がんの初期段階での予防および検診後の継続な治療を目指します。
母子の健康改善に資する活動 住友ファーマは、NPOピープルズ・ホープ・ジャパンと協働し、2歳以下の乳幼児の多くに発達阻害がみられるカンボジアの農村地域を対象に、母子保健ボランティア(CCMN)の育成に取り組んでいます。CCMNは、妊産婦の家庭訪問を通じて健診や新生児ワクチン接種を促進するとともに、保護者や地域社会に対して乳幼児に必要な食事や口腔ケアに関する教育を行っています。
母子の健康改善に資する活動 塩野義製薬は、妊産婦や5歳未満児の死亡率が極めて高い地域であるサブサハラ・アフリカ地域において、「妊産婦・授乳婦および5歳未満児の健康の改善」と「自立的な保健サービスの運営」を目標に掲げ、2015年から「Mother to Mother SHIONOGI Project」に取り組んでいます。2023年に開始した第3期事業では、ケニア共和国において国際NGOワールド・ビジョン・ジャパン、ガーナ共和国において公益財団法人ジョイセフと共に、母子の健康改善に取り組みます。特にLMICsの大きな課題である医療アクセスや衛生環境の改善、子どもの死亡原因になる下痢症の低減に注力します。
ベトナムにおけるAMR対策としての抗菌薬の適正使用強化プログラム 住友ファーマは、東南アジアで最も薬剤耐性率が高いベトナムの主要な医療施設を対象に、2019年より、現地政府や国立国際医療研究センター(NCGM)と共同し、AMR対策として、薬剤感受性サーベイランス研究をはじめとした、抗菌薬の適正使用強化プログラムを実施しています。
ネパールにおける乳がん・子宮頸がんスクリーニングキャンププロジェクト 第一三共は、特定非営利活動法人AMDA社会開発機構と協働し、ネパールにおいて「乳がん・子宮頸がんスクリーニングキャンププロジェクト」を2021年1月に開始しました。本プロジェクトでは、カトマンズ郡ゴカルネシュワル地区を対象に、スクリーニングキャンプや啓発活動を通じて検診サービスの拡充と乳がん・子宮頸がんに関する住民の知識向上を図り、がん検診受診者数の増加と、がんの早期発見を目指し活動を行います。
ジンバブエにおけるSRHRおよび乳がん・子宮頸がんに関する医療基盤の強化 第一三共は国際NGOプラン・インターナショナルと協働し、2021年4月よりジンバブエにおいてSRHRおよび乳がん・子宮頸がんに関する啓発と医療サービスの強化を目指す取り組みを開始しました。本プロジェクトでは、乳がんや子宮頸がんおよびSRHRに関する知識向上と、女性が医療サービスを受けやすい環境を整備することを目標として、①乳がん・子宮頸がん、SRHRに関する医療従事者の能力強化、②SRHR、ジェンダー平等および子宮頸がん・乳がんに関する地域住民への意識啓発活動、③地域行政への提言活動などを行っています。

製薬協の取り組み事例

ベトナムにおける臨床薬剤師を介して行う服薬支援ツールを用いた医薬品の適正使用推進プロジェクト

製薬協国際委員会グローバルヘルス部会のアクセスグループは、低中所得国での医薬品アクセス改善への貢献活動を実施しています。本活動として2019年度から2021年度までの3年間は、ベトナムの臨床薬剤師による医薬品の適正使用推進に取り組みました。なお、この活動は、国立国際医療研究センターが実施する医療技術等国際展開推進事業の一つとして採択されています。
本活動については、こちらをご覧ください。

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