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「第27回製薬協政策セミナー」を開催

日本経済再生に向けたイノベーションの創出

2015年9月3日、経団連会館(東京・千代田区)で、「日本経済再生に向けたイノベーションの創出」をメインテーマに、「第27回製薬協政策セミナー」を開催しました。本年4月1日、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development、AMED)が設立され、医療分野の研究開発が基礎から実用化まで一貫して支援される体制が確立されました。一方、6月に閣議決定された「骨太方針2015」には「成長戦略に資する創薬に係るイノベーションの推進」が盛り込まれ、研究開発型製薬企業への期待が示されました。そこで、今回の政策セミナーでは、イノベーションの創出をめぐって、「魅力ある創薬日本」の実現へ向けた諸課題について討議がなされ、患者団体、政治家、行政、医療関係者、メディア関係者、関係団体、会員会社など、多数の参加者が熱心に聴講しました。

2015/11/10

会場風景
会場風景

 伍藤忠春理事長の開会挨拶に始まり、日本経済団体連合会の永里善彦氏より「日本経済再生に向けたイノベーションの創出〜経団連ビジョンの実現に向けて〜」をテーマに基調講演がありました。続いて、日本医療研究開発機構(AMED)執行役の菱山豊氏、九州大学大学院薬学研究院教授の米満吉和氏、製薬協の多田正世会長がそれぞれの立場からイノベーションの創出に関してパネリスト講演を行いました。その後、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授の橘川武郎氏をコーディネーターとし、3人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。最後に、髙田義博広報委員長が閉会挨拶を行いました。
  以下、当日の講演の概要を紹介します。

【基調講演】
「日本経済再生に向けたイノベーションの創出〜経団連ビジョンの実現に向けて〜」 
一般社団法人日本経済団体連合会 未来産業・技術委員会 産学官連携推進部会長
株式会社旭リサーチセンター 常任顧問
永里 善彦 教授

一般社団法人日本経済団体連合会 未来産業・技術委員会 産学官連携推進部会長 株式会社旭リサーチセンター 常任顧問 永里 善彦 氏

2030年の日本を見据えた経団連ビジョン

 経団連はわが国の代表的な企業約1300社、他各種団体200法人から構成される総合経済団体であります。企業や個人、地域の活力を引き出し、わが国経済の発展と国民生活向上に寄与することを目的にさまざまな活動を行っております。たとえば、国の政策について、産業界の意見をとりまとめて各方面に迅速な実現を働きかけています。
 それらの活動は、経済政策をはじめ労働・雇用、エネルギー、東京オリンピック・パラリンピックなど、多くの委員会と、その下の部会を中心に行っております。私はイノベーション関係の未来産業・技術委員会の産学官連携推進部会で部会長を務めております。この部会は産学官連携を切り口に研究開発から人材育成まで幅広いテーマを取り扱っております。特に大学改革は大きな課題です。
  経団連では、本年1月に2030年の日本のあるべき姿(目指す国家像)を見据えた「『豊かで活力ある日本』の再生」と題する「経団連ビジョン」を発表しました。本日はそのエッセンスを紹介します。
  日本には山積する課題があります。たとえば、「ゼロ成長が続く失われた20年の経験」、「本格的な人口減少・超高齢社会の到来」、「財政赤字の継続と長期債務残高の累増」などです。
  日本でこの20年間続いたデフレ経済に、このところようやく脱却の光が見えてきたところでもありますが、前述したような課題に先手を打って対応しない限り、人は減り、町は消え、仕事はなくなります。

日本が目指すべき4つの国家像

 さまざまな課題を抱える日本を再生するカギは「イノベーション」と「グローバリゼーション」です。
  イノベーションには、技術革新と社会・制度の2つの側面があります。前者は研究開発や技術開発に挑戦し、新産業・新事業を起こすことであり、後者は政治、経済、社会など国民生活全般にわたって、旧来の常識にとらわれず、新しい変革を起こしていくことです。
  一方、グローバリゼーションは、日本の強みや魅力を世界に向けて発信するとともに、世界への門戸を大きく開き、海外の活力・成長力を積極的に取り込んでいくことであり、グローバル化がいわれる今、待ったなしの状況です。
  これらをベースに、2030年までにどのような国家像を描くべきか、経団連では議論し、以下に挙げる4つの国家像を設定しました(図1)。

  1. 豊かで活力ある国民生活を実現する
  2. 人口1億人を維持し、魅力ある都市・地域を形成する
  3. 成長国家としての強い基盤を確立する
  4. 地球規模の課題を解決し、世界の繁栄に貢献する

こうした国家像を実現するために取り組むべき課題として、経団連では、3つの総合課題と、4つの国家像に対応する28の個別の政策課題をまとめました。それぞれの課題について2020年と2030年の到達目標をできる限り具体的に記載しております。3つの総合課題は以下の通りです。

  ・ 震災復興の加速化と新しい東北の実現
  ・ 東京オリンピック・パラリンピックの成功
  ・ 時代を牽引する新たな基幹産業の育成

図1 目指すべき国家像と基本計画策定の要諦
図1 目指すべき国家像と基本計画策定の要諦


健康・医療分野における貢献

 28の個別の政策課題の1つとして「健康・医療分野における貢献」を紹介します(図2)。
  「健康・医療分野における貢献」に関する2020年の到達目標は、世界最高水準の医療分野の基礎研究を次々に実用化し、増加する高齢者の多様なニーズに応え、新たなヘルスケア産業を続々と誕生させ、日本発のヘルスケア産業を世界に展開し、現地における医療サービスの改善や健康寿命の延伸に貢献することです。
  2030年の到達目標として、世界最高水準の医療の実用化や、ヘルスケアサービスの充実により、日本人の健康寿命を3歳ほど延伸させること、日本の健康・医療分野での経験・ノウハウを世界各国に普及させ、超高齢社会を迎える国々の経済社会の活力維持に貢献することの2つを掲げております。

図2 健康・医療分野における貢献
図2 健康・医療分野における貢献

 そうした到達目標を踏まえ、2020年を見据えて直ちに取り組むべき課題とは何でしょうか。まず、政府としては大学・研究機関などが有するさまざまな医療分野の研究シーズを汲み上げ、研究開発を推進する体制の整備、ヘルスケア産業の育成に向けた環境づくりや、日本の医療機関・ヘルスケア産業などの海外展開の支援を行う必要があると考えております。
  研究・医療機関としては、再生医療やゲノム医療といった先進的な研究開発に取り組むことが重要です。われわれ企業は、高齢社会に対応したヘルスケア関連製品・サービスの開発や優れたヘルスケア関連製品・サービスの海外への積極的展開を行う必要があります。そして、国民に対しては、健康増進や疾病予防に向けた主体的な取り組みが求められると考えております。

新産業と既存産業で2030年には210兆円の付加価値創造を目指す

 次に、経団連ビジョンで掲げた総合課題の1つである次の時代を牽引する「新たな基幹産業の育成」について説明します。
  わが国は国際競争力のある基幹産業の輸出で稼いだ外貨によって食料や燃料などの天然資源を輸入し、国民生活を支えるという基本的な経済構造を持っています。その基幹産業は明治以来、繊維、造船、鉄鋼、半導体、電気・機械、自動車と時代とともに変遷してきました。経済の継続的な成長を今後とも実現し、国民生活を支えていくためには、次の時代を牽引する新たな基幹産業を育成していくことが求められております。
  経団連では、新たな基幹産業となるポテンシャルを秘めた産業として「IoT(Internet of Things)」、「人工知能・ロボット」、「スマートシティ」、「バイオテクノロジー」、「海洋資源開発」、「航空・宇宙」の6分野を掲げました。中でもバイオテクノロジーは、地球規模の人口増加に伴い、各資源の消費効率を改善するなどさまざまな分野に役立ち、人類の発展に欠かせない技術と考えております。現在、バイオテクノロジーではバイオ医薬品が相応の地位を確立しており、今後は化学素材、農業、環境、エネルギーなどさらに幅広い分野への応用が期待されます。ビジョンを実現した場合の姿として、これら6つの産業をはじめとした新たな基幹産業で2030年に100兆円の付加価値を生み出すことを目標としています。
  もちろん、既存産業群も重要であります。既存産業の強化によって2030年には110兆円を生み出し、新たな産業と合わせて210兆円の付加価値を創出することを目指します。これは現在のGDPに対して約4割増となります。

第5期科学技術基本計画への提言

 本年度末にはわが国における中長期の科学イノベーション政策に当たる「第5期科学技術基本計画」が策定されます。これまで策定権限は文部科学省にありましたが、2014年の内閣府設置法の改正によって、第5期計画から内閣府の総合科学技術・イノベーション会議、通称CSTI(システィ)で作成されることになりました。そのため、これまでよりイノベーションを強く意識した内容となることが期待されます。
  経団連では未来産業・技術委員会を中心に議論を進め、昨年11月と今年3月に提言を公表しました。
  提言の中では、基本計画策定に当たり、経団連としては先ほど述べた目指すべき国家像を参考にしてほしいと提案、そして、未来創造に向けた3つの視点と5つの重要課題を提示しました。
  3つの視点とは、「ICTによる“新しい産業革命”への挑戦」、「システム重視の国際標準化への対応」、「オープンイノベーションの本格的推進」です。
  5つの重要課題は、「国としての省庁横断・革新的課題への挑戦」、「資源・環境・エネルギー等の制約の克服」、「超高齢社会への対応」、「安全・安心、国家の存立」、「共通基盤技術の強化」といった内容です。また、イノベーション創出に向けた国全体の仕組み作りとして「CSTIの司令塔機能の更なる強化」、「国立大学改革」、「研究開発法人改革」、「資金制度改革」などを提案しています。
  今年6月には、第5期計画の中間取りまとめが発表されましたが、これまで述べたような産業界の意見が相当程度反映されており、今後の最終的な取りまとめに期待をしております。

新たな基幹産業の育成に不可欠なICT

 最後に、新たな基幹産業の育成について述べます。
  経団連では毎年7月に主要企業のトップが集まり、時宜を得たテーマについて有識者を呼び、議論を行うフォーラムを開催しております。今年は地方創生やオリンピックがテーマとなりました。そのほか、分科会において、経団連ビジョンで掲げた日本再生の鍵であるイノベーションとグローバリゼーションについても議論しました。ここでは、イノベーション分科会の議論について簡単に紹介します。議論した論点は2つであり、「新たな基幹産業とは何か、その育成と既存産業の強化に必要な具体的取り組みとは何か」、「イノベーション創出による産業競争力の強化に向け、産業界としての果たすべき役割、行うべき改革は何か」です。
  新たな基幹産業の育成には、ICTの活用は不可欠であり、IoT、人工知能やロボットの活用などによって、ものづくりはもとより、医療、農業、金融などの既存産業もかつてないほど進化を遂げる可能性があります。また、地球規模の課題解決を目指すことも新たな基幹産業の創造に役立ちます。スマートシティや介護・医療産業などは大きな潜在力を持っています。
  経済界としては、産業競争力の強化に向けてオープンイノベーションを推進することが最も重要だと考えます。具体的には、企業・異業種間の連携、産学官連携、ベンチャー企業育成がポイントになってきます。
  企業・異業種間連携の推進では、新製品創造に向け、省庁縦割り行政の打破が不可欠です。省庁を横断した製品・サービス単位での管轄が望ましいでしょう。
  産学官連携の推進では、基礎研究から応用、実用化までビジョンを共有することが大切です。大学を中心に基礎研究を進め、政府の国立研究所や研究開発法人を中心に応用研究を行い、企業が実用化までの役割を果たすという流れを作ることが重要です。中でもライフサイエンス分野では日本医療研究開発機構(AMED)が全体を俯瞰した役割を果たすことを期待しております(図3)。

図3 産学官連携の推進〜AMEDへの期待〜
図3 産学官連携の推進〜AMEDへの期待〜

 また、産学官が結集し、地元の強みを踏まえた地方の拠点化を進め、地域から世界を狙うクラスターづくりも求められます。その一例としては、「東九州メディカルバレー構想特区」が挙げられます。  最後に、ベンチャー企業創出に向けて、「東大・経団連ベンチャー育成会議」が検討中であることを述べておきます。これは大企業と大学が連携し、大学発ベンチャーの育成加速に向けた枠組みづくりを検討する場として設立され、まずは過去の欧米や東大発ベンチャーの事例分析を進める予定です。ベンチャー企業の創出において、地域における取り組みも重要であり、本年5月に「スタートアップ都市推進協議会との共同声明」を発表し、今後、地方の特色ある新興企業と大企業の間でのマッチングなどを進めていく予定です。  製薬をはじめとしたライフサイエンス、バイオテクノロジーはわが国の強みであり、その重要性は産業界全体の共通認識です。この分野をさらに強化し、新しい基幹産業の育成のために、経団連としても引き続き協力していきたいと考えております。


【パネリスト講演1】
「日本医療研究開発機構の現状と展望」 
日本医療研究開発機構 執行役  
菱山 豊 氏

日本医療研究開発機構 執行役 菱山 豊 氏

アカデミアの現状と支援プログラム

 私たち日本医療研究開発機構(AMED)はこの4月に発足しました。その背景から説明します。まず、日本のアカデミアの現状ですが、基礎研究、臨床研究とも高いレベルにはあるものの、国際的な順位が下がってきています。また、日本の製薬および医療機器産業を見てみますと市場規模はそれぞれ世界の1割程度を占めています。
  こうした中で、日本のアカデミア発の医薬品も上市されており、最先端のバイオ技術を活用した抗体医薬や、最先端のライフサイエンス技術を活用した分子標的薬も含まれています。
  日本の審査体制について、以前はいろいろと批判もありましたが、最近では非常に強化され、審査のラグはゼロになっています。
  アカデミアへの開発支援も進んでおり、たとえば文部科学省の橋渡し研究支援推進プログラムは平成19年に始まりました。当時は大学病院から新薬が出ないのではないかといわれていましたが、このプログラムの成果として治験届け提出が42件、保険収載(適用)が7件生まれ、1つのパイプラインができあがりました。
  また、厚生労働省による難治性疾患克服研究事業では、治験が終わり、承認申請段階まで進んだものが6件あり、また企業でも引き受けてもらっています。希少難病については市場性が小さく、企業が引き受けにくいという声もありますが、AMEDを訪れた海外の大手企業も、これらの研究は新しい創薬につながる重要なもので、他の疾患にも適応拡大できる可能性があると強い関心を示していました。

AMEDの機能と予算について

 昨年、健康・医療戦略推進法と日本医療研究開発機構法が成立、審議の過程において国会でもアカデミアでも高い関心を集めました。この法律に基づき、総理大臣を本部長とする健康・医療戦略推進本部が設置され、「健康・医療戦略」と「医療分野研究開発推進計画」が策定されています。この「医療分野研究開発推進計画」に沿ってAMEDが事業を進めていくトップダウン型の政策になっています。予算についても推進本部が全体の配分方針を決定し、各府省が概算要求する前に推進本部が総合的な予算要求配分を調整しています。一方でボトムアップ型の基礎研究も大事ですので、文部科学省の科研費についてはこれまで通り維持する形となっています。
  この予算配分の方針に基づき、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省が予算を要求し、3省からAMEDに予算が補助金等として交付されます。従来の縦割りを脱し、AMEDとして1つにまとめる形となりました。
  AMEDでは、プログラムディレクター(PD)、プログラムオフィサー(PO)等を中心にしっかりとした研究開発のマネジメントを行っていこう、また産業化に向けては知的財産取得に向けた研究機関への支援を行っていこうとしています(図4)。AMEDには関係省や独法、大学、企業などから人材を集結、また専門的、たとえば医師も全体の1割、30人ほど集まっています。AMEDの中長期計画では、具体的な数値目標を設定し、平成27年からの5年間で進めていく計画です。
  現場の研究者の方々から研究費の使いにくさを指摘されてきましたが、その機能的運用として、末松理事長名で改善の内容の解説をHPに掲載しているので、是非ご覧ください(「研究費の機能的運用について」を参照)。その他、非常に多くの事業があるため公募時期の一覧をHPに掲載したり、研究者に対するワンストップサービスにも取り組もうとしているところです。希少難病に関する新しいプロジェクト、製薬企業の化合物ライブラリーを活用したDISC、官民共同による臨床検体を用いた創薬標的探索など、新しいことにも取り組んでいます。
  平成28年度の予算要求ですが、AMED対象経費全体としては1,515億円が要求されています。今後、12月の政府予算原案に向けて調整されます。特にゲノム医療については、ゲノム医療実現推進協議会が開催され、ゲノム医療実現に向けた体制整備や実用化に向けた研究開発を推進していくこととなっており、それに向けた予算が要求されています。
  AMEDは、強力なマネジメントでアカデミアと産業界の連携・協力を促進したいと考えています。

図4 日本医療研究開発機構(AMED)に求められる機能
図4 日本医療研究開発機構(AMED)に求められる機能



【パネリスト講演2】
「大学発シーズの臨床開発におけるベンチャー企業の役割」 
九州大学大学院薬学研究院 革新的バイオ医薬創成学 教授 
米満 吉和 氏

九州大学大学院薬学研究院 革新的バイオ医薬創成学 教授 米満 吉和 氏

 

次世代の再生医療で日本にアドバンテージ

 私がまだ研究者として駆け出しの1994年頃、動物実験では中和抗体を使うと効果が非常に高いことを見出し、製薬企業の開発担当者にくすりにならないだろうかと尋ねたことがあります。すると、「抗体がくすりになるなんてあり得ないでしょう」と大笑いされました。しかし、その数年後に抗体医薬が市場に登場しました。いま、抗体医薬のほとんどは海外のバイオベンチャーから生まれています。
  抗体医薬の次に来るのが細胞治療、遺伝子治療、再生医療でしょう。この分野では日本にアドバンテージがあります。バイオ医薬は特定の分子をターゲットにしていますから、特にアンメット・メディカル・ニーズへの対応に伸び代が大きいといわれています。
  医薬品の開発には莫大な費用がかかりますが、基礎研究から応用研究の間には「死の谷」(デスバレー)があり、どうすれば、基礎研究からビジネス展開につなげ、収益性を上げていくかがいま問われています。
  私が研究をはじめた頃は、アカデミアの守備範囲はシーズ研究や効能試験までで、その後は製薬企業に渡すという発想でしたが、2000年頃からアカデミアも製剤開発・非臨床・早期探索臨床試験まで、奨励されるようになってきました。
 製薬企業のみなさんにとっては知財の排他性、治験成功の確実性、市場性、商品力などが重要ですが、アカデミアの研究者にとって、そのようなことに思いをはせることはまず稀でした。しかし、2001年に小泉内閣が発足する前後からさまざまな点で環境が整備され、1998年に大学等技術移転促進法(TLO法)が成立、大学へのTLO設置が促進され、99年には日本版バイドール法[1]ができ、教員による発明知財の環境が整備されました。2001年には大学発ベンチャーを推奨した平沼プランを契機として、大学発のバイオベンチャーも生まれました。その後現在まで、政府も製薬企業もダイナミックに動きはじめたのですが、一方でバイオベンチャーだけが進歩から取り残されてしまった、というのが今の状況です。

バイオベンチャーは新陳代謝で機能アップを

 バイオベンチャーを取り巻く問題には資金調達、規制・制度、人材などがありますが、特に問題は資金調達でしょう。2003年から04年はバイオバブルで、多くのベンチャーが上場しました。ところが、06年のバイオバブル崩壊以降、さらにそれに追い打ちをかけたリーマンショック以降は、上場バイオベンチャーの時価総額が大幅に減り、治験を遂行するだけの資金調達がなかなか難しい状況になりました。日本は上場バイオベンチャーの数が少ないだけでなく、1社当たりの時価総額はアメリカの10分の1以下、EUの5分の1以下です。これでは強力な創薬力は期待できないでしょう。
  規制・制度については政府が動き出し、法整備が進むとともに日本医療研究開発機構(AMED)が発足するなど、大きな制度改革が進んでいます。製薬企業も、欧米のメガファーマに対峙すべく再編や統合が進められてきました。大学もようやく文部科学省や厚生労働省のプログラムによってレベルアップしつつあり、大学内にアカデミック臨床研究機関(Academic Research Organization:ARO)[2]を設置、専門家など人材が流入し始めている状況です。このような状況の中、ベンチャー企業だけが保守的であり、十分な開発資金を集められないままジリ貧になりつつあります。特に再生医療領域では、薬事法が改正され薬機法となり「早期・条件付承認制度」が再生医療等製品に適応されてからは、むしろ欧米のバイオベンチャーの目は日本に向きつつあります。再生医療の主戦場は、これからこの日本になるということです。欧米における創薬の強力なドライビングフォースであるバイオベンチャーと伍していくためには、日本のバイオベンチャーはイグジットの多様化を進めるとともに、M&Aなどを効率的に活用して資本とシーズの選択と集中を進めて行く必要があるでしょう。
  最後に私からの提言として、AMEDには再生医療推進のために、日本版PACT(Production Assistance for Cellular Therapies)・GTRP(Gene Therapy Resource Program)をぜひ設立していただきたい。これは、細胞治療、遺伝子治療において研究機関や企業をサポートする米国の公的機関であり、産学連携による再生医療・遺伝子治療の開発促進には不可欠です。
  ベンチャー企業には吸収・合併による資本とシーズの選択と集中により開発をスピードアップするか、そうでなければ、別のイグジットとしてシーズの知財期間が短くなり陳腐化する前に、製薬企業への買収を促進させるなど、積極的な新陳代謝を進めてほしいと思います。バイオベンチャーは欧米では創薬力の主力ですが、日本ではまだ十分に機能していません。日本の創薬力を国際レベルにアップするために、いまバイオベンチャーの機能の底上げを行うことが急務ではないでしょうか(図5)。

図5 わが国の創薬基盤を強化するためのワンポイント提言
図5 わが国の創薬基盤を強化するためのワンポイント提言



【パネリスト講演3】
「研究開発型製薬産業の取組と今後の課題」 
日本製薬工業協会 会長
多田 正世 氏

日本製薬工業協会 会長 多田 正世 氏

日本オリジンの新薬比率が低下

 過去100年、アスピリン、ペニシリンからはじまり、科学技術の進歩とともに、多くの新薬が創出されてきました。直近の30年では、バイオテクノロジー分野で数々のイノベーションが起こり、近年では抗体医薬、分子標的薬などの革新的医薬品が創出されています。今後はゲノム関連技術の高度利用や、iPS細胞の臨床応用などによって個別化医療、再生医療に向けた新薬開発が進展するものと思われます。
  2013年に世界売上高10億ドル以上の医薬品の中で日本オリジンの製品は10品目を数え、日本が新薬を創出できる数少ない国の1つであることがわかります。
  しかし、日本で承認された新薬の起源国を見ると、日本オリジンの品目数の比率が25%(1999〜2003年)から16%(2009〜2013年)へと、下がってきています。従って、経済成長に寄与するかどうかという視点で見ると、日本オリジンの新薬を増やしていくための創薬環境の整備がポイントとなります。
  そのヒントとなるのがアメリカの状況です。1998年から2007年の間にFDA(アメリカ食品医薬品局)で承認された新薬の起源を製薬企業、バイオテク企業、大学などの組織別に分類すると、バイオテク企業と大学を足した起源の比率が高いわけですが、日本では圧倒的に大規模製薬企業で発見された薬剤の比率が高くなっています。このため、日本でもアカデミアやベンチャーの研究開発力を創薬に活かす取り組みが重要となります。

AMED設立で創薬シーズへのアクセスが容易に

 日本の新薬メーカーの創薬活動に影響を及ぼす要因は、超高齢社会到来や疾病構造の変化、研究開発費の高騰などいろいろありますが、メーカーはこれに対してアンメット・メディカル・ニーズへの対応やアカデミア発シーズの実用化促進などに取り組み、イノベーション創出にリスクを取って挑戦しています。
  ただ、国内アカデミア発の医薬品の中には、海外で実用化された例があります。日本のアカデミアの優れた成果が他国ではなく、日本で実用化されるように産学連携のあり方が問われています。
 こうした中で、本年4月に日本医療研究開発機構(AMED)が設立されました。これはアカデミアにとっては基礎研究の出口が従来の論文や学会報告に留まらず、実用化に向かう大きな道が開かれたこととなり、製薬企業にとっても創薬シーズの候補となる技術に容易にアクセスすることができるようになります。製薬協のメンバーとしてはAMEDの諸活動に主体的にかかわり、産学官連携による日本発の新薬創出に活かしたいと考えています。
  イノベーション創出に関して、製薬企業が1社単独ですべてを賄う自前主義では通用しなくなっており、産学官・ベンチャーによるオープンイノベーションを推進する必要があります(図6)。オープンイノベーションには公募型、共同研究型、コンソーシアム型などがありますが、その1例として、製薬協会員28社が集まり、国立医薬品食品衛生研究所など4つの官学の研究機関にアドバイザーとして参加していただいている、「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム」があります。複数企業が協働して産学と連携し、共通基盤となる安全性評価法の確立、医薬品開発の効率化を図るのが目的です。
  最後にゲノム医療について触れますが、これは個人のゲノム情報を元にその人の体質や症状に適した医療を行うことです。本年2月、政府にゲノム医療実現推進協議会が設置され、ゲノム情報の利活用に関する研究推進やバイオバンクの整備などが検討されています。生体試料や臨床情報などを収集し、データベース化も行われています。ゲノム医療実現に向けて、製薬協はAMEDとの共同による活動を行っていきますので、期待していただきたいと思います。


図6 オープンイノベーションの推進
図6 オープンイノベーションの推進



パネルディスカッション

◆コーディネーター
東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授 橘川 武郎 氏
◆パネリスト
日本医療研究開発機構 執行役 菱山 豊 氏
九州大学大学院 薬学研究院 革新的バイオ医薬創成学 教授 米満 吉和 氏
日本製薬工業協会 会長 多田 正世 氏

コーディネーターの橘川 武郎 氏
コーディネーターの橘川 武郎 氏

AMEDの取り組みに期待している

橘川 本日のセミナーのタイトルは「日本経済再生に向けたイノベーションの創出」です。そこでまず、創薬のイノベーションを起こしていくうえでの課題とその解決策について、パネリストのみなさんの考えを聞きたいと思います。
菱山 課題はいくつもあると思います。1つは米満先生も講演で指摘しましたが、アカデミアと企業における知的財産(知財)に対する理解度の違いです。知財は、企業にとって生命線ですので、知財関連の人材が企業には豊富です。一方、大学にとっては知財の活用によって収益を上げることを目指しているわけではないこともあって、知財に明るい人材が少ないのが現状ではないかと思います。そこで、私たち日本医療研究開発機構(AMED)では、アカデミアに対して知財に関する支援も行う必要があると考えています。
橘川 米満先生は、医薬品開発における課題として、基礎研究から応用研究に至る過程には「死の谷」があり、応用研究の実用化、いわゆる製品開発からビジネス展開の間にも「ダーウィンの海」があり、それぞれうまく移行していないことを課題として挙げました。それらについて、もう少し詳しく話してください。
米満 「死の谷」については、アカデミアにおけるイノベーションの創出を支援・促進するAROが立ち上げられました。それにより製剤の製造や治験のプランニングなどが、より研究者の身近なものになってきているので、まだ不十分であるにせよ、問題は改善の方向に進んでいると考えています。ただ、国が力を入れようとしている再生医療や遺伝子治療の製造と治験ノウハウについては、製薬企業もアカデミアも不十分です。そのため、いざ開発となると話が頓挫してしまうことがよくあります。ですから、そうした部分に何らかの国の支援を得られれば一番よいのですが、少なくとも、そうした課題を克服する1つのシステムとしてのベンチャーの価値は大きいと思っています。
  一方、「ダーウィンの海」については、本来は医薬品を社会に提供する製薬企業が考えるべき問題です。アカデミアはビジネスを意識せずに開発に取り組むのが普通です。ただそうはいっても、希少疾患の医薬品は、薬価をかなり上げなければ開発費を回収できませんから、医師も大学の研究者も、想定される市場規模をある程度念頭に置きながら研究を進める必要はあります。同時に、開発コストと薬価のバランスをどのように調整するのか、製薬会社のみなさんとコミュニケーションを取りながら研究を進めることも重要だと思います。
多田 私はAMEDの取り組みに期待しています。AMEDは、アカデミア発のシーズを創薬支援ネットワーク等で実用化に向けて支援するわけですが、シーズの発明者やそれに関連する臨床家が核になって、医師主導治験を行うように促す、推奨する、あるいはベンチャーの立ち上げを指導するといったところまで、踏み込んでほしいと思います。できればそこに、POC(Proof of Concept)取得の支援まで加えてもらえると理想的です。そうしたシーズであれば、開発リスクも相当軽減していると考えられますから、企業の応募も増えると思いますし、創薬がより活性化されるはずです。ただ、開発が増えれば予算もさらに必要になりますので、AMEDによる一貫した創薬支援のシステムの中で、予算措置の拡大も検討してほしいと思います。
橘川 AMEDに対する期待が示されましたが、菱山執行役はどのように受け止めましたか。
菱山 私たちAMEDも、医師主導治験は積極的に支援していきたいと考えています。たとえば、研究を採択する際には、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の薬事戦略相談のコンサルテーションを受けることも勧奨していて、実用化を見据えた支援を常に考えています。ただ、実用化ばかりに力を入れると、新しいシーズの発見が停滞する可能性もありますので、シーズをしっかり生み出せる基礎研究も推進しなければなりません。一方、POCの取得については、どの時点をPOCとするのかという判断も含め、やはり研究者たちにやってもらいたいと思います。その際は、企業側も待ちの姿勢を維持せず、早い段階から共同研究ができる体制を整えて、できれば知財の面でも研究者にアドバイスしてほしいと思っています。そうした要望とともに、AMEDの事業内容や関与の範囲をできるだけ早く、適切に理解してもらうための工夫もしていきたいと考えています。

壇上のパネリスト
壇上のパネリスト

製薬産業のイノベーションを考えるべき

橘川 多田会長は講演の中で、アメリカのベンチャーの医薬品開発数が突出していることをグラフで示しました。逆に、日本を含め、アメリカ以外の国のベンチャーはあまりうまくいっていないような印象があります。なぜ、アメリカではベンチャーが成功するのでしょうか。
多田 個人的な意見ですが、ベンチャーを立ち上げて自分の夢を実現しようとする人をよしとする、あるいは後押しする風土がアメリカにはあると思います。そのため、ベンチャーキャピタルも含め、アメリカにはベンチャーに対する投資の土壌も整っているように思います。一方、日本にはそうした文化が醸成されていないといえるのではないでしょうか。ただ最近の日本では、政府も一部の金融機関も、ベンチャー支援に積極的に取り組みはじめているようですので、ファイナンス面では改善されつつあるように思います。
米満 製薬業界では過去10年から15年ほどの間に、グローバルの企業競争での生き残りをかけた組織再編や合併が盛んに行われてきました。しかし、2000年以降に設立された日本のベンチャーにはそうした動きは見られませんでした。日本のベンチャーの問題点は、経営者が保守的であることと、そして成功例が極めて少ないことの2点です。本来であれば、持っている技術を武器に合併や離反があってよいわけです。ただし、その技術にしても賞味期限は一般に10年、長くても15年だと思っています。ですから、ベンチャー企業はある一定期間、力いっぱい頑張って、その間にイグジットがうまくいってアムジェンなどのように大型企業に成長するか、製薬企業にその技術を買ってもらえるかを1つの目標にしなければなりません。一方で状況により、その技術の重要性が変化すると想定された場合は、そこで1回会社を売却する、あるいは経営統合などによりシーズを取捨選択するなどして、次のステップに行くといったダイナミズムも必要ではないかと思います。ところが、現在の日本のベンチャーにはそうした動きが見られません。せっかく夢を目指したのに、赤字が継続し、自己資金をどんどん毀損して、市場からのいわゆるリスクマネーも流入せず、次の資金も調達できないという悪循環に陥っている印象があります。逆に、適切なルールづくりとともに、マインドセットを変えることで状況は改善されると思いますので、ぜひともベンチャー企業のみなさんにはそうしたことを再検討していただきたいと思います。
菱山 私もベンチャー企業が育てばよいと思っていますが、過去10年ほどの間に、わが国ではそれが難しいことも示されたように思います。また、アメリカではベンチャー企業の数は確かに多いのですが、企業としての成功確率そのものは決して高くなく、実際に大きくなったのはごくわずかです。そうした現状を踏まえれば、日本では、製薬産業にどのようにイノベーションを起こしていくかをまず考えることが重要だと思います。AMEDでは現在、大学病院やナショナルセンターに積極的に治験を行ってもらい、その成果をうまく製薬企業に渡していくというモデルを提示しています。先進国といわれる日本は、課題先進国ともいわれています。さまざまな課題を、日本の風土や文化に合った形で、われわれの頭で解決していく、考えていく必要があるのではないかと思っています。

菱山 豊 氏
菱山 豊 氏

ゲノム医療は方向性の明確化が先決課題

橘川 創薬は低分子化合物からバイオ医薬品へ、あるいはゲノム医療に方向性が移りつつあります。わが国は課題先進国とのことですが、ゲノム医療に関してはどのような課題があるのでしょうか。
米満 ゲノム医療は個の医療であり、究極の医療ともいわれています。しかし今のところ、リアルワールドにおけるコストを踏まえた現実問題として議論されている、という印象はありません。たとえば、抗がん剤は有効性が30%であっても、これまではその可能性に期待して使われてきました。しかし最近のバイオ医薬品のように、その治療費が年間に何百万円、何千万円となると、やみくもに使っていては保険財政が破綻します。ですから、有効性が示される集団を選択するためのツールの1つとして、ゲノム医療は間違いなく有効だと思います。それでは、有効性を評価するためのコストをどのように負担していくかとなると、その仕組みはまだ確立されていないのが現状です。個の医療と簡単にいっていますが、何をターゲットにして、どれくらいのコストを想定して、現実の医療として確立させるかについては、さらに知恵を絞る必要がある課題だということです。
多田 ゲノム医療はまだスタートラインといいますか、議論がようやくはじまったところだと思います。製薬企業の立場からいえば、ゲノム医療実現の方向性そのものが明確化されることが先で、それに沿った医薬品の供給が求められるようになってはじめて、われわれがかかわることになる、製薬企業としての使命を果たすことになるのではないかと思います。あるいは、構築されつつあるバイオバンクのデータ、ゲノム情報を含むビッグデータがしかるべき方法で解析され、そこで明らかにされたトレンドやパターンから創薬ターゲットやバイオマーカーが抽出されれば、そこからわれわれの関与がはじまるともいえます。いずれにしても、そうした創薬の環境づくりに向けて、今は議論する段階だと考えています。ただ、そうした取り組みは、民間だけでは難しいので、やはり政府の指導が必要になると思います。
菱山 ゲノム医療については、内閣官房の「ゲノム医療実現推進協議会」が2つの方向性を示しています。1つは、すぐに実用化が可能なゲノム医療で、私のプレゼンテーションではIRUD(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)という言葉で示しました。たとえば希少難病や遺伝病といわれるものが対象です。すなわち、遺伝子の変異によって代々受け継がれる疾患、あるいは特定の遺伝子によって発病する疾患です。そうした疾患はゲノムをしっかり調べることで同定できると考えられています。また、ドライバー遺伝子も実用化の対象になると思います。たとえば、肺がん関連の遺伝子としてALKやKRASなどが知られていますが、遺伝子の種類を同定する診断薬としての実用化も考えられています。
  もう1つは、実用化に少し時間がかかるものです。たとえば、日本人の生活習慣病の病態や発生状況が地域によってどう違うのかを、ゲノム解析で明らかにすることが考えられます。そうした解析では、環境要因も考慮する必要がありますので、少し時間がかかるのではないでしょうか。

コンソーシアム方式の有用性は高い

橘川 創薬のリソースの1つは人材だと思います。その人材を効率的に活用するシステムとして、AMEDはオープンイノベーションを推進されています。しかし、オープンイノベーションは日本人が苦手とする分野だといわれているようです。実際に難しいのでしょうか。
菱山 これまでの医薬品産業は、データを自分のところで囲い込む、あるいは知財を囲い込むことで発展してきた側面があると思います。そのために、医学や製薬の分野では他の産業に比べ、オープンイノベーションの導入が遅れたように思います。しかし、医薬品産業でもようやく、研究には豊富なデータが必要なことが意識されるようになり、プレコンペティティブな部分であれば産業界で共有していこうという方向性も示されるようになってきました。今後もオープンイノベーションの機会を拡大するためには、アカデミアも含めてマインドセットをさらに変えていく必要があると思います。
橘川 オープンイノベーションによって、足りない資源が補われ、開発のスピードも上がるといったメリットがある一方で、長年蓄積した技術やノウハウが流出しかねないというデメリットが指摘されることもあります。そうしたデメリットをどのように解決していけばよいのか、大学側と企業側の両方に聞きたいと思います。

米満 吉和 氏
米満 吉和 氏

多田 菱山執行役が話されたように、これまでの医薬品産業には、内部の経営資源のみを利用して利益を上げるクローズドイノベーションというモデルが主流だったのは事実です。しかし、近年は創薬自体が非常に難しくなり、1社で創薬に取り組むリスクが非常に高まっています。そのため、製薬企業のほとんどが、同業他社やアカデミア、あるいはベンチャーとのタイアップ、さらには公募といったかたちで、世界の研究者の技術にアクセスし、何としてもイノベーションに到達したいと考えているのが現状ではないかと思います。もちろん、そうした過程ではそれぞれが囲い込んできた情報を開示することになりますが、通常のビジネスとして考えれば、納得しやすいのではないかと思います。そういう意味では、AMEDが提示されたコンソーシアム方式はプレコンペティティブな方法であり、うまくいけばお互いに利益を享受できるので、有用性は高いと思います。
米満 大学側にはオープンイノベーションに対する抵抗感はあまりないと思います。たとえばビッグデータについても、私の個人的な見解ですが、創薬のスクリーニングの元となる臨床データのプールやゲノム情報は、もちろん倫理的な配慮は必要ですが、それを乗り越えてやがてはオープンに共有されるリソースにしなければならない、と考えています。全地球測位システム(GPS)やインターネットのシステムは、もともと軍事用などの国のニーズによって開発された基本的なインフラストラクチャーですが、それが民間にオープンにされて、その後ビジネスに転用されるようになったわけです。同様に、ゲノムもビッグデータもそうしたインフラと考えれば、時代にマッチした新しいアイデアによって、さまざまな用途で活用され、それが新しいビジネスを形成してよいわけです。私たちの研究室には、PhD、MD、大学院生、ナース、製薬企業の研究者など、バックグラウンドの異なるさまざまな人間が集まっています。そのため、お互いの興味や考え方に違いはありますが、全員が一緒に、のびのびと自由に研究し、均質な集団では発想できない意外な考え方を出すことで刺激し合っています。アカデミアはまさにオープンイノベーションを推進できる立場にあるのかもしれません。

日本の強みは技術と人材を合わせた総合力

橘川 それでは、創薬のイノベーションを起こしていく上での日本の潜在能力に目を向けていきたいと思います。米満先生は、どこに日本の強みがあると思いますか。
米満 日本の基礎研究力は世界の中でも群を抜いていると思います。特にこの10年間くらいの免疫学とセルシグナリングの分野に関しては、アメリカにも決して負けていないと考えています。このような優れた基礎研究の成果として、最近は各疾患の重要な分子ターゲットがかなり特定されているので、あとはそれらをどのようにして創薬につなげることができるか、という命題が当面の目標です。その際は、低分子がよいのか、アプタマーか、siRNAか、抗体がよいのかなど、いろいろなモダリティーが想定されます。それをどのように発見し、開発していくのか、誰がやるのかといったところが国際競争の中で勝つためのポイントだと思います。もう1つは、iPS細胞やCAR-T細胞治療などのキーになる技術ですが、再生医療をより推進するためのソリューションとしてのジーントランスファー・テクノロジーの強化が必要だと思います。それには、遺伝子を導入して発現させるテクノロジーと、セルセラピーのテクノロジーがありますが、日本の製薬会社にはまだ十分にノウハウが蓄積されておらず、むしろアカデミアのほうが進んでいる分野です。そこで、産学のシームレスな協力が必要と考え、私はプレゼンテーションの最後に、日本版のPACTやGTRPをインフラとして整備することをAMEDに提案したわけです。
橘川 日本版のPACTやGTRPが必要とのことですが、菱山執行役はどのように考えますか。
菱山 いわゆる細胞培養センター(Cell Processing Center、CPC)の整備は、非常に大きな課題であると認識しています。ただそれは、現状の枠組みでもできないことはありません。たとえば、再生医療については4拠点を指定していますし、また、文部科学省の橋渡し研究支援拠点と厚生労働省の臨床研究中核病院を合わせた「革新的医療技術創出拠点」も指定していますので、そうした拠点において日本版のPACTやGTRPともいえるようなインフラの整備ができるかもしれないと考えています。あるいは、新たな仕組みを整備したほうがよいのかもしれませんが、いずれにしても、しっかりとした細胞を供給できる技術が大変に重要であることはわれわれも十分理解しています。ただ、そうした事業を新たに立ち上げるとなると、政府レベルの政策的な判断が必要だと思います。
橘川 多田会長は、何が日本の強みと思われますか。

多田 正世 氏
多田 正世 氏

多田 技術的な面ではiPS細胞関連に期待しています。いわゆるセルセラピーの分野は、制度も整ってきているので積極的に取り組むべきと考えています。それ以外では、国民皆保険制度で蓄積されたビッグデータも日本が有する強みの1つだと思います。国民の健康診断も含め、病気の治療歴などを確実に把握できるソースがあるわけですから、このビッグデータを上手に全国民的なデータベースとして活用できるようにすることを考えるべきです。そうすることで、これまで続けてきた皆保険制度の意義が再認識されるのではないかとも思いますし、日本人のデータが整理されれば、新たな創薬につながる可能性も十分にあると考えています。
  もう1つは、アジアにおける日本の地位を活かすことです。アジアには非常に大きなマーケットがあります。その中で、現時点では幸いにして、医療・医薬分野については日本が非常に先進していますので、この立ち位置を有効に活用しながら産業につなげていくことができれば、それも日本の強みになると考えています。
橘川 国民皆保険制度とアジア市場は、たしかに重要なキーワードだと思います。日本のマーケット規模は今後縮小するかもしれませんが、アジアのマーケットは当面は拡大していくと予想されます。その一方で、現在の日本が抱えている少子高齢化の問題は、今後のアジア諸国の問題でもあり、韓国や中国沿岸部などではすでに日本より速いペースで少子高齢化が進んでいるともいわれます。この問題を克服するモデルを日本が最初に示すことができれば、それもアジアにおける日本の強みになると思います。菱山執行役は、日本の強みをどのように考えていますか。
菱山 創薬を手掛けられるということは、総合的に科学技術力が高いことの証しだと思います。有機合成化学が中心だった創薬にバイオ技術が導入され、今後はさらに、より最先端の科学の応用も試みられると思います。しかも、それらを担う人材がアカデミアに限らず、産業界にも多数そろっているわけですから、技術と人材を合わせた総合力で、創薬の進展を持続させられることこそ日本の大きな強みだと思います。もう1つは、多田会長も指摘した国民皆保険制度で蓄積されたデータがあることです。現在、健康・医療戦略推進本部や内閣官房の次世代医療ICT基盤協議会を中心に、健康医療データの構築と活用を巡る検討が進められています。そうしたデータを使えるようになれば、日本の総合力はさらに高まると考えています。
  AMEDは4月に発足したばかりですが、製薬業界や医学界から浮いた存在であっては、事業は成功しません。ぜひみなさんの業界の財産と考えて、活用してほしいと思います。よろしくお願いします。
橘川 それでは最後に、経団連の永里さんから本日の議論に対する感想を聞きたいと思います。
永里 ICTやビッグデータに関しては、われわれが知らないところで研究されているものもあるはずです。その中に、創薬に活用できる技術やデータもある可能性を常に念頭に置くべきだと思います。また、オープンイノベーションについては、企業が行き詰まっているからオープンイノベーションに目が向けられているわけです。しかも、そうした状況が、あらゆる業種に及んでいることを認識すべきだと思います。その中で、われわれは将来の高齢社会に向けて新しい基幹産業をつくらなければなりません。その1つとして、ライフ・バイオ分野への期待は大きく、経団連も一緒にそれを推進していきたいと考えています。日本の製薬産業の発展が世界人類への貢献にもなるだろうということを、経団連からのメッセージとして最後に申し上げたいと思います。
橘川 みなさんのお話を聞いて、製薬産業は課題はありながらも、その課題はかなり明確化されていることがわかりました。しかも、それが業界内でしっかり共有されており、さまざまな解決策も検討されているという点で、非常にダイナミックな産業だと感じました。「日本経済再生」が1つのテーマでしたが、話を進めるうちに、人類全体のために、日本が創薬を進めなければならない。そんな議論をしていることに気づかされました。ぜひ今後もよりいっそう頑張ってもらいたいと思います。本日は、興味深いお話と貴重なご意見をありがとうございました。

 

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