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「第26回製薬協政策セミナー」を開催

健康・医療戦略を踏まえた医薬品産業の発展に向けて

2014年9月2日、東京コンファレンスセンター品川で、「健康・医療戦略を踏まえた医薬品産業の発展に向けて」をメインテーマに、「第26回製薬協政策セミナー」が開催されました。政府は「日本再興戦略」において、成長の鍵を握る重要テーマとして健康・医療分野に注目しており、5月には「健康・医療戦略推進法」および「独立行政法人 日本医療研究開発機構法」が可決・成立しました。これらを踏まえ、医薬品産業の発展に向けて幅広い視点から討議がなされ、患者団体、政治家、行政、医療関係者、メディア関係者、会員各社など、多くの参加者が熱心に耳を傾けました。

2014/11/10

会場風景
会場風景

 伍藤理事長の開会挨拶にはじまり、厚生労働省 大臣官房審議官(医薬品等産業振興、国際医療展開担当)の飯田圭哉氏より「日本再興戦略と医薬品産業」をテーマに基調講演がありました。続いて、内閣官房 健康・医療戦略室 次長の中垣英明氏、京都大学 物質-細胞統合システム拠点 准教授(講演当時、現:東京工業大学 大学院イノベーションマネジメント研究科 准教授)の仙石慎太郎氏、製薬協の多田正世会長がそれぞれの立場から健康・医療戦略をめぐる現状や課題に関してパネリスト講演を行いました。その後、シティグループ証券 株式調査部 マネジングディレクターの山口秀丸氏をコーディネーターとし、4氏とのパネル・ディスカッションが行われました。最後に、髙田広報委員長が閉会挨拶を行いました。
  以下、当日の講演の概要を紹介します。

【基調講演】
「日本再興戦略と医薬品産業」 
厚生労働省 大臣官房審議官(医薬品等産業振興、国際医療展開担当) 
飯田 圭哉 教授

厚生労働省 大臣官房審議官(医薬品等産業振興、国際医療展開担当) 飯田 圭哉 氏

日本の戦略市場としての健康・医療産業

 現政権では経済再生に向けた取り組みをしており、2%の物価成長とそれを上回る賃金上昇、所得と支出、生産の好循環を目指しています。経済再生と財政健全化を両輪として、国と地方のプライマリーバランスを2020年までに黒字化したいと考えています。そのための日本再興戦略として日本の強みを活かした産業を強化し、戦略市
場を創出して、世界にまで目を向けて市場を獲得していく必要があります。
 その戦略市場として健康・医療産業が日本の強みであり、研究開発力を強化し、医療関連産業を活性化することによって、日本は世界最先端の医療が受けられる社会になります。
  がん、難病、希少疾病、感染症、認知症などの克服に必要な日本発の優れた革新的医療技術の核となる医薬品・医療機器・再生医療の製品などを世界に先駆けて開発し、素早い承認を実現していち早く国内患者の元に届け、同時に世界に輸出することで、日本の医療技術のさらなる発展につなげていく。こうした課題を国家の問題としてとらえ、司令塔の役割を果たす政府系機関を創設し、法制度の整備も進めていくことになっています。
  さて、まず最初に日本の医薬品・医療機器市場の動向ですが、日本の医薬品市場は過去、順調に拡大を遂げ、2012年には9兆5000億円を突破しました(図1)。しかし、今後は、政府の財政負担は抑制的になり、人口も減少し、保険料にも限界がある中で、従来通りに伸びるのかどうか考えなければなりません。
  世界の販売額も少しずつ増えていますが、世界の3~4割を占める北米市場の伸びは鈍化し、2012年は前年より微減となっています。今後、新興国市場の成長が期待されていますが、現状はまだ伸びてはいません。経済成長の中でその中心的担い手となる中間層が拡大していくかどうかに注目する必要があります。ただし、医薬品産業は単純に市場が伸びているから進出できるものではなく、知財やジェネリック医薬品などいろいろな問題があります。

図1 医薬品産業の市場規模

医薬品の技術貿易収支は黒字

 世界の医薬品売上高を製薬企業別にみると、欧米のメガファーマが上位を占めています。これは、欧米企業が新薬だけでなくジェネリック医薬品、ワクチンを含めて多分野で、世界市場を舞台に活動していることが理由と思われます。その中で、今後、日本企業はどうするか戦略的に考える必要があります。
  一般的に医薬品は輸入超過といわれますが、貿易収支だけで製薬産業をとらえるのは正しくありません。技術力の指標である技術貿易でみるとその収支は大きく輸出超過です。輸入においては特に、がん領域における医薬品やバイオ医薬品が拡大し、医薬品全体の輸入超過は国内製薬企業の事業構造の変化を反映したもので国際競争力とは直接的な関係はありません。日本の製薬企業は規模では欧米に劣るものの、安定的な収益力や研究開発力では、ポテンシャルがあると思っています。医療機器の分野でも画像診断系機器に強みがあり、やはりポテンシャルはあるでしょう。

3本柱の対策で問題解決に期待

 2013年の医薬品の世界売上における上位30品目では、以前に比べて日本で開発された製品が減っており、バイオ医薬品でも欧米に遅れを取っていることがわかります。それと関係があるのかどうかわかりませんが、日本企業の海外売上高は、いわゆる「2010年問題」あたりから伸び悩んでいるようです。
  製薬業界では2010年前後に主力製品がいっせいに特許切れとなる「2010年問題」が話題となりました。日本企業が開発した大型製品で2010年頃に特許切れを迎えるものは確かに多く集中していて、その2~3年後にもいくつかの製品の特許が切れます。企業も努力していると思いますが、なかなか解決されていないのが現状です。
  以上、業界の全体像をざっとみてきましたが、こうした問題を解決するのに奇策はありません。私はその対策を以下の3本柱と考えています。
  まず第1には「研究開発力の強化」です。そのための法制度の改正を含めて政府は対応しており、今年5月には研究開発の司令塔として後で述べる独立行政法人日本医療研究開発機構を創設する法案が成立しました。第2に国際展開と外国人患者の受け入れ。いわゆるアウトバウンドとインバウンドの促進が必要でしょう。第3に「日本発の医薬品の早期実用化」です。
これも後述しますが、政府は先駆け審査指定制度の創設など、実用化を早める取り組みを行っています。
  この3本柱が組み合わさってうまく機能することが重要です。

日本医療研究開発機構の設立

 それではまず、研究開発の強化についてです。
  先ほど述べた独立行政法人日本医療研究開発機構法が2015年4月1日から施行されることが決まりました。この機構では医療分野の研究開発およびその環境の整備の実施・助成などを行いますが、ポイントはこれまで文部科学省、経済産業省、厚生労働省と、3省がそれぞれ行ってきた施策を連携して、シームレスに基礎研究から実用化まで一貫した研究開発支援を行うことにあります。
  厚生労働省としても、これまで実用化促進のために臨床研究支援や、ドラッグ・ラグ(新薬が海外で開発されてから実際に日本で治療に使われるまでの時間差)あるいは研究開発に即した薬価制度のデザインなどに取り組んできました。
  しかし、より総合的に施策を連携し、基礎研究から臨床研究、治験、審査、安全対策、保険適用、国際展開、さらには中小企業・ベンチャー企業支援まで含んだ戦略パッケージが必要になっています。
  昨年、臨床研究中核病院の支援を強化するために医療法を改正しましたが、さらに新たな臨床研究中核拠点の基準作りを年内にまとめ、来年4月1日から施行したいと考えています。
  医薬品の実用化を早める先駆け審査指定制度も来年4月にはじまります。世界に先駆けて、革新的医薬品・医療機器・再生医療などの日本発の製品を早期に実用化するべく、日本での開発を促進することが目的です。
  具体的には優先相談を2ヵ月から1ヵ月に短縮して、資料提出から治験相談までをスピードアップするだけでなく、事前評価を導入して実質的な審査の前倒しを実施し、総審査期間を12ヵ月から6ヵ月に短縮します。治験においては、場合によっては最終段階である第Ⅲ相試験結果の承認申請後の提出も認めるようにしました。
  欧米では既承認で日本未承認の薬については未承認薬迅速実用化スキームを設けましたが、この対象を一定の条件を満たす欧米未承認薬にまで拡大し、世界に先駆けての重篤・致死的疾患治療薬の実用化を加速します。これも、来年4月には施行したいと考えています。

新興国の医療制度整備に貢献

 次に国際展開ですが、日本政府はこれまで国際保健協力として感染症対策や母子保健など国際貢献を行ってきました。
今後は新興国が経済成長していく中で、医療制度などの整備が求められるため、日本としても支援をしていこうと考えています。
  国民皆保険制度や薬事規制のノウハウ、法制度の整備などパッケージで輸出し、各国の保健行政と協力しながら、ひいては日本の医療に対する信頼を形成していきたいと考えています。こうした貢献によって、日本の製薬企業が海外進出する際に円滑に進められるよう、ビジネス環境の整備につながればいいと思っています。
  すでにミャンマーやカンボジア、トルコ、ブラジルなど10ヵ国と医療・保険分野における協力覚書を交わしました。今夏には安倍総理が中南米を訪ね、ブラジルでは大統領や関係省庁・機関と話し合いました。今度は近々に、同国国家衛生監督庁の長官が来日することになっています。企業や病院、医療制度などいろいろなものを見学していただき、日本に対する理解と医療への信頼を深めてもらいたいと思います。

今後成長が見込まれる再生医療市場

 再生医療市場については、今後、医薬品市場とともに伸びていくと思われます。政府としては2013年5月に「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けるための総合的な施策の推進に関する法律」を作り、同年11月から自由診療・臨床研究においては「再生医療等安全性確保法」、製造販売では「薬事法改正法」を施行し、細胞培養加工について医療機関から企業への外部委託が可能になりました(図2)。
  再生医療ビジネスは従来の医薬品ビジネスと違い、いろいろな研究機関・企業のコラボレーションが必要になります。政府としては世界に比べても実用化に取り組みやすい枠組みと環境を作るように努力しています。
  最後に課題をいくつか指摘したいと思います。まず、研究開発税制ですが、試験研究費総額の8~10%を控除できる「総額型」の控除限度額拡充措置の期限が今年度末で切れますので、厚生労働省としてはこの控除を維持できるように要望を提出しています。早い段階で議論になるはずです。
  また、臨床研究にかかわるいくつかの問題が発生したことを受けて、その再発防止策を現在検討中で、今秋までには方針を出す予定です。これは単に製薬業界の情報公開だけの問題ではなく、われわれも指針を作っており、それをどう見直すか議論をまさに今行っているところです。製薬業界の方々には資金提供の公開に関するいろいろなお願いをしておりますが、よりいっそうの強化をお願いしたいと思います。
  さらに、消費税の引き上げ分をどのように薬価に反映させるかという問題があります。2015年10月に10%に引き上げることになった場合、薬価の調整は今年すでに行っているので、来年も改定するのかどうか、この秋から冬にかけて議論する予定です。
  今後、製薬業界で主に課題となるのは「研究開発と市場」「研究開発を実用化するための制度的基盤」「再生医療」の3つでしょう。これらがうまく回るようになれば、実用化も促進し、国際展開も進むはずです。今後は官民がより連携して3つの歯車を回すように頑張っていきたいと思います。

図2 今後の再生医療の実用化を促進する制度的枠組みのイメージ


【パネリスト講演1】
「健康・医療戦略等について」 
内閣官房 健康・医療戦略室 次長 
中垣 英明 氏

内閣官房 健康・医療戦略室 次長 中垣 英明 氏

3省の支援の一元化を図る

 安倍政権が一昨年に成立後、昨年2月に内閣官房に健康・医療戦略室ができましたが、日本経済再生本部において安倍総理から官房長官に「医療の国際展開」「日本版NIHの創設によって医療分野の研究開発を有機的に進めてほしい」と指示がありました。
  それを踏まえて、2014年度予算から文部科学省、厚生労働省、経済産業省3省の縦割りを廃して効率化し、予算の増額を図ってきました。併せて「健康・医療戦略推進法」と「独立行政法人日本医療研究開発機構法」という2つの法律を作りました。これらは今年5月に成立し、独立行政法人は来年4月設立に向けて現在準備中です。
  健康・医療戦略推進法のもと、改めて法定の健康・医療戦略推進本部が立ち上がり、内閣総理大臣が本部長に就任。副本部長には官房長官と健康・医療戦略担当大臣が就きますが、現状では担当大臣は指名されていません(9月3日より、甘利担当大臣)。
  推進本部の役割ですが、1つは健康・医療戦略案の作成と実施の推進、もう1つは医療分野の研究開発の司令塔機能本部の役割を果たすことです。推進本部を支える2つの機関も作り、健康・医療戦略参与会合は政策的助言を行う有識者の集まり、健康・医療戦略推進専門調査会は専門的調査を担い、研究開発に関する専門家で構成されています。予算の重点的配分などを調査・検討します。
  健康・医療戦略推進法の概略ですが、健康・医療戦略が閣議決定されると、それを受けて医療分野研究開発推進計画が本部決定され、施策の基本的な方針や、政府が集中的かつ計画的に講ずべき施策が立案されます。そして、その推進計画に基づき、日本医療研究開発機構が施策を実施します。機構は来年4月発足ですが、まずは300名規模程度で運営したいと考えています。
  もともと、医療分野の研究開発支援は3省で行っていました。主に文部科学省が基礎研究、厚生労働省が応用臨床研究、経済産業省が実用化研究です。とはいえ、これらは明確に分かれているわけではなく重複もあり、補助対象や申請方法が違う、申請書類が多いなど研究者にとって使いづらい面がありました。そこで、これらの弊害を廃して一本化を図ったわけです(図3)。

図3 独立行政法人日本医療研究開発機構の設立による効果

予算を9分野に重点投資

 今年8月末に各省の要求を聞いて医療分野の研究開発関連予算要求をとりまとめ、2015年度の概算要求が出ました。2014年度予算は1,400億円と前年比で4割増となりましたが、2015年度は2014年度を超える額を想定しています。
  この予算の配分ですが、9つの分野に重点投資したいと考えています。主なものを挙げると、まず第1に「医薬品・医療機器開発への取り組み」、第2に「臨床研究・治験への取り組み」です。日本は基礎研究は強いが臨床研究は弱いといわれており、シーズを迅速に製品化する支援を行っていきます。第3に「世界最先端の医療の実現に向けた取り組み」、第4に「疾病領域ごとの取り組み」で、がん、認知症をはじめとする精神・神経疾患、新興・再興感染症、難病がその対象となります。
  現在、内閣官房で作業を行っていますが、年度途中で配分される調整費も含めて、今後、機構に一元化されるので、各省の補助金を共通で使えるなど、利便性と公平性が増すことになります。
  世界の流れは速く、競争も激化する中、われわれとしては知財関係なども含めて研究開発を全面的にバックアップしていきたいと考えています。



【パネリスト講演2】
「健康・医療戦略を踏まえた医薬品産業の発展に向けて
~アカデミアからの視点」 

京都大学 物質-細胞統合システム拠点 准教授
(講演当時、現:東京工業大学 大学院イノベーションマネジメント研究科 准教授) 
仙石 慎太郎 氏

京都大学 物質-細胞統合システム拠点 准教授(講演当時、現:東京工業大学 大学院イノベーションマネジメント研究科 准教授)仙石 慎太郎 氏

関係機関の連携と協力が必須

 政府の健康・医療戦略には、国の関係行政機関、地方公共団体、大学など研究機関、そして医療機関および事業者という関係者の相互連携・協力がいくつも記載されています。
  大学など研究機関の役割に関して抜粋すると、革新的医療技術創出拠点やナショナルセンターなどとの連携や協力が期待されており、基礎研究および臨床研究における不正防止の取り組み、産・学・官連携の枠組みの構築と活用や、新産業の創出、人材教育などにも寄与することを求められています。
  ここで強調されていることは「連携と協力」であり、まさに私たちアカデミアが課題認識としてもっていることです。そもそもイノベーションとは必ずしも技術革新ではなく、さまざまな要素の「新結合」であって、大学はいかに自らの場を使って、多様なプレーヤーと連携し、新結合を促すかが問われているのです。これは従来の産学連携とは異なる新しい取り組みです。この新しい産学連携の付加価値化モデルとして、いくつかの事例・モデルをご紹介しましょう。
  京都大学では、2007年から革新的な産学連携をスタートさせました。これまでの産学連携は研究室単位でしたが、いわば「組織的産学連携」として、大学側の複数の要素技術を活用してアステラス製薬と連携しています。
  「次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点」(通称「AKプロジェクト」)は、京大のキャンパス内に企業と共同で研究所を設け、大学と企業の研究者がともに、ただし一線を引きながら、研究しています。大学ならではの要素技術と企業の創薬技術などを補完的に提供して革新的免疫制御薬を作るべく、さまざまなテーマで研究を進めており、現在、7年目を迎えて着々と研究成果が出ているものと思います。

日本固有のイノベーション土壌が必要

 次の事例は、「知的プラットフォーム」と称して、私が3年間運営してきたプロジェクトです。京大はヒト胚性幹細胞(ES細胞)や誘導多能性幹細胞(iPS細胞)など幹細胞の研究が盛んですが、私の専門である技術経営の立場からも幹細胞研究を振興する仕掛けとして、企業と大学の研究者が緩やかに交流できる知的プラットフォームが必要だと考えました。再生医療や幹細胞分野に異業種から集まってもらう試みへの理解が浸透し、2013年度末時点で26社が参加し、さまざまなコンソーシアムやプロジェクト活動に発展しています。
  その1つが「産学公連携R&Dコンソーシアム」で、日本のものづくり力を有機的に結合する試みです。ヒトES/iPS細胞の製造・評価システムなど周辺技術の開発への取り組みで、私どもが担当しているプロジェクトには11社の企業と大学・公的研究機関が参加しています。
  最後にご紹介するモデルが「スタートアップ企業の地域・組織的インキュベーション」です(図4)。日本の大学発ベンチャーは数こそ増えたものの、創薬分野では十分ではありません。その原因の一つは、日本的な産業生態系が育っていないことです。アメリカのシリコンバレー型モデルに引きずられず、日本固有のイノベーションの土壌を形成する必要があります。
  そのためにも、大学は研究部局だけでなく教育部局や産連・知財本部も創業支援を行い、大学発のベンチャーキャピタルも必要です。さらに地域経済やインキュベーションファンド、事業会社・民間のベンチャーキャピタルなどの力も必要になり、これらを結合させる主体性をもったインキュベーターの存在が必要になります。これらが揃えば、創薬ベンチャーをはじめとするバイオテック企業の振興が図れるでしょう。

図4 スタートアップ企業の地域・組織的インキュベーション



【パネリスト講演3】
「健康・医療戦略の推進に対する期待」 
日本製薬工業協会 会長
多田 正世 氏

日本製薬工業協会 会長 多田 正世 氏

治療への新薬貢献度は年々上昇

 私からは新薬メーカーに求められる役割と取り巻く環境、また健康・医療戦略の推進に対する期待について紹介したいと思います。
  近年、新薬の登場によって治療に対する貢献度は年々上昇しています。特に薬剤貢献度が向上した上位5疾患は白血病、関節リウマチ、骨粗鬆症、HIV・エイズ、肺がんで、くすりの貢献度と治療の満足度が一挙に上昇しました。中でも非小細胞性肺がんは、以前は手術しかありませんでしたが、新薬の登場によって生存期間が大きく延
長してきています。
  優れた治療薬が開発されてきた一方で、まだ治療法や病態解明すら困難な疾患も少なくありません。技術の進歩によって、開発や研究行為が複雑化して、個々の製薬企業は基礎研究から臨床・開発研究まですべて1社で行うことは厳しくなっているのが現状です。
  こうした中で、数年来取り組まれているのが「オープンイノベーション」です。これは、リスクを軽減しながら効率的に創薬を行う手法で、製薬企業が外部の研究者に創薬シーズや技術を公募する活動が進んでいます。
  また、仙石氏が話したように、アカデミア側も大学間や産業界との提携・連携によってイノベーションを促進する動きが出ています。

広範囲の人材育成が企業の関心事

 創薬プロセスごとに必要となる技術領域と大学の教育カリキュラムのマッチング度に関する調査がありますが、その結果をみると、創薬に際してさまざまな技術領域における高度な専門的知識が求められるようになっていることは明らかです。
  創薬プロセスが複雑化し、広範囲な技術領域における人材の開発・育成は産業界にとって最大の関心事であり、アカデミアから優秀な人材を企業に送り出してもらうことを切に願っています。
  革新的な新薬を開発するにはアカデミアとの連携がますます必要になっていますが、産業界からアカデミアへの要望としては、研究初期段階から知的財産への対応を取ること、応用・臨床研究でみつかった課題を基礎研究に戻して解決する仕組みがあること、研究成果の移転のための体制整備・情報提供が行われることなどが挙がっています。
  また、行政に対しては、健康・医療戦略の策定に際して、製薬業界からも要望を出しましたが、研究開発に関する要望はほぼ取り入れられ、大変、感謝しています。
  さらに、来年発足する日本医療研究開発機構は産・学・官の連携による画期的な組織として私たちも高く評価しています。
この組織の運営に当たっては、企業が求めるニーズに対応したシーズの発掘と育成、発掘・育成したシーズの早期橋渡し、そして、複数の企業がかかわるために公平性を確保した情報公開の場や仕組み作りを整備してほしいと望んでいます。
  製薬産業は、その原点において「生命関連産業」であるとの認識をもって、世界の人々の健康と福祉の向上への貢献を使命と考えています(図5)。
  それを達成するためにも企業間やアカデミアとの連携のさらなる支援を行政に期待しています。最後になりますが、コンプライアンス遵守については今後も最重要課題として取り組んでいく所存です。

図5 製薬産業の貢献と挑戦



パネルディスカッション

◆コーディネーター
シティグループ証券株式会社 株式調査部 マネジングディレクター 山口 秀丸 氏
◆パネリスト
厚生労働省 大臣官房審議官(医薬品等産業振興、国際医療展開担当) 飯田 圭哉 氏
内閣官房 健康・医療戦略室 次長 中垣 英明 氏
京都大学 物質-細胞統合システム拠点 准教授
(講演当時、現:東京工業大学 大学院イノベーションマネジメント研究科 准教授) 仙石 慎太郎 氏
日本製薬工業協会 会長 多田 正世 氏

コーディネーターの山口 秀丸氏
コーディネーターの山口 秀丸氏

日本医療研究開発機構はイノベーションの創出力を強化する

山口 本日の講演では、医療政策の進展により医療分野全体に追い風が吹きつつあるとの指摘がありました。中でも、基礎研究の実用化に向けた橋渡し役として来年4月に発足予定の日本医療研究開発機構に対する関心は高く、大きな期待も寄せられています。しかし、そうした取り組みにより、国際競争力の強化にもつながるイノベー
ションが実際にもたらされるのでしょうか。パネリストの皆さんそれぞれに聞きたいと思います。
飯田 日本医療研究開発機構は、まさにイノベーションの創出力を強化するための方策です。この機構が多角的かつ効率的な助成を行うことで、医薬品等の開発を踏まえた基礎研究からその実用化までのプロセスがシームレスに展開するようになると期待されます。また厚生労働省(以下、厚労省)も、医療・医薬品産業の将来的な国際展開を見据え、事業環境を整備する方針を明らかにしています。しかし、これらの取り組みによって実際にイノベーションがもたらされるのかについては、いくつかの課題があります。たとえば大学と企業がどのように連携すべきかについては、まだ十分に明確化されていません。私たちの立場でいえば、国際的な展開を考えるうえでは海外との交流や海外の研究の導入はもちろんですが、再生医療などでは国内の異業種との連携も必要と考えています。したがって、医療・医薬品産業におけるイノベーションの実現には、官民の連携強化はもちろんですが、さまざまな領域や業種とオープンに、しかもボーダーレスに刺激的な交流を促進することが不可欠と考えています。そのような環境が整えば、イノベーションが生まれるポテンシャルはあると確信しています。
中垣 イノベーションを考える以前に、どのように新薬を開発し、供給していくかが恒常的な課題であり、その新薬開発がますます難しくなっていることが問題なのだと思います。特に、シーズはあってもそれが実用化につながらないことがより大きな課題として指摘されています。私が講演で話した創薬支援ネットワークは、その課題を克服するための組織です。大学の研究者と密に接触し、そこで生まれた成果を医薬基盤研究所、理化学研究所、および産業技術総合研究所で共有できるように、橋渡し役を担います。まさにオールジャパンの創薬支援体制ですので、国全体としての戦略的な創薬、さらには国際貢献にもはずみが付くものと期待しています。

壇上のパネリスト
壇上のパネリスト

飯田 圭哉氏
飯田 圭哉氏

仙石 日本発という言葉には、国内で生まれたシーズやモノ、あるいはサービスを、国際展開していくという意味合いがあります。もう1つは、ある疾患の患者を日本が世界に先駆けて治療するという意味での、日本発というとらえ方もあります。ところが、再生医療を例にすれば、日本で世界初の治療を行ったとしても、そこで使われる試薬、
機器、あるいは培地などは、輸入品が多いという現状があります。すなわち、世界初の治療が増えると国内のイノベーションの機会が刈り取られてしまう可能性があるわけです。それでは、日本の企業が日本のモノやサービスを世界展開するという意味での日本発ではどうなるのかといえば、世界進出を目指すとなるとファーストインペイ
シェント(治験における最初の患者登録)が必ずしも日本ではなくなる可能性もあります。このように、医療・医薬品産業におけるイノベーションを考える時、常に悩ましいジレンマが生じます。ですから、大学の研究者が取り組む先端的かつ革新的な医薬・医療の開発では、イノベーションという前に、まずこのジレンマをいかに整理し、解
消するかが最大の課題になっています。
多田 アカデミアや民間、あるいは政府の研究機関を問わず、イノベーションの起点は研究者です。したがって、国際的に競争力のあるイノベーションを生み出すためには、研究者の意識、姿勢、目指す方向性が重要になると思います。基礎研究の成果を、ファーストインクラスとして、世界の人々を助ける医薬品にまでもっていくという意識が必要だと思います。最近はiPS細胞の権威である山中伸弥氏のような、自分で発明・開発した技術を活かした医薬品・製品を世に出したいと強く願う研究者もおられるので、そうした熱意が新しい創薬の原動力になる可能性もあると考えています。

創薬支援ネットワークは知財保護にも力を発揮する

山口 製薬業界におけるイノベーションとは、基本的には創薬力だと思います。その支援体制ともいえる日本医療研究開発機構は、文部科学省(以下、文科省)、厚労省、経済産業省(以下、経産省)の3省によるこれまでの支援制度の統合といえますが、実際に創薬のスピードアップにつながるのでしょうか。
中垣 日本医療研究開発機構立ち上げの背景には、いわゆる縦割り行政の打破がありました。もちろん、やみくもに一元化すればよいわけではありませんが、そもそも医療分野の研究開発には基礎・応用・実用化の3段階があるといっても、それほどきれいに3分割できるわけではありません。そのため、研究開発の進捗に応じた最適な研究費の確保が難しいとか、基礎段階から実用化まで切れ目なく支援する体制が不十分という指摘もありました。しかし、日本医療研究開発機構によって助成金が一元化されることで、以上のような問題点がかなり解決されるものと思います。加えて、助成金はこれまで、文科省では委託費、厚労省では補助金という費目になっていたため、使途の範囲が異なっていましたが、新制度で費目が委託費に統一されるため、そうした不都合も解消されるはずです。さらに、日本医療研究開発機構には知的財産関連のサポート部門も設置されるので、研究者が研究に専念できる環境が整うのではないかと期待しています。
飯田 少し補足すると、日本医療研究開発機構が設置されることで、関係省庁の連携、あるいは産・学・官の連携もこれまで以上に強固になると思います。この体制はほぼ恒久的措置として実施されていくはずですので、医薬品の研究環境に安定感も出てくると思います。
山口 仙石先生は日本医療研究開発機構にどのようなことを期待しますか。
仙石 マクロの視点では政策やその枠組みの安定性の確保、ミクロにはベンチャー企業の経営支援があると思います。しかし、一番期待したいことはメゾレベル、すなわちマクロとミクロの間にある領域の環境整備です。講演では産業生態系(インダストリー・エコシステム)という言葉を使いましたが、私たちが取り組んでいる産・学・官、産・学・公のコンソーシアムなどはその1つの試みです。大企業の後ろ盾のもとに、リスクの共有や資金調達の多様化を推進し、いかにベンチャー企業を仕組みの一つとして機能させるかです。わが国には決して人・物・金がないわけではありません。大学・公的研究機関にはシーズがあり、企業には人材のプールや経営ノウハウがあり、最近ではさまざまな資金調達手段も生まれています。それらをいかにつなぎ、最適化するかも今後の大きな課題です。日本医療研究開発機構には、そうした課題を踏まえた社会システムデザイン、組織システムデザインの設計者としての役割にも期待したいと思います。
山口 多田会長は製薬業界の立場から、創薬支援ネットワークに対し、どのようなことを期待しますか。

中垣 英明氏
中垣 英明氏

多田 アカデミア発のシーズが医薬品として完成するまでには、大小の臨床試験が行われます。その臨床試験のどのフェーズまでアカデミアが行うべきなのかは明確化されていません。欧米のベンチャーは少なくともフェーズⅠbあたりまでは行っています。創薬支援ネットワークは、研究の初期からアカデミアにさまざまな支援を行うわけですが、アカデミアにどの段階まで仕上げることを求め、どの段階のものを企業に提案させるのか、非常に関心をもっています。少なくとも、企業が納得できるレベルまで仕上がるように支援してもらいたいと思います。
山口 中垣さんが所属する内閣官房は、創薬支援ネットワーク立ち上げを主導したわけですが、ネットワークの役割について何か補足がありますか。
中垣 大学の研究者がよいシーズと判断するレベルと、企業側が求めるレベルにはギャップがあると思います。 創薬支援ネットワークは、そのギャップを埋めるコーディネーターでもあります。また、特許の管理についても支援します。iPS細胞も知的財産の確保がまだ十分ではないとの声が聞かれますので、研究の成果に伴う知的財産の確実な保護という点でも、創薬支援ネットワークは力を発揮できると思います。

海外から日本への呼び込みも視野に入れるべき

山口 このセミナーにおけるテーマは基本的に医薬品ですが、今回の制度改革には医療機器や再生医療の開発促進も盛り込まれています。中垣さん、その概要について教えてください。
中垣 医療機器については、経産省が中心になって医療機器開発のネットワークを構築する計画があります。医療機器の多くは使用しながら改良していくものですし、製造会社には中小企業が多い傾向もあります。そこで経産省では、画期的な製品を開発できるポテンシャルがありながら、医療に対する知識が不十分な中小企業に対し、承認申請に関するノウハウを教えるなどの支援を考えています。一方、再生医療については、医薬品や医療機器とは異なる仕組みを構築し、安全性をしっかり担保できるようにすることが当面の目標になっています。
山口 仙石先生は再生医療研究の中心となるアカデミアの立場にあるわけですが、今回の一連の法制定・改正をどのように評価していますか。
仙石 2013年11月に発効した「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」や改正薬事法には、非常に大きなインパクトを感じています。特に市場の要望も踏まえ、再生医療の迅速な提供を図る方向性が盛り込まれたことは国際的にも高く評価されています。医療機器に関しては中小企業も巻き込んだ取り組みが必要との指摘がありましたが、再生医療に関しては、私は海外の医師や製薬企業の日本への呼び込みも視野に入れるべきだと考えています。特にヨーロッパ圏では厳格な規制や経済停滞が足かせになっているようで、日本を含むアジア市場に活路を見出そうという機運はかなり高まっています。これは先ほど話した日本発の製品開発におけるジレンマの解決法の一つで、患者も含めた海外からの呼び込みによって、わが国で日本発のプロダクト、サービスを試すことができれば、まさに一挙両得の解になると考えています。すなわち、今回の法制定は規制緩和のみならず、最終的には国家戦略特区などの取り組みを支援する後ろ盾にもなると考えられ、とりわけ再生医療の分野における期待は大きいと思います。
多田 製薬協でも、細胞などを扱っている海外の製薬企業などから今回の法制定に関する質問を受ける機会がかなり増えています。ですから、新しい法制定が国際的に関心を集めていることは事実だと思います。ただし、生産の効率と品質の安定性、そして安全性という観点から考えると、再生医療の開発は医薬品の生産・開発とは基本的に異なります。しかも、いろいろな周辺技術も必要になるため、製薬企業が貢献できる部分と他領域の方々の助力が必要な部分とがあります。したがって、事業化は一筋縄ではいかないはずですが、それでも低分子から高分子へ、それが細胞へ、そして組織へと移行してきた医薬・医療の流れを考えると、医療の将来はそうした方向にあるのだと思います。

仙石 慎太郎氏
仙石 慎太郎氏

医療の国際展開では地域性・民族性という視点が重要

山口 本日の講演の中で、日本の医療のブランド価値を高め、医療そのものを仕組みとして海外に提供するという話がありました。特に、今後拡大が見込まれる新興国市場が有望視されていたようですが、その実現性について聞かせてください。
飯田 完全に日本の制度がトランスプラントされるかどうかは、やってみなければわからないというのが本当のところだと思います。ただ人的交流を重ねることで信頼は醸成されますので、日本が新興国に協力していくことで、日本の医療に対する信頼性は高まると思います。ですから、重要なことはトランスプラントされるかどうかではなく、政府としてその国の医療に貢献することです。そのうえで、反射的利益としてわが国の製薬業界のビジネスに恩恵が与えられれば、それはそれでwin-winの状況になると思います。さらに、海外の医師や製薬企業が日本に来れば、それも1つのイノベーションのきっかけになり、活気が出て好循環が続けば、日本の医療制度そのものが良化、効率化していくと思います。そうなれば、医療財政の抑制というもう1つの目標の実現にもつながるのではないでしょうか。そうした好循環は政府だけでは実現できないので、官民連携で知恵を出し合うことももちろん重要だと思います。
山口 飯田さんは安倍首相の海外視察にも同行していると聞いていますが、発展途上国や新興国の医療に何か変化がありますか。
飯田 新興国や発展途上国でも生活習慣病がかなり増えています。土屋品子厚生労働副大臣(当時)とミャンマーの総合病院を訪問した時も、生活習慣病の患者数が増加しており、ほかの新興国においても生活習慣病や人口の高齢化が日本より速いスピードで進行している印象があります。日本はそうした経験をすでに積んできたわけですから、単なる技術協力にとどまらず、貢献できる部分は多いと思います。
山口 医療の国際展開について、それぞれの意見を聞かせてください。
中垣 途上国でも新興国でも医療は大きな関心事ですので、首相がそうした国々を訪問した時は必ず話題の一つになります。たとえば、日本では患者数が少なくても世界的にはまだ課題になっている疾病は数多く存在します。そうした領域に改めて取り組むことも、単に経済的な利益にとどまらず、国際貢献を通して日本の評価を高めるというメリットがあると思います。特に医療の場合は、医療保険制度のようなインフラの整備も含まれますので、日本の医療をシステムとして提供し、役立ててもらうという姿勢で現在取り組んでいるところです。
仙石 医療の国際展開を考えるうえでは、地域性や人種差という視点が重要です。わが国は、東アジアやその周辺地域を意識する必要があると思います。たとえば、iPS細胞による再生医療が検討されていますが、同種・他家細胞を使った治療を基本とするのが国際的なコンセンサスです。そうなると、iPS細胞をバンク化あるいはストック化して治療に用いるといったモデルが想定されます。その際は、ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen、HLA)のハプロタイプで分類することになるので、人種構成を反映したバンクにならざるを得ません。そのため、仮に日本がiPS細胞バンクを構築し、治療に活用できるようになれば、それは日本人のみならず、人種的に類似性が高い韓国や中国などにも展開できると考えられています。もちろん、こうしたことは先端医療に限らず、従来型の創薬でも同じです。ゲノム診断や血中マイクロRNAを使った侵襲性の低い確定前診断などが普及し、個別化医療が定着すれば、地域性・人種差を考慮したさまざまな治療手段の開発も進むと思われます。そうした方向性を踏まえれば、日本にとってアジアの位置づけはますます重要になりますし、進出の好機も間近に迫っているのかもしれません。
多田 製薬業界に身を置く立場としては、少し意見が異なります。国際的な創薬環境を考えると、特に新興国においては医薬品資本が育っていないという印象があります。現地資本が育っていないと技術移転も難しく、製薬企業自身が大きなリスクを背負って進出し、自らの手で現地での医薬品製造を考えなければなりません。しかもジェネリック医薬品が普及し、コンパルソリーライセンス(特許強制実施権)も時に求められる状況では、事業展開は非常に難しい状況にあるといわざるを得ません。少なくとも新興国での事業展開は、欧米とは相当事情が異なることを念頭に置く必要があると思っています。

多田 正世氏
多田 正世氏

日本の製薬企業では医療・医学に習熟した人材が求められている

山口 最後に、人材育成について皆さんの意見を聞きたいと思います。どのような人材がイノベーションを起こすでしょうか。また、そうした人材を育成するためにはどのような仕組みが必要でしょうか。
飯田 人材育成の方策については、これまでも制度設計のほか、国際交流、人的交流、異業種交流などの必要性が唱えられてきました。しかし、なにより重要なことは、産・学・官の全員が一体化して情報を共有し、開かれた環境の中でさまざまなイノベーションを展開していくことだと思います。すなわち、妙案があるわけではなく、政府と民間がそれぞれの立場で地道な努力を繰り返すことです。その中で、人材も育っていくと期待するしかないと考えています。
中垣 人材育成は非常に重要な課題だと私も思っています。特に最近は正確なデータ解析の必要性が強く指摘されていますので、医療統計のエキスパートの養成は喫緊の課題だと思います。もう1つは知的財産保護のエキスパートです。今回、経産省の協力を得て、日本医療研究開発機構には特許庁に所属していた知財の専門家も加わることになっています。ただ将来的には、医学部教育のカリキュラムの中で統計や特許に関する講義を拡充し、医師国家試験の項目にも導入するといった取り組みも必要ではないかと考えています。
仙石 アカデミアにおいても人材育成は常に課題ですが、その解決の糸口は博士課程教育の強化、キャリアパス教育の強化に尽きるかと思っています。たとえば、クロスオーバー人材と呼んでいますが、薬学や医学、あるいは生物統計のような専門性に加え、技術経営や政策学なども含めた複数の専門性を有する人材の育成を考える
必要があります。あるいはマネジメントを志向する博士に対し、戦略思考などのマネジメント教育を施すといった取り組みも考えられます。すなわち、今後の大学・大学院教育には、イノベーターとしての博士をクロスオーバーで育成していくシステムを、積極的に導入すべきではないかと考えています。
多田 海外に比べ、日本の製薬業界に何が一番不足しているのかといえば、医師免許を有する人材です。すなわち、日本の製薬企業では医療、医学に習熟した人材が求められているわけです。もう1つ不足しているのは、語学だけでなく、ビジネスのグローバルマネジメントができる人材です。こうした問題点の解決策としては、グローバルな人材を他国から雇用することも1つの方法でしょう。あるいは日本人の研究者を他国の優れた研究所で切磋琢磨させ、育てるという方法も考えられます。そうしたことを考えながら試行錯誤しているのが、製薬業界の現状だと思います。
山口 本日は、わが国における健康・医療の戦略が着実に進みつつあることを確認できました。また、基礎研究レベルでは数多くのシーズがあり、それをうまくコーディネートし、実用化するエンジンがあれば、医薬品産業のさらなる進展が望めることも再認識できました。そうした動きを後押しする機能の一つとして、日本医療研究開発機構が来年発足します。この新たな取り組みにより、産・学・官の連携・協働がより加速化され、機能していくことに期待したいと思います。本日は、大変有意義なディスカッションができました。ありがとうございました。

 

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