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「製薬協プレスツアー」を開催

政府が掲げる新成長戦略の中で、「ライフイノベーション」は、ひとつの大きな柱であり、その中で医薬品産業は、科学技術の進歩とともに、画期的な治療法を見出し、国民の生活に貢献する使命を担っています。製薬協広報委員会では、報道関係の方々とともにその見聞を広めるため、最新の医療関連施設を訪問し、業界における科学技術の進歩を見聞するプレスツアーを毎年実施しています。
2月23日~24日、総勢16名の記者および製薬協メンバーは「ライフサイエンスの新市場を探る~マイクロRNA1)など次世代バイオ医薬の現状~」をテーマとして、九州大学生体防御医学研究所および九州大学病院別府先進医療センター2)を訪問、取材しました。

2011/07/06

九州大学生体防御医学研究所は、大分県別府市におかれていた「九州大学温泉治療学研究所」および福岡県福岡市におかれていた「医学部附属癌研究施設」が1982年に統合され、さらに医学部附属遺伝情報実験施設が加わり現在の施設となっています。生体防御という新しい学問体系を世界に先駆けて提唱しており、生命現象の本質に迫る基礎研究を展開しています。また、生体防御機構の破綻による難治性疾患の発生機序の解明と診断、そして治療法の確立を目指した応用開発研究も展開しています。

九州大学 生体防御医学研究所訪問 (福岡)

本拠となる福岡市にある研究部門では、ゲノム機能制御学・細胞機能制御学・個体機能制御学の3つの領域の研究を展開しています。そして、附属する研究センターとして、遺伝情報実験センター・生体多階層システム研究センター・感染ネットワーク研究センターがあります。また、共通施設の一つであるプロテオミクス3)センターは研究支援サービスの一環として、タンパク質同定4)のための試料調製や質量分析計によるタンパク質同定を行っており、大規模なネットワーク情報を手にすることのできる世界最先端のプロテオミクスセンターの一つと位置づけられています。
ゲノム機能制御学部門では、エピジェネティクス5)、エピゲノム6)の研究が進んでおり、日本人の死因第1位であるがんの発生する分子メカニズムの解明が進められています。多くのがん遺伝子やがん抑制遺伝子の異常が、がんの発症のみならず、がん以外の疾患の発症や個体の発生・分化にも深くかかわっていることもわかってきており、がん関連遺伝子を改変した動物を利用して種々の疾患の解明や新規治療の開発に寄与しています。
がん・虚血性心疾患・脳血管障害などの疾患は細胞周期と細胞死(アポトーシス)という生物的現象と深く関係しており、細胞周期の異常とアポトーシス機能障害が複合したときにがんが発生すると考えられています。細胞機能制御学部門では、その分子機構の解明に取り組んでおり、その病態メカニズムの根底にある細胞周期調節とアポトーシスに着目し、細胞周期の進行を制御する分子の解明を目指しています。
個体機能制御学部門では、活性酸素による増殖性細胞の障害として起こる「突然変異とがん」に着目して「活性酸素によるゲノム障害とその防御機構」の解明に向けた研究、そして、自己免疫疾患・移植片拒絶・感染症など現代医学が抱える難治性疾患の新しい治療法・予防法の開発を目標とした研究が行われています。
3つの附属研究センターでは、疾患の分子機構を明らかにするとともに、それらの解析を通して遺伝情報制御の観点から生命現象を理解する研究(遺伝情報実験センター)、立体構造の視点から分子生物学と生化学の結果を統合し、生体高分子の機能をより深く理解する研究(生体多階層システム研究センター)や、免疫受容体を介する自己・非自己の認識機構の分子基盤解明の研究(感染症ネットワーク研究センター)などが行われており、疾病の診断や有効な治療法の確立につながる研究が行われています。
福岡では九州大学生体防御医学研究所所長の谷憲三朗教授はじめ、9名の先生方からそれぞれの研究分野の紹介があり、基礎研究から将来の新たな診断・治療の開発への寄与を視野に入れた広範囲な研究が進められていることを実感することができました。また、広大な九州大学の構内の施設(CPC細胞プロセッシングセンター、プロテオミクスセンター/電子顕微鏡室、ゲノムセンター等)を見学し、研究の第一線での研究者の情熱も感じ取ることができる取材となりました。


九州大学病院外観

九州大学病院別府先進医療センター訪問(別府)

翌日には、別府湾を見下ろす高台にある九州大学病院 別府先進医療センターを訪問し、食道がん・大腸がんの病因・病態、脂肪幹細胞を用いた再生医療、マイクロRNA臨床応用を目指す研究について取材をしました。
ここは日本の大学で初めての温泉療法の研究施設として、1931年に開設され、温泉療法の科学的研究やリハビリへの温泉の活用の研究も行われています。
食道がんの遺伝的要因と環境要因の両方を、同時に解析して明らかにしていくことは、テーラーメード予防7)を進めていくうえで極めて重要であり、遺伝子多型や飲酒・喫煙などの生活習慣の組み合わせで、食道がんになるリスクが大きく変わってくることが明らかになりました。従って、遺伝子多型8)を解析することは食道がんの二次予防に役立つと示唆されており、また、上記遺伝子型を有する若い人には特に飲酒を開始させないことがその一次予防に貢献することも示唆されています。
また、大腸がん発症においても、ある遺伝子多型との相関がみられることから、日本人の大腸がん高リスク者は、遺伝子多型と疫学的情報により絞り込むことが可能であるとされています。
別府先進医療センターでは、乳がんなどにより乳房を切除した患者さんに、脂肪幹細胞を用いた乳房再建手術を施した例が多くあります。骨髄由来に比し、脂肪組織由来の幹細胞を用いることは、患者さんのからだへの負担軽減、細胞液採取量、幹細胞含有率などから多くの利点があります。また、自己組織由来幹細胞を用いることで、倫理的・免疫学的側面、ウイルス感染の側面からも好都合です。脂肪細胞と自己組織由来幹細胞を一緒に移植することにより、乳房再建手術後1年後でも新生血管網を伴った脂肪組織の生着が認められています。
今回のプレスツアーのタイトルにも入っているマイクロRNAは、次世代のバイオ医薬品開発への可能性として大きな期待が寄せられています。マイクロRNAは、細胞増殖、アポトーシスなど生物にとって欠かすことのできない多くの生命現象とかかわっているため、さまざまな基礎研究が行われています。また、マイクロRNAの発現パターンはがんとも関係しているといわれていることから、がんの診断・治療などに用いる研究が進められています。
たとえば、乳がん細胞に転移能が生じるとともに、特異的に発現がなくなる一群のマイクロRNAを同定し、そのマイクロRNAをがん細胞に導入したところ、肺および骨への転移が抑えられることが示されました。また、マイクロRNA-125aは胃がんにおけるがん抑制マイクロRNAですが、ある種の抗がん剤と併用するとがん治療として大きな相加効果を示しました。
こうしたがんの再発・転移に関与するマイクロRNAの同定と機序解明の研究は今後も進められ、再発転移予測マーカーや術後補助療法として臨床への応用が期待されています。
別府では別府先進医療センターセンター長の牧野直樹教授、分子腫瘍学分野の三森功士准教授はじめ4名の先生方から腫瘍領域について説明があり、温泉療養施設を含めた施設見学をし、将来の治療につながる可能性をあらためて感じることができました。 この場をお借りして、福岡・別府での取材にご協力いただきました多くの方々に御礼いたします。


別府先進医療センターでの見学風景

  • 1) マイクロRNA…miRNAと略し、細胞内に存在する長さ20-25塩基の1本鎖RNAのこと。タンパク質への翻訳はされず、他の 遺伝子の発現調節(抑制と考えられる)を行う。
  • 2) 九州大学病院別府先進医療センター…4月1日より九州大学病院別府病院に名称変更。
  • 3) プロテオミクス…タンパク質の構造と機能を大規模に解析する研究のこと。
  • 4) タンパク質同定…タンパク質の一次構造、すなわちアミノ酸配列を決定すること。
  • 5) エピジェネティクス…DNA塩基配列によらない遺伝情報の発現制御で、体細胞ではその状態が伝えられるものと定義され、具 体的にはDNAメチル化やヒストン修飾などのこと。同じ遺伝情報を持っているのに臓器によって別々の細胞になるのは、メチ ル化やヒストン修飾によって使う遺伝子を選んでいるからで、これらを解明することをエピジェネティクスという。
  • 6) エピゲノム…ある細胞内に起こっているDNAメチル化やヒストン修飾などの状態すべてのこと。
  • 7) テーラーメード予防…ある疾患へのかかりやすさを個人の遺伝子型から知って、生活習慣も含めた疾患予防策を講じること。
  • 8) 遺伝子多型…個人レベルの遺伝子(ゲノム)の違いを多型と言い、特にDNAの1塩基だけが異なるSNPs(スニップス)がいく つかの疾患とかかわっていることが知られている。

(文:広報委員会 メディア・オピニオンリーダー部会 副部会長 尾張 哲哉)

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