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第15回患者会セミナーを開催

医療をめぐる倫理と法
―医師と患者のあるべき関係を求めて―

第15回目となる製薬協患者会セミナーが7月17日、大阪第一ホテルで開催されました。今回も東京大学大学院法学政治学研究科の樋口範雄教授が、「医療をめぐる倫理と法」をテーマに講演を行いました。会場には関西地区の18患者団体から40人の参加があり、講演後は活発な質疑応答が行われました。前回(本年3月に東京で開催された第14回患者会セミナー、ニューズレター125号で紹介)と基本的には同じ内容ですが、前回紹介できなかった内容を中心に講演要旨を紹介します。

2008/07/25

医師と患者の関係と法化現象

昨今は、あらゆる問題が法律問題になってきており、医療問題も法化現象が進み、医師と患者の関係に法(法律家)が入り込んできています。私は大学で英米法を教えていますが、訴訟社会であるアメリカの判例をケーススタディとして、アメリカ法の良いところを見つけて、日本の法を改善できればよいと考えています。私自身、法律家であると同時に長年患者の立場でもあります。医師と患者の関係と法のあり方について一緒に考えていきたいと思います。

がんの告知―法律家の心の貧しさ


講演する樋口先生

秋田県の事例ですが、肺がん末期の患者の担当医師が、「家族に告知しようとしたが会えず、がんの告知はまだしていない」との記載をカルテに残して転勤しました。結局、患者や家族に告知はなされず、数ヵ月後にこの患者は亡くなり、遺族から裁判が提起されました。最高裁まで争われましたが、裁判所は本人に知らせることができない場合は家族に伝えることを検討する義務があると認めました。

しかし、重要な課題を忘れているように思います。医師が末期がんという事実を患者または家族に告知すべきかどうかよりも、重要なのは告知後の体制です。その患者を支えるためにはどのような医療体制が必要なのか、終末期医療はどうあるべきなのかが重要なのです。しかし、裁判所ではそのような議論はなされませんでした。法律家の心の貧しさが感じられます。

PM病*と遺伝の恐れ―法律家の誤ったメッセージ

長男に遺伝病があり、その長男の診察時に、親が医師に「子どもを生んでいいでしょうか」との問いをしたところ、医師は「PM病になるのは交通事故に遭うくらいの確率でしょう」と答えました。それを聞いて子どもを生んだところ、次男は健常児でしたが、三男に同じ遺伝病が現れました。その医師は何年も前に聞かれたことなので覚えていないかもしれませんが、裁判では医師が負けました。

判決の中で、この医者には「答える義務はなかった」と述べています。法律家の思想としては、長男の診察に関係のない質問なので医者は質問に答える義務はなかったが、答える以上は正確でなくてはいけない、というものでした。これでは、訴えられるかもしれないから患者の質問には答えないほうがよいという誤ったメッセージを与えると思います。

*PM病:ペリツェウス・メルツバッヘル病

セミナー風景

制裁型より支援型―リーガルリスクを下げて、善意の行動を起こしやすく

国際線の飛行機で急病人が出た場合、医師は立ち上がってよいかという問いかけがあります。処置に失敗すれば、訴えられて賠償責任を負うかもしれません。しかし、この場合は、民法698条により、過失があっても責任はありません。義務なく他人のために行う善意の行動を支援する法です。法律に興味のある医師の中には、医師法により医師には応召義務があるため「義務なく」にはあたらず、過失責任を負うので寝たふりをしたほうがよいという人がいますが、これは誤りです。医師は善意で立ち上がっても大丈夫です。日本にもこのような支援型の法があるので、それを広げていけば、よりよい医療につながると思います。

救急車がなかなか来ない、といった問題があります。この問題を解消するため、救急の専門家が判断して重症の患者から運ぶという手法が提言されています。現在は、軽症者でも電話がかかってきた順番で運ばれ、結果として重症者が後回しとなり本当の平等とはいえません。しかし、重症者から運ぶことで多くの命を助けても、一例でも失敗すればマスコミにたたかれ、救急体制全体への不信を招き、また刑事責任、国家賠償責任、行政処分のトリプルパンチを受けることになり、とてもできないという議論になっています。これもリーガルリスクを下げたほうが国民のためになります。救急なので過失責任を問わない、または過失の認定を慎重にすることで、救急隊も安心して重症者に回れるようになり、救える命が出てきます。

医療事故と法―事故の防止の仕組み作り

10年前までは医療事故が刑事事件になることはほとんどありませんでしたが、刑事事件は増加し、民事訴訟は倍増しています。制裁型の対処が増加することによって、制裁を恐れて医療事故の真相が隠れたり、リスクの多い外科や産婦人科の医師が減少したり、制裁型だけでは医療はよくならないことがわかってきました。医療者の刑事責任を追及し執行猶予付きの有罪にすることにどれだけの意味があるのでしょうか。もっと別の工夫があってもよいのではないでしょうか。

患者側弁護士と医療関係者の共通の願いは、生命・健康の回復、真相究明・再発防止です。共通の願いを実現させるための工夫として、現在、医療事故の原因究明と再発防止のために独立した第三者機関を作ろうということで、「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」が公表されています。大綱案には、責任追及を目的としない、委員には患者代表も入る、遺族から医療事故調査を求めることができる、などが盛り込まれています。

これからの医療と法のあり方

医療問題における法律家の関与の度合いは今後ますます大きくなり、法化現象はいっそう進むと予想される状況の中、医療と法のあり方を考える必要が高まっていると思います。法による過剰な規制は社会のためにならないこともあります。親切な医師が怯えて善意の行動をとらないことも考えられます。法と法律家をうまく使うことによって支援型の法を広げる工夫が必要であると思います。

(文:広報委員会ペーシェントグループ部会 清瀬 克也)

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