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第19回製薬協政策セミナー開催される

画期的な新薬をより早く患者に届けるための仕組みづくり

2008年11月15日、経団連会館において、第19回製薬協政策セミナーが開催されました。
今回は、『画期的な新薬をより早く患者に届けるための仕組みづくり』のテーマで、わが国におけるいわゆるドラッグ・ラグを取り上げました。会場には患者団体、政治家、行政、医療関係者、メディア、会員会社などから185名が集まり、熱心に耳を傾けました。

2008/11/22

第一部 現状および問題提起

最初に、東京大学大学院薬学系研究科の小野俊介准教授から、「ドラッグ・ラグ問題の難しさを皆で共有し、解決策を皆で考えるための論点整理」と題して、以下の現状分析と課題が提示されました。

  1. 医薬産業政策研究所の分析によって「1990年代後半の日本においては、米国と比較して2年ほど臨床試験が遅れて始まるうえ、臨床試験そのものに1年半ほど長くかかり、さらに承認審査に半年ほど余計にかかっている」との実態が明らかにされている。
  2. ドラッグ・ラグには2つの定義がある。すなわち、「日本と米国の両方で上市されている新薬の遅れの平均(46~58ヵ月と報じられている)」と「日本で販売されていないものを含めたすべての新薬における上市の遅れの平均」である。言うまでもなく問題にすべきは後者である。2000年から2006年にかけて、日・米・欧のいずれかで承認された新薬357品目のうち、133品目については、日本では開発すらされていないことが明らかになっている。
  3. ドラッグ・ラグは、医薬品開発に関係する多数のプレーヤーがそれぞれの立場で行動した結果生じるものである。ラグは大きすぎると困るが、目に見えるラグを短縮すればよいというものではない。
    そういった意味では「体温」と似ている。また、ドラッグ・ラグの原因として、「日本の治験・開発環境が悪いから」「日本での新薬開発の魅力が少ないから」あるいは「日本の薬価が低いから」といった説明がなされているが、それぞれ裏付けとなる根拠や研究が十分とは言えない現状にある。
  4. 製薬企業は、「新薬開発の成功確率を高めて期待収益を最大化するために日本における開発を遅らせている」との見方ができる。ドラッグ・ラグが大きいほど、日本での開発が順調に進むことはデータが裏付けており、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査も欧米のデータがあると楽になる。
  5. ドラッグ・ラグ対策を考えるにあたり、自分にとって嫌な要素から目をそらさないで、現実の難しさを直視しなくてはならない。最上位の目的は、国民・患者の健康を向上させ、幸せにすることである。
    ドラッグ・ラグを論ずるとき、局所的、部分的な議論に終始してはならない。自分の都合のよいところだけを取り上げているようでは問題解決にならない。
  6. また、日本の人口は米国の1/3、欧州の1/4であり、被験者を集めるうえで日本の開発環境は欧米との比較において著しく劣るという現実も認識すべきである。日本の企業が不利なホームグラウンドを前提に、世界中のお客さんに新薬を提供していくにはどうしたらよいか、官民双方がもう少し現実的に考える必要がある。

第二部 パネルディスカッション

パネラーによる発言


小野氏による講演

第二部では、小野准教授の問題提起を踏まえつつ、医師の立場から横浜市立大学大学院医学研究科医学研究科長・循環制御医学の石川義弘教授、行政の立場から厚生労働省医政局経済課の木下賢志課長、学識経験者の立場から慶應義塾大学大学院経営管理研究科の中村洋教授、患者・国民の立場から自らがんを患った経験のある読売新聞東京本社編集局社会保障部の本田麻由美記者、製薬産業の立場から製薬協医薬産業政策研究所の高橋由人所長が、それぞれドラッグ・ラグに対する問題意識およびその解消のための方策を示しました。

石川教授は、世界売り上げ上位100製品のうち、米国では未承認の品目は0、お隣の韓国ですら5であるのに対し、日本では28品目もあること、日本の国際共同治験の実施数がわずか6(米国では264)であるという現状に触れるとともに、治験がわが国で進まないのは、米国と比較してわが国の医療機関における医療従事者数および年間予算が大きく見劣りすることに起因すると指摘しました。

木下課長は、医薬品の研究開発から上市に至る各ステージと対応すべき課題について説明したうえで、ドラッグ・ラグの解消に向けては、薬事審査体制の充実および新薬上市までの期間を2.5年短縮することを実行に移すとともに、革新的医薬品の開発を支える薬価制度のあり方について検討をしていると説明しました。

中村教授は、現在、中央社会保険医療協議会薬価専門部会において議論がされている薬価制度改革に触れ、改革の大きな方向性として、画期的な新薬の薬価を国際水準に高めることによって、製薬企業の研究開発促進を図るとともに、開発インセンティブ向上によってドラッグ・ラグ解消に導く内容であるべきと指摘しました。また現在、日本製薬団体連合会が提案する薬価制度改革案について、「改革の方向性に沿ったものである」と評価する一方、エグゼンプト・ドラッグの対象範囲や、特許期間が満了した後に良質で安価なジェネリック品が使用促進されることをどのように担保するかなど、検討すべき課題が残されているとの問題意識を示しました。

本田記者からは、「数ヵ月の延命効果であっても個々のがん患者にとっては極めて重要なことである」との投げかけがされるとともに、日本ではかなり以前に医薬品として承認されているにもかかわらず、効能が取得されていないため「適応外使用」となり、大きな患者負担を強いている事例が挙げられ、「適応外使用されている既承認薬であって、当該適応外使用効能に対する効果がある程度定まっているものについては、より患者負担が少なくなるような工夫なり配慮が必要である」と主張しました。

高橋所長からは、「ドラッグ・ラグ期間の半分が企業による開発着手の遅れによるものであり、日本における早期開発着手を促すような施策が必要である」という指摘がありました。そのような観点から現行薬価基準制度を「新薬であっても価格が下がる一方で、特許が切れても米国のような劇的な薬価下落あるいは売上減少がないため、新薬の早期開発へのインセンティブが働かない制度」とし、「ダイナミックな市場構造をもたらすような薬価制度の議論が不可欠である」と述べました。

パネルディスカッション

その後、小野准教授と各パネラーとの間でディスカッションが行われました。治験環境に関しては、石川教授に対して「臨床試験の環境改善に向けて真っ先に取り組むべき課題は?」との問いかけがなされ、同教授から「わが国で決定的に不足している治験スタッフ、すなわち医師のみならずパラメディカルを含めた医療従事者全体の数を増やすことが必要である」との見解が示されました。また、「ドラッグ・ラグはさまざまなステークホルダーが関わっているテーマである。だが、行政としてどのように対応するのか」との問いに対して、木下課長から「厚生労働省として は、医薬品の有効性・安全性の確保、承認までのスピード、患者負担のバランスを考え、医薬食品局、医政局、PMDAが協力してこのテーマにあたっていく必要があると認識している」とのコメントがありました。適応外使用による経済的負担に関しては、本田記者に対して「がん患者の一人ひとりにとっては数ヵ月の延命であっても、そのような効果を有する薬剤に対する切実なニーズがあるが、どうやって国民にそのことを理解してもらうのか」との質問がされ、同記者はジャーナリストの立場で「医療財政が厳しい中、4ヵ月の延命に対して医療費を支払う意味があるのかとの意見があるが、4ヵ月の延命効果の積み重ねで次の画期的な新薬が出てくるわけであり、私自身、『意味がある』と申し上げたい」との考えを示しました。また、本田記者は、抗がん剤の使用実態に触れ「治療を意味のあるものにするためにも、がんの化学療法に熟練した医師が抗がん剤を処方する ことが重要」とし、この意見に対しては、医師である石川教授からも「そのためには、エビデンスに基づく医療(EBM)を普及させることが重要であるが、エビデンスを集めるにも人手が必要となる。医療費予算が少ないのに日本で欧米並みの水準を求めても限界がある」と指摘し、私見と断りながらも「人手を十分に確保するためにも、わが国の医療費の総額自体を増やす必要があるのではないか」との見解を示しました。

一方、研究開発を促進する薬価制度に関しては、木下課長に「製薬産業の研究開発活動と薬価制度のバランスについてどのように考えるか」との質問が投げかけられ、同課長からは「薬価は『安ければよい』のではなく、日本の企業が革新的新薬を出すだけの体力を養える制度でなくてはならない。ただし、患者負担も念頭に置かなくてはならない」との見解が示されました。また、中村教授に対しては「企業に対して開発インセンティブを与えるには、新薬と長期収載医薬品(特許の切れた先発品)の価格のメリハリが必要ということであるが、製薬企業には長期収載品で収益を上げているところもあり、実際にコンセンサスを得るのは難しいのではないか」との質問がされ、同教授は「確かに悩ましい問題である」としつつも、「国民・患者へのメリットを考えた場合には、やはり革新的な新薬を出した企業を評価する制度でなくてはならない。そうでない企業は別の生き残り方を模索すべきであろう」との方向性が示されました。ただし、「激変緩和のための準備期間にも配慮すべき」との点も強調されました。高橋所長には「現行薬価基準の下では、市場のダイナミックスに欠けるがゆえに治験を遅らせるとの企業行動が見られるうえに、日本では患者数が少ないなど不利な点を抱えている。この現状をどのように考えるか」との問いかけがされ、所長からは「プレーヤーが誰であれ、日本が新薬を創出する場になっていなくてはならない。競争力のある企業や人が日本に集まってくるような『環境づくり』が必要である」との認識が示されました。

続いて、フロアからの質問や意見が各パネラーに投げかけられました。患者団体からは、適応外使用の問題が改めて切実に訴えられ、これに対して木下課長から「適応外使用を解消するためには、メーカーにもはっきりと効能追加の意思をもってもらう必要がある。また、PMDAサイドも体制をしっかりと構築して対応していかなくてはならない」という行政側としてのコメントがあり、これに対して小野准教授からは「企業が効能追加に対して躊躇しないよう、公的機関に間に入ってもらうことも重要」という指摘がありました。また、同じく患者団体から「評価が定着している適応外使用の薬剤について、改めて日本で臨床試験を行う必要が本当にあるのか」との問題提起があり、これに対しても木下課長より「ブリッジングなど工夫の余地はあるが、人種差の問題もあり、日本におけるデータの必要性をゼロにするには至っていない」との見解が示されました。また、意見として「ドラッグ・ラグの解消に向けた国民の視点に立った市民参加型のルール作り」「産官学が一体となった勉強会の設置」「産官学の人材交流の促進」「希少疾病の治療薬の開発に企業が乗りやすい仕組み」「ドラッグ・ラグについてのわかりやすい用語を使っての説明」「患者と専門家とのインフォメーションギャップ解消に向けた取り組み」などを求める声がありました。

最後に庄田会長から総評をかねて「製薬産業の特性は研究開発の側面において原因不確実性(ある結果が欲しいときに、どのような原因を起こせばよいかわかりにくい)と結果不確実性(ある病気に効く薬の開発を始めるとき、どのような物質が有効か、あるいは、ある物質が人体にどのような影響を及ぼすか、非常にわかりにくい)の双方を兼ね備えていることであり、結果不確実性だけが高いとされる自動車やビールなどの産業と大きくバックグラウンドが異なる。
そのような中でこれまでにも増して研究開発に注力し、少しでも必要な薬がより早く患者に届けられる ように努力したい」とのコメントがありました。また、コーディネーターを務めた小野准教授が「このテーマは関係者が多方面にわたり複雑なだけに、今後とも肩肘を張らずフレンドリーに議論を重ねる必要がある」と締めくくり閉会となりました。なお、このセミナーの詳細については、近々発行予定の「カプセル86号」に採録を掲載する予定です。

(広報委員会メディア・オピニオンリーダー部会 部会長 田前雅也)

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