イベント・メディア向け情報イベント・メディア向け情報

2008ライフサイエンス知財フォーラム開催

2008年1月23日に経団連ホールにて、「2008ライフサイエンス知財フォーラム(製薬協/〈財〉バイオインダストリー協会共催)」が開催されました。3回目を迎える今回は、「ライフサイエンス分野における職務発明」を取り上げました。本稿では、フォーラム講演者の講演をもとに、新職務発明制度について説明し、解決すべき課題等について考えてみたいと思います。

2008/02/08

職務発明制度とは

企業の従業員が職務を遂行する過程で生み出した発明を企業側が承継する場合、その従業員は企業から「相当な対価」を受ける権利を有します。「相当な対価」の算定にあたっては、企業と従業員との間の認識が異なり、訴訟にまで持ち込まれるケースが少なくありません。近年では、青色発光ダイオード(LED)の開発者が発明当時に在籍していた企業に対し発明に対する「相当の対価」をめぐって争われた訴訟が記憶に新しいことと思います。

本フォーラムでの議論

そのような中、新職務発明制度が施行され、関連する問題は沈静化されたかのような状況にあります。しかし、新法施行後まだそれほど時間が経っていないことから、新職務発明制度の実効性は不透明です。また、ライフサイエンス分野でも旧制度適用対象の職務発明を巡る争いが裁判にまで持ち込まれる例が少なくありません。グローバルレベルで厳しさを増す研究開発競争で生き残るためには、企業と研究者は互いに争っている場合ではなく、手を取り合って行かなければなりません。本フォーラムでは、創薬型製薬産業における職務発明のあるべき姿について、政府・大学・法曹界および産業界の著名な方々を招き、それぞれの立場から議論しました。各講演者の講演概要は以下の通りです。

新職務発明制度について
特許庁企画調査課長
阿部利英氏

職務発明とは従業者(従業員)がなした発明であって、使用者(企業)等の業務範囲に属し、かつその発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在または過去の職務に属する発明をいいます。我が国の特許出願のうち98%は職務発明です。職務発明における使用者と従業者の権利は特許法第35条に定められていますが、改正前は、従業者側にとっては自己の発明に対する使用者等の評価について納得感が低い、使用者側にとっては裁判所による「相当の対価」の算定基準が明確とは言い難く本来考慮されるべき項目が考慮されていない、いかなる対価を支払えば免責されるか不透明であるといった課題がありました。そして、企業が定めた対価の額が「相当の対価」に満たない時には、従業者は不足額の請求が可能であるとするピックアップ装置事件(オリンパス事件)最高裁判決が出るに及んで、35条を改正しようとする機運が高まりました。

これを受けて、産業構造審議会での職務発明制度見直しの審議を経て、35条の改正に至りました。

新職務発明制度のポイント

    1. 職務発明に係る「相当の対価」を使用者・従業者間の「自主的な取決め」にゆだねることを原則
    2. 対価の決定プロセスで、実質的手続が履践されていないなど、「自主的な取決め」によることが不合理であれば、従前どおり、裁判所が「相当の対価」を算定
    3. 裁判所による「相当の対価」の算定にあたっては、様々な事情を考慮可能とする

改正35条は、平成17年4月1日以降にした特許を受ける権利もしくは特許権の承継または専用実施権の設定に係る対価について適用されます。

改正35条では、不合理ではない手続を経て決定された対価であれば企業内ルールに基づく対価が裁判においても尊重されることになっておりますが、対価の決定手続が合理的であると判断されるためには、発明の対価を算定するルールを策定するに際し使用者は従業者と協議を行うこと、協議の結果策定されたルールを従業者に対して開示しておくこと、具体的な発明に対してルールを適用して対価を算定する際には従業者の意見を聴取することが求められます。

特許庁では、新職務発明制度に対する企業等の取り組みについて把握するために、アンケート調査を実施いたしました。その結果、大部分の法人はすでに新職務発明制度に対応済みであり、新職務発明制度が浸透していることを伺わせました。

(参考 特許庁職務発明制度に関するHP)
http://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_list.htm

経済学者の立場から、発明者の調査報告のうち、特に発明者の動機、インセンティブについて
一橋大学イノベーション研究センター長・教授
長岡貞男氏

1.発明への動機
産業経済研究所が行った日本の発明者に関する調査によれば、発明者の動機として最も重要なのは「チャレンジングな技術課題を解決すること自体への興味」、以下「科学技術の進歩への貢献による満足度」、「所属組織のパフォーマンスの向上」と続きます。一方、個人的な動機(キャリア向上や就職機会拡大、金銭的報酬、名声・評判、研究予算拡大等)を重要視する研究者は少数でした。また、それぞれの動機を重要とする発明者の割合は経済的に重要な発明ほど高く、発明への動機は研究開発の性格や現状のインセンティブ構造にも依存していることが明らかです。これらの結果は、発明への誘因としては、発明自体、科学技術への貢献、企業・社会に有用な仕事をしていること等が重要であり、企業・社会がそれに報いることが重要であることを示しています。同時に、金銭的報酬は発明自体への大きな誘因とはならないことも示しています。

2.発明報償制度の実態
大企業は研究開発のリスクを負担する能力が高いので発明のリスクをより多く負担し、中小企業の方が個人で行う仕事の比重が大きいので発明報償の効果を期待できるはずです。ところが実際に発明報償を行っている企業の多くは大企業です。このことは企業の発明報償制度が、発明者のインセンティブを高めるためではなく、特許法35条を遵守するために在ることを示唆しています。

3.今後の在り方
企業は発明者個人より格段に安価にリスクを負担できるので、発明報償以外の手段で発明者にインセンティブを与えることが可能なら、発明報償は避けるべきでしょう。ストックオプションなどのインセンティブ報酬が一般的な米国で、特許の発明報償制度があまり使われていないのは、研究開発のリスクを発明者に負わせるのが効率的ではない場合が多いためと思われます。企業は、研究開発の性格等を踏まえ、自らの判断と責任で適切な誘因制度を選択することが重要です。

法学者の立場から、職務発明制度をどう運営すべきかについて
東京大学先端技術研究センター 教授
玉井克哉氏

日本の法制上、企業活動にはさまざまな手かせ・足かせが課されており、日本企業は海外企業との競争において不利な立場に置かれており、職務発明制度もその手かせ・足かせの一つです。現行職務発明制度は大きく2つの点が問題であります。1点目の問題は、対価の額が予測不可能である点です。米国のように契約による場合には、対価の額・支払い方法は自由でありますが、日本のように法律で規定され、それが強行法規となれば、その規定以外の額等は許されないこととなります。実際上、対価の予測は極めて困難であり、日立製作所事件では、1 審と2 審とで、裁判所ですら約8000万円の差が生じています。

2点目の問題は、裁判官が事後的に算定するため、対価の決定方法が一律で硬直的な点です。現実には、多数の特許が関係する技術複合型の製品、多くの失敗のもとに製品化される「宝くじ型」の製品、大ブレークスルーであり「世界変革型」の製品、各種分野への応用が可能な「トリクルダウン型」の技術などがあり、それぞれに応じた発明は多種多様です。技術者の考え方も多種多様であり、自由な環境で研究できることに満足する人もいるし、自分の研究には2兆円の価値があると豪語する人もいます。さらに、企業側にもいろいろな考え方があり、終身雇用を守り抜く企業では、成果の挙がらない研究者も雇用するため、成果を挙げた研究者に報いるのも限度があると考え、また成果主義を貫く企業では給与や賞与での優遇により報いる、あるいはストックオプションで報いる企業もあるでしょう、つまり、いろいろな形で発明者に報いる選択肢があってしかるべきと考えます。

現行では、個々の発明や製品の価値に連動した対価しか認められない状況となっており、多様性が排除されています。今後は発明の対価算定では、一律で硬直的な運用でなく、発明の実態を考慮し、実情に即した「相当の対価」の認定をすべきであると考えます。また、改正法に対応して、企業と従業者が合意した仕組みがあるのであれば、当該企業や従業者が発明の実態や意義を熟知しているのであるから、その仕組みが最も実情に即していると考えます。

経済学者の立場から、職務発明の現状と課題について
東京大学大学院経済学研究科 准教授
柳川範之氏

報酬決定の基本的な考え方として、成功報酬(金銭的・非金銭的報酬)を高くすることによって開発努力のインセンティブを作り出すという側面がある一方、発明の成功・失敗にはリスクを伴うので、成功・失敗で報酬にあまり差がない方が望ましいという、リスクシェアリングの側面があります。この両者はトレード・オフの関係にあり、経済学的にはバランスをとって決めるのが望ましいと思います。

報酬規定の問題は、使用者対従業者間の問題として捉えられがちですが、上記の考え方からすると、報酬決定の問題は、従業者間の分配の問題でもあることが導かれます。

改正職務発明制度は、使用者と従業者間の“事前契約”がある程度認められたという点で前進したと考えます。しかしながら、改正後においても、裁判所介入の程度は未知数であり、当事者にとっての透明性・予測可能性は依然として低く、この予測可能性の低さは、使用者・従業者の両者のインセンティブに対してマイナスに働くと考えます。

職務発明訴訟は、事業成功後に通常提起されますので、裁判所が報酬額の妥当性について判断をするのは、開発が成功して利益を生み出した後になります。かかる事後的判断をすると、事後に得られた情報から望ましい報酬を判断しがちになります。しかし、適切な報酬は、本来、開発時点で、「開発に成功した場合にはどのくらい払うのが適切か」を判断して決められるべきものです。

最後に、職務発明報酬と他の報酬について述べます。開発従事者の「報酬」は、職務発明報酬だけでなく、退職金やボーナスも報酬の一部です。従業者のインセンティブにとって重要なのは、これらの報酬全体を合わせたものです。従って、職務発明報酬のところだけを細かく決めても、期待された効果が得られない可能性があります。職務発明に関する透明性・予測可能性、および他の報酬の両方を考慮すれば、契約がよいと思いますが、それが不可能なのであれば、報酬規定でそれらを決める必要があると考えます。

東京高裁判事・知的財産専門弁護士として多くの知的財産事件を担当した経験から、職務発明対価請求訴訟の現状と改正35条について
竹田綜合法律事務所弁護士
竹田稔氏

1.総括
企業が、契約、勤務規則の締結・制定手続における合理性の担保を重視するという改正法の立法趣旨を生かし、合理性を担保した報奨規定を制定すれば、あるべき職務発明制度が実現し、ひいては我が国の企業が優れた技術を開発し国際競争力を高め、それが産業社会を活性化することに通じている、と考えます。

2.我が国における職務発明制度の沿革
職務発明について従業者等に相当の対価請求権を保障した大正10年特許法14条の制定以来、70余年にわたり、職務発明の対価をめぐる紛争が対価請求訴訟にまで発展することは極めて例外的でありました。不足額に相当する対価の支払いを求めることができると判示したオリンパス光学事件(東京地平成11.4.16判決、最高三小平成15.4.22判決)が契機となり、職務発明対価請求訴訟が続発しています。この状況を踏まえ、平成16年に特許法35条が改正され、契約・勤務規則等で対価を定める手続が不合理と認められないときは、対価の額はその契約・勤務規則等によって算定される旨の規定が設けられました。

3.職務発明対価請求訴訟の現状
改正法附則2条1項は法の不遡及の原則を貫いているため、改正法施行前に使用者等が承継した特許を受ける権利等についてはその出願後20年間、かつ時効期間を考慮するとさらにその期間を加算した期間、改正前である旧法が適用され続けていき、従来の判例の判断基準が現在も存在します。従って、長期に渡る旧法と改正法とのギャップを埋めるための解釈運用、制度全体の整合性を図ることが重要であります。これを受け、裁判所認定の対価額は低額化の傾向にあり、発明者の認定や、自社実施、第三者への実施許諾あるいはそれら両者における対価の算定など、主要な争点について裁判所の判断基準は確立しつつあります。そして、対価の算定では、実際、製薬関連発明は企業からの多額の研究資金投入、低い製品化の成功率から得られた発明の実施の結果であるため、企業の貢献度が高く認定されている裁判例がいくつかあります。

4.職務発明対価請求訴訟における問題点
職務発明対価請求訴訟の1つの問題点として、ライセンスは企業にとって経営戦略上重要であり、秘密保持義務が含まれることが多いため、平成16年改正法が設けた秘密保持命令制度(特許法105条の4)が職務発明対価請求訴訟に適用されないことは問題である、と考えます。

青色LED訴訟の元従業員側の訴訟代理人として活躍した経験等から、「知的財産の時代に、日本発の職務発明制度が果たす役割」について
東京永和法律事務所弁護士
升永英俊氏

20年前には日本は工業の競争に打ち勝ち、優位な地位にあり、他国より大きな富を得ていました。しかし今や全世界における日本の上場株の時価総額シェアは20年前と比較して著しく下落しており、日本が今置かれている状況は決して明るいものではありません。現在は、日本に富が集中していた「工業の時代」は終焉し、「知的財産」の時代に突入したのです。

日本が衰亡を辿ると予測される今、その流れを変えるために何をすべきか、その答えは、日本の社会が富を生む知的財産を生み出すことです。そのためには日本の技術者に富を生む、価値のある発明を生み出すべく頑張ってもらうこと、そして、そのための社会の仕組みが必要です。価値のある発明をなした従業員発明者には成功報酬として後払い方式で超過利益の一部を分配するという仕組みであれば、技術者は目の色を変えて優れた発明を生み出すべく努力することでしょう。一方、企業にとっても、このような仕組みは超過利益が発生しなければ発明者に対価を支払う必要がないことから、企業もリスクを負うことはありません。

日本の職務発明制度は、ドイツでの導入をきっかけに制定されたものですが、日本で独創的な枠組みを作り出し発展してきた数少ない日本発の制度です。この制度を採用している企業に優秀な人材が集まり、そこで富を生む知的財産が生まれるという好循環が動き始めています。現に多額の対価を手にした技術者も出てきています。この日本発の制度の中で、従業員技術者はますます創造意欲がわき、富を生む発明が次々と生まれ、日本が21世紀の世界をリードする国となることが期待できます。残された課題は、技術者がこの優れた仕組みの中で、いかに富を生む発明をするかどうかです。富を生む発明が生まれてくれば、日本の将来は明るいものになると信じております。

「東芝の職務発明補償制度について」と題して他産業における職務発明問題の実態について
株式会社東芝知的財産部長
加藤泰助氏

会社ごとに方針や対応の違いはあるものの、電機業界においては各社とも特許出願件数が極めて多く、その一方で、多岐にわたる事業領域をカバーするために技術の導入やアウトソーシングが進んでいることに伴う特許権の所在や発明者の関わり方が複雑化せざるをえない実情が加わり、その過程で職務発明補償問題への対応がとられてきました。そこでは、1つの事業に関わる多数の技術のコンポーネントの中でどのコンポーネントが事業に貢献しているかを把握することが難しくなっていることが特徴となっています。また、製品やデバイスの遷り変わりが早く、したがって新しい技術の開発に積極的に取り組まざるを得ないため、技術者に対する発明の奨励の活発化が図られています。職務発明補償制度もこうした発明者のインセンティブを高めるための制度として置づけられ、それがメインの目的であり、発明が生まれた時からその権利が消滅するまでを通して補償することを基本としています。技術者は生み出した優れた発明を会社に譲渡し、会社はそれを事業化するという命題を果たしていく過程で、一定のルールに従って全ての職務発明の発明者を補償していくための制度として古くから設けられ、機能してきています。また、各発明については、事業への貢献の程度を評価し、その実績に従って法制度に則った対応を行っています。

しかし、最近では、活発化してきた業界再編、事業分割、雇用の流動化、雇用形態の多様化などの影響があり、さらに、情報開示や情報保護などの別の問題も顕在化してきているため、職務発明補償制度への対応は、ますます複雑、かつ、難問となってきています。加えて、成功したビジネスの実績に対する補償が発明者1個人に対して向けられることの是非や、利益の算定、貢献度の決定、改正法の実質的な適用までには10年以上の期間を要することなど、制度運用の実際上の問題もあり、依然として、多くの未解決の問題が存在しています。企業の立場からは、安定的に運用できる職務発明補償制度の確立が望まれます。

製薬業界から見た職務発明の報償について
製薬協知的財産委員会委員長(武田薬品工業㈱常務取締役)
秋元浩氏

製薬業界が発明者に対する報奨をどのように考えているかという点についてお話をさせていただきます。日本の製薬会社は世界と比較しますと規模も研究開発費も劣りますが、そのような中でも日本の創薬研究者は優れた医薬を創出して医療の発展に貢献しております。日本発の医薬品で世界年間売上が5億ドルを超える大型品は1997年から比べますと2005年の時点で3倍近くに増加しており、それらの権利を確保するための特許出願数も世界に引けをとりません。

このような中、企業は優れた発明を為した研究者を尊重しており、製薬協が会員企業に対して行ったアンケート調査からは、新35条の規定に対応した報奨規定をほとんどの企業が速やかに整備していることが伺えます。その一方で、アンケート調査は職務発明規定という世界でも異質な法規の存在に否定的な意見を持つ企業があることも示しており、グローバルな企業活動に影響を与える可能性も指摘しております。発明者がその対価を請求する訴訟は製薬業界だけでなく全産業分野で増加しており、この問題は新35条を規定しただけで解決できるわけではなく、それが正しく運用されることが重要です。この点については新法に則した判例が出るのはずいぶん先になりますので、当面は旧法の下で対価を考えざるを得ません。医薬の研究開発は年々厳しさを増しております。企業は発明者の貢献を尊重しますが、同時にその医薬が発売に至るまでのプロセスに携わった多くの従業員の力も考慮する必要があります。また失敗確率が極めて高い研究開発に多くの資本を投下しなければならないという企業リスクも忘れてはいけません。このような関係を考慮し、新35条の考え方も取り入れた上で、適切な対価を算定していただきたいと考えております。

パネル・ディスカッション

フォーラム後半のパネル・ディスカッションでは、職務発明制度の課題の抽出と解決手段について討議されました。

<コーディネーター>
長岡貞男
<パネリスト>
阿部利英、玉井克哉、柳川範之、竹田稔、升永英俊、加藤泰助、秋元浩

1.企業における発明報奨規定
最初に、企業において発明報奨規定がどのように制定され運用されているか紹介されました。秋元氏の会社では、当初、研究者の発明をリスペクトする目的で発明報奨規定を制定しましたが、職務発明訴訟が頻発し始めた時点で特許法の規定に対応させました。製薬業界では、医薬品開発の成功確率が低いこともあり職務発明の対価を受けるような発明に関与できる研究者は僅かです。一方、電機業界では、特許利益を得る前に製品寿命が尽きてしまう場合もあり、加藤氏の会社では、研究者のインセンティブを高めるため、発明が生まれて早いうちに発明報奨する制度を採用しています。製品開発にはチームワークがより重要であり、特定の発明者に厚く報奨すると周りの研究者に逆インセンティブを与えることもあります。

現在、多くの会社が発明報奨規定の中に実績報奨制度を有し、自社製品の売上やライセンス収入に基づいて年度ごとに一定の金額を支払っており、これは一種の成功報酬といえます。成功報酬により社長より大きな年収を得る技術者も存在することが紹介され、良い発明をするための強いインセンティブであるとの意見もありました。

2.職務発明の対価
旧法に規定された職務発明制度のもと、最高裁は、職務発明の対価は裁判所が客観的に判断する相当の対価であると判決しました。これに従えば、企業で報奨規定が制定されており10人中9人が満足していたとしても、1人でも不満に思う人がいれば、その人に対する相当の対価は裁判所が判断することになります。改正法では、職務発明の対価を使用者・従業者間の自主的な取り決めにゆだねることを原則とし、自主的な取り決めが不合理でなければ、職務発明の対価はその取り決めに従うこととされていることから、対価の予測可能性が高まったといえます。

しかし、改正法は2005年4月1日以降の職務発明から適用されるため、当面の職務発明裁判には旧法が適用されることになります。最高裁が判決を変えない限り難しいことですが、裁判所には改正法の趣旨を酌んだ解釈と運用を期待しています。法学者は、裁判所が改正法を誤って解釈しないよう説明しなければならないでしょう。特許庁は、新制度に関する手続事例集を作成し、企業が改正法の趣旨を理解し運用できるようにしています。

3.秘密保持規定
職務発明の対価請求訴訟では、相当の対価を計算するために売上高や利益率など企業にとって機密事項の開示が求められます。しかし、現行法では職務発明制度は秘密保持命令の対象とされていないため、法改正が是非とも必要であるとの指摘がありました。

4.短期消滅時効
現在の最高裁の判断によると職務発明の対価請求権の時効は最終の対価の支払い時点から10年とされていますが、これでは長すぎるとの指摘がありました。これに対し、長期に渡る旧法と改正法とのギャップを埋めるための解釈運用、制度全体の整合性を図ることが重要との意見や、次回の法改正では短期消滅時効を定めるべきとの意見が示されました。

最後に

今回のフォーラムでは、製薬業界のみならず他業種の知財関係者および大学や官庁の方など約300名が参加しました。製薬協およびバイオインダストリー協会は、ライフサイエンス分野特有の知的財産に関する問題・課題について議論・施策提言をするために、今後も定期的に情報発信をしていきます。

以上
(解説:2008ライフサイエンス知財フォーラム準備委員会)

このページのトップへ

  • キャンペーン
  • 製薬協ニューズレター メールマガジン登録はこちらから
  • くすり研究所
  • 治験について
  • グローバルヘルス
  • Stop AMR 薬剤耐性に対する製薬協の取り組み
  • APAC
  • くすりの情報Q&A
  • 製薬協のテレビCM