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第12回患者会セミナーの報告

第12回患者会セミナー開催される

製薬協広報委員会は、8月1日、東京・経団連会館で、第12回患者会セミナーを開催しました。 今回は、「生命輝かそう21世紀の日本人」というテーマで、兵庫県赤穂市民病院院長の邉見公雄先生から地域医療の最前線でのより良い病院作りに向けての具体的な取り組みの紹介とともに、全国公立病院連盟会長や中央社会保険医療協議会委員の重職を務められる立場から日本の医療の問題点について率直な提言がありました。講演後には患者団体からの参加者約40余名を交え、活発な質疑応答が行われました。以下に先生の講演内容を紹介します。

2007/08/12

地方病院のささやかな試み

講演は静かにドラマティックに始まりました。聴衆の前に立った邉見先生は、突然、両手を宙にして山を描いたかと思うと、背広の左胸に手をやり…といった仕草をしたのです。皆あっけにとられましたが、先生は手話で自己紹介をしたのです。

邉見先生が手話を学んだきっかけは、先生が院長を勤める赤穂市民病院の市民ボランティアの存在でした。赤穂市民病院には、地域登録ボランティア180人と「押しかけ」(登録外)ボランティアの40人の総勢220人がさまざまな活動をしています。

このような多くのボランティアが来てくれるコミュニティにお返しをするために邉見先生が考えたのが、病院のスタッフと手話教室に行くことだったのです。そのうちに、先生が忙しくて教室にいけない時には、聾唖の方が逆に病院に教えに来てくれるようになり、また、病院の医師やスタッフで手話のできる人がいるということを聞いた聾唖の患者さんが来院してくれるようになったりもしたそうです。「友達の輪がひろがった」ことだけでなく、隠れた地域の医療ニーズの発見にもつながったと述べました。

開かれた病院づくり

赤穂市民病院は、「開かれた病院づくり」をしています。患者会や、患者教室など患者さんが参加する仕組みづくり。多数のボランティアの存在。そして、まるで学校の文化祭のような、地域を巻き込んだ病院祭りの開催や、学生実習、見学視察も積極的に受け入れています。

なかでも、市民ボランティアは病院と患者さんの大きな力となっています。ボランティアの内容はさまざま。コンサートや、写真展の開催などの文化活動はもちろん、患者さんの車椅子を押したり、子どもの入院患者さんに本を読んだり、実務的なサポートでは、治療に使うガーゼを折ったり、独り暮らしの患者さんの買い物の代行をする人もいます。ボランティアは、病院と患者さん、ご家族や地域との掛け橋にもなりますし、病院職員も、ボランティアの方がいることで、モラルがあがっていると言います。

医療体制については、赤穂市民病院では、チーム医療を大切にしています。院内では栄養サポートチーム(医師、歯科医師、研修医、看護師、栄養士、検査技師、言語聴覚士、臨床工学技士、事務職)のほか、院内感染制御チーム、緩和ケアチームなど多くのチームがあります。ユニークなのは、地元の医師会と協力して2人の主治医制度をつくるという試み。医療は、以前は医師・看護師・薬剤師の3者が行うものだったのが、今は、もっと幅広いさまざまな技量を持つ専門医療スタッフのチームとしての力、そして患者さんご自身の力で行うものに変わったのではないかと先生は言います。

「いりょうミス、一件一瞬二億円」

医療安全推進については、医療安全対策委員会の発足、充実に務めるほか、「安全旬間」という期間を春秋に設けています。楽しく意識を高めるために、毎年文面を募集して医療安全対策の「いろはカルタ」をつくり、医療従事者の研修に利用しているとのこと。例えば、「いりょうミス、一件一瞬二億円」というようなショッキングな文面もありますが、イラストレーションを病院職員が描いたりと手作りで、皆が今一度、医療安全面で忘れてはいけないことを徹底する良い機会となっています。

このように、赤穂市民病院では医療スタッフ、コミュニティ、そして患者さんが連携して理想の病院に向けて努力を重ねていますが、日本の医療の状況、また、病院、特に地方病院の状況については危機的な状況になりつつあると考えています。

世界の医療と日本の医療

最近は、医療の分野でも「グローバリゼーション」という言葉が使われるようになりましたが、その多くの場合、グローバリゼーションはアメリカンスタンダード(市場主義)を意味していることが多いと邉見先生は指摘します。しかしながら、「医療と教育については、ジャパニーズスタンダードのほうが優れているのではないか」というのが先生の意見。お手本のように言われる米国で、国民皆保険制度がないにもかかわらず、医療費のGDP比が16%で日本の8%よりはるかにコストが高いということでも、それは証明されるのではないでしょうか。

日本の医療システム、特に、国民誰もが廉価で医療を受けられる国民皆保険制度は、「世界文化遺産」とも言えるものであり、これからも守っていかなくてはならないと先生は考えています。「医療は消費産業ではない、生命に関わる産業であることを理解してもらいたい」と先生は言います。

邉見先生は、日本の医療費増加の3大要因は、1)老齢化、2)医学の進歩(高度な治療は高価)、3)利用者の増える期待に対応することによるコスト上昇と考えています。これらは、避けられない部分も多く、病院サイドも効率化を図ることは必要ですが、過度の医療費の抑制は、医療の質の低下を招くおそれがある、と先生は説きます。

医療現場は瀕死の状態

医療費の削減、そして(医療だけではないのですが)都市集中化と地方の切り捨ての流れのなか、特に地方の病院は困難な状況にあります。医師不足や看護師不足により、病床が削減され、地方都市では小児科、産婦人科は閉鎖され、手術をできなくなる病院も増えました。また、病院経営という視点からみると、訴訟や未収金も増えています。これらの医療現場の問題は、患者さんへ直接はねかえります。現在のような状況が続けば、地方都市では近隣に病院がないということにもなりかねないと先生は危惧しています。日本の財政赤字の状況は理解しながらも、日本の医療は、患者さん中心というより、財務省の方針が中心になっているのではないか、というのが先生の疑問です。

「生命輝かそうという講演タイトルにしています が、今の日本の医療現場は輝けない。病院では、30歳代の医師が、朝7時半から夜までの仕事で、人間らしい生活ができないと辞めていく」と言う先生。看護師さんも、普通の人と同じように個人生活を守れる、夜勤がない、救急がない病院から就職先にするので、地方の中核病院は看護師不足に悩まされます。医療にかかわる技術、システムの向上も、電子カルテの導入など、逆に医師や看護師のサービス残業を増やしているようなケースも見受けられます。

日本の医療を良くするために

このような状況下で、日本の医療をよくするためには、まず、医療従事者が「赤ひげ」に戻り、夜間祭日救急や往診をいとわないこと、また、医療現場が自分達の仕事、状況をきちんと知らせること(広報活動)、国は低医療費政策を転換すること、そして、国の政策は国民の意思の現れという点からいえば、国民が医療について理解を深め、またどのような医療が必要なのか自覚をすることが大切と言います。

「良い病院とは、かかりたい病院であり、かかってよかった病院、また、働きたい病院、働いてよかった病院、そして、地域にあって欲しかった病院、地域にあってよかったといわれる病院」という邉見先生、「トヨタのように、ムリ、ムダのない組織、ディズニーランドのように訪れた患者さんに満足してもらえる病院」をめざして、医療スタッフ、患者さん、地域社会と協力しながら努力を重ねる日々が続きます。

(文:広報委員会ペーシェントグループ部会 中村洋子)

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