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日本の医薬品の輸入超過と創薬の基盤整備の課題


日本の医薬品の輸入超過と創薬の基盤整備の課題
医薬産業政策研究所 統括研究員 長澤優 氏

製薬協広報委員会は2013年2月18日、医薬産業政策研究所 長澤 優 統括研究員によるメディアフォーラムを開催しました。「日本の医薬品の輸入超過と創薬の基盤整備の課題」をテーマに、医薬品の国際取引の実態、製薬企業の国際競争力、今後日本が製薬企業の製造立地となるための課題について講演しました。講演および発表の要旨は以下の通りです。


医薬品輸入超過の背景にある海外製造
 近年、医療や医薬品にかかわる産業政策を論じる場面において、医薬品の輸入超過のデータが使われることが多くなっています。その中で、国内製薬産業は赤字産業であって、国際競争力も日本経済への貢献も乏しいとの見方が大勢を占めていますが、これらは果たして医薬品の輸入超過に関する適切な理解なのでしょうか。
 財務省貿易統計の輸出入額だけをみれば、ここ数年確かに輸入超過額が増加傾向にあります。しかし品目レベルで実際の割合を確認すると、医薬品は3.7%を占めるにすぎません。これは基本的に国境を超える通関ベースの「物流」規模で輸入が輸出を上回っていることを指します。
 見方を変え企業国籍を基準とした「商流」の面からみると、日本企業の海外売上高は近年拡大し、2010年度には海外企業の日本国内売上高を上回る段階にあり、商取引での黒字化が見て取れます。しかし医薬品輸出が増加しておらず、日本企業の海外販売製品の多くは海外製造されていることが明らかです。よっ て医薬品の輸入超過は「どこで製造しているか」という立地の違いに起因するものであって、企業が海外製造を選択するという事業構造変化を反映しているにすぎず、国内製薬産業の国際競争力とは直接的関係はないと思われます。

主要国別の製造状況
 次に海外主要国別の比較をしてみましょう。医薬品輸出入状況において、輸出超過額の上位3ヵ国はスイス・アイルランド・ドイツ、輸入超過額の上位3ヵ国は米国・日本・カナダとなっています。これは、当該国自身の製造立地としての競争力が反映されたもので、たとえばスイスやアイルランドは世界有数の低い法人税率、高付加価値・先端産業の優遇策により、製薬産業の代表的製造立地となっています。日本の輸入超過の原因は、医薬品製造立地としての魅力や競争力の乏しさも一因と考えられます。

製造拠点と税・保険料
 製造拠点と税・保険料の関係を検討してみます。
 現時点では日本企業の海外製造の多くは製造委託方式であり、日本の本社が機能とリスクを引き受け、高い損益責任を負っています。各社が国内外の市場で獲得した収益の多くは利益の形で日本国内に還流され、海外収益から生まれる税収も日本にもたらされています。
日本企業の海外売上高が海外企業の日本売上高を上回り、日本企業が海外収益を日本国内に還流させている現状を勘案するならば、医薬品の輸入超過により一方的に日本の税収や保険料が海外に流出していると単純に結論づけることは適切ではないといえるでしょう。

忍び寄る真の脅威・空洞化
 最後に、物流・商流に続き医薬品生産額を検討してみます。 国内製薬産業は輸入超過ではあるものの生産額は維持・拡大基調にあり、2010年時点で6兆7,791億円に達しました。日本国内における付加価値の創出や雇用の維持にも貢献してきたといえるでしょう。
 しかし、今後は2要因から国内医薬品生産は減少に転じる可能性があり、将来的には深刻な空洞化が生じることが危惧されます。
 その1点目は日本の法人課税の高い実効税率です。これは製造業の投資競争力に極めて大きな影響を及ぼすもので、医薬品産業では利益率が高いために税率の影響もより大きいと考えられます。このまま日本の法人税率が高い状態が続けば、日本企業は製造機能の軽課税国への移転を積極的に進めざるを得なくなります。また、医薬品産業自体は収益の多くが基本特許に帰属するため、知的財産も海外活用が重視されると予想されます。そのような状況下では、海外企業も製造拠点を日本に移転させることは無いと考えられます。
 2点目はバイオ医薬品の国内基盤整備の遅れです。バイオ医薬品は今後の医薬品市場においては成長要因として注目されますが、日本での研究開発・製造のインフラ整備は海外に比べて大きく遅延しているのが実態です。特に抗体医薬に関しては、国内治験に必要な試料の調整から商用生産に至るインフラはほとんど存在していません。
 これらから今後危惧されうる問題は、製造と技術開発にかかわる高付加価値雇用・周辺産業の海外流失、日本の税・保険料の海外流出、海外で獲得した収益・税収の日本への還流の停滞、バイオ医薬品にかかわる技術・人材の喪失等が考えられます。

日本を魅力的な創薬先進国としていくために
 このように輸入超過や空洞化の問題は、ともに企業の製造立地選択に起因することを示しました。日本企業の製造拠点が日本にとどまり、且つ海外企業の拠点集積を促すためにはどのような政策が取られるべきなのでしょうか。
 研究開発や薬価といった創薬環境の整備と同時に、医薬品製造立地としての日本の魅力を高めることが重要です。そのためには閉鎖的な自国籍企業の保護育成政策ではなく、開放的な産業立地政策が期待されます。製薬産業の自律的発展の基盤となる環境の整備、競争力ある海外企業による日本進出の環境整備などです。
 日本経済が資源制約・新興国との競争・少子高齢化・人口減少という環境変化の中で持続的成長を遂げるためには、知識集約型、高付加価値型経済への構造転換が不可欠です。国内製薬産業はこの構造転換に際し、リーディング産業としての役割を果たすことが期待されます。
 現在、医療分野におけるイノベーションとして創薬基盤環境整備が進められていますが、医薬品製造に関する政策はほとんどみられません。空洞化に向けた流れを阻止し、企業の製造拠点集積を促すためには、法人課税の基盤整備等を通じて医薬品製造立地としての魅力を高める政策が重要と考えられます。


以上が今回のフォーラムの要旨でした。
 

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