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医薬品開発の新しい話題


医薬品開発の新しい話題
医薬産業政策研究所 主任研究員 南雲明氏
医薬産業政策研究所 主任研究員 林邦彦氏
解説講演(要旨)

製薬協広報委員会は2012年9月19日、製薬協医薬産業政策研究所主任研究員 南雲明氏、同研究所主任研究員 林邦彦氏によるメディアフォーラムを開催しました。「医薬品開発の新しい話題」をテーマに、医薬品における個別化医療の現状と課題、医薬品開発におけるコンパニオン診断薬の役割と課題について紹介があり、多くの記者の方々が参加されました。講演の要旨は下記の通りです。


●講演1 医薬品における個別化医療の現状と課題
医薬産業政策研究所主任研究員 南雲 明 氏

医薬産業政策研究所主任研究員 南雲 明 氏

個別化医療の概要
 従来型の医療ではまず症状、年齢、性別などにより病名を判断し、病気に応じて医薬品を投与します。患者の状態により無効例もあり、試行錯誤で最善の治療を探すことになります。一方、個別化医療では遺伝子など分子レベルで診断し、すべての患者に適切な治療を行い、効果を最大化するとともに副作用を最小化することが目的です。現状は診断薬や医薬品が限られているため一部の患者が個別化医療の対象となっています。
 個別化医療には、副作用リスクの減少、治療費の抑制などにより患者の治療満足度が高まり、製薬産業にとっても医薬品開発コストおよび期間の減少につながるメリットがあります。さらに、国の医療費を削減するメリットもあります。
 個別化医療の研究は世界中で年々増加傾向にあります。個別化医療に関する論文数のシェアを国別でみると、2010年では米国のシェアが39%で圧倒的に高く、ドイツは10%、英国は9%、日本は6%でした。特筆すべきは中国のシェアで、2001年に3%だったシェアが2010年には11%まで伸びました。中国は国家戦略で生命科学の研究に注力しており、国の潜在力を示す重要な指標であるといえます。

医薬品における個別化医療の利用動向
 個別化医療ではゲノム薬理学(ファーマコゲノミクス)が重要な役割を担います。ゲノム薬理学とは薬物応答と遺伝子情報などの因果関係を明らかにする研究分野です。医薬品の研究開発のプロセスごとにゲノム薬理学の役割が期待されており、たとえば探索から創薬にかけては疾患メカニズムの解明、非臨床試験ではバイオマーカーの同定・検証、臨床試験ではレスポンダー/ノンレスポンダーの同定・層別などのメリットがあります。
 世界製薬大手10社の臨床試験では、がん領域で最も活発にゲノム薬理学が利用されており、次いでHIV、C型肝炎などの感染症分野で利用されています。特にがん領域ではゲノム薬理学の利用件数が毎年増加しています。
 医薬品における個別化医療の実例をみますと、乳がん治療薬のトラスツズマブ、白血病治療薬のイマチニブ、血栓塞栓治療薬のワルファリンなどがあります。

個別化医療進展に向けた課題
 個別化医療の進展にはさまざまな課題があります。科学的課題として、疾患の分子メカニズムの解明が十分ではなく、基礎研究のさらなる推進が必要です。また、次世代DNAシーケンサーなどの発展途上の先端技術および未成熟な研究分野があります。さらに実際の臨床につなげるため、バイオバンクなどのインフラ整備が必要です。倫理的・法的・社会的課題として個人情報保護、法律・規制整備などがあり、米国では遺伝子情報による差別を禁止する法律が整備されていますが、日本にはこうした法律がありません。経済的課題として、患者、医療機関、保険者、産業界の各ステークホルダー間で誰が費用を負担すべきなのかという課題があります。
 バイオバンクは英国、米国、北欧を中心に1980年代から増え始めました。規模としては10万人規模の参加者数を有するバイオバンクが多くなっています。米国や英国では50万人にもおよぶ大規模なバイオバンクが存在しており、日本では20万人の規模を有する「バイオバンク・ジャパン」、30万人の規模を目標とする「内閣府ゲノムコホート研究」が代表的です。疫学研究の信頼性を高めるためにはさらに大規模なサンプルが必要となるため、最近ではバイオバンク同士でサンプルやデータの共有が始まっており、そのための国際ネットワークがすでに複数設立されています。今後は日本でも国際連携を見据えた対応が望まれます。

●講演2 医薬品開発におけるコンパニオン診断薬の役割とその課題
医薬産業政策研究所主任研究員 林 邦彦 氏

医薬産業政策研究所主任研究員 林 邦彦 氏

医療・医薬品を取り巻く社会の変化
および科学技術の変化

 日本では高齢社会に伴い医療費が増大しており、費用対効果に優れた治療が必要となっています。国の戦略として「医療イノベーション5か年戦略」の中で個別化医療への取り組みが掲げられていることからも、製薬企業にはより安全で有効な治療薬の開発が期待されています。近年では肺がん、メラノーマなどで特定の患者群に高い有効性を示す医薬品が承認されています。
 遺伝子解析のコスト低下に伴い、遺伝子に関する情報が急速に蓄積されるようになりました。たとえば2011年には、がんに関連する遺伝子情報の論文数が2000年と比較すると2倍以上に増加しています。このような背景もあって標的分子の発見から新薬が誕生するまでの期間が短くなってきたといわれています。たとえば2001年に承認されたイマチニブの場合、分子標的が1960年に同定されてから承認までに41年経過しているのに対し、2011年に承認された肺がん治療薬のクリゾチニブの場合、分子標的が2007年に同定されてから4年で承認されました。

医薬品の研究開発生産性とバイオマーカー
 製薬企業の研究開発費は増加の一途をたどっていますが、それに対し承認される医薬品の数は低下傾向にあり生産性が下がっています。現在は新規化合物の医薬品を開発するために18億ドルの投資が必要といわれており、研究開発が困難な状況となっています。
 研究開発の生産性低下への対応策としてバイオマーカーが重要となっています。FDA(米国食品医薬品局)は2004年に医薬品の開発生産性の低下に対して警鐘を鳴らし、2006年には生産性低下に対する対応策のリストを提示しました。合計76の対策が提示され、そのうちバイオマーカー関連のテーマが34あり、最も大きな比重を占めています。
 バイオマーカーの種類は多種多様で、近年は患者層別マーカーに注目が集まっています。患者層別マーカーは患者に対する有効性と安全性を向上させ、費用対効果を向上することができるツールであり、測定のための診断薬が「コンパニオン診断薬」となります。

コンパニオン診断を伴う医薬品における研究開発生産性および開発の課題
 FDAはコンパニオン診断薬を「医薬品の安全で有効な使用に必須の情報を提供する体外診断薬」と定義しています。コンパニオン診断薬に期待される役割として、効果が期待される患者の特定、重篤な有害事象のリスクが高い患者の特定、医薬品の用法・用量の調整があります。
 2012年6月時点で、米国で承認されている医薬品の添付文書にバイオマーカーの記載がある薬剤は103剤あり、35種類のバイオマーカーが利用されています。代謝酵素に関するバイオマーカーが多くの薬剤で利用されており、疾患領域ではがん、中枢神経系疾患が多くなっています。コンパニオン診断薬の中には米国だけでなく日本でも承認されていないものが多く、特に安全性にかかわるバイオマーカーの多くでコンパニオン診断薬が未承認です。
 患者層別マーカーの利用により医薬品の臨床開発の成功確率、そして生産性を上げられる可能性がありますが、コンパニオン診断薬を伴う医薬品開発にはさまざまな課題があります。研究段階では研究用サンプルの確保、開発段階では診断薬開発企業と製薬企業の開発協力に関するモデルや、開発ガイドラインの整備、そして承認後には診断薬の保険償還など、さまざまな課題があります。
 コンパニオン診断薬は医薬品の使用に必要な情報を提供する重要な役割を担っています。より良い医薬品とコンパニオン診断薬をより早く患者さんにお届けするため、診断薬企業、製薬企業、行政、医療関係者が相互に協力することが必要となります。


以上が今回のフォーラムの要旨でした。

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