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「日本における医薬品アクセス-ドラッグ・ラグの現状と課題-」


「日本における医薬品アクセス-ドラッグ・ラグの現状と課題-」
医薬産業政策研究所 主任研究員 石橋慶太 氏
解説講演(要旨)

I.日本における医薬品アクセス(ドラッグ・ラグ)の現状

国内未承認薬

 世界的に需要が高い医薬品へのアクセス状況をみるために、2004年および2007年の世界売上上位100品目(同一成分の重複等を除く、それぞれ88品目、90品目)について、日本を含む11か国(地域)での上市状況を調べました。その結果、日本における未上市品目数は28品目から21品目へ減少し、改善の方向に向かっていることが分かりました。しかしながら、調査対象国の中では最も未上市品目数が多い現状にあり、問題が解消したとはまだ言い難い状況にあります。

 日本に次いで未上市品目の多い国(地域)は、2007年対象品目でみると、香港(15品目)、台湾・フランス(9品目)であり、未上市品目の少ない国は、米国・イギリス(1品目)、ドイツ(2品目)などでした。

世界初上市国と比べた国内上市時期のラグ

 国内未上市薬の調査と同じ対象品目について、世界初上市から各国(日本を含む11か国)における上市までの平均期間を算出しました。 その結果、2007年対象品目でみると、平均期間が最も短いのは米国(1.2年)であり、次いで、イギリス(1.3年)、ドイツ(1.4年)、スウェーデン(1.5年)でした。

 一方、調査対象とした国(地域)の中で、平均期間が長いのは日本(4.7年)であり、次いで、台湾(4.3年)、韓国(3.6年)、香港(3.1年)でした。

 日本の平均期間は2004年対象品目では3.9年であり、唯一、期間が大幅に長くなっているという特徴があります。この要因としては、上市に至った品目による影響が考えられます。対象品目の中で2004年は国内未上市で2007年では上市された品目は11品目ありますが、これらの11品目の世界初上市から日本上市までの平均期間は約10年ありました。つまり、未上市品目が上市されたという成果の反面、ラグが大きくなって数値として現れるということに留意が必要と思われます。

米国と比べた国内上市時期のラグ

 2000年から2006年に日本で承認された新有効成分含有医薬品(158品目)のうち、米国(又は欧州)で日本より先に上市された品目(104品目)について、製薬企業にラグの詳細についてのアンケート調査を行いました(97品目について回答あり)。その結果、米国と日本との上市時期の差は中央値で46か月(n=93)あることが分かりました。

 なお、このラグを品目の特性や開発経緯などに分けてみてみると、日本オリジン品目(30.5か月:n=8)は海外オリジン品目(48.0か月:n=85)より小さいこと、国内外同時開発品目(20.0か月:n=5)や日本先行開発品目(30.0か月:n=3)は欧米先行開発品目(46.0~58.6か月:n=79)より小さいこと、優先審査品目(41.1か月:n=32)は通常審査品目(58.0か月:n=61)より小さいことなどが分かりました。

II.ドラッグ・ラグの要因分析

開発企業の視点からみたドラッグ・ラグ(米国と比べた上市時期の差)の要因

  国内上市の遅れの理由を明らかとするために、2000年~2006年に日本で承認された新有効成分含有医薬品(158品目)のうち、米国(又は欧州)で日本より先に上市された品目(104品目)について、該当企業に対してラグの要因に関するアンケート調査を行いました(97品目について回答あり)。その結果、分析対象品目の大半を占める海外先行品目(87品目)についてみると、影響があるとの回答(「最も影響あり」及び「やや影響あり」の合計)が最も多かった項目は「日本への導入時期が遅かった」(69品目)でした。このうち68品目が海外オリジン品目で、49品目が外国企業による申請品目であったことから、今回の分析対象品目は、導入による影響を強く受けていることが分かります。

  次いで影響があるとの回答が多かった項目は、「海外と日本で治験着手時期がずれた」(66品目)であり、ドラッグ・ラグの要因として、国内外の治験着手時期の差も大きな要因であることがみてとれます。これらの項目に次いで影響があるとの回答が多かった項目は、「日本での審査期間が長かった」(30品目)、「日本での治験進捗が遅かった」(25品目)であり、審査や治験に係る要因によって上市が遅れた品目も存在することが分かります。

ドラッグ・ラグ(米国と比べた上市時期の差)の構成要素

  開発着手以降に発生するラグに着目すると、ドラッグ・ラグは、国内外における「治験着手時期」、「臨床開発(治験)期間」、「審査期間」の差によって生じると考えられます。上記アンケートによって、これら全ての情報を得られた54品目についてみてみると、米国と比べたドラッグ・ラグは約4年あること、そのラグは、米国と比較して、約2年の着手時期の差、1年前後の治験期間および審査期間の差によって生じるものと概観することが出来ます。

 米国と比べて、治験期間や審査期間が長いことは他の報告でも指摘されていますが、品目をそろえた今回の調査でも検証されました。

  また、今回のアンケートで、米国との治験着手時期の差について具体的な数字データを得ることができました。日本と米国での治験着手の差を比較できた75品目についてみると、日本は米国と比べて30.7か月遅れて治験着手されたことが明らかとなりました。

ドラッグ・ラグへの影響度(重回帰分析)

  ドラッグ・ラグを取り巻く様々な項目がドラッグ・ラグにどの程度の影響を及ぼしているのかをみるために、重回帰分析を行いました。その結果、米国とのドラッグ・ラグに最も有意な影響力をもつ項目は、米国との「治験着手時期の差」(0.911)でした(括弧内は強制投入法における標準回帰係数)。また、これに続く項目としては、「国内臨床開発期間」(0.744)、「国内審査期間」(0.642)、「米国臨床開発期間」(-0.550)、「米国審査期間」(-0.361)でした。

  先にお示しした通り、開発企業の視点からみたラグの要因は、導入要因の他、「海外と日本で治験着手時期がずれた」、「日本での審査期間が長かった」、「日本での治験進捗が遅かった」の項目について影響が大きかったことから、企業の見解と、本分析結果は同様の結果が得られたということが出来ます。

III.医薬品アクセス改善へ向けた課題

製薬企業の視点からみたドラッグ・ラグ解消に向けての取り組み課題

  2007年10月~12月に製薬企業82社を対象として、ドラッグ・ラグ解消に向けて取り組むべき課題についてのアンケート調査を行い、74社からの回答を得ました。

  製薬企業が自ら取り組むべき課題として、重要であるとの回答(「最も重要」及び「やや重要」の合計)が多い項目は、「日本を含む国際共同治験の実施」及び「日本での治験着手時期の見直し」でした。「日本を含む国際共同治験の実施」については、日本企業及び外国企業ともに8割以上が重要と回答しており、国内外企業ともドラッグ・ラグの解消策として国際共同治験への取り組みを重要と考えていることがうかがえます。また、国内の治験着手時期は、要因分析において最も影響力のある要因でしたが、企業はそれを認識しており、国内での治験着手時期を早めることを最重要視していることがうかがえます。

  製薬企業からみて医療機関へ取り組みを望む課題について、重要であるとの回答が最も多い項目は、「治験実施に係るインセンティブの確保」でした。これに次ぐ項目には、治験の効率化に係る項目と人材に係る項目があります。

  製薬企業からみて規制当局へ取り組みを望む課題について、重要であるとの回答が多い項目は、「相談体制の充実強化」、「審査基準の明確化」、「審査における進行管理の強化」など治験相談や審査に関連した項目でした。また、これらに次いで「薬価の適切な評価」や「他国の規制当局との連携」が重要であるとの回答が多い項目でした。

ドラッグ・ラグと市場に関する考察

  米国は、世界売上上位品目へのアクセスでみると、最も上市品目数が多く、かつ、世界初上市から米国上市までの平均期間が最も短いことをお示ししましたが、かつては欧州と比べたドラッグ・ラグが問題となっていました。米国でドラッグ・ラグ問題が改善された要因としては、1993年に開始されたユーザーフィー法により審査期間が短縮され治験環境が変化したことが挙げられますが、一方で、米国の医薬品市場の伸びを予測した企業戦略の変化も関与している可能性も推察されます。 例えば、世界における医薬品市場規模の推移に着目すると、2005年の米国市場は95年と比較すると約3倍に著しい伸びがみられます。

  企業としては、医薬品市場の大きな国で、より早く新薬を上市させる可能性が考えられますが、2007年の世界売上上位の品目について初上市国を年代別にみると、97年以前は欧州で新薬が初上市されることが多かったのに対し、98年以降では米国で初上市されたものが多く、近年、米国で最初に上市された品目が増えたことが示唆されます。

 最後に、米国市場の特徴をさらに分析するために、上市後の売上成長指数を日本市場と比較しました。その結果、米国では売上が伸長するのは上市後13年頃までであるのに対し、日本では15年以上経っても、なお、伸び続けることが分かります。また、新薬上市後15年頃までは米国に比べて日本の売上の伸びが小さいのに対し、20年以降になると、日本と米国の伸びが逆転しています。つまり、米国市場では、早期に新薬開発コストの回収が可能であること、一方、日本市場では米国市場と比べて、新薬開発コストの回収期間が長期に及ぶ構造になっていることがうかがえます。

  よって、企業が早期に開発コストを回収し次への開発へと繋げていくためには、日本市場よりも米国市場へより早く上市させることが選択されることが推察されます。

  このように、日本の医薬品アクセスを改善するためには、治験や審査に関する要因に加えて、治験着手時期に大きな影響を及ぼすと考えられる市場の要因についても、更に検討していく必要があると考えられます。


 以上が今回のフォーラムの要旨でした。

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