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最新のがん治療 ―がん免疫療法―

最新のがん治療 ―がん免疫療法―
国立がん研究センター 先端医療開発センター 免疫TR分野長 西川 博嘉 氏

製薬協広報委員会は2016年3月11日、「製薬協メディアフォーラム」を開催しました。がん治療は近年目覚ましい発展をとげており、手術・放射線・化学療法に次ぐ第4の治療法として、がん免疫療法などが注目を集めています。そこで今回は「最新のがん治療 ―がん免疫療法―」をテーマに、国立がん研究センター先端医療開発センター免疫TR分野長の西川博嘉氏が講演しました。講演の概要は以下の通りです。


会場風景


国立がん研究センター 先端医療開発センター 免疫TR分野長 西川 博嘉 氏

●1. がん免疫研究の歴史と概要

トランスレーショナル・リサーチとはあまり聞きなれない言葉だと思いますが、基礎から臨床へ橋渡しする研究、一旦、臨床応用されたものについてもう一度基礎研究に戻して解析を進めるという2つの研究です。
がん免疫療法は日本では民間療法も含め、科学的な根拠がない治療法だと思われてきましたが、最近大きな変化が訪れ、がん治療の大きな柱の1つになりつつあります。がん治療は、外科手術、放射線、抗がん剤という3つの柱がありました。免疫療法はこれらに続く4つ目の柱として長らく期待されてきましたが、期待に応えられずにいたという歴史があります。がん免疫療法で使用するくすりが、今までと大きく異なるのは直接がんを標的にしないタイプの抗がん剤であるという点です。

免疫療法とは

20数年前、血液内科に入局しましたが、その当時の抗がん剤は、特異性が低く正常細胞も攻撃してしまうため、脱毛したり吐き気がしたりといった副作用が発生しました。その後、分子標的治療薬が使われるようになり、がん細胞だけがもつ特異的な分子を標的にすることで、がん細胞だけを攻撃しようという試みが行われてきました。これに続いて出てきたのが、がん免疫療法です。
このくすりは、私たちの体に備わっている免疫細胞を活性化して、その活性化された免疫細胞ががん細胞を攻撃します。今までのくすりは、直接がん細胞を攻撃するため、投与量を多くすればがん細胞を殺す可能性は高くなりました。しかし、このくすりは多量に投与すると免疫応答がより強く賦活化する可能性が高まるかというと、必ずしもそうではありません。ある一定のところで、効果がプラトーになってしまう、もしくは、効果が低下してしまうということが起こります。そのため、効果を最大にする適用量をなかなか算出することができない、という点が今までのくすりと大きく違うところです。
がん免疫療法については、抗腫瘍免疫を賦活化する方法と、免疫を抑える力を取り除く方法がありますが、後者が今成功を収めています。免疫力を強めようという試みは、残念ながらがんワクチンを含む多くのもので失敗しています。

免疫療法のメカニズム

本日は臨床応用が進んでいる、免疫チェックポイント阻害剤を中心に話をしていきたいと思います。
免疫系は、異物に対する生体の防御機構です。異物が入ってきたらそれを排除する、つまり非自己を排除して自己には反応しない機構です。インフルエンザに感染した時に、3~4日するとインフルエンザウイルスを排除できるのは免疫系が作動するからです。一方で、自己に対しては免疫応答を起こさないという巧妙な仕組みをもっています。では、がん細胞はどうでしょう。がん細胞を異物であると認識すれば、免疫系は排除にかかるし、自己だと認識すれば、残念ながら無視してしまいます。
ところが免疫系は稀に暴走します。免疫系が暴走すると、自己免疫疾患やアレルギー疾患を引き起こします。これをコントロールするために、私たちの体は免疫応答を抑える多くの機構を備えています。
免疫系を2つに分けると、自然免疫と獲得免疫に分かれます。私たちの体に異物が侵入すると、すぐに作動するのが自然免疫です。その後、得られた異物の情報に基づいて抗体を作らせたり、感染した細胞を攻撃するT細胞を誘導するのが獲得免疫です。自然免疫にかかわるのは、マクロファージ、好中球、ナチュラルキラー細胞といった細胞です。この攻撃が確実にすべての異物を排除できれば良いのですが、突破される可能は往々にしてあり、そのために備えられているのが獲得免疫です。つまり自然免疫が突破されても、さらに重厚な防御機能が備わっているわけです。
自然免疫は、異物が侵入してきた際、攻撃するだけではなく、この情報を獲得免疫に伝えます。この異物の情報を伝えるのが抗原提示細胞です。この抗原提示細胞の情報に基づきTリンパ球、Bリンパ球は抗原の情報を得て活性化され、ウイルスや細菌を排除します。
このとき、私たちの獲得免疫機構は、異物の情報を伝えられ、その情報に合致したもののみを攻撃するので、自然免疫と比べかなり特異的に活性化します。こういった免疫系は必ずすべての異物に、1対1の対応で反応します。
がんであればがんに特異的なリンパ球が必要になってきます。がんに対する免疫を自然免疫と獲得免疫に分けると、図1の流れになります。

図1 自然免疫と獲得免疫

体の中でがん細胞が増殖するとき、一部のがん細胞は壊れ、がん細胞内に存在するがん抗原が放出されます。その後、樹状細胞などの抗原提示細胞が近づいてきてそれを取り込み(貪食)ます。抗原提示細胞は、取り込んだ壊れたがん細胞に由来するがん抗原の情報をリンパ球に抗原提示します。それによりTリンパ球は活性化され、末梢のがん組織に遊走し、がん細胞に攻撃を加えます。この過程が機能している間は生体にがんが発生することはありませんが、がん細胞は巧妙にこれらの免疫監視を逃れ、臨床的「がん」となります。よって、生体に存在するがんはすでに免疫監視から逃避しているため、がんに対する免疫応答はそう簡単に活性化しない、ということがわかってきました。
T細胞は、細胞表面にT細胞レセプター(TCR)を出しており、これで相手を見分けます。そしてその相手を攻撃しなければならないもの(異物)と認識した場合に攻撃します。ただ、このとき相手を見分ける(TCRを介したシグナル)だけではリンパ球は活性化しないようにできています。抗原を見分けるとともに、共刺激と呼ばれるシグナルが入らないとリンパ球は活性化されないようになっています。
相手を見分けるT細胞レセプターを介したシグナルをシグナル1、共刺激を介したシグナルをシグナル2とします。このシグナル1とシグナル2がともに十分に入った場合だけ、リンパ球は活性化します。シグナル1のみ入った場合は、免疫は不応答になります。シグナル2のみ入った場合は、リンパ球には影響はありません。不応答と影響なしには大きな違いがあります。不応答になるとT細胞は、同じ抗原を見分けて活性化しようとしても、2度と反応しなくなります。私たちの免疫応答は1回目でこの抗原に反応してはいけないという情報を得ると、2回目からは反応しなくなるということです。
今までのがんワクチン療法で用いられたがん抗原は、ほとんどが自己に由来する抗原でした。自己抗原ということは、私たちの体は、がんになる前にすでにそういった抗原に出会っている可能性があり、免疫系は、それらの抗原に対してすでに反応してはいけないという情報をどこかで得てしまっている可能性があります。そういった状態に対し、もう1度免疫応答を起こそうという試みがなされてきましたが、抗原を投与するだけでは難しかった、というのが現状です。
このようにシグナル1だけが入るということは免疫が不応答を起こすということですので、がん免疫からみると非常に困ったことですが、私たちの体の恒常性を保つという点では、免疫不応答が成立しないと困ったことになります。私たちの体の中には、たくさんの自己に反応するTリンパ球があり、それが免疫応答を起こさないようになっていないと、常に自己免疫の危険にさらされることになります。ですから、T細胞の免疫不応答は、がん免疫でがん抗原に対する免疫応答を活性化しようという点からみると困った機構ですが、自己免疫をコントロールするという点からすると必須の機構であるといえます(図2)。あえて2つのシグナルが入らない限り免疫応答が起こらないようになっているのは、私たちの体を守るためには必要なことなのです。

図2 ナイーブT細胞の活性化

さらに、このシグナル2も巧妙にコントロールされています。シグナル2は共刺激シグナルと呼ばれ、このシグナル2にかかわる分子だけでも数多く存在し、それらの多数の分子により免疫応答は巧妙にコントロールされています(図3)。

図3 免疫チェックポイント分子


図3において、抗原提示細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に抗原がのり、TCRでそれを認識する(シグナル1)。それ以外の分子はすべてシグナル2にかかわる物質です。

抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体

今、臨床応用されているCTLA-4、PD-1は抑制性のシグナルをT細胞に伝える分子です。抗CTLA-4抗体および抗PD-1抗体は、この抑制シグナルを外すことで強い免疫能を発揮させようとするものです。日本では、抗PD-1抗体が最初に承認されましたが、世界では抗CTLA-4抗体が先に承認されました。その後、LAG-3やCD137、GITRなどに対して、数多くの治験が日本を含む世界各国で開始されています。
すでに日本でも承認されている、抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体について話をしていきたいと思います。抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体は各種のがんに対する治療法として科学的なエビデンスが得られています。たとえば肺癌、悪性黒色腫、腎細胞癌などでは、第III相試験の盲検試験によって明らかに既存の治療を上回ることがわかってきています。今後、各種のがんで承認されていくことが期待されています。
T細胞はTCRを介したシグナル1とCD28を介したシグナル2が伝わることにより活性化されます。活性化されたT細胞は標的を攻撃しますが、標的が駆逐された後免疫応答は終息に向かいます。このとき活性化されたリンパ球にCTLA-4が発現します。このCTLA-4はCD28分子と競合することにより、シグナル2を抑制しT細胞の活性化を止めます。このようにして免疫応答が過剰に進まないように、活性化を止めるための抑制分子が存在しています。興味深いことですが、CTLA-4とCD28の競合は、CTLA-4のリガンドに対する親和性が極めて高いため、CD28は必ず負けて活性は抑え込まれます。それだけ、免疫抑制は絶対的なものだということです。抑制分子のCTLA-4からのシグナルがT細胞内に伝わらないようにブロックすることにより、リンパ球を再活性化させるというのが抗CTLA-4抗体の効果の1つです。

実はこの抗CTLA-4抗体の作用はこれだけではないということがわかってきています。大阪大学の坂口志文教授は、CD4、CD25という分子を発現したリンパ球の分画に免疫を抑制することに特化したリンパ球があることを発見し制御性T細胞と名付けました。この細胞がCTLA-4を非常に強く発現しています。抗CTLA-4抗体を投与された患者さんで、効果がみられた患者さんとあまり効果がみられなかった患者さんのがん組織を調べて、中にどんなリンパ球がいたかを比較したデータが報告されています。効果がみられなかった患者さんには、腫瘍の局所に制御性T細胞が多くみられました。一方で、効果がみられた患者さんには、キラー細胞であるCD8+T細胞が多くみられました。こういったことから、CTLA-4は、制御性T細胞と、CD8+キラーT細胞の両方に働いているのではないか、と考えられています。
では、PD-1はどうでしょうか。PD-1は、CTLA-4と異なり、可変器とよばれるような相対的な免疫抑制効果を示します。しかし、抗PD-1抗体の方が、抗CTLA-4抗体に比較して、優れた臨床効果を示すことが報告されています。これは、免疫抑制に強くかかわっている分子シグナルを抑制すれば、より強い免疫応答が起こるか、というと必ずしもそうではないことを示しています。なぜ、PD-1の方がCTLA-4より良かったのか、まさに今研究が進んでいるところです。
CTLA-4とPD-1について考えてみると、PD-1は当初考えられていたより、広い局面で免疫抑制効果にかかわることがわかってきています。以前は、T細胞上に発現したPD-1に、腫瘍側に発現したPD-L1もしくはPD-L2というリガンドが結合することによりがん組織で免疫抑制シグナルがもたらされるので、抗PD-1抗体はこの免疫抑制シグナルをブロックすることでT細胞を再活性化すると考えられていました。
ところが最近のデータから、リンパ節で樹状細胞といった抗原提示細胞上に発現しているPD-L1やPD-L2は、リンパ球活性化の時点ですでに免疫抑制にかかわっていることがわかってきました。CTLA-4はリンパ球が活性化するフェーズでかかわっています。PD-1は活性化されたリンパ球ががんに行き着いた後に抑制をかけると考えられてきましたが、実はもっと複雑にお互いが絡み合っていることが示されてきたということです。よって、PD-L1が腫瘍に発現しているかいないかだけを調べても、効果のある患者さんと効果がみられない患者さんを見分けることは大変難しいということです。

●2. がん免疫療法の現状

がん治療の臨床効果は全体としては、以前より良くなってきています。ところが、進行がんに限ってみてみると、最も効果があるといわれているがん種であっても、まだ5年生存率が4分の1を超えることは難しい状況です。特に、膵臓癌、肺癌は進行期に入ると、非常に予後が悪いことがわかっています。
分子標的治療薬ががん治療に用いられるようになって臨床効果は良くなってきている、と思われるかもしれません。確かに、分子標的治療薬は、標的分子ががん細胞に発現していると劇的な抗腫瘍効果を示す一方で、長期的に効果が得られにくい、という問題があることが示されてきています。
がん免疫療法と分子標的治療薬の生存曲線を比較すると、分子標的治療薬は当初に劇的な臨床効果を示し、生存率が改善しますが、その効果は持続しません。がん免疫療法は、免疫応答を惹起するまでに時間がかかりますが、効果は一度出ると持続します。たとえば、悪性黒色腫の患者さんで、抗CTLA-4抗体治療で臨床効果がみられた患者さんは、10年を超えてその効果を持続していることがわかっています。10年を超えて効果が持続するということは、従来のがん薬物療法においては、起こり得なかったことです。これががん免疫療法の大きなパワーであり、今後は、お互い良いところを組み合わせていくということが期待されています。

CAR-T細胞

今回は主にがん免疫チェックポイント阻害剤にフォーカスしてお話ししていますが、他のがん免疫療法としてT細胞輸注療法が早期の臨床試験で臨床効果を示す可能性があることがわかってきています。特に大きな期待をもたれているのがCAR(Chimeric antigen receptor )-T細胞療法と呼ばれるものです。CAR-T細胞は、T細胞にB細胞の抗原認識部位とT細胞活性化シグナルを結合させた遺伝子を導入した細胞です。つまり、この細胞はT細胞にもかかわらず抗体によって抗原認識をしているわけです。シグナルのところはT細胞のものが必要ですから、T細胞の活性化シグナル(CD3、CD28や4.1BBなど)を使います。CAR-T細胞の中でCD19キメラ抗原受容体を遺伝子導入したT細胞が劇的な効果をみせています。血液幹細胞移植によっても臨床効果が不十分であった患者さんでも、CD19CAR-T細胞を投与されることによって、非常に良い臨床効果が得られることから、かなり有望であると考えられ、本邦でも臨床試験が進められています。ただ、残念ながらほかの抗原を標的としたものに関しては、実験レベルであるというのが現状です。

免疫療法の研究

先ほど、免疫チェックポイント阻害剤は10年を超えて臨床効果が持続しているという話をしました。しかし、抗CTLA-4抗体治療を受けた患者さんの10年後の生存率は依然として2割程度であるということがわかります(図4)。つまり、残りの7、8割程度の患者さんには依然として臨床効果がみとめられないということですので、さらに私たちは研究を進めていかなければならないと思っています。それには2つの方法があると考えています。

図4 免疫チェックポント阻害剤による長期のフォローアップデータ

1つは、バイオマーカーを同定することにより、既存の抗CTLA-4抗体などの免疫チェックポイント阻害剤治療で効果がみられる2割の患者さんを選び出します。臨床効果がみられる患者さんをあらかじめ判別できればそのくすりの効果は100%になるからです。
もう1つは、単剤で効果がみられないような患者さんに新たな治療法を開発します。この2つの戦略が必要だろうとの考えで、私たちの分野はトランスレーショナル・リサーチという名を付けていただいて研究を進めています。

バイオマーカーの探索

バイオマーカーの探索は、今までいくつか検討がなされてきました。特に注目されているのがPD-L1です。PD-1のリガンドがPD-L1とPD-L2であるため、そのリガンドが腫瘍組織に発現していれば臨床効果があるのではないかと考えられたわけです。ところがいろいろな問題が明らかになってきています。特に大きな問題が、先ほど述べたようにPD-L1はがん以外のところ、たとえばリンパ節の抗原提示細胞にも発現しているということです。
また、がん組織内で検索した場合でも、がん組織の中で発現のばらつきがあり、ある部位では発現が陽性でも、ある部位では陰性であることがわかってきています。さらに前治療によって、免疫の関連分子は簡単に発現が変化し、細胞表面に発現したり、発現が低下したりします。たとえば、放射線治療やシスプラチンを使うと、PD-L1分子の発現は上昇します。逆に抗がん剤の中にはPD-L1分子の発現を低下させてしまう薬剤があることも明らかになっています。また、検体の保存状態により、測定結果の安定性に問題があることもわかってきています。さらに問題なのは、発現解析をするために使用する抗PD-L1抗体により感度がまちまちで、ある抗体では陽性になるがほかの抗体では陰性になったりします。抗体が結合する強さの違いで、このような違いが出てきてしまう、と考えられます。よって、発現解析法について相当な標準化をしないと、陽性にもかかわらず、手技によって陰性になってしまう可能性が生じます。

遺伝子変異

免疫系は自己と非自己を見分けるので、がん細胞の中に免疫系が非自己と認識する抗原が多量にある患者さんには臨床効果が出やすいのではないか、という仮説がもう1つの戦略です。そこで調べられているのががん抗原です。従来のがんワクチン療法では、がんの患者さんの半数ぐらいにシェアされて発現しているがん抗原を標的として検討が進められてきました。これらのがん抗原は、がん患者間で共通であるためシェアード抗原と呼ばれますが、そのほぼすべてが自己抗原であるため免疫応答はそう簡単に起こりません。一方、がん細胞は遺伝子変異が蓄積して発生してきますので、がん細胞の中にはそれらの遺伝子変異に由来する抗原がある、ということがわかってきました。つまり、遺伝子変異が入っていると、その変異部分は免疫系にとっては今まで経験したことがない分子、すなわち異物なわけです。抗CTLA-4抗体を投与された患者さんで、遺伝子変異が多い患者さんは、臨床効果が出やすかった、ということがわかっています。本邦で承認済みの悪性黒色腫、非小細胞肺癌の患者さんの遺伝子変異について調べた論文を見てみると、これらのがん種は遺伝子変異が多いがんであることがわかりました。これで、決着したかというと、そうではなく現在承認申請中の腎細胞癌はそれほど遺伝子変異が多いわけではありませんが、臨床効果があることがわかっています。したがって、これもまだまだ完璧なバイオマーカーではありませんが、少なくとも一定の予測ができることは事実ですので、もう少し研究が必要です。

ネオ抗原

さらに詳しく、これらの自己抗原に由来するシェアード抗原と遺伝子変異に由来するネオ抗原に対する免疫応答を調べてみると、自己に由来するシェアード抗原に対するCD8+キラーT細胞は、免疫抑制性の制御性T細胞に抑制されると、その後の抗原刺激に対してまったく反応せず、不応答(アネルギー)になることが明らかになりました。一方で、外来抗原に対しては、制御性T細胞の抑制はほとんど効かずCD8+キラーT細胞は活性化される、ということがわかりました。つまり、外来抗原であるネオ抗原に対するCD8+キラーT細胞が浸潤してくると、そこに炎症が起こります。そうすると、腫瘍はPD-L1を出し、ちょうど今から攻撃しようとやってきたCD8+キラーT細胞を抑制します。この状態に抗PD-1抗体を投与すると、PD-L1による免疫抑制を排除できるので高い抗腫瘍効果を発揮します。このような患者さんにはおそらく抗PD-1抗体だけを投与すればうまくいくだろうと考えられます。
一方で、残念ながら7、8割の臨床効果がみられない患者さんでは、それほど多数の遺伝子変異がないため、遺伝子変異に対するT細胞が誘導されません。つまりがん抗原の多くは自己由来のものなので、制御性T細胞が来て免疫抑制がかかってしまいます。こういった患者さんには、まず免疫抑制をはずした後、免疫活性化を誘導する、といった手順でがん免疫療法を進めていかないといけないのではないか、と考えています。
T細胞の浸潤をどうやって上げるか、がんをどうやって異物として認識させるか、T細胞の活性化をどうやって促進するか、そのためには抑制細胞をどうコントロールするのか、こういった研究を進めることで新しいがん免疫療法を開発していこうと考えています。

●3. 免疫チェックポイント阻害剤の今後の展望

がん免疫治療でよく聞かれることのなかに、どんながん種に効果があるか、という質問があります。少し乱暴ではありますが、がん免疫療法が効果を発揮するがん種として、「免疫担当細胞が浸潤していることと臨床的な予後とに関連性がある」というデータがあるかについて調べてみました。するとほとんどのがん種でそのような関連性を示すデータがあります。ですので、適切ながん免疫療法を開発すれば、多くのがん種で臨床効果が期待されるのではないか、と考えています。
その1例を示しますが、悪性黒色腫と非小細胞肺癌は、ともに腫瘍の中に浸潤したT細胞の数が多いほど、浸潤したT細胞の数が少ない患者さんより予後が良いということがわかっています。それならば、どうやってリンパ球を浸潤させていくかを検討しなければなりません。その方法として併用療法があります。

悪性黒色腫に対し、PD-1とCTLA-4の両方をブロックすると、無増悪生存期間が大きく改善されていることが報告されています。そこで、抗PD-1抗体を投与されたときと、抗CTLA-4抗体とを投与されたとき、および併用で投与されたときに、どのような遺伝子の発現が変化しているかを調べたデータがあります。すると、併用で投与したときに、ほかのケースとはまったく異なる遺伝子が400個以上変化することがわかりました。これはひとつひとつの抑制シグナルをブロックしてもなかなか免疫応答が活性化しない場合でも、2つもしくはそれ以上の抑制シグナルを同時にブロックすると、いろいろな遺伝子発現が変化することを示しています。
これらの知見に基づきたくさんの併用療法が模索されています。実際、国立がん研究センターでも多くの医師主導や企業治験が始まっています。もちろん、免疫チェックポイント阻害剤同士の併用や既存の治療(化学療法や放射線療法)と組み合わせる研究も進んでいます。今後、こういった免疫療法が臨床に入ってくるわけですが、まだ、どれが良いのかわからないため、さまざまな組み合わせで試していくことになります。さすがにそれは非効率なので、動物実験などで間違いなく良いという科学的な根拠に基づいた組み合わせの併用療法かを見極めて、進めていかなければならないと考えています。


以上が今回のフォーラムの要旨でした。

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