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―どこまで動いた? 予防接種制度と感染症対策―

―どこまで動いた? 予防接種制度と感染症対策―
川崎市 健康安全研究所 所長 岡部 信彦 氏

製薬協広報委員会は2016年2月23日、「どこまで動いた? 予防接種制度と感染症対策」をテーマに製薬協メディアフォーラムを開催しました。川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦氏から予防接種制度と感染症対策の取り組みと考え方について、講演がありました。講演の要旨は以下の通りです。


会場の様子


川崎市 健康安全研究所 所長の岡部 信彦 氏

●「どこまで動いた? 予防接種制度と感染症対策」

予防接種法は1948年(昭和23年)に制定され、天然痘、ジフテリア、腸チフス、パラチフス、百日咳、結核、発疹チフス、ペスト、コレラ、猩紅熱、インフルエンザ、ワイル病の12疾患を対象として、伝染病対策がスタートしました。当時から現在まで継続して行われているのは四種混合ワクチン(DPT-IPV)に含まれているジフテリア(D)と百日咳(P)、結核、高齢者の定期予防接種となっているインフルエンザなどがあります。

ジフテリア

ジフテリアは、かつて日本には数万人単位の患者と数千人の死亡者がいましたが、予防接種の導入とともにその数は急速に減少し、現在では国内の発生はなくなりました(図1)。しかし、世界ではまだジフテリアの発生があり、ジフテリア菌まで 消え去っているわけではないので、国内でもワクチン接種は継続しなければなりません。しかし、ワクチン導入直後の1948年、国内においてジフテリア毒素無毒化が不十分なワクチンにより84名が死亡するという大規模な痛ましい事故が発生しました。そのため接種を一時中止し、製造法が改善されましたが、予防接種を中止するとせっかく減少した患者が増えてしまいます。ワクチンの製造には、細心の注意が求められます。

図1 ジフテリア届出患者数および死亡数の推移


出典:Infectious Agents Surveillance Report (左のグラフ)、国立感染症研究所HP(柳下徳雄氏提供、日本医師会 雑誌67巻7号)(右上の写真)、CDC HP Diphtheria Photos(右下の写真)

百日咳

百日咳も、ワクチンが実用化されてから患者数、死亡数が低下しました。1970年代、百日咳ワクチン接種後に数人の急性脳症患者が発生し、ワクチンとの因果関係が否定できないところからワクチン接種が一時中止されました。そのため、この期間に再び患者が増え年間数十人単位の死亡例も認められるようになりました。その後、日本が改良した副反応の少ない無細胞ワクチンの投与を開始したことで、子供の百日咳の発生はおさまっていますが(図2)、予防接種は常に副反応と効果のバランスを考えておく必要があります。子供の百日咳がおさまった一方、近年、若者の百日咳が増加しており、成人の免疫力低下が懸念されています。このような状況から、若者への百日咳ワクチン接種導入に関する議論が行われているところです。。

図2 百日咳届出患者数及び死者数の推移


出所 : 厚生省伝染病統計・人口動態統計

破傷風

日本の破傷風の発生状況をみると、年齢別で男女ともに60歳代、70歳代にピークがあり、年間100例ほど発症しています。破傷風はけがの傷口などから菌が侵入するため、震災などで多くのけが人が出ると警戒が必要になり、海外での震災などでは小児を含み患者数が急増します。東日本大震災においては震災関連として9人が発症していますが、その年代をみると50歳代〜80歳代で、破傷風ワクチンを受けている世代での発症はありませんでした。国内での血液中の破傷風抗毒素保有状況をみると、子供の頃にワクチン接種を受けた30歳代〜50歳代に差し掛かる世代までは免疫能を保持していますが、予防接種世代ではない高齢者層では免疫を持たない人が多く、この世代での破傷風患者が発生したことになります。普段からの予防により、このような万一の事態での二次的な災害を防ぐことができます。また日常生活の中でも、破傷風予防のために土いじりなどをする高齢者の方は予防接種を受けておくことが勧められます。

ポリオ

ポリオに対しては、現在では多くの場合四種混合ワクチン(DPT-IPV)として子供たちに定期接種として投与されていますが、日本にまだワクチンが導入されていなかった1960年代にポリオの大流行があり、5000〜6000人のポリオ患者が出たことがあります。当時旧ソ連・カナダなどから緊急に生ポリオワクチンを輸入し、治験などすることもなく子どもたちに一斉投与を行い、患者発生が抑えられました。その後、国産生ポリオワクチンが実用化され定期接種となり、1980年からは日本でのポリオの発生はありません。しかし、生ポリオワクチンであるために年間1〜2例のワクチンによる麻痺の副反応が発生するため、不活化ワクチンへの切り替えが2012年行われましたが、その前の1〜2年の間、100万人に1人とはいえ生ワクチンへの不安によりワクチンを接種しないという選択が増え、生ポリオワクチン接種率が3分の1程度まで落ち込んだところもありました。当時ポリオワクチン接種が低い国で患者発生は少なからずみられており、ポリオウイルスの国内への侵入が警戒されましたが、幸い患者発生はなく、現在は四種混合ワクチン(DPT-IPV)という形で不活化ポリオワクチンが定期接種として高率に接種されています。
海外においては一度おさまった国で再びポリオが拡大したこともあり、WHOは2014年5月に野生型ポリオの国際的拡大のリスクに関してPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)を宣言しました。世界のポリオに対する作戦は、生ポリオワクチンを不活化ワクチンに切り替えて生ポリオワクチンによる麻痺を減らし、やがてはポリオワクチンを中止するという方向でステップを踏んで動いています。しかし、不活化ワクチンは生ポリオワクチンより高価であり、また飲むワクチンから注射をするワクチンという技術的な問題などもあるため、途上国での普及は国際的な課題として進めなければなりません。

麻疹

10数年前の日本には年間の麻疹患者が20万〜30万人という時期があり、その患者のほとんどが小児でした。麻疹の予防接種は定期接種として行われてはいましたが、7歳半までやればいいというような制度への誤解などもあり1歳児の接種率が低迷していました。そのため、「1歳になったらすぐに予防接種を!」というキャンペーンが始まりました。またその後、1回の接種では完全に抑えることができないため2回の麻疹ワクチン接種が必要である世界の標準的な考えにあわせ、2006年よりワクチンは生後12カ月から24カ月までと小学生になる1年前から就学時までの2回接種がはじまり、小児での患者発生は激減しました。しかし2007年には高校生、大学生など若者の間で麻疹が流行し、休校や学校閉鎖が相次ぎました。そこで2008年度より2012年度の5年間の経過措置として、中学1年生と高校3年生に接種を実施し、1歳から大人までの発生を抑えることができました(図3)。WHOは国内固有の麻疹ウイルスが3年間確認されない国を麻疹排除(measles elimination)国として認定しており、日本に対し2015年3月に麻疹排除の認定を出しました。これは、医療機関をはじめ検査、研究、行政、教育、ワクチンの製造機関、報道、そしてなによりも一般の方からも理解いただいたことによるオールジャパンでの取り組みの大きな成果です。麻疹は今や教科書でしか見ることのない病気になりつつあります。

図3 麻疹の週別報告数(1999年第14週~2007年第25週)


(感染症発生動向調査より)

風疹

子供たちの風疹は、麻疹風疹混合(MR)ワクチンの接種率が向上したことにより抑えられるようになりましたが、2013年にワクチン未接種であった大人の間で流行し、その結果、妊婦も感染し、先天性風疹症候群にかかった新生児が50人弱発生してしまいました。先天性風疹症候群は、目、耳、心臓に重度の先天的な障害があり、決して軽い病気ではありません。わが国では早期に先天性風疹症候群の発生をなくすとともに、東京オリンピックの年である2020年度までに風疹の排除を達成することを目標としました。
ジカウイルス感染症が今話題となっています。妊婦が感染して小頭症の子供が生まれることとジカウイルスの関連が、確実になってきています。しかし目下のところジカウイルス感染症が日本で拡大する可能性は大変低く、まして妊婦が感染するリスクは低いのですが、国内でも感染に対する不安があります。国内においてジカウイルス感染症によって被るかもしれない小頭症のリスクと、国内において風疹によって生じる先天性風疹症候群のリスクを比較すると、日本では風疹のリスクのほうがずっと高いと思います。先天性風疹症候群は確実にワクチンで防ぐことができます。もちろんジカウイルス感染症対策も必要ですが、遠いリスクよりも近くのリスクをきちんと受け止めて、正しい予防法つまり大人たちも風疹ワクチンを受け、風疹の予防をきちんとしておくことのほうが、今の日本の一般の人々にとって重要なことではないかと思います。ジカウイルス感染症については、世界中で連携して対策を立てなくてはなりませんし、日本も貢献する必要がありますが、日本の人々が一緒に不安になる必要はありません。

予防接種法の改正

日本で生じたワクチンギャップといわれる問題の解消と、予防接種施策を総合的に評価検討する仕組みの構築などのため、2013年(平成25年)に予防接種法の大きな改正が行われました。この予防接種法改正の骨子は、定期接種の対応疾病を追加すること、副反応報告制度の法制化、予防接種政策の立案にあたりこれを評価し次のステップに進むために検討組織に意見を聴かなければならないこと、予防接種を取り巻く環境の変化や施策効果への評価を踏まえ5年に1度は見直しの検討すること、などです。これにより、水痘、Hib、肺炎球菌、ヒトパピローマウイルス、水痘などのワクチンが定期接種化され、B型肝炎ワクチンも2016年10月に定期接種化の予定となり、ワクチンギャップは数的にはかなり解消されました。

新しく定期接種化されたワクチン

ワクチンが導入されるときれいにその効果が表れるものがあります。水痘ワクチンがそれにあたります。2005年〜2015年の10年分の水痘の推移をみると、今までの日本の水痘ワクチンは20〜30%しか受ける人のいない任意接種のワクチンであったため、水痘の流行状況はまったく自然な状態といえるものでした。これが2014年10月から水痘ワクチンの定期接種が導入されると、2015年から発生が抑えられ、今日本では少なくとも典型的な水痘は消えつつあるといえます(図4)。このワクチンは大阪大学の故 高橋理明先生が世界に先駆けて開発されたワクチンで、世界中で使われています。高橋先生は水痘の予防に大きな足跡を残されました。

図4 水痘の推移(2005-2015)


出典:感染症発生動向調査データ(IDSC/NIID)

そのほかにも小児の細菌性髄膜炎などの原因になるHib、肺炎球菌もワクチンの定期接種が開始されると同時に罹患率がきれいに下がりました。小児の救急医療の現場から細菌性髄膜炎の疑いの患者は極めてまれとなり、その分ほかの重症患者に手が回るようになってきました。ワクチンが小児医療の全体の底上げに役に立ったのではないかと考えます。ただ、このワクチンが導入された際に残念ながらワクチン接種後に死亡した7例の報告があり、一時ワクチンの中止が行われました。1ヵ月間で膨大な資料が検討されましたが、ワクチンの製造品質管理については問題がなく、海外でも一定の頻度で死亡報告があるものの死因は感染症や乳幼児突然死症候群などほかの原因が大半を占めており、明確なワクチンとの因果関係はないとしています。報告された7例についても明確な因果関係は認められていないと考えられるため、ワクチン接種再開に踏み切りました。その結果としては小児の侵襲性Hib感染症・肺炎球菌感染症は激減したことになります。残念ながらワクチンは副反応がないわけではありません。ゼロリスクではありません。多くの場合は直接の因果関係はありませんが、真の副反応もあり得るので、これらの判断は慎重になされなければなりません。しかし実施にあたっては、常に病気を防ぐ利益と、副反応の損害とのバランス、そして被害にあわれた方の医療費などの救済を考えることが必要です。

予防接種行政に関する審議会・審査会

予防接種行政に関する審議会については「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会」があり、この中に「予防接種基本方針部会」、「研究開発及び生産・流通部会」、「副反応検討部会」の3つの部会があります。救済については別の委員会「疾病・障害認定審査会」にて検討を行います(図5)。予防接種については、「予防接種基本方針部会」において予防接種基本計画が作られています。この予防接種基本計画での基本的な考え方は「予防接種・ワクチンで防げる疾患は予防すること」、「予防接種の効果及びリスクについて、科学的根拠を基に比較衡量する」となっています。研究開発及び生産・流通部会は、わが国にとってこれから必要と考えられるワクチンについて検討し、新しいワクチンの開発状況をヒアリングするなどが行われています。副反応検討部会は、定期接種、任意接種を問わず副反応(有害事象)について検討しており、現時点ではワクチンの安全性に重大な懸念は認められないと評価しています。有害事象と副反応の違いを説明しますと、有害事象(adverse events)とはワクチン接種後に生じたすべての好ましくない事象をさし、副反応・有害反応(side reaction, adverse reaction)とはワクチン接種後に生じた、ワクチン接種との因果関係が否定できない事象をさします。なお医療機関から「重篤である」と届けられた副反応(この場合は有害事象として届けられたものであることに留意)は、10万接種で0.1〜5件、多くのワクチンは10万接種につき1件程度というのが現在の状況です。

図5 予防接種行政に関する審議会・審査会について


ヒトパピローマウイルスワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)

ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン)の問題が話題になっています。子宮頸がんはヒトパピローマウイルスが関連している疾患であり、20歳代〜40歳代前半の女性で罹患率が高く、40歳未満の女性のがんでは乳がんに次いで2番目に多い疾患です(図6)。このワクチンによる副反応(有害事象)報告数は販売開始から2014年11月までの間に、のべ接種回数890万回のうち2584人(0.03%)でした。このうち約9割の方が回復し約1割の186人が未回復であるという調査成績が報告されています。

図6 子宮頸がん


資料:独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター(一部改変)

この副反応(有害事象)について副反応検討部会では、特定の疾患に集積する傾向はみられず、接種後にみられる多様な症状は接種後の痛みなどをきっかけに惹起した機能性身体症状であり器質的疾患ではないとするのが適切であるとしています。また、機能性身体症状については、一般的に作用機序、メカニズムが不明であり、気のせい、心因性との理解は誤りです。今後、国レベルの広範な疫学調査の実施がその対策に結びつくのではないかというのがこの委員会の決定です。そして、現在障害が起きている人について副反応の可能性が否定できないならば、ほかのワクチン同様に医療費の救済をしようということが決まりました。医療機関については各都道府県に、特に痛みに関する医療機関を設定して集中的にフォローしていきます。
感染症対策は、病気を防ぐ利益と副反応の存在とのバランスをどう考えていくかということが、これからも私たちに問われており、もう一度ここで見直す必要があると思います。


以上が今回のフォーラムの要旨でした。

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