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医療におけるビッグデータの利活用:PMDAのMIHARI ProjectとMID-NETについて

医療におけるビッグデータの利活用:PMDAのMIHARI ProjectとMID-NETについて
PMDA 安全管理監 俵木 登美子 氏

医療の分野においても今後活用が期待されている「ビッグデータ」。医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、PMDA)では、電子診療情報を医薬品等の安全対策に活用するMIHARI Projectの1つとして、10拠点23病院の電子カルテやレセプトなどのデータを利用する医療情報データベース「MID-NET」構築を進めています。2015年11月7日、製薬協メディアフォーラムにおいて、PMDA 安全管理監の俵木登美子氏が「PMDAのMIHARI ProjectとMID-NETについて」をテーマに講演しました。講演の概要は以下の通りです。


会場風景


PMDA 安全管理監 俵木 登美子 氏

●1.市販後安全対策の実際

医薬品は臨床試験でその安全性と有効性を確認し、慎重な審査のうえ、承認されますが、承認前に得られる安全性情報には限界があり、市販後に多数の多様な患者に使われることで、稀で重篤な未知の副作用が判明することがあります。このため、市販後に副作用情報を収集・評価し、必要な安全対策を講じることが国民の健康のためには重要です。現在、法律に基づいて製薬企業および医療機関からPMDAに報告される国内重篤例約5万件、海外20万〜30万件の副作用(年間)をPMDAが評価し、安全対策の要否を検討しています。安全対策が必要な場合は、PMDAメディナビなどのITツールも利用して迅速に情報提供が行われます。たとえばA薬の服用患者で高ビリルビン血症での死亡例が続き、A薬との関係が強いと判断されて、血中ビリルビン値の測定や黄疸などの自覚症状に注意するよう添付文書に記載し、副作用発現や重篤化を防ぐ措置(安全対策)がとられたケースがあります。このような一連の副作用評価の流れは、安全対策の手法として世界中で実施されている基本的で有用なものです。

●2.MIHARI Project

一方で、この安全対策の手法には次の3つの限界があります。
(1) 医師が報告しなければ副作用の存在自体がわからない
(2) 副作用発生頻度がわからない
(3) 原疾患による症状なのか、「副作用」なのか評価できない
(1)は根源的な問題です。(2)は、(1)に加えて母数である使用患者数がわからないためです。副作用発生頻度がわからないため、いろいろな比較ができません。同じ効果のくすりが複数あれば副作用の少ないものを選びたいものですが、それができないのです。また、副作用を減らすための安全対策が有効だったかどうかは、安全対策をとる前ととった後の副作用発生頻度の比較をすればわかりますが、それもできません。(3)は、原疾患の進行によっても発現する症状の場合、「くすりを投与した人」と「くすりを投与しなかった人」の発生頻度を比較をすれば、もともとの原疾患のせいなのか、くすりのせいなのかを評価できますが、「くすりを投与しなかった人」の症状は報告されないため、このような評価もできません。

以上のような現行制度における限界を鑑み、電子診療情報により薬剤疫学的手法を用いた定量的評価による安全対策を実施するため、MIHARI Projectが開始されました。MIHARI Projectでは、ナショナルレセプトデータや健康保険組合のレセプトデータ、DPCデータ、電子カルテなどのさまざまな医療データを用いて多角的に分析することを目指しており、2009年度より試行を開始し、2015年度から安全対策への活用を開始しました(表1)。
MIHARI Projectにおける分析では、ある薬剤を使用した患者(分母)と副作用が発現した患者(分子)のデータを抜き出すことができ、医師の報告に依存せず、副作用発生頻度も算出可能です。現行制度ではできなかった他剤との比較や原疾患による症状か副作用かどうかの評価、安全対策が浸透しているかどうか、などがわかるようになると期待されます。
このような各種データベース(DB)を活用した安全対策は各国で取り組みが進んでおり、日本でも早く実装できるようにする必要があります。

表1 MIHARI Projectでの分析事例


医療情報の二次利用における留意点を以下に示します。
(1) 医療情報自体は個々の患者の医療のためのものであり、安全対策を目的としたものではないので限界があること
(2) 目的に合ったDBを選定し、おのおののDBの特性、限界を十分理解して、利活用することが重要
(3) 対象集団や曝露(薬物の投与)、アウトカム(副作用などの発現)の特定の方法の妥当性については慎重な評価が必要(バリデーションの実施)
特に難しいのは(3)です。たとえばA薬を投与した患者で急性腎不全が起きた人を抽出したい場合、急性腎不全という疾病名や急性腎不全に対する治療薬、処置オーダー、腎機能の検査値などの条件を定義して拾い出します。しかし、検査目的で急性腎不全と記載したが、検査の結果、急性腎不全状態ではなかった場合もあります。疾病名だけではなく、治療、検査値などをうまく組み合わせた条件定義が必要なのです。どのような条件を定義すれば適切に該当者を拾い出せるのか、試行錯誤しながらバリデーションを実施し、確度を高める必要があります。

●3.MID-NETの構築事業

MIHARI Projectのうち、医療情報をネットワーク化する新しいDBの構築がMID-NETです。医薬品等の安全対策に活用するため、2011年度より厚生労働省の事業として、10拠点23病院にDBを構築し、PMDAに分析システムを構築しています。本格稼働は2018年度で、300万人程度のデータになる予定です。また、PMDAだけなく、研究者や製薬企業による利活用や安全対策以外の利用(医薬品開発戦略など)も想定されており、今後検討される予定です。本事業の財源は国費と製薬企業からの安全対策拠出金によっています。本事業に参加する10拠点23病院は北海道から九州まで、全国を広くカバーしています(図1)。

図1 本事業の協力医療機関


MID-NETの概略を図2に示します。各医療機関におけるオーダリングシステムや電子カルテ、レセプトなどのデータをSS-MIX[1]のフォーマットにより標準化し、統合DBに格納します。次いで、データ処理要求に従って統合DBからデータや集計結果データが抽出され、統計処理された解析結果がセンターに送られます。センターでは各医療機関からのデータが統合され、最終的な解析結果がアウトプットされます。各医療機関で電子カルテやレセプトのシステムが異なっても、SS-MIXのフォーマットで標準化することにより、統合可能となります。

[1]SS-MIX:Standardized Structured Medical Information eXchange(厚生労働省電子的診療情報交換推進事業)

図2 MID-NETにおける情報の取り扱い


MID-NETの長所は以下の3点です。

(1) 診療情報やレセプト情報など、多様な情報源に由来する医療情報が利用可能
(2) 検査データなどのアウトカムデータが利用可能
(3) ほぼリアルタイムで情報が利用可能
アメリカではこのような医療情報DBを使った安全対策がすでに行われていますが、検査データなどのアウトカムデータを使うようには至っておらず、アウトカムデータを使える点はMID-NETの大きなメリットとなると考えています。
一方、MID-NETの限界としては以下の4点が挙げられます。
(1) 大学病院中心で急性期患者が主体
(2) 来院前・転院後のほかの医療機関での情報などが得られないため、1人の患者を長期に追跡できない
(3) 特定の医療機関を対象としているため、全国民を必ずしも代表しない
(4) 活用項目は、疾病、処方、検査の電子化された情報のみ(テキスト情報は利用不可)
糖尿病などの慢性疾患の患者を長期に追跡することはできません。また前述したように、分析の際には副作用や患者特定の条件定義を慎重に行う必要があります。
MID-NETとナショナルレセプトDBを比較すると、ナショナルレセプトDBは1億人分という大きなデータをもち、転院後や他施設でのデータも追跡できますが、データが月単位であり、リアルタイムには使えず、臨床検査結果も得られません。MID-NETは300万人のデータで、長期の追跡はできませんが、ほぼリアルタイムに検査結果も含めて使えます。このようなDBごとの特性、限界を十分理解し、目的に合ったDBを選択して利用することが重要です。
MID-NET構築事業においてPMDAのこれまでの経験から得た課題が2つあります。今後の本事業の進捗と実用化、そして拡大の鍵となるものです。

課題1:DB構築における課題

現在本事業は、10拠点23病院へのシステムの導入を完了し、データ、システムの検証を実施している段階です。データ、システムの検証とは、各医療機関の種々のDBから統合DBに正確にデータが格納されているか、という「データの品質管理」と、統合DBからのデータ抽出および統計処理が正確に行われるか、という「抽出・統計処理システムの品質管理」です。「データの品質管理」では、想定以上にデータ移行に不具合が発生していました。SS-MIXに基づく標準化を行ってはいるものの、運用やその詳細で各医療機関ごとにルールがあり、SS-MIXの仕様にも一部曖昧な点があったため、うまく移行しないという問題が発生したのです。各医療機関でこの問題に対応し、膨大な作業となりました。一方の「抽出・統計処理システムの品質管理」のほうは比較的順調に確認作業が進んでいます。
「医療情報の標準化および品質管理」は科学的な分析に基づく安全対策の大前提であり、真の標準化のために政府全体や医療関係者の取り組みが必要です。

課題2:データ利活用における課題

もう1つの課題は「医療情報の取り扱いルールの整備」です。医療情報は個人情報であり、その取り扱いには慎重な配慮が必要です。MID-NETでは図2に示すように、連結可能な情報は各医療機関限定であり、利活用者が取り扱える情報は連結不可能な匿名化された情報です。しかし、現時点で医療情報の取り扱いルールは十分ではありません。どうすれば匿名化と見なされるか、また個人情報でないとされるのか、などがまだ決まっていないのです。国民の理解を得て、医療情報の積極的な利活用を推進するために匿名化の方法や患者同意のとり方など、国としてのルールの策定が必要です。

将来的な期待としては、10拠点23病院300万人規模から規模を拡大することです。また、マイナンバーとは別に導入が議論されている医療等番号あるいはそれをさらに変換した番号などで医療情報のリンケージが可能となるかどうかです。これらが実現すれば、大規模なデータベースのメリットを活かした、さらに有用な医療と健康のための利活用が可能になるでしょう。

●4.健康・医療戦略とICT

情報通信技術(Information and Communication Technology、ICT)によるビッグデータの活用を含む実践的なDB機能の整備は、国の「健康・医療戦略(平成26年7月22日閣議決定)」の中に位置づけられています。健康・医療戦略は内閣府主導で精力的に進められており、医療情報DBについては「次世代医療ICT基盤協議会」およびその傘下のワーキンググループにおいて、現在の大きな課題であるデータの標準化や個人情報の取り扱いのルール化などが検討されています。

●終わりに

諸外国ではすでに医療情報DBの二次利用により安全対策が行われはじめており、その有用性が示されています。日本でもMIHARI Projectが開始され、安全対策への活用が始まりました。MID-NET は、検査値などのアウトカムデータをリアルタイムに使えるMIHARI Projectの1つの重要なツールです。この実装のためには、データの標準化と個人情報の取り扱いのルール化が急務です。
PMDAとして政府に必要な対応を求めつつ、医療機関、アカデミア、製薬企業と協働し、日本国民の健康のために有用なツールにするべく進めていきたいと思います。


以上が今回のフォーラムの要旨でした。

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