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熱帯感染症と製薬企業の取り組み

熱帯感染症と製薬企業の取り組み
国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部 部長 狩野 繁之 氏
製薬協 国際委員会 グローバルヘルス部会 部会長 佐々木 小夜子 氏

薬協広報委員会は2015年2月5日、「熱帯感染症と製薬企業の取り組み」をテーマに都内においてメディアフォーラムを開催しました。国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部 部長の狩野繁之氏からは、顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases、NTDs)や新興・再興感染症、三大感染症などの現状と課題について、製薬協 国際委員会 グローバルヘルス部会 部会長の佐々木小夜子氏からはNTDsと三大感染症に対する製薬協の取り組みと考えについて、それぞれ講演および質疑が行われました。両氏の講演の概要は以下の通りです。


会場風景


国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部 部長 狩野 繁之 氏

●講演1「熱帯感染症についての現状と課題」
国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部 部長 狩野 繁之 氏

感染症の分類方法はいろいろありますが、本日は熱帯感染症を社会学的、経済学的な切り口から、また、輸入感染症、旅行者感染症、薬剤耐性感染症といったものの概念についてお話ししていきます。
現在、地球上では149の国と地域でNTDsが流行しており、そのうち少なくとも100の地域で2つ以上のNTDsが、30ヵ国では6つ以上のNTDsが蔓延しています。
なぜこれらの感染症が顧みられないのかというと、病気が慢性の疾患であり、直ちに命を失うものではないためです。慢性の疾患なので治療に時間がかかるうえ患者数も多いため、累積すると感染地域において相当な経済的損失が発生しています。
私はラオス政府からの依頼によりビエンチャンでメコン川の水系感染症である「タイ肝吸虫症」と「メコン住血吸虫症」の対策研究を行っています。
タイ肝吸虫症は感染者の糞便から排出された虫卵が、淡水の生態系の中で成長しながら川魚に寄生し、それを人が摂取することで感染します。体内に入った成虫は虫卵を胆管内に産むので肝障害を起こし、最後は胆管がんなどに移行します。
昨年12月に現地の小学校で検便を行ったところ、192検体のうち約40%の子供たちが寄生虫卵陽性で、そのうち半分以上がタイ肝吸虫卵陽性でした(図1)。1日の調査だけで約25%の子供が陽性ということは、年間を通せば100%の子供がタイ肝吸虫卵の感染リスクにさらされていると考えられます。川魚の生食に対する行動変容や清潔なトイレでの排便行動などの教育を行っていますが、浸透にはまだまだ時間がかかりそうです。
メコン住血吸虫症も含めた対策として、「プラジカンテル」を年に1度、感染の有無に関係なくすべての子供たちに投薬していますが今のところ治療と感染のイタチごっこの状態です。アステラス製薬がプラジカンテルの小児用製剤の開発に努めていると聞いており、期待しているところです。

図1 糞便検査結果



リンパ系フィラリア症は今でも東南アジア地域で流行しています。エーザイは世界保健機関(World Health Organization、WHO)と治療薬無償提供に関する共同声明に調印し、自社で開発・製造したジエチルカルバマジンクエン酸塩(diethylcarbamazine citrate、DEC)を2013~2020年で22億錠提供することで合意しており、フィラリア症に対する日本のアクティビティは世界にとって非常に重要なものになっています。
最近のマラリアのトピックとして、東南アジアの一部の地域で蚊がサルのマラリア原虫を吸って人に感染させるという事象が多くあります(図2)。四日熱マラリアだと思っていたものが実際はこのサルマラリア原虫(プラスモディウム・ノウレシ)の感染症であって命を失うといったことが散見されています。

図2 サルマラリア


日本では2012年にはじめてサルマラリアの症例が報告されていますが、今のところ人から人への感染は証明されておらず、もし証明されれば第5のヒトマラリアということになります。
もう1つのマラリアのトピックは朝鮮半島における三日熱マラリアの流行です。特徴は夏の間だけ患者数が増えるということです。その理由は蚊から入った原虫が冬の間肝臓の中で休眠して翌夏に発症するという新たな生態を得たためと考えられています。
日本でも朝鮮半島と同種の原虫を媒介するシマハマダラカが南方に多く生息しており、仮に韓国から原虫を血中に残したまま訪日された方が日本で蚊に刺されて、それが感染すると、渡航歴もないのに翌夏に三日熱マラリアを発症するという可能性があります。
新興・再興感染症については2003年の重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome、SARS)の突発的な流行により意識されるようになりました。現在はエボラウィルス病が世界的な拡散に至るかどうかが注目されていて、これをいかに地域内に封じ込めるかということに、われわれ研究センターは腐心しており、帰国した感染疑いのある患者さんを高度に密閉された空間に封じ込めるだけではなく、専門家を現地に派遣し防護服の装着や患者さんとの接触、遺体の扱い方などの指導でも貢献しています。
昨年11月には日本熱帯医学会と日本国際保健医療学会から「エボラウィルス病に関する声明」が発表され、1月に行われた「日経アジア感染症会議」では富山化学工業のファビピラビルがいかに早く承認され、世界で使用できるようになるには、ということが大きな話題になりました。
再興感染症の代表例としてはデング熱があります。これは現在、世界の人口の40%以上、25億人以上が感染リスクを有する世界的な感染症です。デングウイルスは年間平均気温11℃以上の地域に生息するネッタイシマカが媒介となります。日本では現在その分布は確認できず、代わりにヒトスジシマカが媒介となっています。日本のヒトスジシマカの分布は平均気温12℃と相関しているそうで、青森県がその境界になっており、本州以南の地域であればどこでも、今年の夏に突発的にデング熱が発生するということがあり得ます。

単一の病原体として世界的に死亡者数が多いものが後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome、AIDS)、結核、マラリアで、これを三大感染症と呼びます。国ごとの10大死亡要因を比較するデータをみると、明らかに貧しい国ほど感染症による死亡率が高く、特に三大感染症は貧困国にとって深刻な問題となっています(図3)。

図3 10大死亡要因のグラフ


日経アジア感染症会議では40年ぶりの抗結核薬である大塚製薬から出たデラマニドが話題に上りました。これは日本で唯一の多剤耐性結核薬で、現在は結核に限定されていますが、副作用で標準的な抗結核薬を使用できない場合などにも適用が拡大されることが期待されています。
マラリアに関するWHOの2013年度データでは97の国で1億9800万人が感染し、58万4000人が亡くなったと報告されています。そのうちの90%はアフリカの患者さんで、さらにその78%が5歳以下の子供でした。ただし、マラリアの専門家たちの間では、実際には100ヵ国で100万人以上が亡くなっているのではといわれています。薬剤耐性の問題がマラリア制圧をいっそう困難にしており、かつて日本で使っていた、クロロキン、スルファドキシン、ピリメタミン、メフロキンといった薬はもはや有効性がかなり低くなっています。現在はキニーネとテトラサイクリンのコンビネーションセラピー、あるいはアルテミシンから抽出した成分とのコンビネーションセラピーが有効な治療薬であり、これらの薬に対する耐性を作らせないというのがWHOの目標となっています(図4)。特にアルテミシンとのコンビネーションセラピーに力を入れており、複数のパートナードラッグをもたせることで、万一、遺伝子変異が起きて耐性ができても対応できるようにしています。
輸入感染症については、訪日外国人や日本人の海外渡航者の増加に伴い今後拡大が予想されます。輸入感染症の1つであるマラリアの感染を防ぐには個人の防蚊対策やメフロキンやアトバコン・プログニアルの予防内服などが重要です。

図4 薬剤耐性マラリアの治療


1997年のデンバーサミットにおいて橋本龍太郎元首相が世界的な寄生虫対策を呼びかけたことによって、その後グローバルファンドの組成につながり、日本は第4位の拠出国となっています。そして、安倍晋三首相が医学誌「ランセット」への寄稿の中で、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジという言葉を使い、いかにくすりを辺境の地まで届けるかということを強調してくれました。製薬企業の方々には有効なくすりを作るだけでなく、それが見過ごされた(neglectedな)人々に届くような取り組みにも尽力していただきたいと願っております。


製薬協 国際委員会 グローバルヘルス部会 部会長 佐々木 小夜子 氏

●講演2 「顧みられない熱帯病(NTDs)/
三大感染症に対する製薬協の取り組みと考え」

製薬協 国際委員会 グローバルヘルス部会 部会長 佐々木 小夜子 氏

「顧みられない疾病・熱帯病対策」に対して国民の関心が低いかもしれませんが、1998年の「橋本イニシアチブ」や北海道洞爺湖サミットでのNTD制圧支援合意についての首脳宣言など、これまで日本の感染症領域でのリーダーシップは世界的に評価されています。
現在、世界で約10億人がNTDsに感染しているとみられています。しかし、これまでは開発のインセンティブが働きにくいことや開発途上国における医療体制、物流システムの未整備によりNTDs治療薬の開発、供給がなかなか進みませんでした。近年は社会要因や環境要因が変化し、グローバルヘルスへの貢献が重要視されていることや、製薬企業にとってはコーポレートブランドの向上や社会課題をビジネス化して解決するというCSV(Creating Shared Value)の観点において、NTDs、三大感染症に取り組む意義が生まれています。日本ではこの分野で2013年に世界の製薬企業が取り組んでいる医薬品開発プロジェクトの16%、ワクチン開発プロジェクトの36%に日系製薬協会員会社が携わっており、徐々に日本企業のプレゼンスが高まっています。
製薬産業がもつ創薬力を最終的に途上国の感染症制圧達成につなげるには、包括的なアプローチが必要です。産官学が共通の目標をもち、Discovery、Development、Deliveryの面から包括的に取り組む「3Dアプローチ」を重視しています(図5)。

図5 製薬産業の創薬力を活かすための包括的アプローチ[3Dアプローチ]


中でも、この領域においては、研究や開発を支える出資者の存在が重要です。現在は製薬産業、医薬開発パートナー(Product Development Partnership、PDP)、政府・財団の各セクターがそれぞれの“機能・役割”を活かしたパートナーシップによる開発、供給の推進が潮流となっています(図6)。

図6 製薬協会員企業のNTDs/三大感染症等への取り組み事例 *多くがパートナーシップによる開発・供給推進


日本では2013年4月に世界初の官民パートナーシップによるグローバルヘルス技術振興基金(Global Health Innovative Technology Fund、GHIT Fund)が世界の最貧困層のNTDsと三大感染症へ貢献するために設立され、設立以来の助成金額は2012年の世界全体のPDP資金提供額の8%以上に相当しています。
最後に各国のNTDsと三大感染症の新薬開発を促進するための審査制度を紹介します。アメリカの米国食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)には「Priority review voucher」という制度があり、対象希少疾患の新薬承認を取得することで自社のほかの新薬の承認申請時に6ヵ月間の優先審査を保証するもので、この権利を第三者に譲渡することもできます。ヨーロッパの欧州医薬品庁(European Medicines Agency 、EMA)では「Artile58」という、欧州連合(European Union、EU)域外で販売予定の医薬品を、EMA/欧州医薬品委員会(Committee for Medicinal Products for Human Use、CHMP)がWHOなどと合同で審査を実施し、科学的審査に基づいた“推奨”を発行する仕組みがあります。
日本においてはこういった仕組みはなく、これは私見ですが、日本の成長戦略であるグローバルヘルスへの貢献、あるいは医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、PMDA)がアジアでリーダーシップをとっていくという観点からも、NTDsや三大感染症の新薬開発に対してなんらかの優遇制度を設ける、あるいは承認審査のキャパシティーを上げていくといった取り組みが必要ではないかと考えております。
NTDs(顧みられない熱帯病)は、「顧みられない人々」の疾患ということでもあります。製薬協としては今後もこの顧みられない人々に光をあてて、その健康向上に貢献したいと考えております。


以上が今回のフォーラムの要旨でした。

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