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Personal Health Recordの活用
─「医療健康分野のビッグデータ活用研究会」レポート─
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今後のPHRの活用と課題

PHRの活用について、目的ごとにまだ課題は多いのですが、今後、広くPHRアプリを普及させていくためには、まず第一段階としてユーザーを増やして、その行動変容とアウトカムのデータを収集するとともに、そのデータ解析により、より良いアウトカムが得られる行動変容を可能とするコンテンツへと改善していくことがキーとなります。それによって、ユーザーのアウトカムへの期待が高まり、継続の意欲を高め、さらに新規ユーザーを引きつけることにもつながり、データを増やす正のスパイラルを回すことができると考えられるからです。
 現状は、各PHRシステムのユーザー数やデータの量、アプリのコンテンツの質、さらにはアウトカム実証等、多くの要素がどれもまだ不十分な状況です。しかしスマートフォンの普及に伴って、時間とともにアプリの導入率は急激に伸びてきており、近年はいかに良質のアウトカムを出すかがより重要な課題と認識されています。アウトカムへの評価が高まれば、結果としてデータの量と質が上がり、アプリの汎用化のスパイラルにつながることが期待されます。
 また、アウトカムが向上したデータ等を積極的に取得・発信し、世間に効果があることを認めてもらうために科学的な客観性のあるエビデンスを取っていく努力は非常に重要と考えられます。さらに、医療従事者の認識を高めて、診療や疾患管理のためPHRアプリが広く活用される状況を作っていくことも、必須の活動です。今後、社会的認知が進み、PHRを継続使用して健康管理や行動変容していることに対して、健康保険や生命保険等の保険料が下がる等のインセンティブが得られるといった事例が出てくれば、PHRを使い続けることがさらに定着していくと考えられます。
 前述のように、定着化への要素としては、PHRの情報入力の簡素化ということも大きな要素です。デジタル化の強みとして、機器と連動させ、自動入力できるシステムも広がっています。この自動入力のシステム導入が継続的に利用するための重要な要素であることは間違いありません。また、測定項目や入力項目をやみくもに増やさないことも必要な視点ですし、その入力している項目の健康への反映(あるいは疾患に罹患するリスクの軽減)が、ユーザーに継時的にわかるということも定着化への重要な要素となります。
 一方、入力されたデータの信頼性という観点に対して、いくつかの課題があります。まず患者さんや自動入力によって取り込まれたデータ自体が正しいかどうかという点があります。測定項目によっては、測定機器の違いで値が変わるという問題もあります。どのメーカーの機器で取得した値か記録されているアプリもありますが、現状、機器ごとの測定値補正やデータ精度の向上、あるいは測定値の標準化に関する取り組み等は進んでいません。また、FDAの事例にもあったように、規制当局がデバイスやアプリ等の測定ソフトに対して一定の基準を設けるといった、利用者が安心・安全に使うことができる環境整備も必要と考えられます。
 製薬企業の現状は、疾患治療のサポートツールとしての提供が中心です。今後、マーケティングやプロモーションへの活用、臨床試験の際のPHRによるデータ収集等も考えられます。市販後調査にも、PHRの活用による効率的なデータ収集の期待が高く、海外では事例も出てきています。たとえば、薬効や副作用につながる新たな指標を探索し、そのデータがPHRで取得できるようになれば、よりPHR活用の幅は広がると考えられます。
 一方、データの信頼性という課題については、業界内で事例を増やして対応策の抽出を進める必要があります。また、データのエビデンスのレベルに応じた使用範囲の限定や結果の活用等を決めていく必要もあります。
 PHRが広まることで、データが蓄積されて、さらに多様な価値を生む可能性が期待されています。将来的に重要なことは、個別必要性があって取られた疾患PHRのデータ情報等がEHRのようなネットワーク化された診療情報と連結され、その個人の健康医療の情報として活用されるとともに、各個人の情報がPHRクラウドのようなストレージで統合され、その人のライフコース情報として、継続して活用されていく環境を作っていくという方向性です。また、蓄積されたデータの二次利用までを視野に入れたPHRデータの利用範囲やアウトカムの評価方法の検討等も進めていかなければなりません。
 将来的には、個人の基本情報、行動履歴等の蓄積されたさまざまなPHRデータの利用が、医療従事者側にとっては診療の効率化や患者さんとのコミュニケーション・ソリューションにつながります。また、患者側にとっては自分の健康医療履歴を自ら把握・管理し、健康維持や疾患コントロールにもつながるというように、さらなる医療パフォーマンスの発展への貢献が期待されています。
 PHRデータの二次利用を含めた幅広い目的への活用には、個人情報保護の問題をはじめとして、前提となるEHRのシステム構築等、多くの課題が存在することも確かですが、「PHRを活用するデジタル医療」をスピード感をもって取り入れる時期に来ていることは間違いありません。

医薬産業政策研究所 統括研究員 森田 正実、主任研究員 杉浦 一輝、前主任研究員 鈴木 雅

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