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「第40回 環境安全講演会」を開催
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畠山 重篤 氏

■ 環境安全講演会 2 | 森は海の恋人

NPO法人森は海の恋人 理事長
畠山 重篤

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森は海の恋人運動

私は本職が牡蠣やホタテ貝の養殖業ですが、今から30年近く前、漁師をしながらブナやナラの落葉広葉樹を、海にそそぐ川の流域の山に植える運動を始めました。名づけて「森は海の恋人運動」といっています。
 江戸時代、日本はどこへ行っても沿岸域では魚や貝が捕れる国でしたが、明治時代になって沿岸域を埋め立て、開発が進むほど、海の環境に負荷がかかってきました。私の暮らしている気仙沼湾も、父の跡を継いで牡蠣の養殖を始めたころはなんの問題もなくいい牡蠣が捕れていましたが、だんだん海の生き物の育つ力が弱ってきました。それまで漁師なので海ばかり見ていましたが、あるとき、反対側、背景(森)を見るという視点を与えられて、生物が育つことを理解するためには科学的な知識が必要だということがわかってきました。北海道大学水産学部の松永勝彦先生の研究によると、森からある成分が海に流れなくなると、海藻の生育が悪くなるとともに、牡蠣やホタテ貝の餌の植物プランクトンも繁殖できなくなるということでした。では、なにがキーワードになっていたかというと、鉄分です。植物の光合成をしているのはクロロフィル(葉緑素)ですが、あの緑色の色素をつくるのに、鉄を吸収しないとクロロフィルはできないのです。それから、鉄の力を借りないと植物は窒素やリンを吸収できないそうです。窒素は水の中に溶け込むと主に硝酸塩に、リンはリン酸塩になります。これを植物が吸収するには鉄を触媒とする還元酵素が働く必要があります。私たちは「森は海の恋人」と言っていますが、科学的にも実は森林は海の恋人だったということがだんだんわかってきました。

フルボ酸鉄

樹齢100年のブナの木は、30万枚も葉っぱが付いているそうで、毎年30万枚落ち葉が積もっていきます。これを腐葉土といいます。腐葉土が重なってくると、空気の通りが悪くなり、ブナ林の下にできた無酸素のところから鉄分が水に溶け出していきます。そのままの鉄が川から海に供給されてくると川や海は酸素だらけですから、酸化鉄になってしまいますが、森林に腐葉土がたくさんあるところから流れてくる水には、酸化しない鉄が含まれているということを松永先生は発見しました。腐葉土から発生するフルボ酸という成分が鉄元素にくっつき、フルボ酸鉄を形成することにより、酸化鉄とならずにそのままの形で森から鉄分が海に供給されます。科学で「森は海の恋人」が証明されたということです。
 人間の体も鉄分が不足すると貧血になってしまいます。本当に地球というのは、鉄の科学を知らなければ環境問題を語れないということです。
 東日本大震災で私も本当に死ぬ思いをしました。気仙沼でも1000人以上の人が亡くなって、200人ぐらいの行方不明者がまだいるという状況です。本当に絶望しかないようなことを経験しましたが、5年経って海に目を転じれば、養殖いかだは岩手県も宮城県もどこへ行っても、きれいにできあがっており、生産量もほぼ地震の前と同じに復活しています。
 震災で海底がかく乱された後、真っ黒い泥が沈下しお盆を過ぎてから水が透明になってきました。京都大学の先生が来てそれを調査した時、顕微鏡で見て、「畠山さん、大丈夫です。牡蠣が食い切れないぐらい植物プランクトンがいます」といわれました。海底がかく乱されて、養分の窒素、リンが湧き上がったためです。私たちが約30年間、川の背景の山に行って木を植え続けたことにより、フルボ酸鉄が安定的に川から海に供給されていたということです。

フォレストヒーローズ

2011年は国際森林年、世界の森林をみんなで真剣に考えようという年で、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、中南米、北米の5大陸から1名ずつ、森林保全をしている民間人を表彰する国連によるフォレストヒーローズという制度があり、日本は津波被害に対する応援ということもあって、私が日本代表に選ばれました。漁師の私がフォレストヒーローに選ばれて、国連に行って金メダルをいただき、スピーチをしました。問題は「森は海の恋人」を英語に訳すとどうなるかということでした。畏れ多いことですが、皇后陛下に相談したところ、“long for”という熟語を使ったらどうですかという示唆をいただきました。“long for”というのは「好き」とか「愛している」のもっと強い言葉であるとともに、「慕う」という意味ももっています。海は森を慕い森も海を慕っている、すなわち、相思相愛だということです。 “The sea is longing for the forest.”と英訳して国連でスピーチをしたところ、会場からものすごい拍手が起きました。どうしてだろうと思ったのですが、実は“long for”というのは『旧約聖書』が出典だったのです。「詩篇」の42編にこういう箇所があります。「鹿が谷川の水を慕いあえぐがごとく、わが魂も汝を慕いあえぐなり」、つまり山が枯れてしまって、谷に水が流れてこなくなった。鹿が死ぬほど水が飲みたいということです。牡蠣も森から流れてくるフルボ酸鉄を欲している、“long for”しているということなのです。

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