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「2016 ライフサイエンス知財フォーラム」をバイオインダストリー協会と共催
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そして、2008年5月30日の「除くクレーム」事件の判決では、補正の新規事項違反の存否について、それまでの審査基準における新規事項の要件を半歩、あるいは一歩ほど、緩和する判断を示しました。ようやく、知財高裁の大合議体が特許権者に有利な方向での新しい判断を示す姿勢を意識的にするようになりました。
 2010年夏に私は定年で退官したので、退官後の運用は想像でしかありませんが、このところの状況では、2013年2月1日の「サンジェニック対アップリカ事件」の判決、2014年5月30日の「特許権の存続期間延長登録出願事件」の判決などでも、特許の有効判断、権利行使の実現に向けて、特許権者に少しでも有利になるように大合議判決の制度が運用されているのではないか、と思っています。
 そういう気持ちでごく最近の様子をみると、本年3月25日に判決が予定されている「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」事件では、事案としては当然のことながら、均等論の是認と否認のいずれにも解釈できる事案であり、私が現役時代の昔の運用方針から予想すれば、知財高裁として初めて均等論に基づく差止請求を認める判断が示されるということになりますが、実際にはどうなるかはもちろんわかりません。
 そこで、基調講演1の冒頭で指摘された問題に入ります。
 基調講演1は、日本の特許権侵害訴訟の件数が諸外国に比較して明らかに少ないという実情にあるが、そのような実情を招いた主たる原因は、原告(原則としては特許権者)の勝訴率が20%付近で低迷していることにある、と指摘しました。しかし、この議論はもっと広い範囲を対象として議論すべき問題であり、民事訴訟一般に広げる必要があります。実は、それだけでも足りず、刑事裁判を含めて議論される場合があります。たとえば、日本の殺人件数や刑法犯の件数は、ほかの文明国と比較しても極端に少ないのです。ここでは、そこまで広げて議論するのは差し控えることとします。
 日本の民事訴訟一般について国際比較をしてみた場合に、当事者間に発生した紛争の中から、どれほどの割合で訴訟提起にまで持ち込まれるのかというと、結果としては非常に少ないのです。特許権侵害訴訟と同じように、その原因分析がよく行われます。私の見解は、日本の民事訴訟一般について低い提訴率の原因は、結局のところ、民族性にあると思います。
 日本民族の訴訟親和性の低さは、アメリカやドイツとは明らかに様相が違います。もう40年も前の私の個人的な経験ですが、ドイツへの留学経験によれば、たとえば私が長期間にわたって視察したニーダ―ザクセン州の地方裁判所では、管轄人口は20万ないし30万人程度でありながら、裁判官は30名前後もいます。これは日本でいえば神戸地裁などの大規模裁判所に相当します。また、その受理件数も、処理事件数も、同規模の日本の裁判所の2、3倍もあり、極めて迅速に処理されていました。そうしたドイツにおける多数の民事訴訟事件が迅速に処理されている実情を見て、当時の私は日本でもそれを実現したいと思い、最高裁の指導のもとに、民事裁判官が一体となって、昭和末期から平成初頭にかけて民事裁判の迅速処理の実現に向けて、大いに奮闘努力をしました。今ではかなり改善されたものと思っていますが、それでも最近の調査によると、わが国の民事訴訟の件数は、人口比でいうとアメリカの8分の1以下、イギリス、フランス、ドイツの5分の1以下で、韓国と比較しても3分の1以下だそうです。しかも、この数字は過払い金返還訴訟がピーク時の数字であり、その後激減し、全体としてこのところも減り続けています。大掴みにいうと、アメリカの訴訟件数は日本の十数倍、ドイツなどの訴訟件数は日本の5、6倍と考えたほうがよさそうです。ところでアメリカの場合は、提訴のうちトライアルにまでいくのはおよそ3%といわれています。
 特許件数だけでいうと、アメリカの司法統計はリアルタイムでネット上に公開されます。たとえば、提訴件数は年間5000件程度もあり、日本の30倍に相当します。ただし、トライアルまでいく件数は、一般民事裁判と同程度である3%程度です。判決の絶対数としては日本とほぼ同水準であり、残る97%は当事者間の交渉で終了しているようです。また、その訴訟手続きも、トライアル前までは当事者任せです。一部、これと異なる運営の試みが最近行われていることが報告されていますが、大勢に影響はなさそうです。
 これに対して、日本では、弁論準備手続きは、主任裁判官(判決書の原案を起案する)が、当事者の提出した書類や証拠を検討して、主張すべき内容を指導し、必要な証拠を提出するよう慫慂(しょうよう)し、そうした準備をさせたうえで、期日に臨み、期日の主催者として法律論および事実認定について心証の形成を行い、かつ、その心証を開示し、これをもとに当事者と激論し(一般民事では裁判官と当事者代理人とは腹蔵なく議論しますが、特許権侵害訴訟では裁判官がいったん結論のみの心証を開示すると、侵害論は終了したとして、当事者との議論を避けており、私(塚原氏)としては不満です)、そうした心証で理解が得られれば、和解を勧告続行し、合議体で作成した裁判所案を当事者に提示するため、和解成立に至るのが一般的な現象です。ただ、請求棄却の心証の場合は、和解勧告をしても原告として譲歩するメリットがなく、和解成立が非常に困難です。

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