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市民・患者とむすぶ

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東京大学 武藤香織氏による会員会社向け講演会を開催
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このヘルストークと同じ方法で日本語版を作ろうと、「臨床試験・治験の語り」データベース構築プロジェクトを進めてきました。臨床試験・治験にかかわった体験を患者さんに語っていただき、その内容をもとに実施体制改善に役立てるのが目的です。「語り」のデータは教育や研究での二次利用が可能としています。患者さんの「語り」を集めるにあたっては、代表的な意見ではなく、多様な異なる体験を集めるようにしました。50名を目標として開始し、42名の患者さんにご協力をいただきました。一部の内容は、認定NPO法人「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」のWebサイトにて今夏に公開予定です。
 本プロジェクトを開始するにあたり、厚生労働省、医薬品・医療機器開発企業、医療従事者など関係者にヒアリングをしたところ、「治験の国民理解につながる」、「被験者と直接話す機会がないので大変興味がある」、「患者さんの本当の思いを知りたい」などのコメントをいただき大きな期待を感じました。その一方で、語り手として協力くださる患者さんを探すことは、動画撮影への抵抗感もあり、とても難しいことでした。
 「自分の病状が良くなるかもしれない」という期待をもって治験に参加する人、「人さまのために」と考えて参加する人、両方の気持ちをもっている人など、さまざまな考えで治験に参加しています。また、臨床試験・治験に対する患者さんの満足度は決して低くありませんが、通常の診療と臨床試験・治験を区別することは難しいようです。説明文書には記載されてはいますが、その混乱が治験への誤解の原因になっている可能性があることが示唆されました。このような日本の現状を踏まえた、今後の展開の1つとしてPPIが挙げられます。社会全体で臨床試験に関する認識や関心を底上げする、患者さんに研究に参加していただくにはどうしたら良いのでしょうか。

海外でのPPI展開事例

現在、国際医学団体協議会(CIOMS)ガイドラインの改訂が進められていますが、その改訂でコミュニティ・エンゲージメントに関する規定が追加されます。研究デザインの策定から、モニタリング、成果の還元までの過程において、研究参加者や地域社会ができるだけ早い段階から、継続可能な方法で関与できるような参画の実現を目指す記述がされています。
 治験への患者さんの巻き込みを最も早く行ったのがイギリスです。2000年代に入り、NHSの運営に関して患者・市民の直接的関与の必要性がうたわれ、さまざまなPPI政策がトップダウンで展開されました。「患者・家族や患者団体代表が、研究のデザイン、実施、分析、報告において可能な限り参加できるように整えるべき」とされ、患者さんが研究のさまざまな過程に関与したかどうかは、研究助成の申請書や研究倫理委員会への申請書などで確認されるようになりました。2014年にはNHSによるPPI促進のための5カ年計画が発表され、さまざまな追加施策が実施されています。
 イギリスにおけるPPIの効果として、患者にとって重要かつ適切な研究への変更、研究の質の向上、研究者と患者コミュニティの関係性の良好化が挙げられる一方で、一部、疑問や批判も出ています。PPIを通じてなにを目指すのかは、立場によってさまざまな意見があります。アカデミアでは、研究の方向性、特にハイリスクで革新的な研究について、患者さんに有意義かどうかの確証を得たい。また、行政では、限りある医療財源・研究開発予算の配分に関する説明責任を果たすためにPPIが役立つと考えているようです。そして、研究助成機関では、PPIを助成決定・評価の根拠の1つにすることを考えています。
 では、製薬企業はPPIでなにを目指すか……。これはみなさんでぜひ考えていただきたいです。

日本国内のPPIに関する議論

では、日本での患者参画の現状はどのようなものでしょうか。日本には明確な指針がまだ存在していません。「臨床研究・治験活性化5か年計画 2012」の「製薬団体、医療機器団体、医学関連学会等は患者会との意見交換の場を設けることなどにより、患者の臨床研究・治験に関する理解が進むように努める。その際は利益相反等に配慮する」が唯一のPPI的な記載でしたが、ここ数年で少しずつ変化がみられるようになってきました。「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」や、内閣官房健康・医療戦略推進会議 ゲノム医療実現推進協議会「中間とりまとめ」に、患者参画に関する記載が入っています。
 また、PPIの試行的な取り組みとして、再生医療臨床研究への患者参画を実施しました。5年後にiPS臨床試験を控えた網膜色素変性症について、研究者、患者団体とともに、患者さんの意見を聞く取り組みです。被験者としての責務や権利の教育や試験実施体制について、患者さんの意見を反映することを目的としました。そして、関係者が意見交換できる場として、第1回 「研究倫理を語る会」を2015年12月に開催しました。研究者、患者さん、市民、倫理審査委員会の関係者、研究機関の長、企業、規制当局などが一堂に会する機会としました。今後ますます裾野を広げて、さまざまな患者さんの参加によって、患者参画に関する議論が進められたらと思います。

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