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「2014ライフサイエンス知財フォーラム」を開催
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2014年2月13日に経団連会館国際会議場(東京都千代田区)において、製薬協と一般財団法人 バイオインダストリー協会との共催で、「2014ライフサイエンス知財フォーラム」が開催されました。9回目を迎える今回のテーマは、「グローバルヘルスへのイノベーションの貢献~世界の人々の健康のために知財が果たす役割~」です。約280名の参加者を迎え、産官学代表の方々にそれぞれの立場で、グローバルヘルスと知的財産をめぐる現状、世界の人々の健康のために産官学が取り組む課題について議論してもらいました。本稿では、講演内容およびパネルディスカッションの概要を報告します。

会場風景

会場風景


<第I部> グローバルヘルスの現状と課題

講演1

グローバルヘルスと医療の将来

東京大学大学院 医学系研究科 国際保健政策学教室 教授
渋谷 健司 氏

渋谷 健司 氏

 グローバルヘルスという言葉は、アメリカで2000年半ば頃から保健医療が国家戦略や外交安全保障戦略に乗り、医療のグローバル化が進められたことで生まれたものであると思います。グローバルヘルスはともすると社会医学や公衆衛生学の範疇に入ると考えられがちですが、むしろ保健医療の3つのD(Discovery 研究、Development 開発、Delivery 供給)のすべてにおけるイノベーション、そして、国益としての開発戦略、国家成長戦略、安全保障戦略という3つの要素が複雑に絡み合っています。
  これまではグローバルヘルスというと途上国を先進国が助けるという発想でしたが、それだけではなく、イノベーションの観点から途上国も先進国も同じ問題を取り扱うものであって、「グローバルヘルスは保健医療の将来」というのは至言であると思います。この中で、知財というと先進国が特許を武器に途上国の薬へのアクセスを阻害しているという、従属構造を主としたdeliveryの問題としてとらえられてきましたが、こうした対立に基づく短絡的な議論は危険であり、むしろアクセスの問題は途上国の医療サービスの供給制度の問題でもあり、さらに、途上国にきちんとした知財制度がないことが問題であって、知財を含めた制度の整備やキャパシティ開発の支援をすることが必要です。
 グローバルヘルスはハーバード大学の学部生に人気のある科目の1つであり、グローバルヘルスが社会を変えるという大きなインパクトをもつようになっていることがうかがえます。アメリカでグローバルヘルスが伸びてきたのは、民間の財団とNIH(米国国立衛生研究所)による海外への投資が大きな推進力になっています。また、アメリカの大きな特徴であるCDC(米国疾病管理予防センター)は健康の脅威から国を守るという組織であり、これらがアメリカの国益を守りながらグローバルヘルスを推進する力になっています。日本でも安倍政権の健康医療戦略で日本版NIHの設立などさまざまな施策が打ち出されていますが、これらを先ほどの3つのDとどう組み合わせて制度を作っていくかが問題であり、このことから国内問題とグローバルヘルスは表裏一体の関係にあるといえます。
 グローバルヘルスの現状ですが、世界の平均寿命はすでに70歳、世界全体の1歳児の麻疹ワクチン接種率は80%、極度の貧困に苦しむ人の割合は過去20年間で半減していることなどから、平均では世界は明らかに良くなっています。また、人口爆発といわれていますが、今後、子供の数は変わらずに老人が増える世界になります。日本の人々が苦しんでいる疾病の第1位は何と腰痛ですが、世界全体でみても生活習慣病が増えてきており、途上国の病気=感染症とは一概にいえず、バラエティーに富む疾病構造になっています。グローバルヘルスのパラダイムも変化してきており、開発だけではなく、開発国家成長や安全保障の観点で欧米諸国はグローバルヘルスに対して戦略的に動いています。日本の保健医療も、コストセクターや規制産業から情報サービス化、生活総合化、さらにグローバル化など変革の時期に来ていると思います。
 医療はコストから投資へと変わってきています。また、グローバルヘルスはdeliveryだけではなく保健医療の3つのDが絡んでいて、知財を含めたシステム開発、戦略形成が重要です。さらに、国内の保健医療制度もグローバル化を推進することにより見直され、その価値が上がればよいのではないかと思っています。


講演2

国際保健の現状と課題について

厚生労働省 大臣官房国際課 国際協力室長 山内 和志 氏

山内 和志 氏

 国際保健の課題として健康(5歳未満の死亡率)における格差、非感染性疾患(Non-Communicable Diseases, NCDs)の負荷の増大(疾病構造の変化)、世界人口の増加(特に開発途上国で増大)、人口の高齢化、都市部への人口集中や気候の変化に伴う自然災害のリスク増大、自動車の普及(生活習慣の変化)による交通事故の増加等が現在議論されています。
  国連ミレニアム宣言に基づき定められた、国連ミレニアム開発目標(2015年までに達成すべき8つの開発に関する目標:MDGs)のうち、保健に関する目標は3つ(乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エイズ、マラリア、その他の疾患の蔓延防止)が占めています。ポスト2015開発アジェンダに関する国連事務総長のハイレベルパネル報告書には、顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases, NTDs)、NCDsが目標として挙げられています。NCDsについては、第66回世界保健総会(2013年5月)において、NCDsの予防と管理のためのWHO行動計画2013—2020が承認され、9つの目標、および包括的なモニタリングの枠組みが合意されました。
  主な開発援助国の政府開発援助(ODA)支出額の推移をみると、2000年代後半から経済状況が影響して頭打ちの状況にあります。世界保健機関(WHO)は、これまで保健分野専門の国際機関として大きな役割を果たしてきましたが、現在では複雑な国際保健の課題に対応するため、援助国やNGO等とパートナーシップを組むことで開発途上国に総合的な援助を提供する傾向にあります。
  日本政府が掲げる国際保健外交戦略は、国際保健アジェンダにおいてユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を主流化し、日本が課題解決に向けて貢献をしていこうというものです。日本は戦後の混乱期から高度経済成長を遂げ、現在に至るまで、疾病構造が変化、人口が高齢化、国民医療費が増大してきた中で、社会保障制度を維持するために努力を続けてきました。こうした日本の保健医療制度のパフォーマンスは高く評価されており、多くの国から経験の共有が期待されています。また、厚生労働省の新たな取り組みとしてのGHIT(Global Health Innovative Technology) ファンドは、NTDsや結核、マラリア等の開発途上国に蔓延する疾病の治療薬の研究開発を目的として外務省、製薬企業5社、ゲイツ財団との間で設立された官民連携の一例です。

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