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血液臨床検査項目の共用基準範囲設定について
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(1)共用基準範囲の設定までの経緯

 近年、日常的に利用される生化学的血液検査の項目を中心に標準化、または標準対応された測定方法による臨床検査値が広く利用されるようになっています。これに伴い、標準化された測定値と基準個体の集積が可能となり、一部の地域では県単位などのレベルで共通の基準範囲の利用も進んできてはいます。このような状況を背景に、国際臨床化学連合(IFCC)アジア地域共有基準範囲設定プロジェクト、日本臨床衛生検査技師会、福岡県5病院会の3種類の大規模な基準個体検査値調査(図1)をもとにした共用基準範囲設定のための合同基準範囲共用化WG(日本臨床検査医学会、日本臨床化学会、日本臨床衛生検査技師会、日本検査血液学会)が2011年に立ち上げられました。9回の会合が重ねられ基本的な共用基準範囲案が設定されました。そのドラフトは2012年日本臨床化学会年会において報告されています1)。そのような活動をベースにして、これまでの調査研究データに基づく共用可能な基準範囲の設定とその利用および普及を目指すことを目的として、上記の検査関連学術団体に、検査関連諸団体の代表を加えて、2013年に日本臨床検査標準協議会(JCCLS)内に新たに基準範囲共用化委員会が設立されました。

  図1 3機関データの統合
図1 3機関データの統合

(2)基準範囲設定の実際

 今回の共用基準範囲の設定活動は、基準範囲の設定だけが目的ではなく、設定された基準範囲がすべての医療関連機関において実際に利用されることを目指したものです。そのために、基準個体の選択、採血条件などすべての手順において学問的にも科学的にも非常に高い厳密性を求め、どの機関においてもその利用の合理性と必要性が完全に納得されるものとなるように努力されています。
 3つの機関(IFCCアジア地域共有基準範囲設定プロジェクト、福岡県5病院会、日本臨床衛生検査技師会)から合計約9,000名の大規模基準個体データが集められました。それぞれが、厳格な条件で選ばれた基準個体ですが、基準個体はさらに共通の条件に合うように選択し直し、結局合計約6,000名のデータが利用されました(図1)。厳格な条件で選ばれたこれだけの個体数があることが、性別や年齢別までを考慮に入れても信頼に足る解析を可能にしたという点に、今回の取り組みのこれまでにない優位性があります。
 まず、項目ごとにそれぞれ3つの母集団別に基準範囲が統計的に計算され、3つの母集団の項目別基準範囲が比較された結果、3つの母集団から計算された基準範囲は統計学的にほとんど有意差がありませんでした。ここで非常に重要な点は、それぞれの基準個体データは、時期的にも地域的にもまったく異なったところで収集されたものであるにもかかわらず、結局、頻用される40項目すべてにおいて母集団データを合体した基準範囲案を統計学的に策定することができたことです。


おわりに:日本において基準範囲に地域差はない

 今回設定された40項目はいずれも臨床で頻用されているものばかりです。これらの一連の作業で得られた最大の成果の1つは、単に大規模データベースを用いて頻用検査項目に精度の高い基準範囲を設定したことだけではありません。時間的にも空間的にも異なる集団のデータでありながら統計学的には有意差がなかったということから、少なくとも日本においては基準範囲に事実上地域差がないということを示せたことにあります。これまでにない大規模なデータ間の比較を用いることで、「全国で統一的に使える基準範囲が存在する」ことが非常に信頼性の高いレベルではじめて実証できました。3機関の調査は独立して行われたものですが、このような段階を経ることで、独立した調査データであることが、かえって解析結果の普遍性を担保するほかにない優位性として今後の共用基準範囲設定の活動にも高い合理性を与えるものと考えています。今回の共用基準範囲に対しては、すでに日本医師会をはじめとする多くの団体の賛同を得ており、今後普及活動を本格化させる予定です。JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)は、同共用基準範囲を「JCOG共用基準範囲」として2014年4月より使用することとします(ただし、同共用基準範囲ではCTCAEv4.0中の臨床検査値全ての項目は網羅されていないため、一部の項目については、JCOG運営委員会で承認された基準を用いる)。共用基準範囲の詳細とその利用法は「利用の手引き」としてJCCLSのホームページからダウンロードできます2)


謝辞

 今回の共用基準範囲の骨子は合同基準範囲共用化WGによって設定されたものです。そのメンバーである堀田多恵子(事務局:九州大学病院)、石橋みどり(誠馨会新東京病院)、市原清志(山口大学医学部)、伊藤喜久(永寿総合病院)、細萱茂実(東京工科大学医療保健学部)、宮地勇人(東海大学医学部)、山本慶和(天理医療大学)の各氏に感謝します。中でも、データ解析のほとんどは市原、山本の両氏によって行われたことを特に付記します。

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